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姫の花  作者: トムとゼリーwith五目御飯


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第9話 出会い

おせちは走っていた。

灰色のコンクリートに囲まれた要塞のような都会で1人逃げていたのだ。こうなったのは突然の出来事だった。


「国家直属極秘研究機関は、本日をもって研究員を総入れ替えをする。現在まで勤めていた旧研究員の面々は荷物を今日中にまとめて出て行くように、研究データは置いてもらう。」

めちゃくちゃだった。途中の研究は山ほどあり、その上それまで研究をしていた人物以外が手を加えると危険なものや情報も大量にあったのだ。その場にいた誰もが抗議の意を示した。

「お前達は自分らの立場がわかっていないようだ。言う事を聞かないのならばこの場で逮捕とする。」

国家直属の研究員達は皆、表沙汰にはできないような研究を日々しており、万が一の事があったときのために戸籍などの個人情報は全て政府の手により直接守られている。しかしその反面政権者によって扱いも変わってしまうのだ。池上透が大失態を犯したせいで選挙により政権を握る政党すら急に変わってしまったのだ。そのために現在の政権者と研究員では馬が合わない状態となっていた。通常は政党が変わる場合は研究員達と折りを合わせるための手順が踏まれるが急な交代であった事、そして研究員サイドも大きなブラックボックスを抱えていた事も相まってこの約2年もの間トラブルを抱えながら研究機関は運営されていたのだ。しかしついに政府側が現在の研究員達をクビにすることに折り合いをつけてしまい現在に至ってしまった。

「そんなの横暴だ!!」

「めちゃくちゃな事言うな!!」

研究員達も生活や人の安全がかかっていたためいくら脅されても引きにくかった。

「黙れ!」

政府の役人と見られる人物も怯まない。

「恨むんなら我々ではなく、姫の花を作った開発チーム、そしてそいつらを野放しにしていた自分達を恨むんだな!!」

「うっ・・・」

研究員達は一瞬にして静かになった。

開発を担当していたわけでなくとも同じ組織の一員として超能力者を生み出し多くの命を奪った姫の花を引き合いに出されると誰も何も言い返す事が出来なかった。

「そもそもこの研究組織はなんのためのものなのかお前達はわかっているのか?誰かが危険な兵器を作らないように技術を先回りして食い止める。技術の均衡を保ち平和を守るためのものだっただろう。それがどうした!?私利私欲のために柿原豪徹、そしてそれを支援した池上透は血税を使い姫の花の開発を強引に進めた。その結果犯罪欲求を持った心無い人間が超能力という名の凶器を手にし、罪のない命が大勢失われる結果となった!肝心の装置も暴走し止められないとわかると池上と柿原含む開発チームは陽の目を浴びないよう逃走した!さらに装置の詳細は一部にしか知らされてないおかげでお前ら無能の力では装置の場所すらわからず止める事もできないなどと、そんなお前らにここにいる価値があると思うのか!?殺されないだけありがたいと思え!!」

研究員達はみんなうなだれ、大人しく政府の役人がこの研究施設へ連れてきた警察の元へ次々と足を運び手錠をかけられた。

「そうだ、大人しく出ていき秘密を守れば後の人生は補償してやる、研究員証や実験データは全て押収だ。」

「すみません!」

警察官の1人が役人に話しかける。

「どうした。」

「1人だけこの場にいません!」

「なに!?」

「柿原おせちという少女が脱走したと見られます。」

「柿原おせち…あぁ柿原の娘か、忌々しい。奴の娘となると姫の花について何か漏らす可能性がある。総員今すぐ捜索に向かえ!何があっても絶対に逃すな!!」


「はぁ…はぁ…」

おせちは息を切らしていた、目にかかる前髪をかき分け首より前にかかった後ろ髪を揃える。そして四角い縁のメガネをかけ直す。

「そろそろ気付かれる頃かしら。きっと是が非でも私を捕まえようとするだろうし闇雲に逃げていても捕まるのは時間の問題。何かいい方法を考えないと・・・」

すると前から自転車の鈴の音がして前を向くと、お巡りが自転車に乗ってこっちへ来た。

「ひいぃっ!?」

「?」

お巡りは少し不思議そうな顔で通り過ぎていった。おせちが道のど真ん中で膝に手をついており通るのに危険だったから鈴を鳴らしただけだったようだ。

というのも警察は通常の職務を真っ当している者達と人に言えないような仕事で荒稼ぎをしている2種類がおり警察官全てから逃げなければいけないわけではなかった。裏の仕事をする警察官は通常よりも高い収入があるためごく少数だがそちらに流れるものは定期的に現れてしまう。そしておせちの情報はその暗部側の人間しか知り得ず、正当な理由がなく逮捕状も出せないため表沙汰にして追う事は不可能だった。

