第5話 足利流星
「本日0時頃、姫花の建物を複数破壊、ヘリコプターの強奪、電車の脱線など複数の凶悪テロを超能力によって引き起こし、約1200名の死傷者を出したとされる自称ボクサーの石裂威吹容疑者が逮捕されました。石裂容疑者は超能力者拘束用の特殊輸送車にて東京の特別刑務所へ送られる予定です。」
そこには石裂が夜の店で遊び呆けている写真が載せられているのみで輸送されている様子などは映し出されていなかった。それは超能力者の輸送方法は明るみにできないものである事を物語っている。超能力犯罪の出始めの頃は警察の対応をマスコミがネタにしていたがこの超能力問題は流石のメディアも笑えなくなるくらい悲惨な問題と化しており業界でもタブーとされているのだ。
「池上様、これは…」
秘書が尋ねる。
「やはり、戻って来なかっただろう?彼は。せめて頭がもう少し良ければ楽しく暮らせていただろうにな。」
「しかし、足利流星という男は映像や報告では徒手空拳…攻撃系の超能力や武器なしであの男までも撃退するとは…」
この秘書は池上の元に就いて日が浅いようで、足利にはあまり詳しくなかった。
「それだけ石裂威吹が弱かった…と言いたいところだが、私が首相を辞め裏で活動するしかなくなったのも足利流星、あの男のせいだ。それだけじゃない、2年に亘り警察と協力し超能力犯罪の取り締まりに貢献を続け私の事業にも悪い影響を及ぼしている。足利という男には生半可な潜在能力では補えないほどの戦いの経験と技術があるという事だ。」
「なるほど…しかしこうして刺客が捕まっても池上様の明確な消息が漏れないのは流石でございます。」
「ふふ…君に一つ教えようか、真実を隠すのは嘘ではなくもう一つの真実なんだ。」
石裂との戦いから夜が明けた、足利は朝ごはんの支度を終えエプロン姿で石裂の報道を見ていた。
そのテレビを見つめる顔は怒りとも哀しみとも、冷静とも取れるような感情が複雑であるが故に簡単な表情であった。
「足利さーん!おはよう!!」
おせちが3階の自室から降りてきた。
「おはよう。」
「あ、このニュースって…」
「おせちが気にすることじゃないさ。」
「で、でも…」
おせちはラックにかけられたコートを見つめて考える。
「すごいボロボロだ…足利さん、また戦ったんだ……」
足利はおせちがコートを見ていた事に気づく。
「ああそれ、後で捨てようと思ってて、コートの代わりなんていくらでもあるさ。」
実はこれ言葉通りでクローゼットに予備のコートが何枚もある、生々しい話をすると1枚千円もしないようなとても安っぽいコートである。戦闘でしょっちゅうボロボロになるためにストックしてある。それでもコートを着ているのは内ポケットなどに超能力者を相手にする道具などを仕込むのにちょうどいいのでコートを愛用しているのだ。
足利はボロボロのコートを手に取る。
「あっ…」
コートのポケットから熱でぐちゃぐちゃに変形したライターを取り出した。
「足利さんそれって。」
「昨日の戦いでこんなになっちゃったみたい、でもこれがなければ俺はどうなっていたかわからない…これに以前も救われたんだがな…」
「大事なモノ?」
「あぁ、とても…」
そう、このライターは足利の死んだ父、足利竜巻の遺品でもあるのだ。
それだけでなく実はこの足利探偵事務所も元は足利竜巻が設立、経営していたものである。
おせちも足利の心情を察ししょんぼりした。
「ごめん、朝からこんな雰囲気にしてしまって。」
「で、でも無理ないよ。」
おせちはテレビに目をやる、そこには石裂が破壊した姫花の街の一部が生中継されていた。
「あんな事する恐ろしい人と戦ってたら…ね。それも何度も……」
「おせち、お前が気負う必要はどこにもない、池上を倒す事、超能力者が生まれる連鎖を止める事、そしてお前の記憶を取り戻すためにはまだまだ戦いは続くかもしれない。でも俺は辛くないから大丈夫。俺は信じるもののために戦っているから…」
「足利さん…」
「大丈夫、いつか必ず池上を表に引きずり出して隠蔽されたお前の身元や家族も突き止めてみせるから。」
足利は微笑みかけた。
「うん…ありがとう…!」
