一話【突然の来客、突然の吸血鬼】
「...暇だ」
光線過敏症って病気を聞いたことはあるだろうか。
日射しなどの光に当たる事で全身が焼けてしまい、自由に外出する事さえままならない難病だ。
この俺、日向朝日は十二歳の時に光線過敏症になった。
日光は勿論のこと、蛍光灯の光に当たるだけでも、簡単に火傷を負ってしまうという体になってしまったのだ。
外に出るだけで、命の危機に直面する状況で俺は、症状が出た時から十八歳の今に至るまで、病院で入院生活をし、一度たりとも日中に外出をする事はなかった。夜になったら外出をし、朝になる前に病院に戻り、それを繰り返す日々。
「普通なら高校卒業してる歳なのに、俺は何をしてるんだろう」
入院して、始めの頃は友達が見舞いに来てくれたりもした。
しかし月日が経つにつれ、次第に見舞いに来てくれる人は居なくなった。
現在の日本では、光線過敏症を治す方法は見つけられていない...できるのは、ただ症状を悪化させないようにするだけだ。
そして今日もいつも通り、何事もなく日々が過ぎていく。
深夜の二時頃、四年ぶりくらいに、見舞いに人が来た。
こんな時間に見舞い? この時間は関係者以外立ち入り禁止なはずだが...。
久しぶりの来客は俺と同じくらい...いや、俺より少し年下ぐらいの金髪の女の子だった。
綺麗に手入れされてそうな長髪に、ぱっちりとしたつり目で、少し気が強そうな印象だ。
こんな可愛い子が知り合いに居た記憶は無いが、四年ぶりの来客なので忘れてるだけだろう。
「ごめん。記憶にないんだけど、いつ会ったっけ?」
女の子は病室をキョロキョロと見渡し、看護師さんがベッドの脇に置いていった熊のぬいぐるみを見つけると、熊のぬいぐるみに向かって何かを呟きだした。
「貴方、こんなに可愛いのに鮭とれるの? 可愛すぎるよぉ」
どうやら、熊のぬいぐるみに向かって話しかけているらしい。
俺は女の子のことを冷たい視線で見ているが、熊のぬいぐるみに夢中で気づいてないようだった。
2~3分が経過した頃、ようやく俺の視線に気づいたみたいで、顔を赤くしながらこちらを見ている。
「何見てるんですか」
気のせいかもしれないが、女の子は若干涙目になっていた。
その姿が不憫に感じたので、話を変えてあげる意味も込め、再び気になった事を質問してみる事にした。
「君がどんな知り合いだったか忘れたんだけど、教えてくれないか?」
「知り合いじゃないです。一度も会った事はありません」
先程の熊のぬいぐるみに話していた時と違って、落ち着いた話し方だった。
この女の子は、俺と会った事がないらしい。
一度も会ったことのない人の病室に、しかもこの時間にわざわざ見舞いに来るものなのだろうか。
「会ったことはないですが、話は聞いた事がありまして」
「話?」
特異な病気にかかったこと以外に際立って何かがあるような人間ではないので、それ以外の事では噂をされる心当たりはなかった。
「貴方、光線過敏症らしいですね」
「それがどうかした?」
やはり病気の事だったか、人は珍しい事に対して過剰に興味を持つ生き物だ。
実際に光線過敏症になった事で、他の患者に陰で噂をされたりし、よく後ろめたくなったものだ。
なので面と向かって病気の事を聞かれるのは、気分が良いことではない。
「その病気は、吸血鬼になるには必要不可欠な才能です。吸血鬼になって頂けませんか?」
久しぶりの来客は、思わず聞き間違えたかと思ってしまう、不可解な事を言い出した。
確かに言われてみれば、日光に当たることができない特徴は吸血鬼と類似している。
だが、吸血鬼なんて実在しているわけがない。ただの想像上の怪物である。
しかし、数年ぶりに病院関係者以外との会話だ。
ここで吸血鬼が居るわけないと怒鳴ってしまうと、これから何年見舞いに人が来ないかわかったものではない。
バカらしいとは思うが、吸血鬼が居るという前提で、会話をする事にした。
「吸血鬼って何をするんだ?」
自分ながら、わざとらしい聞き方だったと思う。
けれども、女の子は全く気にしてない様子なので、俺が吸血鬼を信じていない事はバレてないみたいだ。
「人助けとか、悪い奴を倒したりとかですね」
女の子は、首を傾げながら俺の問いかけに答えた。
テレビや書籍などでは、吸血鬼は大概が悪者として描かれている。
それなのに吸血鬼が人助け? 作り話を作るならもうちょっと上手く嘘をついて欲しかった。
「でも、吸血鬼って日中に外に出ることはできないんだろ? 結局は今の状況と変わらないじゃないか」
「それは旧世代の吸血鬼だけです。現代の吸血鬼は太陽の日射しにも適応していますので、日中にも外に出る事ができます」
太陽の日射しを浴びても大丈夫...そう言われて心が弾んでしまいそうだったが、所詮作り話なのでどうという事はない。
しかし俺の気持ちは、もし吸血鬼になれるならなってみたいという風に変化していた。
「なっても良いけど、どうやって吸血鬼になるんだ?」
女の子の表情は、ぱぁーっと後ろから音がしそうなくらいの笑顔になったが、すぐに冷静な顔を取り戻した。
そして、俺の方へ近づいてくる。
「では、失礼致します」
女の子は、俺の首すじに噛みついた。突然の事で、初めは何が起きたのかわからなかった。
噛みつかれて5秒くらいすると、体に痛みが走った。
体が焼けるように熱い。
女の子は首すじから口を離すと、俺の事を見ながらこう言った。
「ようこそ、吸血鬼の世界へ」
体が焼ける激痛が絶え間なく襲ってくる。
俺の意識はそこで途切れた。




