第8話 内通者
「ねぇ、池上様ぁ?」
「どうしたんだね。」
「次の刺客なんですけど、足利と柿原おせちが一緒にいるところを狙いましょうよ。」
「それは前も話しただろう、柿原の娘のバリアの能力はコンクリートさえ破壊するんだ。あの娘が足利も守りながら戦えば足利の方が有利になってしまう。」
「でもぉ、バリアに破壊される可能性があるのは足利も同じじゃないですか?いくら回復するといっても柿原おせちは自分の好きな足利を傷つけるような事はしたがらないと思うのです。」
「なるほど、それは確かに、互いに互いを守る事に必死になり戦いにくくなるというわけか。」
「そういう事。」
「その案で行くとしようか。早速、この事を彼に連絡をしてくれ。」
「りょーかぁい。」
「ん?次の作戦の連絡か。」
男は特殊なプロテクトのかかったファイルを開く。
メールの中身は暗号となっていた。
「次は死に目とマルメガネが一緒にいるところを狙う、そのタイミングを見極めておいてくれ。詳細は後日…か、なるほど。」
「あの、風音先生?」
「はい。」
「よかったら紅茶淹れたので…」
「あぁ、ありがとうございます高野先生。」
風音は再び冷たい目に戻った。
「風音せんせー!!授業の事で質問がありまーす!!」
「はーい、今行くよー。」
足利は事務所で大久保英年について調べたらデータをまとめていた。
「成績はどっちかといえば優秀、運動は中の上、人当たりもよく同級生からの評判は割といい、ポイ捨てされたゴミは見かけ次第家に持って帰るし、先日は迷子の子供を助けてたし単純に親切、俺が一度倒れた時も仇を取ろうと立ち向かおうとしたくらいだし情にも熱い面があると見る、家庭環境も悪くないようだしどこも怪しくない!調べれば調べるほど怪しくない!!!強いて言うなら彼の超能力がどういったものなのかが気になるが超能力はプライバシーだから隠す事はごく自然。やはり、スパイはおせちの担任の方か……」
足利は風音の行動を振り返る事にした。
まずは3月、身元不明のおせちを県立姫花高校に入学を申請した時が風音との最初の出会いだった。おせちは入学試験を全教科満点で突破したはいいものの誰を担任にするかで教員達は揉めていた。そんな中で自分が引き受けると快く受け入れてくれたのが風音だった。風音は1年前からこの高校の教員を務めていて、県立なので教師の学校の移動も自由にできるものではなく経歴に怪しい部分が見当たらなかった。おせちを高校に入学させるというのも多くの人と関わりを持つ事で新たなアリバイを作る目的もあり、いざとなればバリアの能力があるので仮に風音が敵でも早々に手出しはできないだろうと足利は考えたのだ。
問題は2年次が始まり数日経った頃、おせちは下校中に横断歩道でトラックで轢かれそうになった。トラックの運転手は何故おせちが歩道を渡るタイミングを狙う事ができたのか。誰かが監視していて指示を出していたのではないかと足利は考えた。それが風音か大久保を含むクラスメイトの誰かがスパイの可能性を疑っていたのだ。足利に襲い掛かった能力者達が足利の戦いを情報共有していたのも近くの誰かがそれを直接監視していたから、それをしていたのがおせちの担任である風音という事である。
脱獄犯板下の時は警告が出ていて教師も生徒も校舎から出ないようにしていた、その時は一足先に学校を出ていた大久保を探しに行くという建前で風音は出て行ったという。
「他の子達にも特に怪しい行動をしていた人物はいない、おそらく風音がスパイだ。しかし襲い掛かってきた刺客達はどうにか逮捕にこぎつけられるがただスパイをしているだけの人間、それもまだ完全に証拠を掴めていない奴をどうにかする事は流石にできない。さて、どうしようか…」
「大久保くんすごいね、小テスト96点じゃん。」
「柿原こそ満点じゃないか、満点には構わないよ。」
「それでもすごい事には変わりないよ。」
すると品野がその場に寄ってきた。
「こいつ1年の前期は成績めちゃくちゃ悪かったんだぜ、そこで担任の風音に激励されてまあまあよくなったんだよ。今はだいぶマシだけど当時はほんっと見てらんなかったなー。」
「激励なんて大袈裟なものじゃ…」