それから足利とおせちは朝ごはんを食べ、おせちの方が一足先に早く家を出た。その5分後に足利も探偵業のため事務所を後にした。
姫花高校までの通学路にて、大久保は昨日の夜の事を考え込みながら歩いていた。
「足利さん…初めて会ったあの時から只者じゃないとは感じてたけど、あの人は本当になんなんだ…?柿原と暮らしてるっぽいし、超能力は持ってないっぽいのに無駄に強いし…最近この街に来たみたいだし謎が多すぎる…」
池上透と足利一派の攻防を知らない大久保にとっては確かに足利は足利で怪しく感じるのも無理はない。
ちなみにおせちは同居してると言ってもビルの3階の空き部屋に住んでいるのでプライベートは守られており、おせち自身足利に好意的なのでご安心を。ちなみにおせちの生活費は長島が出してくれている。
すると大久保は道路を挟んだ向こう側に親友の伊豆を発見する。
「ん?あれ、伊豆だ。おーー…はぁっ!?」
大久保は気づく、伊豆は足利と話していたのだ。
「なんだ…?何を話してるんだ…?」
伊豆と足利は何やら楽しそうに会話している。
しかしどんな内容なのかは車道を挟んでいるため聞こえない。
「なんで楽しそうなんだよ、あの2人って接点あったの…!?」
それから大久保は伊豆には声を掛けずに一人で早歩きで学校へ向かった。
伊豆が教室に着いた頃には大久保はすでに自席についてきた。
「おはよう大久保!!」
大久保は考え込んだような表情だった。
「………………」
「あれ、大久保?」
「…………おはよう。」
「どうかしたか?」
「別に何もないから!」
「はえーーーー。」
伊豆は物分かりが良いのか大久保の感情に興味がないのか詮索する事なく自席へ向かった。
しばらくするとこの2-2の教室に隣の2-1の女の子がおせちの元へ押しかけて来る。
箱根や品野とはまた別のおせちの友達のようだ。
おせちは高校2年にして転入という物珍しさで近寄って来る変わり者も多いとか少ないとか。
「柿原さーん、見て見て見て、昨日の夜"幕内我立苦"くんのライブのチケット取れたの!!」
幕内我立苦とは、今中高生に大人気の男性ソロアイドルである。
「わあ、昨日言ってたあれ?無事に取れたんだ!よかったね!」
「あのさ、よかったら一緒に行かない?」
「……え、他の子と行く約束って言ってなかった?」
「それがさー、アイツ昨日の今日になって急にこの日はバイトで無理だったとか言い出してさー。だからほら、ほら…!!お金いらないから…!!一緒に行こうよ柿原さん!!」
「わ、悪いよ。そ、それに…」
「いいからはい!!」
おせちの握り拳にチケットをぐりぐりと手に押し付けられる。
「あ…」
おせちは受け取ってしまった。
「絶対楽しいから!!ばいばい!!」
「う、うん!!」
「ふわぁ。」
おせちがあっけに取られてるといつものメンバー、箱根と品野が声をかけてきた。
「受け取っちゃったんだ…布教だね。」
オタク的目線で意見を述べる箱根。
「いらないならちゃんと断らないとダメじゃん。」
バッサリと言い切る品野。
「いや、いらないなんてそんな。」
「じゃあ欲しかったの?」
「え…?別に欲しかったわけじゃ…アイドル興味ないし…」
「それ、いらないって事じゃん。捨てちゃえ。」
正論である、といっても捨ててもおせちを責めるものはいないだろう。
「だ、だけどでも…」
「捨てちゃダメだよ。」
別方向からの意見がおせちを無意味にかき回す。
「チャンスだよ、新しいジャンルに手を出す、チャンス。私は3次元の野蛮な男なんか興味ないのだけれども、おせちちゃんもオタクの世界を知ってもいいんじゃない?」
「あ、アニメくらい私も知ってるもん…」
「オタクって誇るものなの…?」
「もー!とりあけずこれは受け取るけど、行くかどうかは自分で決める!」
「…そうだね、おせちちゃんのことだもんね。」
「あんたがそう思うならそうしたら、いいんじゃない。」
意見は違えど仲は良い。
そんなやりとりをまたも伊豆は眺めていた。
その後昼休み、いつも通り大久保と伊豆は一緒に昼食を取っているため机をくっ付けて食事をしていた。
「…なあ。」
会話を切り出す大久保。
「お前、今朝足利さんと何話してたんだ?」
