第7話 二つの力
「ねえ、足利くん。」
「ん?」
「こうして一緒に帰るの、今年で最後なんだね。早いね、時間の流れって。」
「うん、まあそうかも。」
「あ、あのさ。もし進路が決まって、別々の道に行っても、私の事を覚えていてくれる?」
「…………」
「…うおおおおおおおおお!!!」
足利は手塚に闇雲にパンチを連発する。
「あはははは!!」
何発か当たるも依然として効果はない。
「こうですか?」
足利のラッシュを見よう見真似で繰り出す手塚。
それっぽく動いているだけではあるものの痛みも疲労も感じない手塚の攻撃は非常に厄介、格闘技術的観点から見ても非常に変則的な攻撃であり足利を交わすので精一杯。
「もう少しこう腕を突き出していましたっけ。」
手塚のパンチスピードはどんどん上がっていく。
「クソッ…!!」
足利は風切り音を立てコートを震わせながら高速回転を繰り返す。
手とコートの長い裾の連携で攻撃を受け流しているのだ。
「わぁ、すごいや。これでは痛みを感じない僕でも手元が狂いますね。」
足利はなんとか手塚の渾身の一撃を手で受け止めた。
そのまま腕を捻り手塚を投げ飛ばす。
重力の反動で手を振り払おうとするも手塚は手を休める事なく足利は投げ返され、柵に背中をぶつけた。
手塚は走って足利のみぞおちを殴った。
「ぐふっ…!!」
足利は両足の裏で手塚を突き飛ばし間合いを開けた。
「想像以上に危険すぎる、疲れを感じない相手というのはとても厄介だ。まずこの点を攻略する、弱点をついて倒すのはそれからだ!!」
足利は間合いを詰め再びラッシュをかます。
「…!!!??」
手塚の体は殴られる事でどんどん後方へと押し出される。
しかも反撃ができなくなっていたのだ。
「僕の関節を叩く事で体を動かす余地を封じてるのですね…ならば!!」
手塚は体中の関節に力を込めびくともしなくなった。
疲れを感じないため無限に力を込められるのがここでもこうを成したのだ。
そのまま足利を殴り飛ばし、関節への打撃を開始した。
筋肉の構造から技術的にスピードを生み出す足利のパンチと違い、手塚はめちゃくちゃな運動で反撃の隙を無くす攻撃を繰り出している。
「なんてやつだ…肉体的な制約が欠落している事でいくら殴られても怯まないだけでなく、攻撃から反射的に目を逸らす事なく観察が可能なんだ。見よう見まねで俺の格闘をコピーしてやがる。俺の攻撃を学習してやがる!!」
「足利さん、あなたはとてもミジメな人間です。」
足利は精一杯防御するもすぐさま弾かれて反撃に移行できない。
「あんたは自分が正しい事をしていると思い込みたいだけなのですよ。」
足利はされるがままに攻撃をくらう。
「あなたは自分だけは特別だと思い込む事で自分に言い訳をしているのですよ、正義を語りながらも暴力でしか自分を守れない愚か者です。あなたのその死んだ目を見ればわかる。僕にそっくりだ。」
手塚はラッシュの手を止めない。
「あなたが数々の超能力者と闘い、それで得た技術もこうして僕に真似されている。あなたには何もないのですよ。」
「真似か。」
「ん?」
「そろそろお前の手の動かし方にも慣れてきた、いくら筋肉が限界を迎えないとはいえ戦闘技術は皆無、お前の動きにはムラがある。」
足利は手塚よりもさらに速い速度でパンチを繰り返す。
関節を突かれる事で手塚の体に再び不自由さがのしかかる。
「す、スピードがさっきより上がってる…!!」
「というよりはお前のパンチとパンチの間を縫ってるだけさ。」
「ぐっ…!!」
「カウンターだ、攻撃を仕掛けている相手ほど反動を与えやすいんだ!!」
足利の渾身のアッパーで手塚の体が宙に舞う。
しかし手塚は空中からの落下を利用し踵落としで足利を叩きつける。
突き上げた腕を戦闘体制に戻すわずかな隙をつかれたのだ。
「ちょっと反撃できたくらいで調子に乗らないでくださいよ。」