「携帯もお金も無いし闇雲に走ってたけど、ここはどこ…?」

おせちは青看を確認した。

「葛飾区…、どうりで見覚えのない景色が続くと思った。こっちの方来た事ないもの。」

おせちは心細く歩きはじめた。

「草むらとかでいいからとりあえず一眼につかないところで休まないと、もう13時間は寝てないから睡眠を取らないと何も考えられない…」

おせちは体力に限界を感じよろよろと歩いていうちに、気がつくと警察官に囲まれている事に気づいた。

「え。」

囲んでいた警察官はみな銃口を向けており八方塞がりだった。おせちは両手を挙げた。

「もう逃げられないぞ!両手を頭の後ろに回し膝をつけ!!」

「くっ…!」

おせちは従うしかなかった。すると奥から男が歩いてきた。

「おいあんたら、そんな女の子相手に何してやがる。」

足利だった。

「貴様見たな!お前も両手を…ぼふっ!!」

足利は靴を投げて爪先部分を警官の鼻に直撃させた。その警官は気を失った。

「お前よくも…!」

足利は跳ね返ってきた靴を足でキャッチする。

足利は靴の爪先に鋼鉄を仕込んでおり何かあった時のための武器としているのだ。

「公務執行妨害で逮捕する!!」

「やれるもんならやってみろ!!」

足利は素早い動きで銃弾を避けておせちの元に来て手を取った。

「逃げるぞ!」

「きゃっ…!?」

足利は軽々とおせちの体を持ち上げお姫様抱っこでその場から逃走した。背中に何発か銃弾が命中したが怯む事なく全力で振り切っていった。


「ここなら安全です。」

足利は足利探偵事務所を指差した。

そう、姫花に来る前、足利探偵事務所はかつて足利の出身地である葛飾区にあったのだ。

事務所の中に招かれたおせちはソファに座って足利に渡された毛布にくるまっていた。

「紅茶もコーヒーもジュースもある、何がいいですか?なんならありつけのでよければ今すぐ何か作りますよ。」

「……」

おせちはどうすればいいかわからず黙り込んでいた。

「遠慮しなくていいですから。」

「…コーンスープはありますか。」

「わかった。」

足利はコーンスープを作ってあげた。おせちはスープカップいっぱいのコーンスープを一気に飲むと、そのまま寝てしまった。


「…はっ!!」

おせちが目覚めて時計を見ると昼の12時だった。

足利がすぐ横にいた。

「起きたか。」

「しまった…つい眠ってしまった…」

おせちは思わず胸を抱き抱えた。

「いや…何もしてないから…」

「う…」

おせちは訳もわからず連れてこられた挙句に寝てしまった事に不覚を感じていた。おせちは自分が何もされていない事を確認すると口を開いた。

「あの…」

「?」

「シャ、シャワー貸していただけますか。」

おせちの服は汗だくで着心地が気持ち悪くなっていた。

「…わかった。ただ着替えがありません…」

「あなたのでいいです。」

「そ、そうもいかなくないか。」

「大丈夫です。」

「わかりました、それじゃあ1時間くらい買い出しにでも行ってまいります。何か食べたいものはありますか?」

「…トマトの野菜スープ。」

「わかった。」

「それじゃあ言ってくる、ちょうど1時間くらいで帰りますから。あと洗面所の下の物入れに来客用の使い捨て歯ブラシがあるのでよければ使ってください。」

「あ、ありがとうございます。」

足利は部屋の鍵を閉めて出かけていった。

「手厚いな…」

足利は超能力者や裏組織と戦っているうちにこういうおせちのように追われる身となってる人間をこれまで何度かこうして助けていたため対応に慣れていた。裏ではこうして追われている人間は珍しい存在じゃないため常にその用意をしている。ただ女性者の服を常備するのは流石に気持ち悪すぎるため避けていた。

おせちもワガママすぎるかと思ったが追われている身である事を考えると表向きにでも助けてくれる人がいるならばなりふり構っていられないと思った。


その後、足利の手料理を食べながらおせちは質問した。

「あの、どうして助けてくれたんですか?」

「困ってる人を見過ごせるタチじゃないので。」

「そうじゃなくて、どうして私が追われているってわかったの?私強盗犯かもしれないじゃん。」

「まず正当な公務の執行において未成年相手を囲む形で複数人の警察官が全員銃口を向けて伏せさせるなんて事をした記録が戦後一度もなかったから明らかに変だと思いました。」

