第6話 覚醒
スーツを着た若い男は、ビルの屋上の淵に立ち、オフィス街の夜景に照らされていた。
「あぁ…もう、これで終わりなんだな。ここを飛び降りれば全て終わるんだな。はぁ…もう俺は疲れたよ。家畜のようにこき使われる毎日、俺には恋人も家族もいない、趣味もない。パワハラを受けるだけの毎日。なんのために生きてるのかわからなくなった。」
「でも、これで終われるんだ。」
「よっと。」
足利は木から落ちた猫をキャッチした。
「どうも、ありがとうございます。」
「いえいえ、動物の扱いには慣れてますので。またね、おばあちゃん。」
足利は超電動バイクトライエクスサイクロンにまたがりその場を去った。
「このバイク、見慣れない形だけど乗ってみるとすごいしっくりきて乗り心地が最高だな。ハンドリングも手足を動かすくらいやりやすい。他にも最新のGPSモニターに電動エンジンなど目を惹かれる機能も多く、何よりメットインスペースが前のよりも大きくてとても便利だ。バイクの性能ももちろんいいし長島さんには申し訳ないなぁ。」
「おい長島!!」
「どうかしたか、開発。」
「お前、T-X-C ver.7(ティークロスシー バージョンセブン)を作ったのがこの俺だって事、足利とやらにちゃんと伝えたよな!?」
「ティークロス…あ、トライエクスサイクロンの事か。」
「バージョン7!!!6台の試作品を経てようやく完成したから7!!!」
「ごめん、言い忘れたかもしれない。」
「この野郎ォォォ!!!!」
この男、名は開発ヤメルの言う通りトライエクスサイクロン、以下TXCを作ったのはまさしく彼である。正確には彼の兄である開発シナイも協力しているのだが話がややこしくなるためシナイについてはここでは触れないでおく。
6回の試作を経てようやく完成したTXCは足利に制作した彼自身の名前を伝える事を条件に長島が譲り受けたものなのだ。
しかし長島はすっかり伝えるのを忘れており、長島自身伝えたかどうかすら記憶にないという。
「まあいい、半分趣味で作ったものだしな。」
「十割趣味だろ?」
「うるさい、まあ現在アレを更に超えるver.8を製作中なんでどっちみち譲ってもよかったんだ。」
「でも流星くんも助かってると思う、本当にありがとう。今度伝えておくよ。」
「ああ、そうだろうそうだろう。特にアレだけの機構を詰め込みながらも平均より広めのメットインスペースを確保するのに一番苦労したんだ。」
「ははは…」
長島は窓から青空を眺める。
「流星くん、僕はこれからも裏から全力で君をサポートするからね。」
「あっつ〜…」
炎天下の中、大久保が繁華街をフラフラと歩いている。
「5月でこれって、夏はどうなっちまうんだ??」
すると大久保は綺麗な佇まいのカフェに目をつけた。
最近オープンし、若者の間で話題となっているカフェである。予想もできない暑さによりいつものような行列ができていなかったのだ。
「ちょうどいい…一休みさせてもらおう。」
クーラーの放つ心地よい冷たさが大久保を歓迎する。
「いらっしゃいませ。ご注文はいかがなさいますか?」
「あー、えーと、うーーん…なんだこれ。」
メニュー名を見ても何が何だか理解できない模様。
「すいません、あの、これって…ぎゃあああああ!!!」
質問しようと店員に目を合わせた瞬間、目の前にいたのは。
「足利さん!?!?」
「………」
カフェの制服姿の足利は特に誰にも見られていない事を確認し、大久保に顔を近づけ小声で話した。
「…悪いけど仕事中は流石に話しかけないでくれるかな。」
「いやいやいや、あんた探偵だろ!?何やってんだよこんなとこで!?」
「探偵業だけで生計立てられると思う?苦しいよ今の時代。」
「はぁ…。」
大久保は納得した。
「それではご注文はいかがなさいますか。」
目を開くと、真っ白な景色。
体に毛布がかけられている事に気づく。
そこは病室の個室だった。
しばらくするとナース服の女性が部屋に入ってきた。
「手塚様、お目覚めですか。」
「ここは、天国でしょうか。」
「残念ながら、あなたは生きています。」
「は?」
手塚は窓の外を見て、会社の一番近くの病院である事に気づく。
「おいおいおいおい嘘だろ!!なんだよ!!!なんでだよ!!」
手塚はジタバタしながら発狂した。
