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私に一途な従姉妹の愛が重すぎる  作者: 北条S


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18/23

【17.翌日の風景】

 ふと、頭を撫でられる感覚で目が覚めた。


 昨日は桜乃を久しぶりに名前で呼んだこととか他にも色々恥ずかしくて、飛び込むように布団に潜り込み、そのまま眠ってしまったらしい。


「……和泉ちゃん」


 上から桜乃の声が聞こえて、頭を撫でてる手の主が分かった。まあこの家でこんなことするのは彼女くらいしかいないんだけど。


 ……それにしても、相手が眠っていると思ってる状態で起きてるってカミングアウトするのって、タイミングが難しいな。

 とりあえずこの手が離れていったら、さりげなく今起きた風に起き上がろうかな。


「……」


 そう思っていたら、手の動きが止まった。

 よし、後は離れていくのを待って………………、…………いや、長いな。


 時間にして十秒ほど経っているのに、まだ手が離れていく気配はない。

 もうこうなったらこのまま起きちゃおうかなと思い始めた時だった。


「好き」


 今まで聞いたことがないような、甘い声色と共に、頬に柔らかい何かが当てられたのが分かった。

 それが何かなんて、すぐ分かったけど。理解した瞬間、自然と顔が赤くなって、心臓がうるさいくらいバクバクと鳴り始めたので、私は開こうとしていた目を強く瞑り直した。

 残念ながら私には、キスされた直後に平気な顔をして起きるなんて芸達者なことは出来ない。


「和泉ちゃん、そろそろ起きる時間だよ」


 だというのに、何事もなかったかのように起こされてしまったせいで、起きざるを得なくなってしまった。

 せめて起きていたことがバレないように、下手くそながらもなんとか「今起きました感」を出す。


「……おはよう……」

「おはよう。朝ご飯の支度出来てるよ」

「ありがとう」


 チラリと桜乃の方を窺うと、いつも通り穏やかな笑顔を浮かべていた。

 ……これがたった今、無断で人の頬にキスした人間の態度かと思うと、色々と言いたいことはある気がしたけど。もちろん実際に言う度胸はない。



「なんだよ、この妙に気まずい空気は……」


 珍しく朝練がないらしいお兄ちゃんは箸を動かす手を止め、怪訝そうな顔をした。


 別に気まずい空気なんてないけど……いや、あるか。私は全く喋らないし、桜乃も黙々とご飯を食べてるし。


「お前サクちゃんに何かしたのか?」

「いや、何かっていうか……」


 ただ昔の話をしたり、コンプレックスを吐露しちゃったり、呼び方を変えてみたり…………あ、ダメだ、恥ずかしい。


 改めて思い返してみると、昨日の私はなんなんだ。なんであんな素直にウジウジしてたんだ。眠かったのかな?


 恥ずかしさをかき消すように、ガツガツとご飯を食べ進める。

 ちょっと汚い食べ方だったから頬にご飯粒がついちゃってるけど、そんなことを気にしてる余裕もない。


「……その反応は確実に何かしただろ」

「してないよ、別に」

「ホントかよ……」


 お兄ちゃんがジトっとした目で見てきたけど、無視する。


 実際私は何もしてない、言っただけ。そもそもそれだって、桜乃が妙に本音を漏らしやすい雰囲気を作ってきたからだ。

 従姉妹によるお悩み相談みたいなものだよ、うん。桜乃はカウンセラーとか向いてそう。


「ごちそうさま」

「!」


 彼女の声に、ビクッと体が震えてしまった。

 本当に別に何もやましいことはないのに、私は何をそんなに怯えているんだろうか。


「和泉ちゃん」

「ひぁっ、あ、なに?」

「なんだよ、『ひぁっ』って……女かよ……」


 普通に女なんだが。


 呆れた顔をしているお兄ちゃんを軽く睨んでから、桜乃の方に目を向ける。

 すると彼女はいつもより少し嬉しそうに微笑みながら、私の頬に手を伸ばしてきた。


「ご飯粒ついてるよ」


 そう言ってつきっぱなしだったご飯粒を取ってくれた。

 そこまではよかったんだけど、そのまま自然な動きでそれを食べるんだから、たまったものじゃない。


「ご、ごめん」

「ううん。可愛い」

「――」


 な、なんだこの子、ひょっとして私の反応を見て楽しんでるのか……?