「つ、つまり状況が変だった事を察してくれたんですね。」

「はい、それと奴らの拳銃の構え方が明らかに人を撃ち慣れてる形だったのも助ける事に踏み切れた理由です。警官は銃の訓練をみんなしてますからぱっと見じゃ分かりづらいんですけど見慣れると普通の警察官と人を撃ち慣れてる汚職警官じゃ明らかに構え方が違う事がわかるようになります。」

「な、慣れてるんですね。」

するとおせちは急に足利に顔を近づけた。

「?」

「あれ、あなた、お名前は確か足利流星って言ってましたよね?」

「はい。」

「きゃーーー!!!」

「!?」

「あ、ごめんなさい。」

「おぉ。」

足利が超能力者であり法整備が整ってないために逮捕されなかった池上茂夫を逮捕に導いた事実は、彼のプライバシーを守るため公にはされていない事実だが国家直属研究員達には知らされていた。姫の花が生み出した悪魔に一矢報いた存在としてちょっとだけ英雄視するものもいたとか。

「…あの。」

おせちはスプーンをいじりながら少し照れていた。

「昨日はどうしてその、お姫様抱っこを?」

「ん?あぁ逃げてる時のか。手を繋いでリードしたら君が後ろになってしまいますよね。そしたら後ろから撃たれて終わりだ。だから俺が盾になるようにああやるのが合理的だったんです。」

「そう…」

おせちはなぜか少し悔しげな顔で足利を見つめていた。

「あの…私…!!」

「足利流星!柿原おせち!こちら政府だ。事務所を包囲した!!大人しく投降しろ、さもなくばどうなるかわかってるよな!?」

「柿原おせちって…」

「はい、私の名前です。」

「漢字どう書くんですか?」

「柿原はそのまま柿に原っぱ、おせちは平仮名です。」

「なるほど…」

「あ、あの…」

「大丈夫、俺があいつらに突っ込む。奴らが俺に手を焼いてる間に君は4階の北側の窓から逃げてください。そしたら隣のアパートの屋上に出るのでそこから逃げられるはずです。」

「突っ込むって、死んじゃいますよ!?」

「死なないから大丈夫。それとこれを。」

足利はおせちの手に巾着袋を載せた。

「弁当とお金が入ってる。」

「え、こんな大金…!!」

「それだけあれば関東から逃げられるはずだ。」

「う、うわ…わかりました…!色々ありがとう!!そして巻き込んでごめんなさい。」

「気にしないでいい。」

足利は玄関の方、おせちは4階の方へと別々に駆け出した。

「図々しいかもしれないけど貰えるなら貰っとくに越した事ないもんね。」


それから数日が経った。

おせちは静岡県の伊豆高原のいがいが根にいた。

岩盤に座り込み海を眺めていた。

足利から受け取った資金を使えば東北や九州などに逃げる事も可能だったが、山梨県にある姫の花をほっといて遠方へ逃れる事を躊躇していたのだ。

「みんなが捕まっちゃった今、私がこのまま逃げたら誰も姫の花を止められなくなる。私ならもしかしたら止められるかもしれない。どんな装置なのかわからないけど、だからと言ってこのまま逃げて色んな人達が悲しみ続けるのを、それとお父さんの罪が増えていくのも見たくない。」

おせちはラジオを付けた。

その辺のゴミ捨て場で拾ったものを自力で直したのだ。

「続いて次のニュースです。本日未明両親殺害の疑いで16歳の少年が逮捕されました。この逮捕は超能力方に基づいたものであり、検察は状況証拠からして超能力による殺害と見ている模様です。なおこの少年の能力は…」

「………でも私に何ができるんだろう。お父さん達ですら装置の暴走を止められなかったのに私に止める事なんてできるのかな…。私に装置を止められる能力があればなんだってするのに。」

おせちはラジオの裏面に自ら取り付けたモニターを見る。

「うっ、もうここにいられるのも長くないか…」

おせちは警察無線の周波数を拾う事で周囲の警察の位置を察知できるレーダーを作っていた。暗部の警察は特殊なチャンネルを使っているため普通の警察の電波を間違えて拾わないように調整されており、おせちを追いかけている者だけを正確に浮き彫りにする事ができるのだ。


「ありがとう流星くん、君のおかげで悪い奴らが炙り出せた、流石だよ。」

足利と長島は通話していた、足利がおせちを逃すために警察の集団に突っ込んだ際にその場にいた人物の名前を覚えて顔をカメラ付きボールペンでひっそりと撮影しそれを長島に伝えたのだ。足利は池上茂夫逮捕の功績者として特別に裏社会や超能力事件を追いかける事を、もし足利が重犯罪を犯した際に弁護士を付けないという条件で特別に承諾されている。