そこへお調子者の富良野が水を刺しに来た。
「ちなみに僕も100点です。どうです?柿原ちゃん?」
「ふ、富良野くんもすごいね!!」
クラス内の他の男子達はその様子を見ていた。
「あいつああやって女子に媚び売るの本当キモいな。」
「学力の前にモラル身につけろ。」
「柿原さん優しスギィ〜!!」
「お前らうるさい!!授業中だ!!!」
「風音先生、風音先生。来客者が来ております。」
昼休みに校内に放送が流れる。
風音は教員室へ向かった。
「私に来客者ですか?」
「はい、足利流星と名乗る人が・・・」
「足利……あー、こないだ編入してきた柿原の保護者ですよ。客室へご案内してください。」
風音が客室の戸を開けると、そこには足利がスマホをいじるわけでもなくただ真っ直ぐを向いて姿勢良く座っていた。
「あ、足利さん、ご無沙汰してます。」
「こちらこそ、おせちがお世話になっております。」
「・・・・・・」
「・・」
こいつ気づいたのか?と風音は思った。
「あの、本日はどんな御用で…?」
「いえ、大した用はないんです。」
じゃあ来るなよ。と風音は思った。
「ただ、おせち…あの子はちょっと事情が特殊だから学校生活を上手くやれてるのが心配で、それをお聞きしたくて。」
「あ、あぁ、なるほど。すごいですよあの子は、半端な時期に編入してきたというのにクラスに馴染んでます。彼女ならなんの心配もいりませんよ。」
そして風音は頭の中で思った。
「事情が特殊とかボカした言い方で俺にカマかけたつもりか?コイツ。クソ、マジで何しに来たんだ。」
足利は目以外は笑った表情で返答する。
「それならよかった、やっぱり風音先生が担任を引き受けるとおっしゃっていただいた時にその言葉を信じてよかった。」
「いえいえそんな、教師として当たり前の事ですよ。
風音はまた考える。
「やっぱ明らかに疑ってるよなこれ。柿原の素性を知っているスパイであるか、ただ何も知らない善良な教師かで受け取り方が変わる発言を投げかける事でこいつは俺の失言と表情を窺ってやがる。」
「大久保くん。」
親友の伊豆と机を繋げてスマホをいじっていた大久保におせちが話しかける。
「ん?」
「大久保くんと風音先生の話がもっと聞きたいなと思って。」
「え?いや本当に大した話じゃないって。」
「話したくないならいいんだけど、大久保くんが一年生の時の話が気になっちゃって。ほら私去年いなかったし。」
「…そうか、じゃあちょっと自分語りになっちゃうけどいい?」
「うんっ。」
おせちがこの話を聞こうと思ったのは純粋な興味もあったが、足利の話が少し引っかかっていたせいもあったのだ。
風音と大久保を疑っている事を足利は以前伝えていたからだ。
「それじゃあ風音先生か大久保くんが私を殺そうとしたって疑ってるって事!?」
「大久保については限りなく可能性が低いとは思う、俺としては風音の方が怪しいと思っているが大久保が潔白である事も風音が黒である事も完璧に確信できる材料がまだ揃ってない。トラックの件からして学校関係者が怪しいと仮定すれば、お前の担任を自ら志願した風音、お前と同じクラスで俺の戦いに少なくとも2度居合わせていた大久保、もしかしたら全く関係のない人物が監視している可能性も大いにあるがとりあえず今はこの2人には警戒していて欲しい。」
「わかった……」
しかしおせちは思った。
「風音先生は優しいし、大久保くんも話す限り良い人だと思う、でも足利さんは何の気なしにああいう事を言うような人でもないし……」
大久保は話し始めた。
「自分で言うのもなんだけど、中学の頃は勉強はそこそこ得意な方だったんだ。成績上位軍に入るようなレベルではなかったけれど、それでも成績に悩まされるような事は3年間一度もなかった。だから高校も平均より少し上くらいのこの高校に入ったんだ。だけど入学して数週間全く勉強について行けなくなったんだ。進学校に入ったら急に勉強についていけなくなるって事はたまに聞くけど、ここは進学校というほどでもないのに勉強が急に難しく感じちゃって。周りにもついていけない劣等感で前期の成績は散々だった、こんな事は初めてだった。そしてそんな時に担任だった風音先生が俺を励ましてくれたんだ。でも人生が変わるようなすごい一言を言われたわけじゃなくて、俺が何に思い悩んでいたのかを一つ一つ的確に言い当ててそれを解決する助言をくれた。そのおかげでなんとかついていけるようになったんだ。放課後とか時間作って学校に関係ない悩みなんかも聞いてくれて。授業もわかりやすいし生徒この事もちゃんと観ている人だと俺は思ったんだ。当時の悩みは今思えばすごく些細な事だったとは思うけど俺は先生を尊敬してる。」
