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私に一途な従姉妹の愛が重すぎる  作者: 北条S


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【25.告白と意気込み】

「桜乃……お昼、一緒に食べてもらっていい?」

「うん」


 私が言いたいことは伝わっているらしく、桜乃は不思議がる様子もなく頷いた。

 桜乃の友達はそんな私たちをなんとも言えない表情で見ていたけど、桜乃が「今日は和泉ちゃんと食べてくるね」と言うと、素直に「いってらっしゃい」と送り出してくれた。



「どこで食べる? 人が少ないところの方がいいよね」

「うん。……ちょっと埃っぽいとこだけど、いい?」


 桜乃の了承を得て、購買部で適当なパンを購入した私たちは、屋上に一番近い階段まで移動した。

 立ち入り禁止と書かれたプレートの前には、予備なのかなんなのか分からないけど、三つほどの机と椅子のセットが置かれている。

 しばらく誰も来ていなかったのか、そこに積もっていた埃を軽く払い、二人でそこに座る。


「……さっきはごめん」


 食べ始めるよりも先に、私は桜乃に向かって頭を下げた。


「和泉ちゃんが謝ることじゃないよ。むしろ私の方こそ……迷惑な嘘ついてごめんね。他に方法が思いつかなくて」

「いや、それは全然……桜乃の方がダメージ大きいでしょ。私なんかと付き合ってるなんて」

「……和泉ちゃんのマイナス思考は、時々人を傷つけるね」


 傷つけるという言葉に反応して顔を上げると、何か言うよりも先に、一口サイズにちぎったパンを口に押し付けられた。

 このままでは何も話せないのでそれを食べると、咀嚼している間に、桜乃が話し始める。


「私は何回も好きだって伝えてるし、態度でも示してるつもりなんだけど……」

「それは……だって……同情とか、そういうのでしょ」

「え?」


 ジロリ、と音が出そうな勢いで睨まれてしまった。

 桜乃らしからぬ怖い表情に動揺した私は、あんぱんを手にしながら首を振った。


「だ、だって私たち小さい頃から家族みたいに育って、桜乃は私のこと妹……いや、姉? そういう風に見てると思ってたから……」

「……家族に対して愛してるなんて言わないよ。裸エプロンも見せたくないし。エッチなことがどうとかも言わない。……そもそも私は優しくないから、下心がなければこんなに気にかけたりしないよ」

