EP 10
大団円! ルナキンの夜は終わらない
空を真っ二つに割った巨大な爆発の余韻が冷めやらぬ中、真っ二つになった浮遊要塞『バベル』の残骸が、ルナミス帝国側の荒野へと次々に墜落していく。
その崩壊する要塞から、ポロリとこぼれ落ちる一つの脱出ポッドがあった。
『ひ、ひえぇぇぇぇっ!! たすけてぇぇぇ!!』
中から聞こえるのは、あの傲慢だったゴルド商会の商人と腐敗貴族の情けない悲鳴だ。
俺はガオガオンの高度を下げ、自由落下していくそのポッドを、右腕(白虎アーム)の二本指でヒョイッと摘み上げた。
「……さて、ゴミの回収も終わったし、帰るか」
夕日を背にポポロ村の広場へ降り立つと、そこには歓喜に沸く村人たちと3カ国の駐留軍兵士たちが、涙を流しながらガオガオンを見上げていた。
「「「キャルル村長、万歳! エンジニアの旦那、万歳!!」」」
割れんばかりの歓声の中、俺たちはコックピットから地上へと降り立った。
ガオガオンの指からポイッと投げ出された脱出ポッドのハッチが開き、中から商人と貴族が、文字通り泡を吹いて転がり出てくる。
「ひ、ひぃぃ……! 命、命だけはお助けを……! お金なら、お金ならいくらでも払いますからぁ!」
股間を再び濡らしながら、地面に額を擦り付けて土下座する商人。
その前に、ウサ耳をピコピコと揺らしながらキャルルが進み出た。
彼女の手には、村の帳簿(分厚いバインダー)が握られている。
「命まで取るような野蛮なマネはしないわよ。うちは平和なポポロ村だもの。……ただ、あんたたちが落としたワイバーンと要塞の破片で、うちの『ダイズラ豆』の畑が3区画ほど潰れちゃったのよねぇ」
「は、はいぃ……! 弁償いたします! すぐに!」
「そう? じゃあ、これがあんたたちの新しい職場よ」
キャルルがドンッ! と突きつけたのは、『ポポロ村営・ダイズラ豆農場:無期懲役(無給労働)の刑』と書かれた誓約書だった。
「農作物の恨みは、農作業で返してもらうわ。安心しなさい、逃げようとしたら私のトンファーがマッハで顎を砕きに行くから♪」
「あ、あ、あああぁぁぁ……っ(気絶)」
最強の物理村長による完璧な「ざまぁ(論理的解決)」を見届け、俺たちはついに、愛すべき憩いの場へと足を向けた。
【24時間営業 ファミリーレストラン・ルナキン ポポロ村支店】
煌々と輝く魔導ネオンサインの下、今日は店舗を丸ごと貸し切っての大祝勝会が開かれていた。
店内は兵士や村人たちで溢れかえり、各テーブルには山盛りのフライドポテト草や、ピラダイのカルパッチョが並べられている。
厨房は、完全に俺の独壇場となっていた。
「よし、ホイップの硬さ(テクスチャ)は完璧だ。ハニーかぼちゃの糖度も申し分ない」
俺は白衣の上にルナキンのエプロンを締め、巨大なガラスボウルと格闘していた。
今日のメインイベントは、ポポロ村を救ったヒロインたちへの最高の報酬だ。
「お前ら、お待たせしたな。今日の特別ミッションのコンプリート報酬だ!」
俺がカートに乗せてホールへ運び出したのは、全高50センチはあろうかという超ド級のスイーツ。
『超巨大・太陽芋とハニーかぼちゃのビクトリーパフェ』だ。
「「「きゃああああぁぁぁぁっ!!!」」」
キャルル、ルナ、リーザの3人が、アイドルのライブ以上の黄色い悲鳴を上げた。
底面には、サクサクに焼き上げた特製パイ生地。その上には、ルナの魔法でキンキンに冷やされた芳醇なバニラアイスと、濃厚なハニーかぼちゃの特製クリームが何層にも重なっている。
さらに、外側がカリッと、中はホクホクに揚げられた黄金の『太陽芋のキャラメリゼ』が豪快にトッピングされ、頂上にはルナミス帝国産の高級苺が王冠のように飾られていた。
「あったかくてカリカリのお芋と、冷たーいアイスの奇跡のコラボレーション!! この温度差、最高ぉぉっ!!」
キャルルが特大スプーンでパフェをすくい、幸せそうに頬を抑えてウサ耳をパタパタと羽ばたかせている。
「んん〜♪ かぼちゃの濃厚な甘味が、戦いの疲れを優しく癒やしてくれますわ〜。お芋もホクホクですのね♪」
ルナが優雅な手つきで、しかし恐るべきペースでパフェの山を切り崩していく。
「あぁぁ……パンの耳じゃないスイーツ……! スパチャの五円玉より輝いて見えますぅ! 喉の奥まで甘さが染み渡りますぅぅ(号泣)!」
リーザはマイクをスプーンに持ち替え、涙とクリームで顔をぐちゃぐちゃにしながら至福の表情を浮かべていた。
窓の外に目をやると、元のサイズに戻ったガオンが、俺が特別に調合した『超高級・雷竜魔力オイル(ヴィンテージ物)』をペロペロと舐めながら、満足げに喉をゴロゴロと鳴らしている。
「(平和だな……)」
俺は、ルナキンの名物であるドリンクバーからメロンソーダ草のジュースを注ぎ、自分の席へと腰を下ろした。
前世の、無機質で静かなサーバー室での日々。
それに比べれば、この異世界の日常は、いつだってノイズとエラーと規格外のバグに満ち溢れている。
エルフが装甲を純金に変え、人魚が鼻に五円玉を詰めて歌い、ウサ耳村長が爆弾を空へ蹴り返す。常識なんてあったものではない。
だが、俺は特A級AIエンジニアだ。
どんな暴れ馬のシステムだろうと、極上のメシと完璧なコーディングで、最高のパフォーマンスを引き出してみせる。
「玲王! ぼーっとしてないで、あんたも食べなさいよ! 苺、一つだけ残しといてあげたから!」
キャルルが、クリームを口の端につけたまま俺を手招きする。
「ああ、今行く」
俺はドリンクバーのグラスを持ち上げ、バグだらけで騒がしい、愛すべき仲間たちに向けて小さく掲げた。
「完璧なシステム(日常)に、乾杯だ」
特A級AIエンジニアと最強メカ、そしてワケありの規格外ヒロインたちの、美味しくて騒がしい異世界無双スローライフ。
大空の激戦を越え、ポポロ村の絶対的な平和とルナキンの夜は、今日も明るく、賑やかに続いていくのだった。
【第二章:特A級の空戦演算! 聖獣機神ガオガオンvs腐敗貴族の浮遊要塞・完】




