EP 4
絶対無敵アイドルの錬金術(スクラップ拾い)
「エンジニア様ぁぁぁ!! アンチの大群が来ちゃいましたぅぅ!!」
ドタドタドタッ! と、口の周りにカツ丼のタレをつけたリーザが、村長宅の庭へ転がり込んできた。
その背後の上空、遥か彼方の雲を割って、ルナミス帝国のワイバーン騎士団500騎と、巨大な浮遊要塞『バベル』がゆっくりとポポロ村へ向かって降下を始めているのが見える。
「分かってる。こっちのレーダーにもとっくに映ってるよ」
徹夜のコーディングで目の下に濃いクマを作った俺は、白衣のポケットからハニーかぼちゃのシロップ漬けを取り出し、ボリボリと噛み砕いた。
俺の目の前には、ルナの善意(呪い)によって『純金仕様』にされた朱雀ウイングを背負い、ずっしりと地面に沈み込んでいるガオンの姿がある。
「純金の超重量を無理やり飛ばすための『空力ゴリ押しプログラム』は、なんとかコンパイル(完成)した。……だが、致命的な問題が一つ残ってる」
『フン。我が神聖なる装甲が、摩擦熱でドロドロの金塊スライムになる問題だな』
ガオンが忌々しそうに鼻を鳴らす。
そう、航空力学を無視した超推力で純金の塊を大空へ打ち上げれば、凄まじい『空力加熱(空気摩擦)』が発生する。現在のガオンの装甲には、それに耐えうる【耐熱コーティング】が施されていないのだ。
「ルナの純金化魔法は、元のオリハルコン装甲の耐熱性を上書きしちまってる。このまま飛べば、俺たちは敵と戦う前にコックピットの中で丸焼きだ」
「ええっ!? そんなの困るわ! 私、まだ今日のランチ食べてないのに!」
キャルルがウサ耳を立てて抗議する。
「お気になさらず! 丸焼きになる前に、わたくしが『吹雪の精霊』をコックピットに召喚して、カチコチに冷凍して差し上げますわ♪」
「死因が焼死から凍死に変わるだけだろうが!!」
俺がルナのポンコツ提案を即座に却下した、その時だった。
「あの! エンジニア様! それなら私の『ポイ活』コレクションが役に立つかもしれませんぅ!」
リーザが、背負っていた年季の入ったリュックサック(スーパーのエコバッグ)をガサゴソと漁り始めた。
「ほら! これですぅ!」
彼女がドヤ顔で取り出したのは、ガラス瓶に詰められた『謎の白い脂』と、ジャラジャラと音を立てる大量の『銀色の玉』だった。
「なんだこれ?」
「ルナミス帝国の八百屋さんとお肉屋さんで『ペットのロックバイソンが乾燥肌なんですぅ』って泣き落としてタダでもらった【魔獣の廃棄脂】と……パチンコ屋さんの床を這いつくばって拾い集めた【ルナミスパーラーの銀玉(特殊景品交換用)】ですぅ!!」
「……はぁ?」
絶対無敵のアイドル(笑)の、あまりにも涙ぐましいサバイバル錬金素材。
だが、俺のARグラス(テイマースキル)が、その二つの素材をスキャンした瞬間——『最適解』のアラートがけたたましく鳴り響いた。
「な、なんだと……!? このパチンコの銀玉、ただの鉄じゃない! 超高耐熱性を持つ『タングステン・ミスリル合金』の削りカスだ! そしてこの廃棄脂は、極めて純度の高いポリマー(結合材)の役割を果たす!!」
佐藤太郎(転生者)がルナミス帝国にパチンコ文化を持ち込んだ際、加工しやすくて重いミスリルの端材を銀玉に流用したのだろう。
「リーザ、お前は天才か(バグか)!? この二つを俺のスキルで融解・結合させれば、最強の【熱光学迷彩サーマルコーティング剤】が精製できるぞ!!」
「えっへん! ゴミ拾いとタダ活なら、誰にも負けませんぅ!」
リーザが鼻高々に胸を張る。
俺は即座に仮想キーボードを展開し、錬成プログラムを実行した。
「出力全開! コーティング・シークエンス起動!」
光の粒子が銀玉と魔獣の脂を包み込み、ガオンの純金の翼へと定着していく。
数秒後。ピカピカと悪趣味に光っていた純金の朱雀ウイングは、鈍い銀色のメタリックな輝きを放つ、最強の耐熱・空戦仕様へとアップデート(最適化)された。
『オォォォ! 素晴らしいぞマスター! これなら我が翼が太陽に焼かれることはない!』
「よし、ハードウェアのパッチ当ては完了だ」
俺は大きく伸びをし、白衣をバサッと翻した。
「あとは……『内部バッテリー(胃袋)』のフルチャージだけだな」
「「「待ってました(ですわ/ですぅ)!!」」」
空を覆う絶望的なワイバーンの大群をガン無視し、俺は村長宅のキッチンに立った。
決戦前の景気づけ(バフ)。戦いの前は、これと決まっている。
「今日のまかないは『ルナキン風・メガ盛りピラダイフライ定食』だ」
大皿に山のように盛られたのは、清流に棲む凶暴な肉食魚『ピラダイ』の極厚フライ。
高温の油でカラリと揚がったキツネ色の衣。サクッ、とナイフを入れると、中からは鯛を凌駕する真っ白でフワフワの白身と、ジュワッと溢れる極上の脂が顔を出す。
その上には、リーザの大好物である茹で卵を細かく刻み、マヨ・ハーブと醤油草をブレンドして作った『特製・悪魔のタルタルソース』がたっぷりと乗せられている。
付け合わせは、ルナが生成したシャキシャキの『レ足す(レタス)』の千切りだ。
「さあ、食え! 腹が減っては空戦はできないからな!」
「〜〜〜〜ッ!! サクサクの衣と、とろける白身の旨味がヤバい!! タルタルソースのコクで、ご飯が無限に吸い込まれていくわ!!」
キャルルがウサ耳をブルブルと震わせながら、どんぶり飯をマッハで掻き込む。
「んん〜♪ レ足すのシャキシャキ感が、揚げ物の重さを完全に中和してくれますわね〜」
ルナも上品に、しかし恐るべき速度でフライを平らげていく。
「あぁぁぁ……! パンの耳じゃないフライ! タルタルソースの茹で卵が愛おしいですぅ!! エンジニア様、最高のライブ前ケータリングですぅぅ!」
リーザは涙とタルタルソースで顔をぐちゃぐちゃにしながら、至福の表情でフライを飲み込んでいた。
「よし、全員の士気は120%だ。エネルギー充填完了」
俺がコーヒー草の食後の一杯を飲み干した、その時。
村の広場の方から、ドォォォォン!! という耳を劈くような爆撃音が響いた。ルナミス帝国のワイバーン騎士団が、ついにポポロ村の防壁への威嚇攻撃を開始したのだ。
「ごちそうさまでした。……さて、行くわよあんたたち」
キャルルが口元を拭い、愛用のダブルトンファーをガシャッと構えた。
その瞳には、村長としての責任感と、極上のランチタイムを邪魔されたことへの静かで暴力的な怒りが満ちていた。
「ガオン、起動しろ。俺たちの大事なファミレスとシェアハウスを脅かす迷惑なアンチ共を、大空から完全にログアウト(排除)してやる」
俺たちは腹ごしらえを終え、銀色に輝く翼を得た鋼鉄の獅子へと乗り込んだ。
特A級の空戦演算が、大空を覆う500騎のワイバーンと巨大要塞をハッキングする準備を整えた。