「で、でも、お兄ちゃんが」

「今は私と和泉ちゃんの話をしてるの。いっちゃんは関係ないでしょ」

「あるよ。お兄ちゃんじゃなくて私を好きになるなんて、そんなの……」

「変だって言いたいの?」


 気まずくて控えめに頷くと、桜乃は溜め息をついた。


「その変っていうのはどういう意味? ……性別的な話?」

「いや……それ以前に、人として、というか」


 たとえば私が男に生まれていたとしても、きっと私は同じことを思うだろう。


 お兄ちゃんは小さい頃から何でも出来て、何をやっても私より優秀だった。

 恋愛的な意味でもそうだけど、それ以外の人間関係でも、みんな常にお兄ちゃんの方を見ていた。

 私はなに一つ、お兄ちゃんに勝てたことがない。


 ……それに、兄妹で勝ち負けだとか、どっちの方が好かれているだとか、そんなことばかり考えてしまう性格も含めて、お兄ちゃんには一生勝てない奴なんだ。


「いっちゃんは格好良くて、運動が出来て、成績が良くて、魅力的だって話?」

「……そうだよ」

「そんなの知ってる。それで、いっちゃんがそういう人なことと、私が和泉ちゃんを好きなことと何の関係があるの?」

「だから、お兄ちゃんより私を好きになる人なんていないんだって!」


 桜乃は私の叫びに対して返事をすることはなく、その代わりなのか何なのか、私が手にしていたあんぱんを取り上げた。


「あ、あの、何であんぱんを……」

「怒ったから。これ以上怒らせたら、このパン食べちゃうから」

「ええ……」


 あんぱんを人質にとるなんて、なんて斬新な……。別にさほど困らないんだけど。


「私は和泉ちゃんがどういう気持ちで、どんな人生を送って来たのか正確には分からない……けど和泉ちゃんだって、私の全てを知ってる訳じゃないよね」

「そうだけど……」

「だったら私の気持ちを勝手に決めつけないで。私はいっちゃんのことすごい人だって思ってるよ。……それでも私が好きなのは和泉ちゃんなの」

「……でも」


 桜乃がこれだけ何度も言うんだから、流石にもう本気だってことは分かってる。

 彼女は、お兄ちゃんじゃなくて私を選ぶ奇特な人間なのかもしれない。


 ただ、どうしても心の奥底で引っかかっているものがある。


「あの時……恩返しだって言ったじゃん」

「え? ……どの時?」

「ケーキ買いに行った時……あの事故の恩返しがしたいって言った」

「あー……言ったけど」


 それが何か、みたいな顔をされて、こっちがムッとした。


「だから、私を好きって言ってくれるのも、その恩返しの一環なんじゃないかなって……思った」

「…………」


 桜乃は長い長い沈黙の後、素早くあんぱんの袋を開封し、たった五口であんぱんを食べつくしてしまった。私が何を言う間もなく、一瞬の出来事だった。


「え……怒ってる?」

「当たり前だよ!! 和泉ちゃんは私が……どんな思いで、ずっと好きだって……」

「ご、ごめん」


 謝ると、桜乃は空になったあんぱんの袋を私のお腹の辺りに突きつけた。

 お昼ご飯……よりも、今は桜乃を怒らせてしまったことの方が大事だ。


「……でも、私も悪いね。恩返しなんて言い方しちゃったし。私が言った恩返しっていうのは、お家のこと手伝ったりとか、そういうのだよ」

「そういうことなら、もう十分恩は返してもらってるけど……」

「なら、誤解も解けた上で改めて言うね。私は和泉ちゃんが好き。昔から……それこそ、あの事故の前から、ずっとずっと大好きだったよ」


 その言葉には、疑う余地なんてなかった。

 桜乃はずっと本当の意味で私のことを好きだと言ってくれていたんだ。


「……返事はすぐじゃなくていいから。今は体育祭のこともあって、忙しい時期だし」

「う、うん……でも、ごめん。私、ずっと桜乃の気持ちと向き合ってなくて……」

「……許してほしい?」

「それはもちろん……」


 桜乃は「なら」と言いながら、私の頬を包むように両手を添えた。

 それから目を閉じて、ゆっくりと顔を近付けてくる。

 なんかこの動きはまるで……、いや、まさかね。考え過ぎか。


「あ、あの……桜乃?」

「和泉ちゃんも目閉じて」


 従うべきなのかどうか、悩むこともせずに目を閉じていた。雰囲気というものにのまれたのかもしれない。


 視界が真っ暗でも、感覚で桜乃が近付いてくるのが分かる。

 頬に手を添えられて、目を瞑って、顔を近づけられて――さあ、この先どうなるでしょうか、なんて。こんなの幼稚園児でも分かる展開だけど。

 それを私は素直に受け入れるべきなのか。付き合ってるわけでもないのに、こんなことしていいんだろうか。


 ぐるぐるぐるぐる思考が渦巻く中、軽いリップ音と共に、唇の端にやわらかいなにかが触れた。

 それはすぐに離れて、ゆっくり目を開けると、桜乃は頬を赤く染めて微笑んでいた。


「本当のキスは、付き合ってからってことで」

「……く、口の端は、割と本当のやつでは?」

「お互いがノーカンだと思えばノーカンでしょ」

「そうですか……」


 私は全くノーカンだと思えないんだけど……ややこしいことになりそうだから、言わないでおこう。


◆ ◆


 その日の放課後、いつも練習している河原に行くと、本当に小森さんが来ていた。

 仲直り――あれが喧嘩なのかは分からないけど――したのか、隣には青井さんの姿もある。


「……」


 ただ、まだ何か思うところがあるのか、小森さんはムスッとした顔で私の方を見ている。

 まあ、教室であんな風に叫ぶくらいには私のことが嫌いなんだから、桜乃の言葉ですぐに考えが変わるわけはない。


 むしろ恐ろしいのは、クラスメイトたちの方だ。

 私は相変わらずクラスで浮いているけど、噂話に対するヒソヒソはパッタリとなくなった。

 それでいて桜乃も友達や他のクラスメイトの子とも普通に接しているのだから、最早怖い。

 まるで最初から何もありませんでした、みたいな感じ。高校生ってこういうものなんだろうか。

 まあ中学の頃みたいに、一つの出来事を引きずられてイジメみたいなことが続くよりは遥かにマシだけど。


「コモちゃん」


 私と一緒に河原に来た松岡さんが声をかけると、小森さんは視線をさまよわせた後、私の方を見た。


「……私、三年の頃、あの子と同じクラスだったの」


 あの子っていうのは、恐らく恭子のことだろう。


「だから噂を他の友達から聞いた時、あの子が可哀想だと思って……確証もないのに信じちゃってた。……今でも本当のことは分からない。でもごめん。少なくともあの場で言うことじゃなかった」

「あたしもごめん。あたしが教室で話し始めちゃったから、あんなことになって」

「いや、元々ああいう噂を信じられるような態度をとってた私が悪いんだし、謝らないで」


 人に面と向かって頭を下げられるのは苦手だ。その相手がさほど悪くない人なら、特に。


 それにしても、小森さんが恭子と知り合いだとは知らなかった。

 被害者と言われている子が知人なら、噂を鵜吞みにして、私を嫌うのも仕方ないかもしれない。


 それに、私と恭子が仲良しだったのにある日突然ぱったり疎遠になったことは事実で、同じクラスの子は知っている。


 私に襲われかけたから恭子は私と距離を置くようになった――そう考える人がいたとしても、責められることじゃない。


「練習の件もごめん。個人の好き嫌いですっぽかすとか、よくなかったわ。本番までもうすぐだけど、それまでは頑張るから」

「うん。でもリレーについては私の方が足引っ張りそうだから、今からごめんって言っとく」

「そんなことないよ! 高柳さん、徐々にタイム上がって来てるもん」

「そうよ。前から言ってるけど、あたし、勝つ気しかないから。みんな、今日は倒れるまでやるわよ!」

「うん! 絶対勝とうね!」

「お、お手柔らかに……」


 同じ陸上部の小森さんが引くくらいに、随分と燃えてる様子の二人。


 正直、私の足の後遺症を抜きにしても、一位をとるのは相当難しいと思うんだけど。

 こういう負けず嫌いというか、運動部魂が強いところが、性格が違うのに青井さんと松岡さんが仲良しな理由の一つなのかもしれない。



続く

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