EP 7
国境の攻防、押し寄せる鋼鉄の軍団
決戦の朝。
ポポロ村を包む朝霧を切り裂くように、ズズン……ズズン……という無数の重い足音が、遠くの地平線から響いてきた。
「来たな。……ガオン、機体のステータスはどうだ?」
村の広場で待機していた俺の問いに、ガオンが首をブルッと振って答えた。
『フハハハ! 絶好調だマスター! あの忌まわしきエルフの純金呪縛(3日限定)が解け、我が本来のオリハルコン装甲が顔を出したからな! 機体重量は通常値! サスペンションも最高の滑らかさだ!』
ルナの【黄金錬成】の効果が切れ、ガオンのボディは無骨だが引き締まった鋼色を取り戻していた。
俺のARグラスにも、すべてのパラメーターが『オールグリーン』の表示を返している。マルチシート化の改造による重量増も、事前の再計算で完璧にカバー済みだ。
「村長! キャルル村長ォォォ!!」
広場に、ワイズ皇国、ルナミス帝国、レオンハート獣人王国の3カ国の国境駐留軍の兵士たちが、血相を変えて駆け込んできた。
いつもはキャルルの「カチコミ&ヒール」で従順に躾けられている屈強な男たちだが、今ばかりは顔面を蒼白にしている。
「逃げてください姉御! 境界線の向こうから、古代兵器の軍団が……およそ100機! まっすぐこのポポロ村に向かってきてます! 俺たちのボーガンや魔法じゃ、ヤツらの装甲に傷一つ入りません!」
「このままじゃ村が更地にされます! 早く馬車に乗って!」
兵士たちの悲痛な叫び。無理もない。通常の軍隊の常識で考えれば、100機の殺戮兵器の群れなど、歩く大災害そのものだ。
だが、キャルルは愛用の人参柄のハンカチでトンファーの汚れを拭きながら、フッと鼻で笑った。
「あんたたち、随分とビビってるじゃない。……悪いけど、私は逃げないわよ」
「な、なんでですか!? 命より大事なものなんて——」
「あるわよ。ルナキンのドリンクバーと、玲王が作ってくれる毎日の『極上メシ』がね。あれを失うくらいなら、古代兵器の100や200、私の顎砕きで全部スクラップにしてやるわ」
キャルルがトンファーを構えると、その背後からルナとリーザも歩み出てきた。
「そうですわ! この村は自然豊かで最高のお庭ですもの。わたくしが『ちょっとだけ』本気を出して、お掃除して差し上げますわ♪」
「そうですぅ! アイドルにとって、ステージ(村)とケータリング(玲王のタダ飯)を奪うアンチは許しません! 茹で卵の恨み、思い知らせてやりますぅ!」
ポンコツ……いや、規格外の3人のヒロインが、一切の恐怖を見せずに立ち並ぶ。
その光景に、3カ国の兵士たちはポカンと口を開けて呆然としていた。
「おいお前ら、兵士なら村人の避難誘導くらいは意地を見せろ。……防衛線は、俺たちが引き受ける」
俺は白衣を翻し、ガオンの横腹に増設したコックピットのハッチを展開した。
「さあ、お前ら。特A級エンジニアが組み上げた最高傑作に乗り込め。デバッグの時間は終わりだ。本番環境に移行するぞ!」
「「「了解(ですわ/ですぅ)!!」」」
4人がそれぞれのシートに滑り込む。
「メインOS、起動。各生体コア、バイタルチェック」
俺が中央のコンソールでコマンドを叩く。
「右舷・白虎シート、キャルル。闘気リンク率、良好。いつでもイケるわよ!」
「左舷・青龍シート、ルナ。魔力パイプライン、接続完了ですわ♪ いつでもぶっ放せます!」
「後方・支援シート、リーザ。マイクテスト、ワンツー! 喉の調子バッチリですぅ!」
コックピット内のモニターが次々と点灯し、ガオンの視覚センサーが捉えた外部映像が全天周囲モニターに投影される。
防壁の向こう側——もう目と鼻の先に、赤黒い瘴気を纏った魔将機の大群が、土煙を上げて迫っていた。
その数、ざっと100。中央には、通常の魔将機の倍のサイズを誇る『重装魔将機』がボスのように鎮座している。
『——マスター。敵の大群、射程距離に入るぞ。我の四神システム、貴様らのバグだらけの魂で真の力を引き出せるか、見せてもらおう!』
ガオンのエンジンが、期待と興奮で高く吼えるような駆動音を響かせた。
「ガオン、お前の演算領域のすべてを俺に預けろ。キャルル、ルナ、リーザ! 俺のコード(指示)に1ミリの狂いもなく追従しろ!」
俺はメインスロットルを力強く握り込み、限界まで押し込んだ。
「疑似四神・マルチシート同期システム、展開! 行くぞお前ら——出撃!!」
ズドォォォォンッ!!
ガオンの四肢から強烈な魔力ブーストが噴き出し、全高2メートルの巨体が、100機の軍団が待ち受ける荒野へと弾丸のように飛び出した。
いよいよ、魔法と闘気、そして現代AI工学が融合した大反撃が始まる。




