十二話【怪しい洋館、落ちついた吸血鬼】
「朝日君ー、起きなきゃ鮭みたいに食べちゃうぞー」
目を開けると、熊のぬいぐるみが俺に対して話しかけていた。
これは昨日ミツキが買っていたぬいぐるみだ。
という事は、この声の正体って...
「何してるんだ、ミツキ」
「いつもと違う趣向で起こしてみようと思いまして。どうでしたか?」
「寝起きでぬいぐるみに話しかけられても戸惑いしかないぞ」
「そうですか、それは失礼しました」
本当に失礼したと思ってるのだろうか?
ミツキを見てみると、熊のぬいぐるみを見ていて俺の方を見ていない。
せめて態度ぐらいは反省してる様に見せような...。
「私は別の依頼があるので、今日は朝日さん一人でギルドに向かって頂けませんか? 時間は夜の9時頃です」
いつも俺とミツキは同じ依頼をこなしていたけど、今日は別々の依頼なのか。
というか夜9時なら今起こす必要無いだろ...まだ朝6時だぞ。
ミツキは何の依頼を受けるんだろう? ちょっと気になったので、聞いてみる事にした。
「ミツキの依頼って、どんな依頼なの?」
「秘密です。黙秘権を使います。トップシークレットです。その質問には答えかねます」
そこまで否定しなくても...。
とりあえず、絶対に言わないという鉄の意志を感じた。
どんなに聞いても教えてくれないだろうな。それなら...
「俺の依頼は、どういう依頼?」
「真吸血鬼を討伐する事です。何故か私達の前に毎回現れているミランですが、今回は出現しないとマスターが言っていましたので、安心して下さい」
そうか、それならいいけど...何故マスターがその事を知っているんだろう?
...まぁいいや、ミランが現れないなら普段よりも死ぬ確率は低くなる筈だ。
戦闘経験を積まなきゃいけない俺にとって、かなり助かる情報だ。
夜の9時になり、ギルドに到着すると、楓さんとジャックさんが口喧嘩をしていた。
気づかれたら気まずいし、二人に気づかれないように静かに入る事にしよう。
しかし、ジャックさんに見つかってしまう。
「おーい朝日。こっちに来いや」
ジャックさんは、片手にお酒を持っていた。
俺が来るのを、酒を飲みながら待っていたみたいだ。
「今日はこの俺が依頼に同行するからよ。足を引っ張るんじゃねぇぞ」
今日のジャックさんと一緒に依頼を受けるのか。
でも今日の依頼って、真吸血鬼を討伐をするんだよな? この人、酒飲んでるんだけど大丈夫だろうか? ...凄く不安になってきた。
「ちょっと! 私も同行するんだから、朝日君にちゃんと説明しなさいよっ!」
「この俺、ジャック様さえ入れば十分だからよ、お前は帰れブス」
「誰がブスよっ! 近所の人から可愛いってよく言われる美人ランキング1位なんですけどっ!」
「自惚れブスランキングの間違いじゃねぇか?」
二人はまた喧嘩を初めてしまった。
仕方ないな...このままじゃ先に進まないし、俺が話を先に進めよう。
「それよりも、真吸血鬼討伐に行くんですよね? 早く行きましょうよ」
「おう、そうだったな。俺が案内するからよ、ついてこいや」
何とか二人の喧嘩を止める事ができて良かった...。
もしかして、今日はずっとこんな感じなのか? それは嫌だなぁ...。
一時間後、立ち入る事を躊躇いたくなる様な怪しい雰囲気の洋館の前に着いた。
何故か扉の周りには、拷問器具の様な物がそこらじゅうに落ちている。さらに足元も見てみると、誰かの血痕が付いている。
吸血鬼になって血には慣れたとはいえ、あんまり入りたくないなぁ...。
「ここには、ヴェイダスって真吸血鬼が住んでるらしいよっ。位は黄色い十字架。朝日君は死なない様に気をつけてねっ」
黄色い十字架の真吸血鬼...という事は、ウリゴラカスぐらいの実力の真吸血鬼って事か。
ウリゴラカスには、相討ち狙いで死にかけてるけど大丈夫だろうか。
大丈夫じゃなくてもやるしかない。とにかく入ろう。
「本日のお客様は、3名様ですか」
洋館の中へ入ると、見た目は40歳くらいで執事服を着た白髪の男が待ち構えていた。
その手にはコーヒーカップを持っており、優雅にコーヒーを飲んでいる。
「お飲み物は何が宜しいでしょうか。コーヒー、紅茶、血などがございますが、いかがいたしましょう?」
「いらねぇよ」
「そうですか...でしたら、私は貴殿達の命を頂くとしましょう」
その瞬間、執事服の男は俺達に向かって飛びかかってきた。
先の鋭くて長い爪を、俺達に切りつけようとしている。
しかし、金属とぶつかったような音が聞こえると、執事服の男は後退していく。
「あんたがヴェイダスねっ、討伐しにきたわよ」
楓さんの手には、前に見せてもらった事もある血で作られた刀が握られていた。
目では捉えられなかったが、刀で執事の男の攻撃を防いだようだ。
「いかにも...私がヴェイダスでございます。今宵の吸血鬼は手練れみたいですねぇ。それでこそ殺しがいがあると言うものです。では、殺しあうといきましょうか」




