EP 7
ファミレスの危機! 雷神の月兎、空を蹴る
『ターゲット、ファミリーレストラン「ルナキン」。……投下ァァッ!!』
浮遊要塞バベルから、邪神の瘴気を孕んだ巨大な魔力爆弾が切り離された。
それは、ポポロ村の広場に建つ、24時間営業の憩いの場——ルナキン目掛けて、真っ直ぐに降下していく。
「あいつ……よくも、よくも……」
ガオガオンの白虎シート。
キャルルの全身から溢れ出る黄金の闘気が、コックピット内の計器を狂わせ、警報を鳴り響かせていた。
彼女のウサ耳は怒りでペタンと後ろに倒れ、瞳の奥には雷神の如き凶暴な光が宿っている。
「私の……苺パフェ(指定席)を……!!」
キャルルの愛用のダブルトンファーが、ミシリと音を立てて軋む。
その殺気は、通信回線を通じて庭にいるガオンのメインコア、そして中央席の俺へとダイレクトに伝わってきた。
「……玲王」
「分かってる、キャルル。あいつは最悪のバグ(禁忌)を踏んだ。……俺たちの『聖域』を狙うなんて、デバッグ(排除)じゃ生温い」
俺は仮想キーボードを高速で叩き、ARグラスの視界を空戦モードから『弾道演算モード』へと切り替えた。
落下する魔力爆弾の質量、速度、空気抵抗、そしてポポロ村の重力場を瞬時に解析。
キャルルの持つ雷神の脚力(闘気)を最大限に活かし、かつガオガオンの機体が自壊しない、唯一無二の跳躍軌道を導き出す。
「キネマティック・モーション・トレース、下半身システムへ完全同期!!」
俺の叫びと共に、ガオガオンのコックピットの床から、キャルルの両脚を固定するロック機構がせり上がった。
「キャルル! お前の『月影流・流星脚』の全パワーを、ガオガオンの下半身(玄武ユニット)に直結させた! 操縦桿は忘れて、お前の『肉体』で空を蹴るイメージを持て!!」
「了解……ッ!!」
キャルルが、白虎シートの上で深く腰を落とし、構えをとった。
彼女の小柄な体から、全高25メートルの巨大ロボットを空へ打ち上げるための、莫大なエネルギーが練り上げられていく。
『マスター! 我の脚部サスペンションが、狂兎の闘気に耐えきれずエラーを吐き始めているぞ! だが構わん、行けェッ!!』
「推力偏向ノズル、全開!! ターゲット:魔力爆弾!! キャルル、跳べェェッ!!」
「——月影流・超・雷光……流星脚ッッ!!! For strawberry parfaitァァァ!!!(苺パフェのために!)」
ズガァァァァァァァァンッッ!!!
空中で、音速を超えるソニックブームが巻き起こった。
銀色の朱雀ウイングから紅蓮の炎を噴き上げ、さらに下半身の玄武ユニットに込められたキャルルの雷光の闘気が爆発的な推進力となり、全高25メートルのガオガオンが、まさに『黄金の流星』と化して垂直に跳躍した。
Gフォースで意識が飛びそうになるのを、俺はAI演算による意識レベル制御で無理やり保つ。
「落下点まで残り300メートル……200メートル……! キャルル、仰角85度! 偏差修正完了! お前の『怒り』をぶち込め!!」
「ドリンクバーの……タダ飯の……恨みィィィッ!!」
ガオガオンが、落下する巨大魔力爆弾の眼前に到達。
キャルルの動きと完全にトレース(同期)し、ガオガオンの巨大な脚が、空中で渾身の『蹴り(キック)』を繰り出した。
メキィィィィィンッ!!!
黄金の闘気を纏ったガオガオンの脚と、魔力爆弾が激突。
一瞬の静寂の後——爆弾に刻まれていた魔力回路が、キャルルの雷光の闘気によって強制的に逆流を起こした。
『な、なんだとォォォッ!? 魔力爆弾が……押し戻されているだとォォォ!?』
要塞バベルの司令室で、商人の素っ頓狂な悲鳴が響く。
キャルルの蹴りは、爆弾を破壊するのではなく、その莫大な質量ごと、投下元の要塞バベルへと『蹴り返した』のだ。
「ターゲット・リターン! 腐敗貴族共、自分たちが落とした爆弾にログアウト(粉砕)されろ!!」
俺はコンソールを叩き、ガオガオンを空中停止から後方回避へと移行させた。
蹴り返された巨大魔力爆弾は、凄まじい速度で上昇。
要塞バベルの底面、まだ投下ハッチが開いたままの、主砲チャージ口へと吸い込まれるように直撃した。
ドォォォォォォォォォォンッッ!!!
上空で、本日二度目の超巨大な爆発が弾けた。
要塞バベルの底面が激しく吹き飛び、破片と瘴気が大空に撒き散らされる。要塞全体が大きく傾き、司令室からは『ひ、ひえぇぇぇ!? 浸水、いえ浸瘴気ですぅぅ!! 船体が保ちませぇぇん!!』という商人の情けない悲鳴が通信回線に割り込んだ。
「……ふん。ドリンクバーを侮った罰よ」
空中停止するガオガオンの中で、キャルルがふぅっと汗を拭い、ウサ耳を元に戻した。
その瞳には、聖域を守り抜いたことへの満足感が灯っている。
地上では、ルナキン目掛けて落ちてきた爆弾が蹴り返され、逆に要塞が大爆発した光景を見て、兵士たちが唖然と空を見上げていた。
だが、邪神の遺物は、まだ完全に沈黙してはいなかった。
『……おのれ……よくも、よくも我が要塞をォォォッ!!』
瘴気の煙の中から、傾きながらも体勢を立て直した要塞バベルが、再び姿を現した。
底面は半壊していたが、その中央——主砲の砲口だけは、健在だった。
いや、むしろ先程の爆発のエネルギーを吸い込んだかのように、主砲の奥が、暗緑色の瘴気を帯びた赤い光を、かつてないほど激しく明滅させ始めている。
ギギギギ……ガガガ……システム、最終安全装置を解除。
要塞バベルから、無機質な機械音声が響く。
『ええい、生意気な! ならば最終兵器だ! 大陸破壊砲「マハ・キャノン」、チャージ開始ィィッ!! この緩衝地帯ごと、跡形もなく消し去ってくれるわァァァッ!!』
「……チィッ。やっぱり、単純な力技じゃ終わらせてくれないか」
俺はARグラスが弾き出した要塞のエネルギー反応を見て、舌打ちをした。
敵の主砲は、今までの魔砲とはレベルが違う。本当に大陆を一つ砕きかねない、莫大な熱量が収束しつつある。
防壁を越えた荒野では、リーザの『ポンポコ節』のデバフで墜落したワイバーンたちが、主砲の瘴気を感じ取って恐怖に怯え、ポンポコと鳴くのをやめてクーンと鳴いていた。
「……ルナ、リーザ」
俺は通信回線を通じて、他の二人へ呼びかけた。
「あいつ、マジでこの村を地図から消すつもりだ。……こうなったら、俺たちのシステム(魂)を、さらに一段上へと進化(同期)させるしかない」
俺のAI的思考は、すでにこの絶対絶命のバグを回避し、完全勝利へと繋げるための、唯一無二の『最終合体コード』を組み上げ始めていた。