「アシ…カガ…?誰?」
「あ、名前知らないのか…」
「えーっと…黒いコートを着ていて髪の毛がボサボサの二十歳くらいの男の人だよ。」
「そんな人いっぱいいるからわかんねーよ。もうちょっと他の特徴ないの?」
「た、確かに。あー…そうだ!目が死んでる!!」
「あ〜!あの人か!!」
なぜそこで気がつくのか。
「いや〜良い人だったねー。」
「何かあったのか?」
「聞いてくれよ、今日の朝、自販機でジュース買おうとしたらうっかり財布落としちゃって風でカードが散らばっちまったんだよ。」
「カードってポイントカード?」
「ショーブオーカード。」
ショーブオーカードとは幅広い世代に大人気のトレーディングカードゲーム。
「…ごめん、財布を落とした事とショーブオーカードを落とす因果関係がわからない。お前は財布にカードゲーム入れてるのか?」
「うん。」
「そりゃ散らばるわ…」
「そしたら、その、なんだっけ、アシダさん?」
「足利。」
「足利さんが全部拾うの手伝ってくれたんだよ。」
「まずデッキを財布に入れるなよ。」
「そしたら足利さんが言ってきたんだよね、俺もショーブオー好きだって。」
「え、あの人ショーブオー好きなの?」
「第3シリーズまではリアルタイムで全話見てたんだって、すげーよな、それだけでも1000話近くあるってのに。ちなみに初代が好きらしい。」
「それで?」
「最終決戦の殴り合い泣けるよなって話したんだ、大久保はショーブオー見てた?」
「うーん小学生の頃ちょびっとやってたけどアニメは観てなかったな。」
「じゃあ簡単に説明すると、主人公とライバルが世界大会の決勝戦で長年の因縁に決着を付けるための勝負をするんだけど、カードゲームじゃ引き分けになり決着が付かなくて最終的に両者はカードを叩き捨てて直接殴り合うのよ、絶対に決着をつけないとお互いその後の人生を生きられないって思ってその尊厳をかけてお互いに涙を流して血を垂らしながら殴り合うのがほんと泣けるんよ。」
「あー、その衝撃展開は有名だよな。」
「そこは流石に知ってるんだ。」
「うん。」
「あはは。」
「…おいそれだけ?」
「そうだよ、むしろ何を期待してたんだよ。」
「はー、心配して損した。」
「さっきまでのあれは心配の眼差しだったのかよ。」
大久保はへたれこんだ。
「足利さんって、本当になんなんだ…?」
足利は丸一日かける予定だった依頼が午前中で全て済んでしまい缶コーヒーを飲みながら住宅街の外れにある高台の公園のベンチから石裂威吹によって一部が破壊された姫花の街を眺めていた。
今日の依頼が早く済んだというのも、浮気調査の予定が操作対象の人間が昨日の一件によ予定の一部が急遽無くなり正午に自宅へ帰った事で調査の必要がなくなってしまったためである。
足利はただ物悲しげに街を眺めていた。
すると後ろから急に強くて肩を叩かれた。
「ここにいたか流星くん。」
「うわっ!?」
足利の肩を叩いたのは足利の協力者、長島何時希だった。
「本当は明日の予定だったけど、今日来ちゃった。」
「そんな!まずいですよ!あなたも狙われてしまう!いやすでにもう…」
「君が心配だったんだ。」
「長島さん…」
それから長島は一度席を離れ自販機でペットボトルのいちご牛乳を買うと再び足利の元へ、一人分の間を空けて隣に座った。
すると長島は声をかける事もせず、ただいちご牛乳を少しずつ飲んだ。
先に沈黙を破ったのは足利の方だった。
「俺は何もできなかった…」
長島は足利に顔を向ける事なく、街を眺め続ける。
「これまで俺と長島さんで調査をしてきた結果と、おせちが俺に送ってきたビデオなどの物的証拠を下に俺はこの姫花に事務所を構える事を決意した。だけど、そのせいで…」
「わかってます、必ず超能力の原因を突き止め負の連鎖を止める、そのためにずっと戦ってきた。だけどこんな…巻き込まれた1200…いや、正確にいえば今確認できてるのは278人の死者と956人の負傷者、それだけじゃない、その家族、友人、1人の自分勝手のせいで他の人の人生に取り返しのない傷を与えてしまった。どうしても考えてしまうんです。もしも俺がこの街に来なければ池上の野郎はあんな奴を送り込んでこんな事には…」
