十四話【捨てられないプライド、同類の吸血鬼】
「私の能力がわかったですって? 蛮族に理解できたとは思えないのだけど、いいわ。特別に聞いてあげるから答えてみなさい」
ミシェルは相変わらず余裕の態度を取っている。
前髪を指先で弄りながら、まるで興味がないみたいに小さなあくびをしていた。
「どうしたのかしら? 早く答えなさいよ」
「その前に、一つ聞いていいか?」
俺の言葉に対し、ミシェルは鋭い目でこちらを睨み付けてくる。
勘にさわる事でも言ったか? だが、この質問に答えてもらえるかどうかで、俺の推測が正しいのかが決まる。
謎が解けないまま戦闘に入っても、簡単に殺されてしまうだろう。
ならば、多少強引にでもミシェルから能力を聞きだすしかない。
「質問に質問で返すなって教わらなかったかしら? ...いいわ、蛮族の言う事くらい、ある程度なら答えてあげる」
なんとか俺の質問に答えてくれるみたいだ。
吸血鬼よりも上だというプライドが、質問に答えるリスクより勝ったらしい。
「真吸血鬼の能力の発動条件は吸血鬼の発動条件と変わらず、血を使わなければいけないのか?」
「あなた達吸血鬼は、血を物理的に使用しなければいけないけど、私達真吸血鬼にとって物理的な意味合いだけで血を使うものじゃないわよ」
どういう事だ? 物理的じゃなく血を使う?
まぁいい、大事なのは俺達と能力の発動条件が同じかどうかだけだ。
俺達と能力の発動条件が違うなら十中八九、俺の考えてる考察は正しいだろう。
「ミシェル、お前の能力は磁力を操る能力だろ? 俺が最初に投げた杭は、床と引き寄せさせる事で落下させ、床に落ちた鉤爪が俺に向かって跳んできたのは、床と鉤爪を反発させたんだ」
ミシェルの眉がピクリと動いた。
この反応は、やはり磁力を操る能力で合っているみたいだ。
ミシェルは、少し感心したような様子で俺に話しかけてきた。
「蛮族の癖に、中々鋭い読みしてるわね。そうよ、私の能力は磁力を操る能力よ」
後は、この能力に対応できる作戦を立てられるかどうかだ。
相手の能力がわかった所で、所詮俺の能力は再生するだけ。
磁力を操る能力とは違い、直接的に戦闘能力が上がるわけではない。
俺が思考を張り巡らせていると、先程とはうってかわって、ミシェルは自ら能力を語りだした。
「元々人間のあなた達にとって、血の能力は与えられた物。だから、吸血鬼は血を物理的に変換しなければ能力を使うことはできない。でも私達真吸血鬼にとって、血の能力は、自らの体にあって当然の物なの。だから、わざわざ変換しなくても能力を使う事ができる。それが吸血鬼が真吸血鬼の劣化である理由よ」
そういう事だったのか...。
吸血鬼と違って、真吸血鬼はデメリット無しで能力を使えるって事か。
確かに、俺達より優れている。だけど、どうしてそこまで教えてくれたんだ?
俺に能力の仕組みを教えるデメリットこそあれど、メリットなんか無いのに...。
「何故そこまで教えるのか疑問な顔をしてるわね。...決まってるじゃない」
ミシェルは、床に落ちてた鉈を宙に放り投げた。
宙に投げた鉈を天井と反発させたのか、俺の方に向かって超スピードで飛んでくる。
「...がっ!!」
躱す事が出来ず、脇腹へ直撃してしまう。
痛みは勿論だが、それよりも呼吸が苦しい。息が出来ない。
体を動かそうとすると、痺れる様な痛みが襲ってくる。
間違いない...この痺れは、肋骨の何本かは折れている。
「教えたとこで、何も出来ないからよ。それなら、希望を与えてから痛めつけた方がいいじゃない」
障害物が無い平面の場所で、あの速度の攻撃は躱す事はできない。
何でもいい、何か盾に出来そうな物は無いか? 周りには拷問器具だらけで盾に使えそうな物は無い...いや、これは使えそうだ。
棺桶みたいな拷問器具を発見した。これなら何とか時間稼ぎぐらいは出来そうだ。
走る度に軋む様な痛みが脇腹に響くが、我慢するしかない、何とか棺桶の様な物の後ろに隠れる事に成功した。
「あら? あなたは鉄の処女がお気に入りなのかしら?」