すると横で聞いていた伊豆が間に割り込んで話し始めた。
「風音先生は俺も好きだぜ!委員会で学校説明会のために休みの日に学校来たりしてたんだけどさ、一通り仕事が終わったら自販機で何かジュース奢ってくれるって言うから1番高いヤツを頼んだら本当に奢ってくれたんだよ!!いやー良い人だと思うね俺も。」
「乞食かよ。」
「お、同じ担任だった割にはエピソードの濃さに2人とも差があるんだね。」
大久保と伊豆がおせちを見て、大久保が口を開く。
「俺たち去年は違うクラスだったよ、俺が1組で伊豆が2組で隣同士のクラスだったから交流が多くてそこから仲良くなったんだ。」
「そうだったの?2人とも最初からずっと仲良さそうにしてたから去年も同じクラスなのかと思ってた。」
「まあでも、今の俺があるのは伊豆がいてくれたおかげもあると思うぜ。」
「お、大久保……」
「ふふふ」
おせちは少しだけ2人の事を知れた気がして笑った。
それと同時に疑念も膨らんだ。
「足利さんもほとんど疑ってないって言ってたけど、大久保くんは悪い人に見えない…そんな大久保くんが尊敬するとまで言ってる風音先生も本当に悪い人なのかな?」
足利と風音はおせちや学校全体の様子について表向きは明るく話し合っていた。
「いやー、ほんといい学校のようですねここは。」
「いえいえとんでもないですよー。」
風音は時計をチラチラと見る。
「じゃあ足利さん、本当はもっと色々とお話をしたいですが、昼休みももう少しなので。」
「こちらこそ急に押しかけてしまいその上お話までさせていただいてしまい申し訳ありませんでした。でもおせちにも安心な環境のようで安心しました。本当にありがとうございました。」
「こちらこそ、また何かありましたら来ていただいて大丈夫です。」
心の中では2度と来るなと悪態をついた。
「足利のヤツ、探りを入れにわざわざ来やがって。だがわかっていたとしても証拠が無ければ俺を捕まえる事はできないしこんな人の多い学校ではどうする事もできないだろう。なんせ裏社会を牛耳っている池上透が俺の裏についてるんだ。下手な事はできないはず。」
教員室にて。
「風音先生、さっきの人とは何を話してたんですか?」
「ただの世間話です。こんな時代だし子供が心配で話を聞きに来てしまうのはしょうがない事です。」
すると急に校内放送が流れ始めた。
「緊急連絡、緊急連絡、2年2組の担任、古典の教師である風音伸介は元総理大臣池上透と関係を持った犯罪者です。もう一度言います…」
「は!?」
教員室にいた者が全員動揺した。
「この声、足利の声だ!!あいつクソ何考えてやがる!!」
風音は放送室へ急いで駆けつける。
「足利!!」
「来たか。」
「あなた、何をしているかわかってるのですか。」
「まだシラを切ろうとするつもりか、もうお前の正体はわかっている。」
「・・・はぁ、そうか。バレてしまったならしょうがないか。ここまで来たらもう何を言っても無駄そうだ。」
「認めるのか。」
「あぁ。」
「よし、これで証拠は揃った。案外素直で助かったぜ。」
「は?」
「今認めた事を録音しておいた、会話の録音は探偵の基本だぜ。そしてあんたが池上とメッセージのやりとりをしていたデータも掴んだ。少なくとも事情聴取をするだけの理由はできた。」
「…そうか、俺を客間に誘き寄せた割には中身のない話しかしてこなかったのは、その隙にパソコンからデータを抜き取るためだったのか。あんたには警察官の仲間がいたっけ。」
「他人の目を気にしているあんたなら公の場で呼び出せば来ると思ったんだ。自分が嫌われる事を何よりも嫌っている傾向が見られたからな。」