「おかしいだろこんなの!!俺は死んだんだ、助かるはずがない、死んだんだよ!!!」
ひとたび暴れると手塚はナース服の女の胸ぐらを掴み、怒鳴りだす。
「ふざけないでくださいよ、なぜ私は生きてるのですか!!てめえのせいかこの畜生!!!」
手塚は殴りかかろうとしたが、手を止めた。
「大丈夫、私達は悪いようにはしません。」
ナース服の女性は男に抱きつき、優しい声で落ち着かせた。
その女は池上透の側近の女だった。
手塚は落ち着きベッドへ戻る。
「安心してください、あなたは選ばれたのです。」
「僕が、選ばれた…?」
「はい!!」
女は笑顔を見せる。
「女性の笑顔なんて、いつぶりに見たかな…」
手塚はベッド横に置いてあるデジタル時計に目をやる。
「まずい!!月曜だ!!出勤しないと!!!ここからならダッシュで10分で会社に着く!!!あーそれでも7時間40分の遅刻だ!!!部長に殺される!!!!」
手塚は再びジタバタする。
「手塚様!!」
女は体を軽く払い、ベッドで唖然としている手塚に話を始める。
「あなたはもうあの会社に行く必要はありません、今はとにかく落ち着いてください。」
「クビですか…?」
「いえ、あの程度の中小企業では社員に自殺者が出たとなるとすぐさま信用は地に落ちます、あなたの事が漏れないように手を打つという事で全て"ある方"が根回しをしてくださいました。もちろん退職金も出てます、どうしても裁判にだけはされたくなかったのでしょうね。」
「僕に賠償金を払うくらいなら口止め料のほうが安いって事ですか。」
口では納得しているようだが、手塚はまだ放心状態に近く目は虚である。
「私達の力で失業手当を申請する事もできます、就職活動に励む時間もできるでしょう。」
「また就活か…結局こうなるのか…」
ここに来てやっと手塚は状況の整理がつく。
「あれ、ちょっと待ってください、そもそもどうして僕は生きてるんですか?僕は確かビルから飛び降りたはずです。」
女は再び笑顔になった。
「ふふふ、やっと訊いてくださいましたね。」
女はベッドの柵に顔と手をつき体勢を休める、右手の人差し指で手塚の太ももに円を描くように撫で始める。
「何か違和感はないのですか?」
「違和感…?」
「例えば、こう!!」
女は突然右手から仕込んだナイフを出し太ももを突き刺す。
「うわあああああああああ!!!!」
女は笑み続ける。
「…あれ、痛くない。」
「そうです!!」
女はナイフを引き抜き、今度は胸を突き刺した。
「うっ、な、なんともないですね。」
ナイフが抜かれると手塚の胸は何もなかったかのように戻る。修復とはまた違い本当に何も刺さらなかったかのようにナイフが抜かれた瞬間体は元に戻っていたのだ。
「そういえば僕はずっと毛布に掛けられていて長袖の病衣を着てますが、服を着てる感触はあれど全く暑さも感じません。そいえば僕は2日間寝たきりだったのでしたっけ、喉も全く乾かない。」
「やっぱりそうですか…!!」
女の呼吸は荒くなる。
「あなたが生きていたのは他でもない、超能力です!!それもとびっきり特別な、"不死身の能力"です!!」
「はは、まさか、嘘ですよね?」
喜ぶ女とは裏腹に、手塚は怒り出した。
「冗談じゃねぇ!!俺は死にたかったんだ!!なんで死のうとしたら不死身になるんだ!!おかしいだろこんな事!!」
「でも、事実なんですよ。あなたも知ってるでしょう?超能力の存在くらい。いつ誰に宿るかわからないのです。」
「あのなぁ、僕は死にたかったんだ!転職も退職金も興味がない、"死にたかった"んだ!!だけど僕の自殺は無かった事になり、あの会社の奴らはのうのうと今日も生きている。そして僕は死ななくなった、状況が悪化してるじゃないか!!アイツらを僕が自殺する事で苦しめたかったのに!!!」
「忘れましょうよ、そんな小さな事。」
「うるさい!僕はもう生きる事に興味なんかないんだ!!」
「それはどうかな?」
また違う男の声がしたかと思うと、女がタブレット端末の画面を手塚に向けていた。
「この顔どこかで、あんた…まさか…」
画面に映る初老の男が不敵に笑う。
「池上…透…!!!」
「うぅ〜、アイドルのライブなんて記憶にある限りでは初めてだよぅ。」
「大丈夫だっておせちちゃん!絶対楽しいから!!」
「アイドルなんて興味ないのに、どうしてきちゃったんだろう…」