すかさず手塚は見よう見まねの双頭竜蹴撃で足利を屋上から吹き飛ばした。
「な、なんてやつだ…」
足利の体は歩道に叩きつけられた。
手塚も屋上から飛び降り綺麗に着地した。
「自分で言うのもなんですけど僕はそれなりに頭いいんです。今までの脳筋達と同じに考えるのはよしたほうがいいですよ。」
「しまった、できれば事務所の中で決着をつけたかったが投げ出されてしまった。他の人に危害が加わらないように戦わなくては。」
手塚はさらに洗練された動きで再び足利に猛攻した。
動きの癖をよむ事でギリギリ足利も反撃をするものの手塚の方が有利である。
「いくら俺にあの力があるとはいえ運動能力は人並みでしかない、どうすれば…」
すると道路脇に迷惑駐車されている手塚が乗ってきた派手なスポーツカーが足利の目についた。
「そうだ、肉体の動きで限界であるならば機械の力で!!」
幸い1階のガレージにトライエクスサイクロンが駐車されている。
足利は自分が道路を背にする体制になると車が通る中に突っ込んでいった。
「なっ…!」
足利は軽やかに車を避け、轢かれることなく事務所のある反対側の道路に渡る事に成功した。
「ぼ、僕だってこのくらい…!!」
手塚は少しだけ時間を置いて丁度良いタイミングを掴み足利の後を追った。
手塚が事務所の前に来た瞬間足利はウィリーで突っ込んだ。
「うおおおおおおおおおお!!!!!」
「!?」
手塚は前輪を腕でガードする。
足利は乗りながら跳ね除け前輪で手塚を殴り続けた。
バイクの重さで殴られては流石の手塚も反撃ができない。
たまらず手塚は限界を振り絞り自らの車へ乗り込んだ。
足利は車に突っ込み派手な車の車体が歪む。
手塚はそのまま車を発進させた。
「カーチェイスと行こうか。」
手塚は全速力で逃げるものの無駄な事故を避けるような運転で足利を引き払おうとしている。それを足利も後ろから追いかける。
「やっぱり読み通りだ、池上は石裂の一件をもみ消すので手一杯、どうやら手塚は余計な殺戮は止められているとみた。」
すると箱根翔子がゲームセンターで取ってきた推しのぬいぐるみを抱き抱えながら歩道を歩いてくる。
「あ…??」
歩行者側は信号に切り替わるも手塚のスポーツカーが突っ込んでくる。
「??!?!?」
「まずい池上さんに怒られる!!」
「きゃっ!!」
スレスレで箱根の体には接触しなかったもののものすごい風圧のせいでぬいぐるみが吹き飛ぶ。
「ぃぎゃあああああああああ!!!!!!」
「…!!!」
足利はすかさずトライエクスサイクロンの出力を上げてぬいぐるみを片手でキャッチした。
足利はバイクを一旦停車し、箱根に歩み寄りぬいぐるみを渡した。
「あ、ありがとう…ございましゅ…」
箱根が言い終わると足利は深々と頭を下げた。
「この度は市民の皆様にご迷惑をおかけし大変誠に申し訳ないです、ごめんなさい。」
「ぇ…ぁ…ぇ????」
足利は顔を上げるとバイクに飛び乗り手塚の後を追った。
「ほげえ、なんじゃあの人。」
足利はすぐさま手塚に追いついた。
「足利め、あのバイクのガソリンが切れるまで走ったらすかさずぶち殺してやります。この車は池上さんにいただいた超高級車で燃費はあんなのよりいいんだ。」
「ヤツが闇雲に走ってるのはガソリン切れが狙いと言ったところかな。」
「それにしてもあの男の走り方なにか変だ、まるで僕をおちょくってるようというか…は!!!」
手塚はここで気づく。
「ETCレーン…!!ここに僕を追い込む事が狙いだったのか…!!」
「高速道路でやりえば街中よりは幾分かマシだ。」
「さ、流石は元総理大臣の恨みを買うだけはありますね…」
手塚はレーンを強行突破せずに料金を払い高速道路へ逃げ込んだ。
人殺しに続き器物破損は特に避けろと池上から念押しされていたのだ。
足利も料金を払い手塚を追う。
しばらく追いかけると手塚の車は急停止をし、足利は態勢を崩してしまった。