「それにしても妙でした、今まで匿った人たちは大体中年くらいだったのにその子は高校生くらいに見えました。それに反社から逃げてる人は何人か助けたけど警察から追われてる人なんて初めてです。」

「その子が心配だね…一応僕の方でも調べてはいるんだけど、なにせ政府絡みとなると厄介でさ…」

「…あ、そいえば!もしかしたら国家直属研究機関と何か関連性があるのでは?」

「それ都市伝説だよね。」

「ですがこないだ長島さん言ってたじゃないですか、全国の科学者や大学教授がここ2年で少しずつ行方不明になっていた事件。その人達のデータが先日一斉に削除されていたって話。ここ最近の事件と結びつけるならそこが1番怪しいかと思って。」

「その事件とその女の子はなんだか僕も関係ありそうな気もするけど、国家直属研究組織なんてあるのかな。僕もこの道ずっとやってるけどほとんど聞かないよ。」

「それが気になって調べてみたんですけど、この都市伝説に関する証言で1番古い記録は2009年の矢口(矢口)元首相辞任直後の発言なんですよ。」

矢口とは池上透の一代前の首相である。

「え、それ本当なの?」

「はい。ちょうど池上が就任した時期ですね。」

「えー…」

先程まで否定に入っていた長島も少しだけ疑念を持った。


「ん!?なんだこれ!?」

「どうかしたんですか!?」

「僕ね、今国家直属研究機関を政府のサーバーにアクセスして検索をかけてみたら、姫の花って書かれたファイルが見つかったんだ。」

「姫の花…??」

「ちょっと開いてみるね…わっ!!」

「長島さん!?」

ファイルを開くとメッセージが出てきた。

「読み上げるよ、

この ふぁいる は ひらいて は ならない のだ

これ いじょう ふみこむ の ならば ぎせい が ともなう 。」

長島は息を呑んだ。

「ひめのはな には なんびと も ちかづいて は ならない 。

だって、これ以上は何も書かれてない。」

「姫の花ってなんだ…?」

「わわわ!!パソコンがクラッシュしちゃってる!!」


おせちは県を超えて神奈川県の浦賀をうろうろしていた。

「よし決めた、足利さんに頼ってみよう。まさかあの事件で生活に困らないくらい多額の懸賞金をもらっているみたいなのに未だに超能力事件を追ってるとは思わなかったけど、あの人なら頼れるかもしれない。」

おせちはゴミ捨て場のビデオカメラを拾った。

「これならまだ直せるかな…ん?全く壊れてないじゃない!!勿体な!!」


おせちはしばらくほっとかれてるであろう乱雑なガラクタ置き場と化してる倉庫で撮影のセッティングした。

ビデオカメラの真横にレーダーを置いている。

「あら…原稿書いてたら奴らもうこんなに迫って来てる…」

おせちは四角いふちのメガネを指で整えた。

「すぅー…はぁ〜…。」

おせちは録画を始めた。


「もし少しでも超能力者達による事件を完全な解決に導きたくて方法が分からずに行き詰まっているのなら、山梨県にある姫花という街をあなたに調査してほしい。姫の花はその街にある。私もこれから向かうところです。ただもしも私の身に何かがあった時は私の代わりによろしくお願いします、足利流星さん。あなたの正体は知っています、だからこそこれをあなたに……」

おせちはカメラ横のレーダーを見る。

「ごめんなさい。もう時間が来たみたい。突然こんなビデオを送って申し訳ないけど、あなたを信じています。それでは………」

おせちは急いで荷物をまとめて逃げた。


その後おせちは郵便局でビデオデータの発送を済ませると姫花に向かって走っていた。

「姫の花の場所は見当はついてる。絶対とは言い切れないけど、きっとあの場所にあるはず…。明確な場所は言えなかったけど、姫花で再開できれば伝えられるしきっとなんとかなる。ただ、あの場所は確か今は…。」

すると目の前に誰かが立ち塞がった。

「あ、あなたは…!!」


「倒れてた女の子を保護した!?それは本当か!?」

「はい、もしかしたら長島さんが言ってた人なんじゃないかって。」

それは偶然姫花に勤務していた長島の元部下、草木からの連絡だった。長島は急いで足利に連絡し姫花警察署へ向かった。


「いやー大変でしたよ、暗部の奴らがこの子をよこせってうるさくて。富士宮あたりで倒れていたんですけど、もしかしたら長島さんが言ってた子なんじゃないかと思ってなんとか強引にここで保護したんです。」