人混みが酷いライブ会場にておせちは高校の友達に連れられながら漏らしていた。嫌なら断ればいいだけの話ではあるがそれは申し訳ないとおせちは考えたのだろう。
しばらくするとステージが暗転し演出が始まる。
「例えどんなに苦しい困難が僕の前へ聳えても、我は必ずこの幕の内に立ち上がる。みんなに笑顔を届けるために!!」
「きゃああああああああ!!!!」
「???」
ステージの下からゆっくりと男がせり上がってきた。
「僕の名は、幕内我立苦!!!そう!!!まくのうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうちッがたッッッッくッ………………………ちなみに本名。」
「きゃああああああああ!!!!」
「かっこいい!!!」
「最高!!!」
「我立苦くーーーーーん!!!!」
「は?」
おせちは来た事を激しく後悔した。
「おせち、大丈夫かなぁ。やっぱついてくべきだったかな。」
足利はパソコンでデータの照合に取りかかっていた、街の中の物や人についてデータをまとめ少しでも怪しいと感じたものについて徹底的に調べているのだ。
「だが都心部が酷く荒れた一件で自身に関する情報が漏れないようにするので手一杯のはず、この状況で大勢いるライブ会場の人間まで圧力の対象にするのは流石の池上でも上限を超えてるはず。俺が下手についていくと戦いに巻き込まれかねない。」
足利は頭を抱える。
「しかし俺がいなければ誰がおせちを守るっていうんだ…やっぱり今からでも行くべきか?」
足利は何かのデータに気がつく。
「あれ、姫花役場か、これについてはまだ何も調べてなかったっけ。」
ある日ゴミのポイ捨ての注意を促すポスターに姫花役場と記されていたのを発見したものの市役所はあれど姫花役場というものはこの街に現存していなかったのだ、この矛盾が何かに引っ掛かっている様子。
「姫花役場についての記録はネットには残ってなかったけど、跡地と考えられる場所がいくつかあるんだよな…今日はここを当たるか。」
すると事務所のチャイムが鳴った。
足利はインターホンのモニターを覗く。
そこには黒いスーツを着たツーブロックの平凡な男が立っていた。
足利は応答する。
「はい。」
「朝早くに失礼します、超能力事件についてあなた様にお伺いしたい事がありまして。」
「わかりました、玄関先で恐縮ですがお名前を伺ってもよろしいでしょうか。」
「手塚、手塚会都と申します。手塚はよくある漢字で手につちへんで塚と書き、会議の会に都と書きまして会都と読ませます。」
「ありがとうございます。しばらくお待ちください。」
足利は一度回線を切りパソコンに打ち込む。
「手塚会都。指名手配犯、近年の犯罪者報道履歴、超能力法違反者名簿、裁判記録、行方不明者リスト、死亡者一覧、どこにも一致する名前はないな。」
足利は再び回線を繋げた。
「大変お待たせ致しました、ただいまロックを解除致しましたので2階へお上がりください。」
「ありがとうございます。」
手塚と名乗る男が事務所へ入ってきた。
「そちらにあるソファ、好きなところへお掛けください。」
「ありがとうございます。」
手塚は深くお辞儀をして腰をかける。
「お飲み物はいかがなさいますか、お茶、コーヒー、ジュースが数種類用意してあります。」
「そうですね、ではお言葉に甘えてあつあつのホットコーヒーをお願いします。豆はなんでも、砂糖とミルクはたっぷりで。」
「かしこまりました。」
足利は依頼人が落ち着いて話せるような環境づくりにこだわっている、ソファに囲まれた低い机にはお菓子が常に数種類置いてあり高級菓子やコンビニ菓子、様々な好みに対応できるよう常備している。インテリアも白基調で統一しており清潔感を何よりも心がけている。
「お待たせいたしました。火傷にご注意くださいませ。」
足利はあつあつのコーヒーが入ったカップを置き、お手拭きも置く。
「いやあ、すごいですね。今まで訪れたどの事務所よりも居心地がいいです。」
「どうも。」
足利は頭を下げた。
「マナーに準拠というより安心感を優先した見事なもてなしですね。」
手塚はお菓子の袋をまじまじと眺めた後にコーヒーカップを手に取った。
「それではお話をお聞きしてもよろしいですか。」
足利が切り出す。
「そうですね…では。」