「高速道路で急停止とは殺意が高すぎる。」
ギリギリ手塚の車を避けて前に出た足利。
手塚はそこに追いつき横から体当たりをする。
足利を反対車線に突き飛ばす作戦だ。
足利は車とガードレールに挟まれながら走行を続ける。
車体がガードレールに摩擦し火花を散らしていた。
同じ車線から周囲の車がいなくなったのを確認すると足利はバイクの出力をさらに上げて反対側の壁に押し返す。
今度は手塚の車が火花を散らす。
「バイクからそんなパワーが出るとは…!!」
そのまま手塚もろとも高速道路の出口に押し出した。
しかし高速道路の降り口はカーブしているため円の外側にいた足利は再び押された。
「くっ…!!!」
「ここでみんなに重大発表がある!!」
ライブ会場がざわめく。
「もう今度はなに…?」
好みでもない曲をいくつも聴かされおせちの精神は限界に近づいていた。
「今からここで新曲を発表し、披露します!!」
ライブ会場がさらにざわめく。
そもそも姫花という街で全国的に大人気のアイドルがライブをする事自体が特例であるうえ、さらにその場で新曲が発表されるとなると異例に続く異例なのだ。
「では聴いてください、"あなたに"。」
これまで耳が痛くなるようなポップな曲しかなかったものの、急に切なく落ち着いた曲が流れ始め、幕内我立苦の持ち歌とはあまりにもかけ離れた曲調にファン一同は困惑して首を傾げ始めるが、逆におせちは安堵した。
「なんだ、今までで1番いいじゃん。」
高速道路を降り人気のない山道で激戦を繰り広げる足利と手塚。
トライエクスサイクロンの画面表示は通常時は青いものの赤表示に変わっており、警告音が繰り返された。
「しまった、いくら特別なバイクとはいえこれだけのダメージを与えられればたまったもんじゃないか…」
スピードが徐々に落ち始める。
「頼むもう少し、もうほんの少しだけ持ってくれ…!!」
手塚はドアガラスを自動で開けた。
「足利さん、あなたのバイクも限界が近いようですね。」
足利はひたすら手塚を睨みつける。
「そのバイクが使えなくなったらいよいよ殺してあげますよ。タイマンなら僕の能力の方が圧倒的優位である事は明白ですからね。」
足利は何も言わない。
「嬉しいですよね?だって大好きな大好きな宇月さんの元へ行けるのですから、まあ僕は死後の世界など信じてませんけど。あはははははは!!!!」
「…ぎっ!!!」
足利は手元で何かを準備する。
すると両者は山道を抜けた。
「ん…?どこかへ抜けたようですね。」
「うおおおおおおおおおお!!!!!!」
足利は手塚の車に飛び込み足利に繋がれた手錠を手塚の手首に引っ掛け反対側のドアのガラスを突き破った。
「な、なんだ…!!」
あまりの不意打ちに手塚は理解が追いつかず足利の作業の速さも相まって反撃ができなかった。
手塚の体が車の外へ投げ出される。
「うおおおおおお!!!」
足利は車に体重をかけ、車も落とした。
そして素早く車のサイドミラーと手塚の空いてる手首を再び手錠で引っ掛けた。
車を錘に足利と手塚は落下する。
「な、なんの真似ですか!!僕は高層ビルの屋上から地面へ叩きつけられても死なないのですよ!!」
「地面に叩きつけるだと?なんのことかな。」
「は?」
手塚が下を見ると、そこには一面の湖があった。
「ダムだよ、ここは。」
「なんだと!?てめえ何考えてんだ!!」
「お前は水に沈んでも意識を失わずにいられるのか?」
「そ、それは…」
「お前、呼吸はしてるよな?」
「!?」
「お前の喉を刺した時に気づいたんだ、お前の傷口があの時空気を取り込んでいた事に。」
手塚の顔が青ざめる。
「気になったんだよ、食事も水分補給も必要としないお前の体はどうやって生命活動を維持しているのか。お前の体の栄養源は空気中の酸素にのみ依存している。その呼吸活動に水分や物体は邪魔になるんだろ?」
