EP 2
傲慢な使者の襲来と、論理的「ざまぁ」
ネタキャベツの暴露から数時間後。
ポポロ村の上空に、バサバサという巨大な羽音が響き渡った。
「来やがったな。予定通りのポップ(出現)だ」
俺はARグラスの望遠機能を展開し、空を見上げた。
降りてきたのは、3騎のワイバーン(飛竜)だった。その背に乗っているのは、豪華な甲冑を着込んだルナミス帝国の騎士と、ギラギラとした装飾品をこれでもかと身につけた、いかにも胡散臭い肥満体の男——ゴルド商会の悪徳商人だろう。
広場に着陸したワイバーンが威圧的に咆哮を上げる。村人たちが怯えて遠巻きに見守る中、キャルルが人参柄のハンカチをポケットにしまい、村長として前に出た。
俺とルナ、リーザ、そしてガオンもその後ろに控える。
「ルナミス帝国の使者殿と、ゴルド商会の方ね。ポポロ村村長、キャルルよ。何の用かしら? 今月の税金なら、Taro-Payでとっくに決済済み(トランスファー)だけど」
キャルルが腕を組み、不機嫌そうにウサ耳を揺らした。
すると、肥満体の商人がワイバーンから降り立ち、ふんぞり返りながら下劣な笑みを浮かべた。
「ヒッヒッヒ。税金の話ではありませんよ、野蛮な獣人村長殿。我々は『正当な保護』のために参ったのです。先日、この村は魔将機の残党に襲われたそうですな? そんな危険な緩衝地帯に、貴重な『世界樹の純金』を置いておくのは帝国としても見過ごせない。治安維持のため、エルフの年金である純金100kgと……そこの『鉄のライオン』を、我が帝国と商会で接収(保護)いたします」
「……は?」
キャルルの声のトーンが、絶対零度まで下がった。
「逆らうなら、我が帝国の『飛竜騎士団』500騎が、空からこの村を火の海にしますぞ? 賢明な判断を——」
商人が最後まで言い終わる前に、キャルルの両手に闘気を纏ったダブルトンファーが握られていた。
マッハ1の踏み込みで、商人のだらしない顎を粉砕しようとした——その瞬間。
「待て、キャルル。物理的なバグ(暴力)は角が立つ。俺に任せろ」
俺はキャルルの肩を掴み、その凶行を寸前で制止した。
「れ、玲王!? なんで止めるのよ! こいつら、ルナちゃんの年金とガオンを奪うって言ってるのよ! 私の『月影流・顎砕き』で消し飛ばしてやるわ!」
「落ち着け。論理的に交渉するんだよ。こういう輩には、暴力より『恐怖』を植え付けるのが一番効く」
俺は前に歩み出た。
商人と帝国騎士は、俺がキャルルを止めたのを見て「ようやく話のわかる人間が出たか」とニヤリと笑った。
「ほう。貴様が噂のエンジニアとかいう……ヒィッ!?」
商人の顔が、一瞬で青ざめた。
俺が背後のガオンにハンドサインを送った瞬間、ガオンの左肩にドッキングした『青龍アーム』の銃口が、商人の下半身——正確には『股間』にピタリと向けられたのだ。
ブゥゥゥン……。
青龍の口から、赤いレーザーポインター(ロックオン・サイト)が照射され、商人のズボンの股間部分にミリ単位で赤い点が固定される。
「ひ、ひぃぃぃ!? な、なんだこれは!!」
「動くなよ。俺のAI演算とガオンのターゲティングシステムは、1ミリの狂いもない。今、この青龍アームの出力を『0.01%』に絞って、お前の急所にロックオンした」
俺は白衣のポケットに手を突っ込み、冷たい声で告げた。
「0.01%とはいえ、ルナの無限魔力を圧縮した純粋な熱線だ。トリガーを引けば、1秒でお前の一番大事なパーツは『消し炭』になる。最新の回復魔法でも、消し飛んだものは元に戻らないぞ?」
「あ、あ、あああ……っ!!」
商人の股間を照らす赤いレーザーポインターが、ジリジリと熱を持ち始める(※俺がルナに頼んで、ほんの少しだけ魔力を漏らさせている)。
恐怖のあまり、商人の膝がガクガクと震え、豪華なズボンにドバァッと温かいシミが広がっていった。完全な失禁である。
「ひ、ひぃぃぃぃ!! お、おのれ! 覚えておれよ野蛮人ども!!」
股間を両手で押さえながら、商人は半狂乱になってワイバーンに這い上がった。
同行していた帝国騎士も、俺の冷徹な眼差しと、背後で「いつでも撃てますわよ♪」と杖を構えるルナ、そして「五円! 御縁!」と謎の歌を歌い始めたリーザの異様なプレッシャーに耐えきれず、逃げるように空へと飛び立っていった。
「……ふん。口ほどにもないバグ野郎だ」
俺はARグラスのロックオン表示を解除し、ため息をついた。
「ぷっ……あはははは! なによあれ! 股間押さえて逃げてったわよ! 玲王、アンタ最高に性格悪いわね!」
キャルルが腹を抱えて大爆笑している。
「あらあら、お漏らしなんてはしたないですわ。ガオンさん、お疲れ様でした♪」
『フン。我が神聖なる青龍の照準を、あんな下品な部位に合わせさせるとは。マスターも悪趣味だな』
ガオンが呆れたように鼻を鳴らす。
「効率的なデバッグ(排除)と言ってくれ。キャルルが顎を砕いてたら、過剰防衛で本格的に戦争の口実を与えてたからな。これなら『ただの脅しにビビって逃げた』だけだ」
だが、俺のAI的思考はすでに次のフェーズを予測していた。
あの商人の逃げ際の顔——あれはただの恐怖だけではない。プライドをズタズタにされたことによる、深い憎悪の顔だった。
「……とはいえ、これで完全に敵のフラグが立ったな」
俺は空中にホログラムウィンドウを展開し、ポポロ村周辺の魔力波長の索敵レーダーを最大出力に切り替えた。
予想通り、数時間後。俺が仕掛けておいた広域通信傍受プログラム(パケットキャプチャ)が、ルナミス帝国軍の暗号通信を拾い上げた。
【通信傍受・デコード完了】
『ポポロ村の接収、平和的交渉(?)決裂』
『飛竜騎士団500騎、出撃準備ヨシ』
『——極秘プランCへ移行。発掘済みノ古代兵器、浮遊要塞「バベル」ヲ投入セヨ。村ゴト跡形モナク消シ去レ』
「……浮遊要塞、だと?」
俺は通信ログを見て、舌打ちをした。
「どうしたの、玲王? パソコンの画面睨んで」
「キャルル、ルナ、リーザ。呑気に笑ってる場合じゃなくなったぞ。クソ貴族ども、顔に泥を塗られた腹いせに、古代の『浮遊要塞』を引っ張り出してきやがった。しかもワイバーン500騎のオマケ付きだ」
「「「えっ!?」」」
3人の声が揃う。
「敵襲は明日の昼だ。今夜は寝られないぞ。ガオンの『朱雀ウイング(空戦モジュール)』のアルゴリズムを、完全に書き換える」
ポポロ村の上空に、かつてない絶望の暗雲が立ち込めようとしていた。
だが、特A級AIエンジニアの心に恐怖はない。あるのは、この理不尽なシステムエラーをどう叩き潰すかという、冷徹なロジックだけだ。
「空の戦いか。……上等だ、完璧に制圧してやる」