「元総理大臣を敵に回している男は言う事が違うね。」
足利はなぜ風音がスパイである事に確信が持てたのか。
おせちの担任を積極的に受け入れた事や交通事故の際の指示以外にもそれを裏付ける出来事があったのだ。
それは先日起きた石裂威吹の事件と関係していた。
あの日、石裂が街を襲撃したのは23時の出来事だった。無差別に建物の破壊をしていた事で死者や怪我人が何人も出た事は記憶に新しいであろう。しかしそれだけの死者が出た事は石裂の能力ゆえもあるが襲撃した時間帯も問題だった。無差別に破壊活動をしていたが故に当然住居も巻き込まれていた。人にもよるが大体の人は寝ている時間でありそのせいで命を落とした者、負傷したものが多かったのだ。事件による打撃を受けたのは姫花に住んでいる風音の家も例外では無かったのだ。全日制の高校教師となれば朝から夕方まで働いているためその時間は寝ているか家で過ごしている事が自然のはずだが風音は自身の住居が破壊されたにも関わらず擦り傷一つもなく生存していたのだ。これはおそらく石裂が姫花に来る事を池上から事前に知らされていたために避難が可能だったと考えられる。それと風音の住むマンションが被害一覧から何らかの圧力で外されていた事と、公立の高校教師は移動する事もあるため直接勤務する学校のある街に引っ越す事は極めてレアケースのはずが今年の4月に風音がちょうど姫花に越してきたという事実を掴んでいた事もこの結論に辿り着くきっかけになった。
「さあ、もう逃げる事はできない。一緒に来てもらう!!」
足利はスタンガンを取り出し風音に向けた瞬間、緑の閃光が6発降り注いできた。
スタンガンと足利の脳を正確に撃ち抜かれ足利は壁に倒れ込んだ。
「あーあ、めんどくさい事になっちゃったな。だからスパイなんて俺の性じゃないって言ったのに。」
風音は足利に人差し指を向けたまま立っていた。
「せん…せい…?」
大久保が震えながら横に立っていた、先程の放送を聴き何かを察して駆けつけてきたのだ。
「お、大久保…?」
大久保は放送室を覗き込む。
「うっ…!!これ…先生がやったんですか…?」
「見ちゃったか…お前の事あんま殺りたくなかったんだけど。」
風音は人差し指を大久保の額に向けた。
「見られちゃったんならしょうがねえよなぁ…?」
大久保はますます青ざめた顔になる。
「させるか!!」
「ほげ!!」
傷が治癒した足利が風音を殴り飛ばした。
「大久保くん!!早く逃げろ!!」
「もう治っちまったのか。」
押さえつけられた風音が足利の腕を掴み振り解こうとする。
「この野郎!!」
足利は風音の顔面をぶん殴る。
信頼していた教師に殺意を向けられた事、信頼していた教師が目の前で殴られている恐怖、複雑な感情に襲われ大久保は唖然としていた。
「足利さん!やめてください!!」
「こいつはお前を殺そうとしたんだぞ!!」
「うっ…」
大久保は黙り込んだ。
大久保としては他人の足利より恩師の風音を信じたい気持ちが微かにあったのだ。
「手を離さないと大久保がどうなるかな。」
風音は押さえつけられたまま天井に人差し指を突き出し指からレーザーを打った。
天井が半壊し破片が飛び散る。
「危ない!!」
足利は大久保を真っ先に突き飛ばす。
「うぐっ…!!」
大久保は無事だったが足利の背中に破片が刺さる。
「うおおおお!!!」
足利はすぐさま振り向き風音の方へ走りだす。
風音は廊下の窓ガラスを2枚蹴り破ってそこにレーザーを何発も打った。
ガラスの破片の面と面をレーザーは跳ね返り不規則的に足利に向かっていった。
足利は数発見切ったがレーザーはあまりにも早く全て避け切る事ができなかった。ふくらはぎにも命中してしまい足利は体勢を崩してしまった。
「ははは、これ練習したんだ。」
風音は人差し指を足利の頭に付ける。
「お前の心が折れるまでいくらでも…ふごっ!!」
足利は屈んでいた体勢を利用し風音の顎にアッパーを叩き込んだ。
「レーザーをある程度打ったら数秒間、間を空けないと次のが打てないみたいだな。」
足利は風音の両手を包み込むように握りしめて押さえつけた。
「そんな事しても!!」
