EP 5
空を覆う絶望。浮遊要塞『バベル』の飛来
ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
ポポロ村の大地が、かつてないほどの重低音に震えていた。
空を見上げた国境駐留軍の兵士たちは、手にしたボーガンや槍を取り落とし、次々とその場にへたり込んでいく。
「あ、あわわ……終わった。俺たち、もう終わりだ……!」
「なんだよあれ、冗談じゃねえぞ! ワイバーン500騎だけでも一国が滅ぶ戦力なのに……あの巨大な城はなんだ!!」
ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国の精鋭であるはずの彼らが、完全に戦意を喪失していた。
それも無理はない。彼らの頭上、ポポロ村の青空を完全に覆い隠すようにして、絶望の軍団が陣取っていたのだから。
バサバサバサッ! と、空を黒く染め上げる500騎の『飛竜騎士団』。
そしてその中央、分厚い雲を突き破って降下してきたのは、全高数百メートルにも及ぶ巨大な浮遊岩塊——邪神の遺物である浮遊要塞魔将機『バベル』だった。
無数の魔砲塔がハリネズミのように突き出し、底面には大陸一つをガラス玉に変えかねない巨大な主砲の砲口が、不気味な赤い光を明滅させている。
『アハハハハハ!! 震え上がれ、野蛮な辺境の村人どもよ!!』
要塞バベルから、魔力拡声器を通した下劣な笑い声が響き渡った。
先日、俺の青龍アームで股間をロックオンされ、失禁して逃げ帰ったゴルド商会の悪徳商人と腐敗貴族の声だ。
『先日はよくも我が面子を潰してくれたな! 貴様らの生意気な態度は、我が帝国に対する明確な反逆である! 大人しく世界樹の純金と鉄のライオンを差し出し、土下座で許しを乞うなら、村の半分だけは残してやってもいいぞ!!』
傲慢に満ちた宣告が村に響く。
兵士たちは絶望のあまり頭を抱え、村の広場は完全なパニックに陥ろうとしていた。
……そう、たった四人の「規格外」たちを除いては。
「あーあ。せっかくの極上ピラダイフライの余韻が台無しだ」
村長宅の玄関から、俺はコーヒー草の入ったマグカップを片手に、面倒くさそうに空を見上げた。
俺の後ろからは、お腹いっぱいで上機嫌なヒロインたちがぞろぞろと出てくる。
「ほんっと、信じられないわね!!」
キャルルが、ウサ耳を逆立てて烈火のごとく怒っていた。
「そうだそうだ! 私たちの村を脅かすなんて許せないですぅ!」
リーザも拳を突き上げて同調する。
「当たり前よ! 見なさいよあのでっかい鉄くず! 今日、私がお気に入りのシープピッグの毛布を天日干ししてるのに、あいつのせいで完全に日陰になっちゃってるじゃないの!!」
「そこですかぁ!?」
村(と自分の命)の危機よりも、洗濯物の日照権を侵害されたことへの怒りが勝る村長。
横では、ルナが「あらあら」と微笑みながら杖を構えていた。
「キャルルさん、お気になさらず。わたくしが『太陽の精霊』を直に毛布の横へ召喚して、一瞬でホカホカに乾燥させて差し上げますわ♪」
「やめろルナ! 毛布ごと家が灰になるわ! それにあんなデカいのが浮いてたら、うちの畑の『太陽芋』の光合成にも悪影響が出る。……どかすぞ、お前ら」
俺はマグカップのコーヒーを飲み干し、庭で待機しているガオンのコックピット・ハッチを開いた。
「ただの古いサーバー(要塞)に、無駄に容量ばかり食うウィルス(ワイバーン)がたかってるだけだ。俺が特A級の空戦アルゴリズムで、まとめてゴミ箱にブチ込んでやる」
俺たちが落ち着き払ってコックピットに乗り込もうとする姿を見て、腰を抜かしていた兵士の一人がすがりついてきた。
「え、エンジニアの旦那ァ! 無茶ですぜ、空を飛ぶワイバーン500騎にあんな化け物要塞、地上からじゃ絶対に届きません! 逃げましょう!!」
「誰が地上から撃つって言った? ソフトウェアがアップデートされたハードの真価を、特等席で見せてやるよ」
俺は兵士を軽くあしらい、中央のメインコンソールに座った。
「システム起動。疑似四神・マルチシート同期システム、展開! 各員、バイタルチェック!」
「右舷・白虎シート! 毛布の恨み、拳に乗せるわよ!」
「左舷・青龍シート! お空のゴミ掃除、張り切っていきますわ♪」
「後方・支援シート! 満腹パワーで最強のステージにしますぅ!」
3人のヒロインたちの力強い応答。同期率は最初から100%だ。
そして、リーザのポイ活錬金術によって『熱光学迷彩サーマルコーティング』を施された銀色の翼——朱雀ウイングのノズルに、紅蓮の魔力炎が灯った。
『フハハハッ! 聞こえるぞマスター! 我が背の翼が、大空を切り裂けと吼えている!!』
「空力パラメーター、再計算完了。推力偏向ノズル、最大出力!! 飛べ、ガオン!!」
俺がエンターキーを力強く叩き込んだ瞬間。
ズドォォォォォォンッ!!
大地を砕くような爆発的な推進力と共に、銀色の翼を広げたガオンの巨体が、重力の鎖を引きちぎって真っ直ぐに大空へと射出された。
『な、なんだと!? あの鉄のライオンが、空へ飛んできただとォ!?』
要塞バベルの拡声器から、商人の素っ頓狂な叫び声が聞こえる。
地上からしか攻撃できないと思っていた防衛対象が、一瞬にして同じ高度——いや、ワイバーン騎士団を見下ろす遥か上空へと駆け上がってきたのだ。
「遅えよ、ポンコツ共。ここから先は俺たちの領域だ」
雲海の上。青空を背に銀翼を広げた鋼鉄の獅子が、500騎の飛竜と超巨大要塞にその鋭い牙を剥いた。




