EP 6
対空迎撃! 地下アイドルのデバフライブ
雲を突き抜けた上空。
銀色の翼(朱雀ウイング)を羽ばたかせ、空中に静止するガオンの姿に、ルナミス帝国の飛竜騎士団が色めき立った。
『ひるむな! たかが鉄の獣一匹、空戦のノウハウがあるわけがない! 全騎、散開して包囲陣形をとれ!』
騎士団長の号令で、500騎のワイバーンが黒い嵐のように空へ広がり、ガオンを取り囲むように旋回を始めた。
「空戦のノウハウがない? 舐めるなよ。俺の頭の中には最新鋭の流体力学とドッグファイトの最適解が詰まってるんだ」
俺は仮想キーボードを激しく叩き、HUDに無数のターゲットマーカーを捉えた。
「ルナ、青龍アームに魔力を回せ! 砲台モード(タレット・フォーメーション)で面制圧する! 俺の予測射撃に合わせてトリガーを引け!」
「お任せくださいませ! お空のお掃除、開始ですわーっ♪」
ズガガガガガッ!!
ルナの無限魔力を弾薬に変え、青龍アームの砲口から真紅のレーザー弾幕が放たれる。
だが——。
『甘い! 我ら飛竜騎士団の機動力を舐めるな!』
レーザーが直撃する寸前、ワイバーンたちは驚異的な反射神経で空中で身をよじり、急降下と急上昇を織り交ぜて弾幕をすり抜けていく。
「ちぃっ! 生体兵器特有のイレギュラーな軌道か! 奴ら、群れの連動で攻撃ベクトルを完全に分散させてやがる!」
俺の計算速度をもってしても、生物の持つ「野生の勘」というランダム要素がノイズとなり、直撃弾を与えられない。しかも敵は500騎。次第にガオンの周囲を飛び交うワイバーンからの雷撃や火炎ブレスが、防壁を削り始めていた。
『マスター! 被弾が増えているぞ! さすがにこの数で三次元機動を仕掛けられては、我が処理領域もオーバーフローを起こす!』
「分かってる! だが、ルナの出力をこれ以上上げれば、味方(村)に流れ弾がいく!」
焦る俺の背後で、ガタッ! と支援シートのシートベルトを外す音がした。
「エンジニア様、お任せくださいぅ! 今こそ私のステージですぅ!」
「リーザ! そうか、お前の『戦神の調べ』でシステムのクロックアップ(超強化)を……!」
俺が期待を込めて振り返ると、リーザは両方の鼻の穴に五円玉をグイッと詰めているところだった。
「違うんですぅ! アンチの妨害には、別の曲で対応するのが地下アイドルの常識ですぅ!!」
「はあ!? お前、こんな時に宴会芸の——」
俺が止める間もなく、リーザはマイクを握りしめ、自分のお腹をポンポコと叩き始めた。
「——♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン!!」
途端に、コックピット内の通信機を通じて、リーザの鼻声混じりのふざけた歌声が、空域全体に大音量でブロードキャストされた。
『な、なんだこのふざけた歌は!?』
『魔力通信の周波数に割り込んできやがったぞ!』
騎士たちが混乱する中、リーザの歌の真の力が発動した。
人魚姫の歌声は、味方に聴かせれば絶対無敵のバフとなるが……敵意を持って外部に放射した場合、三半規管と魔力回路を狂わせる**『最悪のデバフ(ジャミング)』**へと変貌するのだ。
「♪月よ〜月で〜頭は ハーゲハゲでピーカピカ〜!」
(ソレ! ヨイヨイ!)※自分で合いの手
『う、うおおおっ!? ま、真っ直ぐ飛べねえ!?』
『飛竜が……ワイバーンが歌のリズムに合わせて踊り出しやがった!! 止めろ!!』
空を覆っていた500騎のワイバーンたちの動きが、一瞬にして崩壊した。
リーザの『ポンポコ節』の裏拍子に引っ張られ、右のワイバーンが左のワイバーンに激突し、上のワイバーンが下のワイバーンに絡みつく。
騎士たちは「ポンポコ♪」というリズムに合わせて首を前後に揺らしながら、完全に操縦桿の制御を失っていた。
「♪お尻はツールツル〜! ターマターマはマ〜ルマル〜!!」
(ア、ドッコイ!)
ドカーン! ガシャァァン!
空中で大クラッシュを引き起こしたワイバーンたちが、次々とポポロ村の周囲の荒野へと墜落していく。
俺は唖然としながらその光景を見ていた。
「嘘だろ……。俺が必死に組んだ空戦アルゴリズムより、鼻に五円玉詰めた『ハゲたぬき』の方が制圧力が高いだと……!?」
「うふふ、とってもユニークな対空兵器ですわね♪」
ルナが優雅に手を叩いて喜んでいる。
だが、このシュールすぎる大惨事を、ただ黙って見ているわけがない男がいた。
浮遊要塞『バベル』の司令室にいる、ゴルド商会の商人だ。
『ええい、役立たずの飛竜騎士団め! 何がタマタマはマルマルだ、ふざけおって!! もうよい、あの忌まわしい村ごと焼き払ってくれるわ!!』
要塞バベルの巨大なハッチが開き、底面から樽のような巨大な『魔力爆弾』が一つ、投下された。
『はーっはっは!! まずはあの村の中心で、生意気にも夜中までネオンをチカチカさせている目障りな店から粉砕してくれるわ!!』
商人の声が響く中、巨大な魔力爆弾が真っ直ぐに降下していく。
その落下予測地点をARグラスが計算し、赤いアラートをコックピットに表示した。
『落下地点・ポポロ村広場——対象:24時間営業ファミリーレストラン「ルナキン ポポロ村支店」』
「——なっ!?」
俺の息が止まった。
それと同時に、白虎シートに座っていたキャルルの動きが、ピタリと静止した。
「……あいつ、今、なんて言った?」
地獄の底から響くような、低く、冷たい声。
キャルルのウサ耳が、怒りでピーンと張り詰めるどころか、逆にペタリと後方に倒れ、彼女の全身から尋常ではない量の『闘気』が溢れ出し始めたのだ。
「私たちの、憩いの場所……ドリンクバーも、苺パフェも、深夜の女子会も、全部あそこにあったのに……。それを、粉砕するですって?」
コックピット内の温度が急激に下がっていく錯覚。
キャルルの瞳のハイライトが消え、絶対的な殺意だけが灯っていた。
「……玲王」
「あ、ああ」
「跳ぶわよ。あのクソ要塞に、私の怒りを直接叩き込んでやる」
雷神の月兎が、マジギレした。
俺は一瞬の迷いもなく、全スラスターの出力をガオンの下半身へと回すコマンドを叩き込んだ。