手塚は勢いよく手首をしならせ足利にコーヒーをかけた。
「…」
足利は動じなかった。
その様子を見た手塚は無言でカップを足利に叩きつけた。
足利は顔色を一切変えずに顔を拭う。
「お口にあいませんでしたかね。」
「あははは、僕は飲む必要すらないんですよ。」
足利は即座に対超能力者用スタンガンを手塚へ向けトリガーを引く。
「あぁ、これか、あんたが常備してるスタンガンって。」
電撃を浴びてるはずの手塚はまったく顔色を変えずに突き出されたスタンガンを握り潰し破壊した。
手塚が悦に浸ってる隙をつき足利は蹴りつける。
手塚はそれを華麗に避けた、が。
「うわぁっ!」
手塚は足を引っ掛け頭から盛大にずっこけた。
「うっ、何をなさったんですか…?」
「何も。」
足利は両手のひらを上に向け視線を泳がせ煽り返す。
「なっ!?」
手塚は自身の靴の紐がほどけていることに気がつく。
「いつの間に…!!」
さきほど足利はコーヒーを置いた際に気づかれないように靴紐を踏んでほどいていたのだ。
「悪いが事務所の前に停めてあるあの派手な車、どうにかしてもらえないか。他の車の迷惑だ。」
「なるほど、僕を敵だと既に見破っていながら招き入れたのですね。」
この部屋には隠しカメラが25個仕込まれており証拠を掴むのに打ってつけなのだ。しかも全てのソファの足元は完全な死角となっており靴紐をほどいた瞬間は見えないカラクリになっている。この時手塚から先に手を出したようにしか映らないため正当防衛の主張が可能となる。ちなみにビル全体には300個を越えるカメラが仕掛けてある。
「目的はなんだ。」
「これは失礼、あなたの殺害に参りました。」
「これまた情緒が不安定なのが来たもんだ。」
「そう言ってられるのも今のうちでございます。」
すると手塚は持ち込んでいたアタッシュケースからチェーンソーを取り出しエンジンをかけた。
「あなたは"僕の能力"と違い痛みを感じるんでしたよね?あなたがどうすれば死ぬのかわからないのでとりあえず徹底的に痛めつけます!!」
足利を切りつけようとチェーンソーを両手に大きく振りかぶる。
しかし足利は両手を組み、自ら回転する刃に手を突っ込んだ。
「なにしてんの?馬鹿なんですか??」
チェーンソーは足利の手にさらに強く押しつけられるが、足利も力を込め続ける。
やがてチェーンソーの内部で何かが破損する音がした。
チェーンソーは動かなくなり手塚がエンジンをレバーを何度も引くもエンジンがかかる事はなかった。
「え、なんで?何したんですか!?」
「馬鹿はお前だ、チェーンソーで肉を切れるのは漫画の中だけだぜ!!」
そう言い放つと傷が治った腕で手塚を殴り飛ばす。
手塚の頭が玄関のドアに勢いよくぶつかった。
しかし手塚は怯む事なく一瞬で立ち上がった。
痛みを一切感じていないその動き方は気持ち悪さすらあった。
「うおおおおおりゃあああ!!!」
足利は間髪入れずに飛び蹴りする。
手塚は咄嗟にドアノブに手をかけた。
蹴りを交わす事はできなかったもののドアが開く反動で衝撃を吸収した。
勢い余って踊り場に体が乗り出した足利は足首を掴まれ体を階段に叩きつけられた。
「こいつ、外見以上に怪力だ!!」
足利は階段で前転し足を掴んでいる手塚の背中を叩きつける。
それでも手を離さないので反対の足で顔を踏みつけ無理矢理手を振り払った。
足利が体勢を立て直した瞬間、足利の顔にパンチが飛んでくる。
足利も負けじとカウンターを返し手塚の体がのけぞった。
しかしそれでも手塚は攻撃の手を止めない、足利も反撃を続けるがやり返すのがやっとといった様子。
足利は思考を巡らす。
「違う、怪力なんかじゃない!この野郎は本当に痛みを感じていないんだ!痛みで体が怯まないから力をいくらでも込め続けられるし攻撃の手も止まらない。スタンガンが効かないあたりどうやら気絶もしないとみた、こいつは相当厄介だぜ!!」
力と技術は完全に足利の方が上だが、手塚の痛みを感じないという能力は相手を殺さずに痛めつけるという足利の戦闘スタイルでは相性が最悪、それどころか相手の体力を分析しながら戦う足利にとって完全に番狂わせである。
手塚と足利は階段で殴り合いの末に屋上へ出た。
「うおおおおおおお!!」
足利が手を出す隙を与えないように殴りを入れる一箇所一箇所に気を使いながら得意のラッシュで手塚を後方へ追い込む。
