十一話【暗い雰囲気、明るい吸血鬼】
「皆さん!! おはようございます!!」
俺はギルドに到着してすぐに、できる限りの元気で挨拶をした。
あまり落ち込んでると思われたくないし、気を使わせるのも気が引けるからな。
まだジェノスを死なせてしまった事への罪悪感は消えていないが、自分の気持ちは自分で整理しなければいけない。
皆やミツキに心配をかけたくないし、今日は明るくしておこうと思っている。
「今日は何だか元気がいいねっ!」
「楓さん、今日はいい天気ですよ。元気じゃなきゃ損するじゃないですか!」
楓さんは、そだねー と言いながら手を上に上げ、体を伸ばし始めた。
こういう時は、楓さんの様に明るいテンションの人と話すのは気楽でいい。
「...朝日さん、おはようございます」
「うん、ミツキもおはよう!」
ミツキはこちらをじっと見ている。
無理に明るくしてる事がバレているのか? 不信感を抱かれる前にさっさとこの場を離れる事にしよう。
そう考えてると、丁度いいタイミングで、マスターが奥の部屋から出てきた。
「マスター、今日は何の依頼をすればいいんでしょうか?」
「今日? 今日は特に無いよ」
「そう、ですか...」
どうして今日に限って依頼が無いんだよ...。
俺が困ってる顔をしてたのを見ていたのか、珍しくジャックさんが俺に声をかけてきた。
「何だ朝日、暇なのか? なら俺と一緒に賭け事でもしに行くか?」
正直、全く興味が湧かない。けど何もしないよりはいいと思い、行くと返事をしようとしたのだが、ミツキに言葉を遮られてしまう。
「ジャックさん、朝日さんは私と用事があるのですみません」
「何だよ、暇じゃなかったのか。ならいいや、ジャック様のギャンブラー魂を教えてるのはまた今度にしてやる」
今度ジャックさんに賭け事を教え込まれるのか...凄く憂鬱だ。
それよりもミツキと用事なんかあったかな? そんな記憶はないんだけど。
「朝日さん、行きますよ」
「どこに?」
「秘密です。いいから早く来てください」
場所は教えてくれないのか...。俺に用事が無いのは事実だしなぁ、仕方がないからミツキについていく事にした。
「ここに何の用事があるの?」
ミツキに連れられた場所は、普通に街中だった。
何かの祭が開催されているようで、街中には人混みが出来ていた。
もしかしてこの祭に来たかったのか? でもどうして俺を連れてきたんだろう。
「ここに用事は無いです。こっちに来て下さい」
服の裾を掴まれ、どんどん引っ張られていく。
最終的に到着した場所は、ぬいぐるみが大量に置いてあるお店だった。
「朝日さん。私にピッタリのぬいぐるみを選んで下さい」
「は?」
「とにかく選んで下さい」
と言われてもなぁ...ミツキの好みがわからない。そういえば、初めて会った時には熊のぬいぐるみを気に入っていた気がするな。
とりあえず、鮭を食わえた熊のぬいぐるみをミツキに差し出してみた。
「ま、まぁ、落第点ではありますけど、朝日さんに免じて、このぬいぐるみに決めてあげます」
ミツキの体は、ピクピクと震えている。
よっぽど気に入ったのだろう。反応は素直じゃないけど、好みだったみたいで良かった。
「買ってきますので、外で待っていて下さい」
「う、うん」
ただぬいぐるみを買いに来ただけなのか? まさかな。
待機してる間、祭を眺めてみた。吸血鬼の祭なだけあって、蝙蝠が空を飛んでいたり、血で作られた怪物がパレードをしているみたいだ。
出店の方では、吸血鬼の親子がわたあめの様な物を食べたりしていた。
その子供はわたあめが美味しかったのか、幸せそうな笑顔になっている。
吸血鬼が、真吸血鬼に狙われてるとは思えないくらい平和だ。
街中を歩いている吸血鬼は、皆楽しそうに笑顔を浮かべている。
早く真吸血鬼を倒して、この笑顔を守らなきゃいけない。