「違うよ。」
長島はついに口を開く。
「人の気持ちを考えるのはとても大切だ、だけど今、僕達がするべき事は調査を進める事だ。この街の調査は君だけでなく僕の考えでもある。」
長島は足利の目を見た。
「戦う事を選んだ以上、正しいと思う道へ向かっていかなければない。それが正義だ。だけど1人で渡る必要はないんだ。いつだって君は僕を頼ってくれていいんだよ。僕は君と戦う事を誓った身だからね。」
「それに池上はきっと君にそう思わせるためにヤツを送り込んできたんじゃないかな。奴のよく使う手立てだ。一つの物事を隠す為、別のものに注意を逸らそうとする。上塗りの真実は簡単に剥がれるとも知らずに。いや、気づいていてもなお楽な道に逃げてるだけなのかも。」
「ありがとうございます、少し楽になった気がします。」
「礼を言うような事じゃないよ、むしろいつもよく戦ってくれてる。僕の方が君に感謝しないと。」
「それで、そっちの調査はどうなんですか?」
「あぁ、うん。ほんの少しずつではあるけど進展はしてる、先週なんかは池上一派の新たな麻薬の密輸ルートを3つ同時に潰した。肝心の池上の潜伏先については捕まえた手下達の証言を元に捜査を進めてるよ。」
「それならよかった、ただ俺の方はアレについてまだ何も掴めていません。」
「その事については役に立つかはわからないけど掴んだ情報があって、流石にここじゃまずいな…このあと空いてる?」
「大丈夫です。」
「じゃあ移動しようか。」
「おー、これが新生足利探偵事務所か、すごくいいね!」
足利はカーテンとブラインドを閉める。
盗聴器も念入りに確認し、安全が確認されると本題へと移った。
「国会図書館でやっとそれらしいものを見つけることができてね。これを見て欲しい。」
長島は机に資料を複写したプリントを広げた。
「これは…?」
「こっちは1930年頃のここら一帯の地図。」
そこには畑と小さな集落が示されてるのみだった。
「そしてこれは終戦後、1945年の12月頃のだ。」
「な、なんだこれは…!」
「そう。この街、姫花は元はただの農村だった、しかし戦争が終わると急に都会へと変貌を遂げたんだよ。畑なんて見る影もないようなね。」
「たった10年あまりでここまで変わるなんて。」
「しかもよりによって戦時中にこんなに発展が進んだなんて、いかにも怪しいよね。」
「この記録、本物ですか?」
「僕が調べた限りでは本物といってもいいと思う、なにしろ君も知ってる通り姫花に関する記録は他に全くない、その理由が戦時中になにかよからぬ事を企んでいた事実を隠蔽する為だとすれば辻褄も合う。」
「外部に知れたら本当にまずい事、でしょうか…」
「まあこれだけでは確信的なことについては何もわからないけどね。」
それから足利と長島はこの街や姫の花という装置について様々な考察を話したが、物的証拠があまりにも少なく水掛け論にしかならなかった。
これまで開拓の記録が一切残ってなかった姫花の街に関する資料を発見できただけでも大きな進歩だが、悪くいえばそれ以上の事はまだまだ謎のままだった。
2人は姫の花がそれほどまでに不鮮明な存在だと改めて認識した。
「そうだ、最近おせちちゃんはどう?高校では上手くやれてる?」
「楽しそうです、友達も何人かできたみたいで。」
「それならよかった。」
おせちを高校に通わせる事を提案しその手筈を進めたのは長島だ。幸いおせちはバリアという自衛に使える超能力を持ち合わせている、高校に通い様々な人と関わる事でその人達におせちの存在を印象づけさせれば、おせちが殺され、その事実が隠蔽された際に普通の女子高生が謎の失踪を遂げたとなり余計に周りに怪しまれる事態になってしまう。池上もそれを避けたいはず、池上にとって殺すより泳がせた方が都合がいいという状況を作る事がおせちの身の安全に繋がる、そして記憶も記録もないおせちの孤独感を少しでも紛らわしてあげたいと考えたためだ。
「おせちちゃんって記憶を失う前は何をしてたんだろうね、まだとても若いのに裏社会の研究者をやってたなんて想像もできないよ。」
