第二章 大空の決戦と、ファミレス防衛戦
平和な朝の「肉椎茸バーガー」と、お喋りキャベツの特ダネ
魔将機100機の大群を、聖獣機神ガオガオンの『ゴッドブレード』で一刀両断にスクラップにしてから数日。
ポポロ村には、再びのどかで騒がしい日常が戻ってきていた。
「よし、パティの焼き加減は完璧だ。メイラード反応がアルゴリズム通りに進行している」
村長宅のキッチンに、暴力的なまでに食欲をそそる香ばしい匂いが充満する。
俺、百夜玲王は、フライパンの上でジュージューと音を立てる分厚いパティに、特製のソースを刷毛で塗り込んでいた。
今日の朝食は『玲王特製・絶品肉椎茸バーガー』だ。
A5ランクの和牛のような食感と旨味を持つ『肉椎茸』を細かく刻み、畑の肉である『ダイズラ豆』のペーストを「つなぎ」にして練り上げた特製パティ。これを高温で表面を一気に焼き上げ、肉汁(キノコ汁)を中に閉じ込める。
味の決め手は、醤油草の搾り汁とハニーかぼちゃの甘みを煮詰めた、特製テリヤキソースだ。
「はわわわ……! エンジニア様、朝からお腹が空きすぎて、幻覚が見えますぅ……! パンの耳じゃない、ふっかふかの丸いパンが見えますぅ……!」
「リーザちゃん、幻覚じゃないわよ! ほら、ヨダレ拭きなさい! あーもう、玲王が来てから毎食が楽しみすぎて、朝の目覚めがマッハ1を超えそう!」
ダイニングテーブルでは、人魚姫のリーザとウサ耳村長のキャルルが、空の皿とフォークを握りしめてバンバンとテーブルを叩いていた。
エルフのルナに至っては、「お野菜もたっぷり挟んでくださいませね♪」と、自らの豊穣魔法で今朝ポンッと生み出した瑞々しい『レ足す(保温効果付きレタス)』をスタンバイしている。
「待たせたな。完成だ」
俺は『米麦草』をオーブンでふっくらと焼き上げた特製バンズに、シャキシャキのレ足ス、極厚の肉椎茸パティを乗せ、最後にマヨ・ハーブのソースをたっぷりとかけてサンドした。
ドンッ、と三人の前に巨大なバーガーが置かれる。
「「「いただきます!!」」」
キャルルが両手でバーガーを掴み、ウサ耳をピーンと立てて大きくかぶりつく。
「~~~~ッ!! んんんんまっ!! 何これ!? 噛んだ瞬間、お肉みたいなキノコの旨味が爆発したわ! それにダイズラ豆のホクホク感がパティに極上の食べ応えを出してる!」
「甘辛いソースと、マヨ・ハーブの酸味が絶妙なバグ……いえ、ハーモニーを奏でておりますわ~♪」
ルナが頬に手を当ててとろけそうな笑顔を浮かべる。
「あぁぁ……パンが、パンの耳じゃなくて、ふかふかですぅ……! エンジニア様、一生ついていきますぅぅ!」
リーザはバーガーを頬張りながら、感動のあまりボロボロと真珠のような涙をこぼしていた。
このバグだらけのヒロインたちだが、胃袋の同期率はすでに100%だ。俺の食事なしでは、もう生きていけない体になっている。
『——マスター。我の分の高純度魔力オイルはまだか。朝から貴様らばかり美味そうな匂いをさせおって』
庭に鎮座するガオン(メカライオン形態)が、窓の外からジト目でこちらを覗き込んでいる。
「分かってるよ。お前の分には、特別に雷竜石の粉末を混ぜておいた」
『フハハハ! 気の利く男よ!』
朝食を終えた俺たちは、腹ごなしも兼ねて、村の裏手にある畑へと向かった。
今日はポポロ村の名産品たちの収穫の手伝いだ。
「そぉれっ! 顎砕き(農作業用・手加減バージョン)!」
ドスッ! とキャルルが『人参マンドラ』の頭にトンファーを軽く叩き込み、気絶したところをスポンッと引き抜く。「ギャー!」という悲鳴を上げさせない、洗練された収穫フォームだ。
「ふふっ、こちらの大根さんも立派ですわね♪」
ルナが優雅に『月見大根』を抜いていく横で、俺は腕組みをしてARグラスに農作物の生育データを入力していた。
「よし、土壌の魔素濃度も安定してる。これなら来月の収穫量も——」
その時だった。
少し離れた畝で、リーザが「わぁ、大きなキャベツですぅ!」と、緑色に輝く葉野菜を引き抜いた。
「待てリーザ! それは普通のキャベツじゃない! 『ネタキャベツ』だ!!」
キャルルが慌てて叫ぶ。
ネタキャベツ。収穫の際、テレパシーや大音声で「極上の噂話」を叫んで命乞いをするという、厄介極まりない魔法植物。以前、キャルルの下着の柄を叫ぼうとしてトンファーでホームランされた前科がある。
今回リーザが引き抜いたネタキャベツは、葉の輝きからして最高レアリティの【Sランク】だった。
『ハッ! 命乞いの特ダネです!! 号外、号外ィィィッ!!』
ネタキャベツが、拡声器を通したような大音量で村中に響き渡る声で叫び出した。
キャルルが慌ててトンファーを構えるが、間に合わない。
『ルナミス帝国の腐敗貴族と、闇商人ゴルド商会の一部が結託! ポポロ村の豊かな農地利権と、先日暴れた【鉄のライオン(ガオン)】を接収するため、なんと空の要塞とワイバーン部隊で攻めてくるぞォォォ!!』
「「「……は?」」」
キャベツの暴露した内容に、俺たちは完全に動きを止めた。
『今日か明日には、使者が空から舞い降りる予定だァァ! だからボクを食べないで——ぐはァッ!!』
ドゴォォォォンッ!!
次の瞬間、キャルルの容赦ない回し蹴り(鐘打ち)が炸裂し、Sランクのネタキャベツはポポロ村の空の彼方へ星となって消えていった。
「……ちょっと、玲王。今の聞いた?」
キャルルがウサ耳をピリピリと逆立てて俺を振り返る。
「ああ。ルナミス帝国のクソ貴族と悪徳商人が、この村の飯のタネとガオンを奪いに来るらしいな。しかも……『空』からだ」
俺は舌打ちをし、視界のARグラスに仮想キーボードを展開した。
前回の魔将機100機は「陸戦」だったから、玄武の重力制御と防御で捌ききれた。だが、空からの飽和攻撃となれば、面による制圧(三次元機動)が必要になる。
「……ガオン。お前の背中についてる『朱雀』のフライトモジュール、まだ本番環境(空戦)での挙動テストが終わってないよな?」
『うむ。陸戦の補助ブーストとしては使ったが、本格的な大空の三次元機動となると、機体の空力演算が追いつくかどうか……』
「やるしかない。俺が今夜中に、お前の空戦用プログラム(フライト・コントロール・システム)をゼロからコーディングし直す」
俺は上空の青空を見上げた。
どうやら、この異世界は特A級AIエンジニアに休日の概念を与えてくれないらしい。
「私たちのルナキンのドリンクバーと、この畑の美味しいご飯を奪おうなんて……絶対に許しませんわ!」
「そうですぅ! スパチャの邪魔をするアンチは、空の彼方へお帰り願いますぅ!」
ルナとリーザも、静かな(しかし物理的破壊力を伴う)怒りを燃やしている。
ポポロ村の絶対的平和を脅かす新たなバグ。
俺たちは次なる防衛戦——大空の決戦に向けて、再びシステムを起動した。




