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十七話【狂った楽しさ、欲にまみれた吸血鬼】

「朝日君が...僕に...強さを教える? 僕より弱い君が...僕に強さを教えてくれるって......フフッ...ハハハハッ! ごめん笑いが堪えきれないっ...フフッ」


「笑いたけりゃ笑えばいい。所詮お前は欲望に負けたクズ野郎だ、そんな奴よりは俺の方が強い」


「ふぅん...ならさ」


 ミランの表情からは笑顔が消え、道端に落ちてるゴミを見るような視線で俺を見ている。部屋の壁近くまで飛ばされていたミランは、軽く一歩を踏み出すだけで、俺の目の前まで跳躍してきた。

 そのまま俺の顎を掴み、顔を横に傾けながら俺の目を覗きこんでくる。


「口先だけの言葉なんか僕には届かないからさ、君が僕より強いって証拠を見せてくれるんだよね?」


 ミランの瞳孔は開いており、見るだけで人を殺せるような殺気を放っている。

でも不思議と恐怖心は無い。今までコイツの瞳を見るだけで怯えていたが、今の俺は違う。

 掴まれている手を払い、逆にミランの顎を掴んでこう言ってやった。


「当たり前だろ雑魚、いいからかかってこいよ」


「朝日君、僕に命を見逃してもらった分際で...調子に乗らないでよ!!」


 激昂(げっこう)したミランは俺を突き飛ばすと、顔と同じぐらいの大きさの赤いガラスを出現させ、そのガラスを心臓めがけて投げつけてきた。

 体を横に捻り、ギリギリ躱す事に成功する。

しかしガラスはブーメランのような軌道で戻ってくると、俺の背中に突き刺さった。


「ぐっ」


「びっくりした? 戦いにも面白さを求めてるからさ、敵の驚いた顔を見るのがたまらないんだよね」


 ミランが手を前にかざすと俺の手首の周りに赤い霧が出現する。

その赤い霧は丸い輪に変化し、俺の手首と手首を繋いで固定してしまった。


「なんだこれ...手錠?」


「それ、爆発するよ」


 その瞬間、手錠のような物は爆発し、俺の手は爆風で吹き飛んでしまう。

血が大量に()き出し、手首の辺りに永遠に終わらない火傷を負っているみたいだった。

 このままだとまずい...早く、早く血を飲まなきゃ。

非常事態に備えてポケットに入れてた血入りのビンを体で踏んで割り、床に(こぼ)れた血を吸う事で、なんとか手首を再生させる事ができた。


「血を隠し持っていたんだね。簡単に死なれなくてよかったよ」


 駄目だ、どうやってもミランの攻撃は躱せない。

好きな空間を好きな物質に変えるというとんでもない能力を、どんな方法で対処すればいいんだ。

 全力で逃げようが意味は無いだろう。俺が逃げた場所を変化させて攻撃すればいいだけだからな。


「ほら、もっと楽しませてよ。反撃してくれなきゃ楽しくないからさ」


 攻撃は休まることなく、次は俺の頭上に赤いガラスが出現する。

気づくのが一瞬遅れてしまい、回避しきれずに足にガラスが突き刺さってしまう。


「いっ...」


 足にガラスが突き刺さっているので、この場から身動きをとる事ができない。

この数日である程度痛みを経験してきたが、それでもこの痛みは耐えられる物ではなかった。

 ポケットに入れてた血入りのビンも、先程割ってしまったからもう無い。

こうしてる間にも、ミランはゆっくりと俺の方へ歩いてくる。

 こうなったら、試した事は無いけど...アレを試すしかない。


「痛い? 泣いて謝るなら痛みが無いように殺してもいいけど...って朝日君、何してるの?」


 俺は自分の腕に噛みついた。

もしかしたら、自分の血を飲んでも体が治るかもしれない。

 無理でも何でも、何もしなきゃここで死ぬんだ。

それならどんな手段だって、試してみる価値はある。


「...傷が治らない」


 自分の血を飲んでも意味が無いのか...。

そりゃそうだよな、そんな簡単に能力が使える筈ないよな。


「可哀想に...少ない希望にすがったのに、全くの無駄だったね」


「......」


「ねぇ無視しないでよ」


 体が焼ける...熱い、熱い、熱い。

どうしたんだろう?...頭が熱さで溶けそうだ...。

 何も考えられない、熱い...消えてなくなりたい。

もう、熱さに体を(ゆだ)ねよう...早く楽になりたい...。


「どうしたの? 返事ぐらいしてよ」


「......」


「おーいってばー」


 ミランが朝日に近づこうとした瞬間、ミランの胸からは血が噴き出す。


「え? ...なにコレ」


 朝日は足にガラスが突き刺さったままミランの元へ走り出すと、首を掴んで壁に叩きつける。

そして足に刺さったガラスを無理矢理引き抜き、力任せに投げつける。

 ミランは間一髪のタイミングでガラスの盾を出現させたが、何が起きたのかわからず、驚きの表情を隠せていない。


「どういう事? 他人の血じゃなくて自分の血を吸ったから?」


「...こせ...。...こせ...こせ...血を...よこせよこせよこせよこせよこせ」


 朝日にミランの声は聞こえていない。

ただ血への飢えを口にするだけだ。


「もしかして拒否反応を起こして暴走してる? まぁいいや、予想外の展開は大歓迎だしさ。()る気満々みたいだし楽しくいこうじゃない」


「...真吸血鬼を...ろす...殺す殺す殺す殺す殺す」


 朝日の姿は、欲望に負けた獣そのものだった。



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