EP 6
特訓! コックピットはカオス空間
魔の3徹(3日連続徹夜)が明けた。
俺の血中カフェイン濃度(コーヒー草抽出液)と糖分(ハニーかぼちゃのシロップ直飲み)は限界を突破していたが、目の前の完成品を見れば疲労も吹き飛んだ。
「……できた。名付けて『疑似四神・マルチシート同期システム』だ」
村の裏山。そこに鎮座するガオンの内部機構は、俺の【聖獣テイマー】スキルによる極限のコーディングで魔改造されていた。
胸部のメインコアに加え、新たに3つのサブシートが増設された広々としたコックピット。
『ハァ、ハァ……マ、マスター……我の神聖なるボディが、まさか相乗り仕様にされるとは……』
「泣くなガオン。居住性とサスペンションにはこだわった。これで魔将機100機を迎え撃つ」
俺は、ポポロ村の最終兵器たち——キャルル、ルナ、リーザの3人をコックピットへ招き入れた。
「うわっ、意外と広い! ルナキンのボックス席くらいあるじゃない」
「あら、シートがふかふかですわね♪」
「エアコン効いてて最高ですぅ! ここに住んでもいいですか!?」
キャルルが右の『白虎(近接格闘)』シート、ルナが左の『青龍(魔力砲撃)』シート、そしてリーザが後方の『システム支援』シートに座る。俺は中央のメインOS席だ。
「いいか、お前たち。敵は100機だ。俺一人とガオンじゃ処理しきれない。だから、キャルルの格闘センス、ルナの無限魔力、リーザのバフをガオンのシステムに直結させる」
俺はメインコンソールを起動し、訓練用のVRシミュレーションモードを立ち上げた。
視界のモニターに、仮想の魔将機が投影される。
「まずは同期テストだ。ルナ、青龍アームに魔力を流せ。出力は『5%』でいい。照準計算は俺がやる」
「分かりましたわ! えいっ♪」
ルナがコンソールに手を触れた瞬間。
——『警告(WARNING)! 魔力流入量オーバーフロー! 現在出力12000%!』
青龍アームの砲身が赤熱し、コックピット内にけたたましいアラートが鳴り響く。
「ストォォォップ!! 5%って言っただろ!? なんで限界突破してんだよ! 機体がメルトダウンするわ!」
「えっ? わたくし、息を吐くくらいそーっと流したつもりですのに……」
「お前のそーっとは自然災害レベルなんだよ! 俺がファイアウォール(魔力障壁)組んでなかったらガオンの左腕が消し飛んでたぞ!」
気を取り直して、次はキャルルだ。
「キャルル、右腕の白虎アームはお前の『闘気』と連動している。目の前の仮想敵に向かって、トンファーを振る要領で操縦桿を押し込め!」
「任せなさい! 要はブッ飛ばせばいいのよね! ふんっ!!」
バキィィィィンッ。
嫌な音がした。
キャルルが無意識に闘気を込めて操縦桿を握りしめ、そのまま力任せに押し込んだ結果——オリハルコン製の操縦桿が、根元からへし折れていた。
「……あ。ごめん、力余った」
「…………(無言でスペアの操縦桿を取り付ける俺)」
最後はリーザだ。
「リーザ。お前は人魚姫の固有スキル『戦神の歌』で、システム全体にバフをかけてくれ。頼む、お前だけが最後の希望だ」
「任せてくださいエンジニア様! 最高のステージにしてみせますぅ!」
リーザが立ち上がり、後部シートの特設マイクを握る。そして、なぜか鼻の穴に五円玉を二枚詰めた。
「——♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン!!」
『エラー! 意味不明な音声入力を検知! システムの士気が低下しています!』
「なんで宴会芸なんだよ!! 真面目にバフをかけろバカ人魚!!」
——シミュレーション結果:全滅(開始30秒で自滅)。
「お前ら……今まで見たどんなスパゲティコードより酷い、最悪のバグ(不具合)だぞ……!!」
俺はコンソールに突っ伏し、深い絶望の海に沈んだ。
決戦まであと4日。こんなカオス集団で、どうやって軍隊を迎え撃つというのか。
その日の夕食。
村長宅のダイニングには、気まずそうな顔をしたキャルルたち(ルナはニコニコ、リーザは腹の音を鳴らしている)が座っていた。
俺は黙って、テーブルのど真ん中に巨大な丼をドンッと置いた。
「今日のまかないは『肉椎茸とダイズラ豆の甘辛煮丼』だ。食え」
「「「いただきます!!」」」
肉椎茸——A5ランクの和牛のような食感を持つキノコを厚切りにし、畑の肉・ダイズラ豆と一緒に、醤油草とハニーかぼちゃの特製ダレでテリヤキ風に甘辛く煮込んだものだ。
それがサンライス(米)の上に山のように盛られ、中央にはトライバードの半熟温泉卵が乗っている。
「〜〜〜〜ッ!! お、美味しい! お肉の旨味とキノコの香りが爆発してる! それにこの甘辛いタレ、ご飯が無限に進むわ!」
「ん〜〜♪ 大豆のホクホク感とタレが絶妙ですわね」
「エンジニア様は神様ですぅ! これならパンの耳なしでも生きていけますぅぅ(感涙)!」
3人が夢中で丼を掻き込んでいる隙に、俺は静かに口を開いた。
「システムってのはな、どれだけ個々のパーツが優秀でも、同期できなきゃただの鉄屑だ。……お前らの力は規格外すぎる」
「うっ……ごめんなさい。つい力が入っちゃって」キャルルがウサ耳を伏せる。
「だが」俺は続ける。「俺は特A級のAIエンジニアだ。どんな暴れ馬でも、完璧なアルゴリズムで制御してみせる」
俺は3人の顔を見渡した。
「ルナ。お前の無限魔力は、俺がリミッターの閾値をミリ単位で調整してやる。だから暴発を恐れず、俺のサインに合わせてトリガーを引け」
「キャルル。操縦桿の素材に『闘気伝導体』を組み込んだ。お前のマッハの格闘センスを、そのままガオンの右腕にトレースさせてやる」
「リーザ。お前の歌が、俺とガオンの演算速度の鍵だ。本気の『戦神の歌』を響かせてくれ」
俺は最後に、ニヤリと笑ってトドメを刺した。
「俺の指示を信じろ。100機のポンコツ兵器からこの村を守り切ったら——毎日、今日みたいな最高のメシとデザートを作ってやる」
その瞬間、3人の目の色が変わった。
キャルルの瞳に鋭い闘気が宿り、ルナが真剣な顔で頷き、リーザがよだれを拭って拳を握りしめた。
「……言ったわね、玲王。毎食ルナキン超えのメシ、絶対よ。村長として、その契約乗ってあげる!」
バラバラだったバグだらけのパーツが、一つの強固なシステムとしてリンクした瞬間だった。
『フン。どうやらマスターの「餌付け」が完了したようだな。我のエンジンも温まってきたぞ』
庭のガオンの瞳が、静かに赤く発光した。
決戦の日は、もう目の前まで迫っていた。