「ま、まさかそんな事あるはずが。言ったはずですよ、僕はこの能力がある事そのものがデメリットなんだ。僕の能力に弱点はありません。」
「その言葉で確信したんだ。弱点はないとあんたは言ったが超能力というものの抱える弱点は人の心の弱さに基づくものなんだよ。手塚、あんたは自殺するほど追い込まれてたんだよな、そんなあんたの持つその心から生まれた能力に弱点がないはずがないだろ。俺を煽りたいがために喋りすぎたな。」
「つ、つまりはここまで全て計算ずくだったという事ですか?」
「ああ。」
「あはは、もしもここまでしてあなたの読みが外れていたら?」
「だったらお前の真の弱点を見つけて倒すまで戦い続けるだけだ。」
「うくっ…!!」
「さあ、試してみようぜ。俺達の想いとあんたの能力、どちらが強いか!!!」
「う、うわああああああああああ!!!!!」
その後、足利は意識を失ったした手塚と共に陸へ上がった。
「はぁ…はぁ…」
足利は草の上で仰向けに寝転んだ。
「よし、完全には死んでないしこの分ならしばらくは目が覚めないはずだ。危なかった…正直俺も水に沈んで耐え切れる自信はなかったんだ…」
足利は気を失った手塚の顔を見つめる。
「なああんた、会社のビルから飛び降りたって事はきっと働いてた会社に何か不満があったんだろう。」
当然手塚は何も言わない。
「俺達は本当にこうして命がけで戦うべきだったのか?あんたの会社がもし経済的余裕のなさが原因でいわゆるブラックになったんだとしたら、まともな政治をしなかった池上にも少なからず原因と言っていいだろうによ。それなのに本当の敵であるはずの池上の言いなりにされてしまって。まともな判断ができないほどに追い込まれていたのかも知れないが、本当の敵を見誤ってしまうなんて恐ろしくも虚しいと思わないか。」
「…」
「まあいらぬ心配だったかな。俺の事はどう言っても構わんがあんたにどんな境遇があろうと宇月をダシにした事だけは許す気はないぜ。」
「手塚さんが足利に負けちゃったみたいです。」
座り込む池上のデスクの上に座りながら顔を近づけて側近の女は話している。
「そのようだな。」
「不死身に不死身をぶつければ今度こそ勝てると思いましたのに。」
「まあいいだろう、そういう事もあるさ。」
「そんなぁ、もうちょっと悲しんであげてもいいんじゃないのぉ〜?足利と戦えば思い通りになるって言ったのは池上様でしょ、まったく贅沢を味わわせて、足利と戦えばもっといい思いをさせるって言って上手くその気にさせて丸め込んでおいてそのそっけなさはあんまりじゃないですかぁ〜?」
「なに、彼の思い通りにはなっただろう。よかったじゃないか、相手が足利だったから殺されはしなかったものの死ぬ方法が見つかったのだからな。足利に倒されれば死ねる可能性は出てくるし、足利に勝てば賞金でさらに自由な暮らしができる、どっちみち彼にとっては都合のいい話だったはずだ。」
その後、手塚は駐車違反などで逮捕された。殺人は犯していないためそれほどの重罪には問われないだろう。
彼は廃人となり能力を悪事に使うような事はなかった。
「足利さん、ただいまー。」
「おかえり、大丈夫だったか?」
「すごく最悪だったよ、辛かった。」
「何!?刺客か!?」
「ちょ、いや、単純につまんなかっただけだよ。」
「なんだ…よかった…」
「ねえ、それ大久保くん?」
おせちはパソコンの画面を指差した。
「あぁ、少し調べ物をしていてね。」
「大久保くんがどうかしたの?」
「いや大した事じゃないんだ、大丈夫。」
「そう。」
おせちは夕食を済ますと部屋へ戻っていった。
足利は再びパソコンで調べ始める。
「これまでの刺客達は俺の戦いについての情報が共有されていた、予想はしていたが俺を直接監視し池上に情報を送っている人間がいる可能性が高い。大久保英年、まずは彼から当たってみるか。」