「鉄の処女?」
「あなたが隠れてる物の名前よ。その中に入ると、全身をくまなく針で刺されるの」
そう言うとミシェルは何かを思い付いたらしく、表情を明るくしながら、その表情からは予想出来ないん残虐な提案をしてきた。
「それならあなたの事は串刺しにして殺してあげるわ。吸血鬼らしくていいんじゃないかしら? 私は好きよ、串刺しの吸血鬼」
その言葉を聞き、死への恐怖で血の気が引いていく。
だけど逃げるわけにはいかない。そうじゃなきゃ、俺を庇って死んだジェノスさんに顔向けできなくなる。
「ぐだくだうるさいぞ、真吸血鬼! いいから早く攻撃してこい!!」
「ふぅん、まだそんな口を聞けるのね。脇腹だけじゃ足りなかったかしら? これはどうかしら?」
俺が後ろに隠れていた鉄の処女は、床と反発させられ、跳ねたように俺の前から飛んでいってしまう。
まずい、盾が無ければミシェルの攻撃は躱す事はできない。
ミシェルは背中に隠し持っていたナイフを取り出すと上に放り投げ、俺に向かって飛ばしてきた。
「ぐっ」
ナイフは、先程鉈を直撃した脇腹へ突き刺さる。
おかしい...どうしてミシェルは、俺の服にナイフを引き寄せて心臓を狙わない?
いちいち物を放り投げるって事は、人に触れてる状態の物には能力を発動できないのか?
「これで終わりにするわね」
ミシェルが指を鳴らすと、俺の前の床に半径2mくらいの穴が空いた。
穴の下を見てみると、先におびただしい程の血が付着した木の杭が床から50本以上は生えていた。
この木の杭で俺を串刺しにするつもりなのか!? これだけの数の木の杭だと、心臓を守りようが無い。落ちた瞬間に死が確定する。
それだけは避けなければいけない、何としても時間を稼がなければ...。
とにかくミシェルのプライドを傷つける事を言い続けよう、プライドの高いミシェルなら、きっと挑発に乗ってくれる。
「おい! 真吸血鬼っていうのは、道具に頼らなきゃ何も出来ないのかよ。こそこそ道具飛ばしてセコい戦い方だな」
叫ぶ事で、折れた肋骨が振動し激痛で体が痺れる。
だが、こうでもしないとミシェルに近づく事すらできない。
ミシェルのプライドを踏みにじる事で、少しでもミシェルが近づいてきてくれる事に希望に賭ける。
「余程早く殺されたいのね。...いいわ、直接私があなたを落下させてあげる」
ミシェルはこちらへ近づいてくる。
手に何も持っていない。勝ちを確信して近づいてきた今は隙だらけだ。
俺はミシェルに向かって走りだした。やはり、ミシェルの身体能力は低い。
何とか両肩を押さえた。後は、あの穴に落とせば落とせば俺の勝ちだ。
「あなた、手が震えているわよ?」
そうだ...木の杭だらけの穴に落とすって事は、ミシェルを殺すって事だ。
真吸血鬼とはいえ、見た目は普通の人間だ。なのに...俺は本当にミシェルを落下させるのか?
けど俺は目の前で真吸血鬼にジェノスさんを殺されてる。躊躇するわけにはいかない。
覚悟を決めた瞬間、手の震えが止まった。
そのままミシェルを押し、床に空いた穴まで押し出した。
「あなたは私を殺した。これであなたも真吸血鬼の同類よ」
ミシェルは落下しながら、そう呟いた。
「ジェノスさん...俺、真吸血鬼を倒したよ」
その頃、楓とヴェイダスも戦いを繰り広げていた。
「どうして本気を出さないのですか?」
「あんたが手の内を隠してるからよ」
お互いに様子を探りながら、戦局は変わらないまま戦いは進んでいく。
楓は血の刀を、ヴェイダスは爪を駆使して攻撃するも、どちらの攻撃も互いの体には届かない。
この展開に痺れを切らした楓は、片手で持っていた刀を両手で持ち換え、神経を集中していく。
「おぉ、ようやく本気を出してくれるのですね? 誠に嬉しい限りです」
「嬉しい? 後悔するだけよ」
普段は明るく振る舞っている楓だが、今の楓からはその面影は見る事ができなく、今の楓には、目の前の敵を排除する事しか頭にない。
その冷たい視線は、まるで真吸血鬼のようだ...。