おせちは簡易的なベッドの上で寝かされていた。

「草木、よくやってくれた!!」

「本当にこの子なんですか?」

「僕が見たわけじゃないから…でも特徴がほとんど一致してるし奴らに狙われてたなら間違いないと思うんだけど…」

「見たわけじゃないって?」

すると勢いよくドアを叩き開けて入ってきた者がいた。

「長島さん!!!」

「おぉ、来たか。」

草木は驚いた様子を見せた。

「この子だよね…?」

足利は寝ているおせちをまじまじと見た。

「…柿原おせちで間違い無いです。」

「知り合い…ですか?」

「草木、紹介するよ。彼は足利流星くんと言って超能力事件を中心に追っている探偵だ。」

「見習いとかではなく?随分と若いですね。」

「だけど彼は超能力事件に何度も貢献してくれた、あの池上事件を集結させたのも彼と彼の父の助けがあったからだよ。」

「…まさかとは思いますけど、多額の懸賞金を貰ったっていう…」

「彼だ。」

「ええ!?」

前述の通り足利が解決に導いたという事は公に公表はされなかったものの、政府の間で多額の金が動いたとなるとそういった人物がいたのではないかという噂は立っていたのだ。

「意識が!!」

足利の一声に長島と草木は身構えた。

「う…うう……」

「柿原さん!!」

おせちは重たく上半身を起こし、周りを見渡し、しばらくすると意識がはっきりと戻った。

「ここはどこ?」

「大丈夫、ここは姫花警察署。ここには君の味方しかいないから安心して。」

「あなたは…?」

「俺は足利流星です。以前あなたをかくまった…」

「うーん?」

「…!?」

足利は何かを察した。

「………」

「流星くん?」

「足利さん?」

足利は右手を上げて2人に一旦静かにとジェスチャーした。

「一度、深呼吸をしましょう。」

おせちは深呼吸をした。

「言葉は通じる…。」

次に足利は気持ちが落ち着いているのかを尋ねると、おせちは頷いた。

「では、自分の名前を思い出せますか?」

「うーん、えっとー…?」

おせちは首を傾げた。

長島と草木も状況を察した。

「嘘だろ…。」

長島もおせちに話しかける。

「き、君の名前は柿原おせちちゃんだよ。」

「…?」

「流星くん、本当に名前合ってるの?」

「汚職警官たちがそう呼んでいたので間違いないかと。仮に偽名だったとしてもそれだけ常用していたのだろうからどっちみち深刻だと思います。」

「うーーーむ、おせちちゃん、本当にわからない?」

「思い出せないです。」

草木もたまらずおせちに駆け寄った。

「どこに住んでいたかとかもわからないですか?」

「えー?どこだったかなぁ…」

「あまり質問攻めにしないでください、かえって混乱させてしまう。」

「す、すまなかった。」

「すみません…」

1〜2分おせちを休憩させ、足利は質問を再開した。

「どんなに小さなことでも構わないので、なんでもいいので以前の事で何か思い出せる事はありますか?」

「んー、漠然と今まで生活をしてた事はわかるんですけど、細かい事まではわからないです。学校にも通ってました。ただ通ってたということがわかるだけで明確な場所や時間はなんとも…。大事な部分はパッと抜き取られたような感じが…。」

「じゃあ次の質問に移ります、これで一旦最後です。あなたは先程まで倒れてましたが、何があったか思い出せますか?漠然とした話で大丈夫です。」

「んー、ごめんなさい。何もわからないです…。」

おせちは肩を落とした。

「草木さん。」

「あ、はい。第一発見者によると誰もいない山道で倒れていたそうです。それらしい容疑者なんかも周辺にはいなかったようで。引き取った警察署に別部署の警官たちが押しかけてきてゴタゴタしているという連絡があったので、もしやと思いこちらで引き取った感じです。特に乱暴をされたような形跡はなかったみたいです。」

「となるとこれは…」

長島は足利に目を合わせる。

「はい、超能力事件という方向を視野に入れてみていいかもしれないです。」

「まさかそんな!!」

草木も何度か超能力事件に遭遇したがあまり慣れていなかった。

「こういう事故は超能力が絡まなくてもよくあるんじゃないですか?」

「裏社会の権力者は超能力者を刺客として雇う事が多い、それに彼女は国家直属研究組織のメンバーらしいんだ。」

足利はおせちが持っていたラジオを見せ、裏返してレーダーを見せる。

「これは、レーダーですか?何かがこっちに…」

「草木さん!!」

女性が部屋に入ってきた。

「えわっ!!」

「さっきの汚職警官たちが草木さんに会わせろって!!」

「ええ!?じゃあこのレーダーって…」

「おそらくは警察無線の発信地を感知するレーダーでしょう、ラジオ本体と液晶の汚れ具合が違っているのを見る限りありつけの材料で自作したものと思われます。汚職警官達は我々より正確な情報を握って追ってきているはずですし、こんな事ができるのなら国家直属の研究員だとしてもおかしくはないはずです。」