「他の人に対してはわかりませんが俺に対しては結構明るいんですよね。ビデオで見せていたあのような顔を一切見せないんです。」
「きっと、記憶を失う前の彼女にしかわからない悩みがあったんだろうね…」
「みんなもニュースで見たと思うけど、昨日の夜大変な事件があった、これもまた超能力者によるものだそうだ。」
2-2の担任、風音がホームルームで生徒に話をする、超能力問題は教育界の間でも避けては通れない道とされてるほど社会に多大なる影響を与えているのだ。
「最初の超能力者、池上元首相の息子である池上茂夫が能力の悪用を公に晒してからというものの次々と超能力を持つ人間が発生し犯罪に使っている、肝心の超能力者が発生する原因は未だかつて一切不明。もしかしたらお前達に超能力が宿る可能性も0とは言い切れないわけだ。いや、もしかしたら既に持ってる子もいるかもしれないがもしそのような力が宿っても絶対に悪用しちゃダメだからな。その時は俺が引っ叩く!!」
教室内がざわつく。
「嫌な話だよな、かつて超能力ってのは夢のようなものだったのに実際に現れるとこうも悲しい事件ばかりが起きる。ただでさえ生きづらかった世の中に新たなる問題が課せられてしまった事でみんなも色々大変だと思う。何かあったら真っ直ぐに俺に相談してくれ、俺はみんなの先生だからな。」
「ったくもー、話長いんだよな。帰ろ帰ろ。」
品野を先頭におせちと箱根も教室を出ようとする。
「おい柿原!!気をつけて帰るんだぞ。」
「うん!」
風音は右手ををぐっと広げ、おせちだけでなく品野と箱根にも挨拶がわりに力強い視線を送った。
おせち転入の際に他の先生達が渋っていた中で彼女の担任を務めると快く勝って出てくれたのも風音である。
大久保とは2年目の付き合いであり付き合いきれないと感じる生徒もいるが彼を尊敬している生徒も少なくはない。
「え、本当にこんなの貰っちゃっていいんですか?」
「遠慮しないで、僕達にできない事を普段やってくれているせめてものお礼だよ。」
長島が見せたのは多機能電動バイク"トライエクスサイクロン2015"である。
白くてピカピカのボディに緑のアクセントが入ったとてもおしゃれな代物だった。
昨日の激闘にて足利のバイクが爆破した事を聞き新たなマシンを調達してくれたのだ、長島は調査の足がなくなっては困るだろうと思い予定より早く足利の基を訪れたのはこれをいち早く渡す為もあったのだ。
「電動な上に特殊な装甲でできてるから頑丈な上に普通のバイクより引火による爆発の危険性がうんと低い、最大時速は1000km、他にもこの緑のラインや車輪がLEDで発光したり様々な機能が付いているんだ!」
このトンデモマシンは超能力者に対抗するべく新たなる白バイのアイデアを上層部に提案する為に長島の同僚が試作したものである、上層部の危機感を煽り警鐘を鳴らす事には成功したが量産はいくらなんでも無茶すぎるという事で却下されたのだ。
「草木くん達にはわけを話してあるからこの街の中なら遠慮なく使ってくれ。まあどうやって取ったのか僕にもわからないけどナンバーもついてるし目立ちはするけど外で使っても大丈夫だとは思うけど。なんかあったら僕がどうにかするから!さ!!」
「そんな、悪いですって!」
「いいからいいから!!」
足利の手を引っ張りハンドルあたりに設置された指紋認証機に足利の指紋を無理やりくっつけた。
「このバイクは鍵じゃなくて指紋認証なんだ、すごいだろう。」
「は、はぁ…」
「あ、それと、君が前のでスタンガン仕舞うのによく使ってたって言ってたメットインスペースもちゃんとあるよ、ヘルメット4個分収納できる大容量、まあこんなの他の機能に比べれば地味もいいとこだけど。」
「おぉ…!超すごいですね!!気に入りました!!ありがとうございます、使わせてもらいます!!」
「それならよかった!!」
「ただいまー!って、あー!長島さんだ!!久しぶり!!」
「おせちちゃん、久しぶり。元気してた?」
「うん!長島さんのおかげで楽しく学校通えてる!!」
「それならよかった…はいこれ、現金。」
「きゃー!?」
「後で開けてごらん。」
もはや親戚のおじさんである。
長島はおせちに現金を渡すと掛けていたコートを取った。