「ゥオオオリャアァァァァァ!!!」
足利の全身全霊を込めたアッパーが手塚の顎を突き刺す。
そして足利は体を宙に浮かせ回転を始めた。
そう、これは足利の習得する超必殺技、双頭竜蹴撃の動作だ。
「お前にこの技が効かないであろう事はわかっている、だが出来る手段は全て使う!でなきゃ隠された真実は浮いてこない!!」
竜と化した右足が手塚の側頭葉へ激突する。
「うおお!?」
「入った!!このまま遠心力を纏った左足が当たれば、いくら痛みを感じなくともこいつの体は吹き飛ばされる!!」
そのまま足利の左足が手塚の頭を噛み砕こうとしたその瞬間。
「よっと。」
手塚は体を後方へのけぞらせた。
「なに!?」
空振った影響で遠心力を纏ったまま足利は盛大に背中から地面へ叩きつけられた。
「あっははははは!!言われたんだよね、竜の頭が見えたら一度食らってそれから避けろって!!」
「なんだと!?」
足利は困惑した。
「馬鹿な、双頭竜蹴撃の唯一の避け方をなぜこんな奴が知ってるんだ!?それを知ってるのはこの技を開発した先生と俺の2人だけ、これまでに人前で使ったのはたったの2回だけだし、池上がなんらかの方法でこの間石裂に使ったのを見ていたとしても1回見ただけでは絶対にこの避け方を見破る事は不可能!」
足利に大きな隙が生じていたにも関わらず、手塚は手を出さずに足利が立ち上がるのを待った。
足利が立ち上がると、手塚が話を切り出した。
「ねえ、足利さん。なぜ僕らにはこんな能力が宿ったんでしょうか。」
足利は手塚を睨みつけた。
手塚が背にしている方には復旧中のビル群が広がっている。
「僕は自殺したんです、会社の屋上から。しかしその際に僕の能力は覚醒してこのような不死身の能力となりました。死にたかっただけなのにできなくなってしまった。飲食も排泄も必要のない体になり生き続けてる。」
「………」
「まああなたは体がどんな重傷でも回復するという力のみでそれ以外は普通と変わりのない生活をしているみたいですがね。」
「………」
「怖いなぁ、そんなに睨まないでくださいよ。形は違えど同じ不死身の能力者同士、仲良くしましょう。」
足利は顔色を変えなかった。
「あ、いや、これは失礼、あなたにとってその力は"特別な物"でしたね、僕なんかと一緒にくくられると腹が立ってしまいますよね。」
「…」
「あなたはその力を、亡くなった"神戸宇月"様により与えていただいた物だと思い込んでるんですよね。」
「!?」
足利の目つきがこわばった。
「あっははははは!!面白い!この名前を出せばあなたが反応するって本当だったのですね!!」
足利は考える。
「こいつ、池上に"俺の事情"について吹き込まれていたのか。今までの刺客とはただの雇い主としての関係でしかなかったようだが、この手塚とかいうバカには少しだけ関係を踏み込んでいると見た。やはり俺への精神攻撃はあくまで続行という事か。」
「黙っていれば平静を貫けると思っているようですが、顔に出ていますよ。」
「ぐっ…!!」
「なんて虚しい人なんだあなたは、自分の失敗で1人の人間を死に追いやっていながらもそれを美徳とすり替えのうのうと正義をふりかざしている。死人に口無しとはまさにこの事!!」
震えていた足利の握り拳が動き出す。
「てめえ!!!」
流石の足利も我慢の限界を迎えたようだった。
「うっ…!!」
コーヒーカップの破片を手塚の喉に突き刺す、
しかし足利は振り払われた。
「だからねえ、僕は完全な不死身なのですよ。足利さん、あなたは基本的に超能力が発動に伴うデメリットを暴く事で超能力者を攻略しているようですが、僕はこの能力がある事そのものがデメリットなのです。つまり僕の能力に弱点はない、あなたに僕を倒す事はできないんだ!!」
「畜生が。」
「それに引き換え。」
手塚は自身の白いワイシャツに染み込んだ血を指差す。
チェーンソーを強引に防いだ際に飛び散った足利の血だ。
「あなたにはまだ血液が流れている、完全に死ねない僕とは違いあなたにはまだ死の可能性が残っているのでは?」
「…くっ。」
足利は手塚から目を離さずに少し俯く。
「この僕があなたを必ず葬って見せますよ。楽しみにしててください、大好きな宇月さんにもうすぐ会えるのだから。」