「うわぁ、なんか物凄いことに巻き込まれちゃったな……。」

「草木くん、元上司としてここは僕に任せてくれないかな。」

「長島さん!?いくらあなたでも…」

足利は草木の肩を掴んだ。

「いざとなれば俺も戦えます、一旦信じてみましょう。」

草木は息を呑んだ。


長島は受付で屯する汚職警官達の前に立ちはだかる。

「君達、もう帰ってくれないか。」

「あんたは確か、警視庁所属の長島だな?」

汚職警官のリーダーと思わしき男が言い返す。

「知ってくれてるなら話は早い、あの子はこの私が預かる。だから絶対に手を出すな。」

「そう言われても上からの命令なんでね。あんたも上に逆らうようなことを続けると、次はあんたの番になるぞ。」

「なんのことだ?」

「あんたの妻子は…どうなったんだっけ?言っておくが後ろ盾のないあんたと違って俺たちは上に守られてるんだよ。俺たちの仲間を数人捕まえて図に乗ってるようだがあいつらは下っ端に過ぎないのさ。わかったら大人しく…」

「お前らはそれでも警察か!!!」

「は?」

「国民の平和と安全を守り、悪を正すのが我々警察の使命だろ!!わざわざ苦労して警察官になってまでやってる事がこれか!?まだ成人にも満たない女の子を野郎どもが揃いも揃ってむさ苦しく追いかけ回して、人間の恥が!!」

「あんたはどうやらどちらが正義か勘違いしてるみたいだ、あの少女は大罪を犯した、罪を犯せばその報いを受けさせるのが我々じゃないのか?」

「貴様こそ罪を重ねた結果で今の地位にいるんだろ?」

「しかし正義はこちらにある。」

「なら僕は僕の正義を信じるだけだ、ここは通さない。」

「なら力づくでどいてもらおう。」

長島は受付の女性警官を見る。

女性警官は頷くとカウンターの下へ潜った。

幸い今は深夜で一般人は署内にいなかった。

「いいだろう、かかってこい!!」


長島は負傷を負いながらも全員返り討ちにし署の外へ追い出した。

そしてリーダー格の男に告げた。

「言っておくが勢力の割合としては我々側の方が多いんだ、貴様らのやってる事はそれだけ小さいんだよ。今後もあの子を狙うようなら地獄を見せてやる。わかったら大人しく帰るんだ!!!」

「チッ……クソ!!」

汚職警官達は逃げていった。


長島が部屋に戻ると、ボロボロの長島を見た足利と草木が駆け寄ってきた。

「長島さん!?戦うつもりなら俺に言ってくれればよかったのに!!」

「いいや…奴らには僕が警察としてケジメをつけておく必要があったから…保護者である僕が舐められたままじゃまたいつおせちちゃんを狙いに来るかわからないからね……。」

「長島さん……」

「それより…おせちちゃんはどう…?」

草木が答える。

「それがですね、柿原さんの所有物としてこの何かのIDカードのようなものがありまして、これを元にデータ照合をしてみたんですけど戸籍登録はされてないみたいだし何もヒットしないんです。顔も名前もわかっているのに身元が全くの不明なんて…。」

「やっぱ裏が関係してるだけあって、簡単には行かせてくれないようだね…。」

「その上、本人が記憶すら失くしてしまうなんて。しかも俺は記憶を失う前に彼女と会っていたのに…無理にでも一緒に行動するべきだった…。」

「過去を悔やんでもしょうがないよ。それにこの子は生きているんだ、生きていればきっと記憶を取り戻すチャンスは来る。まだ…失われてないんだ。」

「…そうですね。」

足利は拳を強く握りしめた。

その後の話し合いの結果、草木のいる姫花警察署を後にし足利と長島でおせちを探偵事務所へ一旦連れて行く事にした。


「り、流星くん…これは…。」

足利と長島は事務所のポストに投函されていたビデオを観た。

「はい、これまでの出来事と照らし合わせても完全に辻褄が合いますね。」

「姫花というと東京の次に超能力者発生率が高くて僕達が目を付けていた地域だよね?そこに姫の花という機械があってそれが超能力者を生み出してるなんて……信憑性があるような、突拍子もないような………。」