風音は両手でレーザーを連射する、しかし足利は手の力を抜かなかった。
「こいつ、治癒能力を利用して俺のレーザーを無理矢理押さえつけやがった…!」
「はあああああああああああ!!!」
足利は手を抑えたまま思い切り頭突きをした。
風音だけが気絶した、痛みの耐性は足利の方があった。
「クソッ…」
足利はどこか悔しいような悲しいような表情で気絶した風音に手錠をかけた。
「足利さん……」
「………どうした。」
「どういう事か説明してくれませんか、放送の事。」
「………」
足利は少し躊躇ってから口を開いた。
「池上透っていう元首相がいて…」
「それは知ってます!……誤魔化さないでちゃんと話してください。」
「……わかった、君にもこれくらいは知る権利がある。じゃあ池上茂夫も知ってるよな?最初の超能力者と呼ばれている、心臓を止める能力を持っていたという。」
「大量の殺戮を繰り返していたにも関わらず当時は超能力犯罪に対する法律なんかもなかったから、未成年である事、それと証拠不十分と総理大臣の息子というコネでなかなか逮捕されなかった男ですよね。だけどバイク事故を起こして正式に逮捕されてそれをきっかけになんとか殺人に対する罪を問うとこまで漕ぎ着けられてそこから超能力に対する法案が制定されるきっかけになったという。」
「その通り、その一連の事件が2年前になるわけだ。」
「はい。」
「結論から話すと、その時に池上茂夫が逮捕されるようにバイク事故を起こすように仕組んだのが俺なんだ。俺はそれをきっかけにこの2年間超能力を犯罪に利用する者たちと戦い続けている。茂夫の話や裏社会の組織の運営を邪魔している恨みがつもりにつもって元首相の池上透に命を狙われてるってわけだ。君の担任の風音もその一人だったってわけだ。」
「なっ……」
大久保は想像を超えるほど突拍子もない返事が来て言葉が出なかった、しかし足利の戦いぶりを目にした大久保はこの話が嘘でない事をすんなりと理解できた。
「あの、ずっと聞きたかったんですけど。ほら、こないだ板下が言っていた足利さんには超能力ないって話は本当なんですか?その力は超能力とは無関係なんですか?」
「見方によっては超能力と呼べるかもしれないが、今この社会に出現している超能力者と呼ばれる者たちが持っている力とは異質のものなんだ。都合のいい解釈かもしれないがこの力は超能力に対抗するために授かった、超能力とは似て非なる力だと思ってる。」
「じゃあ本当に超能力は持ってないって事なのか…」
大久保は納得した。
「この人はあんな危険な人たちと2年間も超能力もなしに戦い続けてるのか…強いわけだ…いくら治癒能力があるからといって並の人間じゃあれだけの痛みに耐えられないし。」
「そんなに話しちゃっていいのかな?」
目を覚ました風音が言い放つ。
足利が構えた。
「おいおい、もうここまでされて反撃する気はねーよ。」
「…ほんとだな?」
「そもそも俺は最初から使い捨てみたいなもんだったんだ。」
「お前…」
「風音先生!!」
「どうした。」
「あなたはとってもいい先生だった、俺は尊敬してました。あなたはみんなにも好かれていたのに、なんでこんな事を!!」
「あのさぁ、嫌われたい人間がどこにいるの?」
「え。」
「こんな仕事やってんだ、みんなにはいい顔しておきたいに決まってんだろ。嫌われながら生きるより好かれながら生きる方が楽だろ?」
「そんな…」
「ただそれだけの事だ。」
「うっ…」
「おい足利、こんなとこに俺を転がしてないでさっさと連れてってくれよ。」
「…他に何か言う事はないのか?」
「…」
風音は視線をもう一度大久保に向けた。
「そりゃもちろん多少の情はあったさ、ただ人間ってのは誰しも二つの面があるんだよ。ただそれだけの事。あんま落ち込むなよ。」
「先生…」
「それで終わりでいいならそろそろ連れて行くぞ、聴きたいことが山ほどある。」
「ああ、好きにしろ。」
「あ……」
「あばよ、大久保。」
足利は草木の運転するパトカーに風音を連行し、足利も警察署まで同行する事になった。
「草木さん、ありがとうございました。」