 だとしたら動揺してなるものか、と表情を引き締めた。

 しかし桜乃はそれ以降なにを仕掛けてくることもなく、


「じゃぁ、今日は私が先に登校するね」


 それだけ言ってリュックを持ち、リビングを出て行った。


 取り残された私は、引き締めた顔のまましばらく停止した後、机に思いっきりおでこを打ち付ける。

 なんというか、何かしらの痛みを与えないと耐えられそうにない空気だった。


「……お前ら、本当に何があったんだ?」

「大したことじゃないよ。ただ、桜乃が――」

「桜乃?」

「……桜乃って呼ぶようにしただけ」

「なんだそれ……ま、どうでもいいけど。お前半端なく顔赤いぞ」


 そんなの言われなくても分かってるよ。

 ああ、穴があったら入りたい。というか、今すぐ自分で穴を掘りたい。


 ……そうだ、昨日のことは忘れよう。そうだ、それがいい、そうしよう。


「お兄ちゃん、私は成長した!」

「あ、ああ? 今日のお前、朝からテンションおかしいな」


 訳が分からないという風なお兄ちゃんは置いておいて、私もさっさと自分のご飯を食べ終える。


「じゃ、私も先に行くから」

「あ、おい、ちょっと待ってよ! 後片付けは俺任せかよ!?」


 朝は最後に残った人が後片付け。これが我が家のルールだ。

 桜乃が来てからはいつも彼女がやってくれていたんだけど、今日は珍しく先に行ってしまったから、お兄ちゃんに押し付けることにする。


 それにしても、洗い物もせずに行っちゃうなんて、もしかして桜乃も少しは昨日のこと気にしてるのかな。


 リビングの方から聞こえるお兄ちゃんの「洗い物!」とかいう叫び声を無視して、家を出た。



 通学路を早足で歩きながら、冷静に考えてみる。

 今思うと、昨夜のことはそこまで恥ずかしいことでもないんじゃないだろうか。

 多少の弱音とコンプレックスを吐露してしまったのは事実だけど、泣きついたわけでもないんだし。


 ――うん、よく考えると全然恥ずかしくなんかないぞ。


「よし、いける!」

「何が?」

「うひゃっ!?」


 ビックリした……思わず情けない声をあげちゃったじゃないか。

 早足過ぎて、いつの間にか先に出た桜乃に追いついていたらしい。彼女は私の横に並び、こちらを見て笑った。


「和泉ちゃん、すごい速さで歩いてるのに、表情はぼーっとしてたよ。見てて危なっかしかったから声かけちゃった」

「あ、ごめん……」

「何か考え事?」

「えっと……今日の夕飯について、かな」


 本当のことを言えるわけもなく、適当に誤魔化すことにした。


「何か食べたいものとかある?」

「んー……ハンバーグとか」

「分かった。じゃぁ愛情込めて作るね」


 あ、作るんだ。てっきり市販のやつを買って来るのかと思った。

 やっぱり料理ができる人は発想が違うなぁ、なんて考えていると、いきなり背中を叩かれた。


「だっ!?」

「あ、ごめん。痛かった?」


 振り向くと、青井さんが軽く頭を下げていた。相変わらずのジャージ姿で、登校兼ランニング中らしい。


「寧々ちゃん、おはよう」

「おはよ。あんたたちって一緒に登校することもあるのね」

「うん。仲良しだから今日からは毎日――」

「というのは冗談で、今日はたまたま! 偶然だよ」


 隣から突き刺さる桜乃の不満そうな視線はスルーした。


「ふーん……ま、仲が良いのはいいことだけど」

「寧々ちゃんは今日もランニング?」

「ええ。今日は結構涼しいから助かるわ。高柳和泉も、少しくらいは体育祭の自主練しておきなさいよ」

「モチロンデスヨ」

「すっごい棒読みなんだけど……まぁいいわ。今日は放課後練習するから。じゃぁまたね」