「俺は信じます。」

「…聞こうか。」

「まず池上茂夫の行いを皮切りに超能力者が次々と現れ始めた事は事実です。俺はずっと超能力者が生まれた事に明確な原因があると思って捜査を続けてきました。もし嘘でしたら可能性の選択肢から外れて、本当でしたら事件の解決ができるかもしれない。どっちみちこの言葉を信じてプラスになることは間違いないと思います。」

「確かにずっとここで地団駄を踏んでいても事態が好転するとは思えない、わかった。それじゃあしばらくの間、姫花にターゲットを絞ってみようか。」

それから足利と長島は色々と話し合いをし、足利が姫花に事務所を構える準備も進めた。そこからご存知の通りおせちに新たなコミュニティを築かせてあげるべきという長島の提案で姫花高校に編入という形で入る手続きも進めた。この数週間、足利と長島とおせちは3人で過ごすことが多くおせちは打ち解けていった。ちなみにおせちは足利の存在も全く覚えてなかったという。この間に足利とおせちの2人で夕飯の買い物に行ってる際にちょっとした不意におせちにバリアの能力が宿っていた事が判明した。おせちのバリアはレンガの塀を破壊した。

「すごい破壊力だ…どうやったんだ?」

「えっと、なんかこうバッ!って頭の中で思ったらできた。」

「発動した時に体に異変は起きなかったか?呼吸ができないとか視覚がなくなったとか。」

「特に何も?」

「まさか…この強力な能力を発動しても体に負担がかからないというなら、お前の記憶喪失は事故によるショックではなく能力所持のデメリット…?」

「どういう事?」

「前にも話したけど、超能力者ってのは能力を使う時に何かしらデメリットが発生するんだ。例えば時間を止める事ができるけどその間は息ができないとか、もしかしたらお前の記憶が失くなったのはその強力なバリア能力を持っている代償なのかもしれない。」

「じゃあ私は超能力者に襲われて記憶がなくなったんじゃなくて超能力を手に入れたからって事?」

「確かに結果を見ればそうなるんだが、だが人気のない山道で倒れていた…逃げていたわけだから人気のない山道にいた事自体はおかしくない。倒れていたのは急激に能力を得て記憶を失ったショック…誰かに何かをされたわけではない…のか…?」

「ねえその、聞きたいんだけど、超能力ってどうやって手に入るの?」

「実を言うとそこに関してはまだはっきりした事はわかってないんだ、俺も長島さんも超能力を持ってないし今知り合いに能力を持っている人もいないから話も聞けない。捕まえた超能力犯罪者から聴いた話によれば寝て起きたら発現していたとか起きてる間にいつの間にか使えるようになってたとか証言がバラバラかつ不確定なものしかない。能力を得た際に気絶したなんて話は聞いた事がない。ただ一つ傾向として考えられているのは犯罪に走るような精神が不安定な人間が能力を宿すケースが多いと言う事。」

「じゃあ私も精神が不安定なの?」

「…なんとも言えないな、俺がお前に以前会ったときはそういう人間には全く見えなかったけどそれは主観でしかない。結局超能力が発現するのは自然発生なのか何かしらの意志が介入してるのか謎だらけなんだ。」

「そうなんだ。」

「ただ…お前が記憶を失ったタイミングは明らかに仕組まれてるように感じるんだ。ちょうど超能力の原因と思われるものがある場所に向かってる途中でばったり事故にあって記憶が失くなったなんて都合が良すぎる。お前の件に関しては犯人がいる可能性の方が高いと思う。」

「怖っ!」

「大丈夫、絶対に俺が全ての謎を解く。そのために俺はずっと戦っているんだ。俺を信じて欲しい。」

「うん!足利さんはいい人だから信じる!」

「あはは、俺はそんなんじゃないよ。」


それからおせちの編入試験の結果の連絡が来て、直接姫花高校へ訪れていた。

「柿原おせちさん、あなたはすごい!!編入試験で満点を取るなんて!!詳しい身元は問いません、ぜひうちの高校へ!!」

おせちと同席していた長島と足利も一安心する。

「流石はおせちちゃんだ。」

「やったなおせち。」

「じゃあ入学の手続きは僕がこれから進めておくから、流星くんとおせちちゃんは街を回ってきたらどう?片田舎だけど若者の街なんて呼ばれてるくらいだしきっと楽しめるんじゃないかな。」