草木は足利の指示通り客室で風音と話している間にデータを取り、戦闘中に生徒達が教室から出ないように指示を出した。大久保はいち早く放送室に向かったため足利達の戦闘に遭遇したのだった。
「いやーまさか足利さんの推理が当たってたなんて。」
そこへ風音が口を挟み込んだ。
「言っておくが俺は最初からスパイ目的でこの学校にいたわけじゃない、この学校に勤務してる間に池上達と接触してしまっただけだ。」
風音が経緯を説明した、池上に弱みを握られ渋々従っていただけだったためそこまで忠誠を誓っていたわけではなくすんなりと話してくれた。それによると池上と接触したのは半年くらい前だったという。教師という多忙な職についてる故にあまり出かける事ができず家でもできるハッキングが趣味となってしまい様々なデータの破壊活動を繰り返しているのちに池上の管理するコンピュータに入り込んでしまいその腕を見込まれて池上側の人間となったようだった。それも使い捨てに近い立場での契約で足利とおせちを監視するスパイになったのはおせちが入学してきた事による偶然だったという。
「俺は超能力こそ持っていたが戦闘要員じゃなかったんだ。」
「超能力はいつ発現したものなんだ?」
「それがつい最近で、1月ごろに朝起きたらフッとなんの予兆もなく使えるようになった。」
「なるほど。じゃあお前が雇われた本来の目的ってなんだ?」
「うーん、部外者がいる横で話しちゃっていいのかな。」
「…草木さんなら問題ない。話せ。」
「姫の花の停止。」
「!?」
「えっ!?!?」
草木も動揺した、草木も姫の花の存在自体は長島から聞かされている。
「俺のハッキングでこの街のどこかにある姫の花のプログラムに侵入して機能停止させる事が目的だったんだ。」
「姫の花がどこにあるのか知ってるのか!?」
「いや、そこまでは知らされなかった。接続できるサーバーがいくつも敷かれていて正確な位置は間違っても特定できないようにされていたし、姫の花のコンピュータからGPSに接続しようと試してみたが対策が図られていた。プロテクトもめちゃくちゃ厳重で半年かけても機能制御のプログラムには到達できなかったよ。どういう機械なのか知らんがアレを作った奴は相当の技術者だ。」
「…池上の目的は一連の超能力事件を表沙汰にしないで隠蔽する事、だからお前のような弱みを握れた部外者までも利用したというわけか。」
「だがはっきり言ってあのファイアウォールの技術はまるで未来で作られたかのような代物で突破はほぼ無理だ。俺の力でも何年かかるかわかんねーよ。」
「今の池上サイドの陣営にもどうにかできる者がいないほどの物なのか…。だがあんたの話し方はまるで、目的こそ達成できなかったが何か掴んだかのような口振りだな。何かわかった事があるのか?」
「流石、よく気づいたな。機能制御まではいけなかったがほんの軽いデータを除く事だけはできたんだ。そのうちの一つはお前が求めてるものだと思う。」
「話してもらおう。」
「姫の花のプログラムを作った人間の名前だ、姫の花そのものを設計した人間と見てまず間違いないだろう。そいつの名は…」
「………」
「柿原豪徹。」
それを聴き草木は驚いたが足利は特に動じなかった。
「…なるほどな。」
「カキハラって、おせちさんと同じ苗字ですよね!?」
「足利の方は反応薄いな。」
「あんなに若くして公表されてない国家直属組織の研究員になれたんだ、学力があってもある程度ツテがないとなれないだろう。確信を持っていたわけではないが候補の一つとしては考えてたさ、身内に研究員がいた事を。」
「でもハッキングでわかったって事は、風音さんも事前に知らされたりしなかったんですね。」
「使えるかもしれないコマをとりあえずキープしておくってのが奴のやり方だからな、俺の事をそこまで重要視していたわけじゃないんだろうよ。」
「ゴウテツという事はおそらく男の名と見ていいよな、おせちの父親だろうか…」
足利は始めにおせちから送られてきたビデオレターを思い出す。
「彼女は自分の父親の過ちを止めるために動いていたのだろうか……」
足利は流れていく景色に視線を移した。
「彼女の消えた記憶、その先には一体何があったんだろう…」