「じゃあ僕はそろそろ帰るね、2人とも何かあったらすぐ僕に相談するんだよ。」
「いつもありがとうございます。」
足利は深々とお辞儀をした。
「いつもありがとう!また来てね!!」
長島はタクシーで帰って行った。
「長島さん、元気そうでよかったぁ。」
「そうだな。」
「あ、ねえ聞いて、今日さ友達にライブのチケットもらったんだけど…」
人気のない工場跡地にタクシーは追突していた、ガタイの大きな運転手は池上の刺客だったのだ。
刺客は事故で軽く傷を負っていた。
「長島何時希、やはりあんたが足利の協力者だったんだな。」
「だからなんだ。」
「池上様について探ってる仲間の名前を全員言いな、さもなくば…」
「興味ない。黙れ。」
「答えれば命だけは見逃すつもりだったんだがな…!!」
刺客は感電防止手袋を外すとその手からはバチバチと稲妻が走っていた。
刺客の猛攻を長島は全て避けた、攻撃は1ミリもかすらない。
「こんのーーー!!!」
「ぐふっ!!」
長島はみぞおちに電撃パンチを食らってしまう。
「隙あり、死んで貰うぜ!!」
刺客は長島の首に手を伸ばす、すると。
「があぁあ!!!」
伸ばした腕にどこからか銃弾が打ち込まれた。
「ぐわあああ!!!クソォォォォォ!!!!」
打たれた方の手からは電流が止まっていた。
「ぎゃあああああ!!!!」
もう片方の腕も打たれ両方の手から電撃は止まった。
「7時25分、超能力使用による殺人未遂で現行犯逮捕する。」
長島は手錠を掛けた。
長島は片耳につけた小型ワイヤレスイヤホンで通信をしていた。
「長島さん!大丈夫ですか!」
長島の部下と通信している。
「大丈夫。ありがとう、君のおかげで助かった。だがまだ他にも刺客がいるかもしれない、くれぐれも気を抜くな。」
「はい!!」
長島は自分が狙われると予測し、1人で来ていたと思わせて事前に姫花に送り込んでいた部下に遠距離から監視してもらっていたのだ。
「ねえ見て足利さん!5万円も入ってる!何買おうかな!!?」
「…よかったな。」
「うん!!」
「がはぁっ!!!」
工場を囲う塀の端に追いやられた刺客の並びに手錠を掛けられたまた別の刺客が投げ込まれた。
捕まった刺客達はどれも手や足など急所を外したところが銃弾で撃たれ、手錠を掛けられながらも反撃をしようとしたのかボロボロになっており、ギリギリ意識は保っているものの反撃の気力は残っていなかった。
しかし長島は服にすら傷一つついていなかった。
遠距離から部下に支援をしてもらうこの手は超能力を持たない長島達が超能力者に対抗するべく考えたもので、長島の戦闘能力と部下との連携なくてはなし得る事のできない作戦だった。
長島が刺客達に歩み寄ると、刺客達は震えだした。
「迎えが来るまでしばらくかかる、署に着いたら池上について知ってる事全て話して貰うぞ。」
おせちが自室に戻った後、足利は壊れたライターを1人眺めていた。
大雨で視界が悪い中、必死に走った。
少年のワイシャツが雨水で濡れていく。
何かが起きた方へ、人が逃げてく方向と逆の方へ、大量の火災報知器のなる方へ。
少年は走った。
向かった先へ着くと、少年はコートを着た男の後ろ姿を見てホッとする、視界が悪くても誰なのかわかったのだ。
しかし男は膝から崩れ落ちて倒れる。
「父さん!!!」
少年は駆け寄って男を抱きかかえる。
「父さん!!おい!!しっかりしてくれよ!!」
しかし声は届かなかった、激しい雨音は少年の泣き叫ぶ声を無慈悲に塞ぐ。
「父さん!父さん!!!」
少年は激しく揺する、しかし男は目を覚さない。
雨の勢いが弱まり視界が遥かに良くなる。
しかし雨は止まない。
すると少年は目の前にまた別の男が立っている事に気づく。
その男は笑っていた、少年が泣き崩れた姿を見て楽しんでいるようだった。
本当に面白がっていた。
少年はそれを見て涙が止まった、体が動かなくなった。
笑っている男と目が合った、
その男は再び笑うと、背を向けて歩いて立ち去った。
その足取りはまるで遊び帰りの如く軽かった。
少年は男が見えなくなっても固まったままだった。
その直後どうなったのか、足利は覚えていない。