おせちは目を丸くした。

「えっ、足利さんと2人で?2人きり?」

「そいえばここ数週間は僕と流星くんと3人でいることが多かったっけ、でも君を1人にすると何があるか…」

「いや、あの、私は全然いいんだけど、足利さんが嫌じゃないのかなって。」

「別に。」

「お仕事とか大丈夫なの?」

「うん。」

「結構時間かかるしずっとここにいても退屈じゃないかな。」

「い、行きます…!」


2人は姫花でも有名な繁華街へ来た。

「ね、ねえ足利さん!!ここのカフェおしゃれじゃない!?」

「確かに、昼はここにするか。」

「うんっ。」

おせちはるんるんとカフェへ入っていった。

足利は自動ドアの横に貼り付けられていたポスターに目をやっていた。

「お、バイト募集中か…なるほど…」

「早く早く!!」

「ご、ごめん、今行くよ。」

それから建設完了間近の新生足利探偵事務所の横を通り、都心部のショッピングモールへ足を運んだ。

店から店へと何気なしに回っていると、いつの間にかおせちは立ち止まっていた。

「どうした?」

「…あ、いや別に。」

足利はおせちの視線の先を見る。

「そうか、美容院に行きたいのか。」

「え?いや別にそんな…」

「え、行きたいんだよね?そいえば最近前髪邪魔そうにしてたよな。」

「うっ。」

「せっかく来たんだから入りたいなら入りなよ。」

「は、恥ずかしい。」

「え?」

「変に思われるかもだけど、なんとなく私って記憶を失う前も美容院に行った事がなかったような気がして。」

「俺も行ったことないから大丈夫。」

「足利さんは男だから参考にならない!!」

「とりあえずお前の気持ちはわかった、入るか。」

「う、うん。」

散髪中の間、足利は株の変動を確認して待っているとおせちが出てきた。

前髪は切り揃え後ろ髪を短くし、こめかみは後ろ髪より長くされていて綺麗に整っていた。後ろ髪はふわふわにセットされていた。

「ど、どう?」

おせちは照れていた。

「すごく似合ってるぜ、超かわいい。」

足利はただ純粋に思った事を言った、足利はほとんど異性を意識しないので彼の目は相変わらず死んだままだった。

「…っ。」

おせちは顔を下に向けていた。


それから眼鏡屋の横を通りかかった。

「なあおせち、そういえばお前以前はメガネしてたよな?事故の時に失くしたならここで新しいの買おうぜ。」

「大丈夫だよ、別にこれでも見えてるっちゃ見えてるし。」

「そうか、この辺のとかお前に似合いそうだけど。」

足利がショーケースを指差しで囲んだ。

おせちは屈んでケースの中を眺めた。

「…これかわいい。」

おせちは銀縁で大きめの丸眼鏡を指した。

「それにするか。」

購入した後、おせちは下を向きながらメガネをかけ、顔を上げてみせた。

「ど、どう…?似合ってる…?」

「最高に似合ってる。」

足利はサムズアップをした。

「えへへ…、あっ、メガネ代必ず返すから待ってて!!」

「いいよ、俺からのプレゼントって事で。」

「そういうわけにも…」

「大丈夫。」

「…ありがとう!えへ。」

足利もつられて笑っていた。

「ねえ、もっと遊ぼう!!」

おせちは足利のコートの袖をつまんで引っ張るように駆け出した。流石の足利も少し戸惑った。

「以外と足速いな…」


その後、高校入学の手続きを終えた長島から連絡が入り合流した。長島の運転する車で一旦東京に向かっているところだった。

「おせちちゃん!?」

随分と雰囲気が変わったおせちを見て長島は驚いた。

「すごくいい感じになったね!僕も髪切ろうかな。」

「手続きは大丈夫でした?」

「あぁ、来週の水曜日に制服の寸法合わせをしてくれるって。あと保護者は事前の計画通り流星くんという事になってるから。まだ目立った行動はしてないから池上にここがバレてないと思うけどしばらくは僕も身を潜めないとね。引越しが終わったらしばらくは2人になるけど頑張ってね。」

「はい、ただおせちが心配です。」

「私にはバリアの能力があるから大丈夫!」

「どこかに引きこもらせていても場所がバレたら終わりだし今はこれが最善策だよ。」

「わかりました。」

それから足利探偵事務所は完成し足利とおせちは姫花に引っ越してきたのである。これが足利とおせちが出会い、足利が姫花へ訪れるまでの一部始終である。足利は事件の真実に到達し、おせちの記憶を取り戻す事ができるのか。おせちが記憶を失った真相とは。足利の戦いはこれからもしばらく続くのだった。

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