 青井さんはくるりと背を向けて、そのまま走っていった。


 今日は練習あるのか……やると決めた以上は仕方ないけど、やっぱり面倒くさいという気持ちが勝ってしまうのは、長らく運動から離れていた影響だろうか。


「……あんまり無理しないでね」

「うん。本当にヤバそうになったら、先生にだけ事情を伝えてやめさせてもらうよ」

「あ、先生も知らなかったから、あの時反対しなかったんだ……、どうして言わないの?」

「なんとなくかな……中学でも言ってなかったし、別にいっかって」

「和泉ちゃん……身体のことなのに、ちょっと適当じゃない?」

「そういう性格なんだよ」

 

 とりあえず練習中に本番で走る感覚で走ってみて、無理そうだと思ったら事情を説明すればいいやと、軽い気持ちで考えた。


◆ ◆


 放課後、松岡さんに誘われて河原に行くと、青井さんが既に練習を始めていた。

 帰りのHRが終わって、誰よりも早く教室を飛び出していったと思ったら……本当に練習熱心だ。見習いたいとは思わないけど、シンプルに尊敬する。


 そんな青井さんは、私たちの姿を見つけるなり駆け寄ってきた。


「遅いわよ、二人とも」

「流石に寧々が早すぎるんだよ」


 まあ私たちもHRが終わった後、さっさと帰り支度を済ませて、歩いているにしてはかなりの速度でここまで来たし。


「……あんた、優花と二人きりだったからって、変なことしてないでしょうね?」

「それはどうだろう――しておりません。楽しくお話ししてただけです」


 青井さんが無言でビンタをする体勢をとったので、冗談を言うのはやめておいた。


「本当に?」

「神に誓って」

「じゃ、いいわ。さっさと着替えて練習始めるわよ」


 青井さんが離れていったのを確認してから、背負っていたリュックをそこら辺に置く。

 外で着替えるの、ちょっと嫌だなーなんて思いながら着替えていると、松岡さんの視線を感じた。


「……どうかした?」

「いや、今日の高柳さんはやる気に溢れてるなーって思って」

「あー……うん、ちょっとね。というか、この間がやる気なさ過ぎただけだから」

「事情は分かんないけど、やる気になってくれのは嬉しいな。あんまり無理強いはしたくなかったから」


 松岡さんは、当然私がどういう形でリレーに選ばれたのかを知っている。だからか、申し訳なさそうな表情でそう言った。


「本気で無理ならその時はその時ってことで。じゃ、ちょっと体ほぐしとくから、松岡さんは青井さんと走って来て」

「うん。じゃぁ頑張ってね」


 まあ、頑張ると言ってもストレッチなんだけど。

 今までロクに運動していなかったから、いきなり走ったら足がどうなるか分かったもんじゃないし、とりあえずは慣らすことから始めないと。



 ――とはいえ、青井さんがいる以上、それだけで済むことはなかった。


 ただ、基礎体力を身につけることが先決という意見は一致したので、とりあえず今日は軽い走り込みとバトンパスの練習だけで許してもらえた。


 私が黙々と走り込む中、二人はスタートダッシュの練習やインターバル走を繰り返していて、さすが陸上部といった感じだった。


 そんなわけで、同じ時間練習していても圧倒的に松岡さんたちの方が疲れているはずなんだけど。


「優花、あんた相変わらず速すぎ……! 何回やっても勝てないし……」

「ふふ、まだまだ負けるわけにはいかないよ」

「ぐ……ムカつく……」

「というわけで、もう一本走ろ!」

「もう無理……足がもげる!」


 キャッキャと会話をかわす二人を寝転びながら見つつ、元気だなぁとしみじみ思った。



続く

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