「お待たせしました。次はこちらに来てください」
「まだ用事があるの?」
「はい。目的は次の行き先がメインですので」
流石にぬいぐるみを買いに来たのが目的じゃないか。
本当の目的は何なんだ? 聞いても教えてくれなそうだし、ついていくしかないか。
日が沈んで辺りが暗くなった頃、ようやく目的の場所に到着したようだ。
「ここは?」
「たまに、私が一人になりたい時に来る高台です。こちらに来てください」
「そっちに何かあるの?」
ミツキの方へ歩いていくと、街中を見渡す景色が見えてきた。
さっき街に居た時はまだ日が出ていたが、夜になった今では街の印象が全然違っている。
周りは暗いが、出店の明かりや民家の光で、街全体が黄色く輝いていた。
その光からは、今まで吸血鬼達が暮らして来た時間の流れを感じる事ができる。
吸血鬼世界に来たばかりの俺でさえ、そう感じる事ができる程だ。
「もしかして、ここに俺を連れてきたかったの?」
「...朝日さん、無理してますよね」
「え?」
「真吸血鬼を倒せない自分を責めて居ませんか? ジェノスさんが死んだのを自分のせいだと思い込んで居ませんか?」
「そんな事はないよ」
「嘘ですね。前から思っていたことです」
ミツキは真剣な眼差しでこちらを見ている。
自分を責めている...。ジェノスが死んだのは俺のせいだ。
勿論そう思っている。だからこそ今日は無理にでも明るく振る舞って、誰にも心配をかけないようにしようとしていたんだ。
肝心のミツキには、意味が無かったみたいだけど。
「どうして一人で背負い込むんですか? 私もあの場に居たんですよ、ジェノスさんが死んだ原因は私にもある筈です。少しくらいは私を頼って下さい。話なら聞きますから」
それを言うのが今日の目的だったのか。
気を遣わせない様にと思って行動しても、いつも気を使わせてしまう。
少しは頼ってほしい...ミツキの言葉には本心が込められている気がした。
「一人で背負う性分だからごめん。でも、ミツキにはいつも助けられてる。俺の事を気にしてくれて感謝してる、それは本当なんだ...」
「そうですか...。まぁ朝日さんならそう言うと思っていましたよ」
せっかく俺の為にここまで連れてきてもらったのに、ミツキには悪い事をしてる。
何でも話すと嘘をつけば丸く収まったのかもしれない。でも、相手が本心で話してくれてる時には嘘をつきたくない。
「空を見てくれませんか?」
「空?」
急に空を見てほしいなんてどうしたんだろう。
言われた通り、空を見上げると、一面の星の海が広がっていた。
見渡す限りの星、星、星。
思わず触れられそうに思ってしまう程に星が瞬いている。
その星の海は、まるで磨かれた宝石のように白く輝いていた。
病室ではやる事が無かったので、いつも夜空を見上げていたけど、こんなに綺麗な星空は初めて見た。
「凄いな...」
思わず本心が口から溢れてしまう。
「一人で背負い込む性格なのはわかっていました。そこには何も言わない事にします。...ですが、一人で辛い時にはこの星空を見上げて下さい。俯いているよりも、上を見てる方が気持ちも楽になると思います。この星空が私が朝日さんに見せたかった物です」
無意識に俯いていたから、この星空に気づかなかった。
確かに俯いているだけでは見れない物もある。前を見ないで俯いている奴が、真吸血鬼を倒せる筈がない。
「綺麗な星空だな...」
「ふふっ」
基本的に無表情なミツキが笑うのは珍しい。
可愛い物を見た時と、俺が吸血鬼になると言った時以外に笑ったのは初めてかもしれない。
日頃は気を張っているのだろうが、笑うとただの可愛らしい女の子そのものだ。
「どうですか、私のお気に入りの場所は?」
「聞かなくてもわかるだろ?」
...心配してくれてありがとう。
直接言うのは何だか照れくさかったので、心の中でそう呟いた。




