第4話 力の果てに
足利はソニックブームと名乗る石裂威吹という男と燃え盛る姫花の街を背景に対峙していた。
「……………………」
足利は何も言わずにただ石裂を睨みつける。
「今のラッシュ、なかなかいい線行ってるじゃん。」
「……」
「素人にしてはな…!!!」
石裂はまたも人では認識できないスピードで足利に距離を詰め始めた。
「ぶはッ!!」
しかし足利はルートを見切って拳を突き出し石裂の顔面を打撃する。
「ふふっ…ははは…!!」
石裂は音速状態から体勢を崩してその場でよろけながらも笑う、それを足利何も言わずに睨みつける。
そして石裂は一度肩の力を抜き、スッと両手を顔に構える。
「あんたがその気ならこっちも普段のスタイルでやらせてもらうぜ、手加減は無しだ。」
「俺も本気だ、しかし遊びじゃない。」
「言うねぇ」
石裂は構えながら全身を両側に振りつつ足利に近づく。
石裂が軽くジャブを数発打つが足利無駄のない動きで全て避ける。
足利はジャブとジャブの間を突き回し蹴りからの肘打ちでカウンターを決める。
石裂は足利の動きの分析を始めた。
「足利と俺の体格の違いを理解した完璧な間合い、どの方向からどう襲われても柔軟に対応できるあの構えは警察護身術かな…」
足利は表情を一切変えない、極めて冷静な表情だがどこか怒りも垣間見える目をしていた。
「しかし所詮は護身術、殺り合いに関してはこっちに部があるぜ!!」
石裂は再び距離を詰め細かい動きで全体重を乗せた連続アッパーに加え下向きに叩きつけるパンチでのコンボを放った。
「なっ……!!」
しかし足利は全て腕で払い除け、距離を詰めてきた事を利用し石裂を背負い投げた。
「ぐっ…!!」
石裂は受け身を取り倒れずに構え直す。
「空手と柔道を使い分けた、しかも喧嘩的な使い方ではなく技の効果と使うべき状況を理解した上での動き方だ。まあしかしそれくらいなら素人にしては中の上ってレベル、この戦闘スタイルは警察関係者にでも教わったのかなぁ??」
石裂の攻めはさらに激化、石裂の動きもまた無駄がなく一般人どころかボクシング経験者でさえもダウンを取られてもおかしくないほど容赦のない攻めを繰り返す。次のパンチを打つまでのラグがどんどん短くなる激しいラッシュに流石の足利も弾くので精一杯だった。そしてそこへ、
「!?」
音がせずとも見ているだけでスパンと聴こえてくるようなプロさながらの綺麗なアッパーが足利のガードを弾き飛ばす。
「!!!!!」
「ふんッ」
さらに打ちやすい独特な体勢を整えた石裂は音速右ストレートが足利の顔面にめり込み、骨を砕く。
「どうだい俺の必殺技は…これをやられて倒れなかったヤツは誰1人としていねえ…!!」
だが足利は石裂の感じているであろう達成感の隙をつき顔面へ右ストレートをやり返す。
「うおおっ!?」
「おおおおおおおおお!!!!」
足利は石裂の顎を蹴り上げそのまま頭を落とした状態で体を回転させながら蹴り続ける。
「右ストレートからのカポエイラだと!?コイツまさか複数の格闘技を状況によって使い分けられるのか…!!??」
さらに足利は回転の勢いで右フックをぶつけ縮んだ間合いを利用し高速で回転する歯車のように小刻みな連打で攻め落とす。今度は石裂が手を出せない。
「今度は中国拳法かい…それにさっきの右フックは完全に側頭葉を狙って来やがった…流石に効いたぜ…"力"のおかげで俺は常人よりはるかに身体が頑丈になってるおかげで気を失わずに済んだが無機質な表情に反してなかなかにハングリーな攻めをして来やがるなコイツ…だが能力が無ければダウンしていたのはお前も同じはずだぜ足利!!!顔面を先に砕いたのはこっちだぜ!!!!」
石裂の動物としての本能と曲がりなりにも格闘家としての闘志が心と体にエンジンを蒸す、先程とは比べ物にならない重さとスピードのラッシュで応戦した。
格闘家として数々の獲物を葬り、地下ボクシングを始める以前の記憶が思い出せないほどに拳に取り憑かれた石裂。2年前から数々の超能力犯罪者と戦ってきた足利。方向は違えど戦闘経験の濃度はほぼ互角である事はこの殴り合いを目の前にすれば明らかだろう。
しかし適応力で言えば足利の方が一枚上手だった。
「うおおおらあああ!!!」
「ぐびがァ!!!」
空中で横向きに一回転する事で重力を利用し両足で2連続で相手の顔面を打ち付ける足利の隠れた必殺技、双頭龍蹴撃が石裂にクリーンヒットする。この技は一回転する関係上放つまでに時間がかかるため大きな隙ができてしまう、破壊力は絶大だが本当にここぞという時にしか使えない技だ。地下ボクシングのチャンピオン相手にこれを繰り出す隙を作る事に成功したのは足利の戦闘経験の賜物だろう。双頭龍蹴撃は完璧に会得し綺麗に決まるとその美しさからドラゴンの顔が2頭見えるという事から名付けられた技である。基本的には人に知られてはならない禁じ手だが見様見真似は不可能なため足利は出し惜しみをしない。
「うっ……」
しかしそれほどまでの強力な必殺技が当たったにも関わらず足利にはまるで手応えが感じららなかった。
「うひ…ふひひひひひひ…」
石裂は強打の影響で顔が見えないくらいに下を向きながら不敵な笑いを闇夜に響かせた。
「………っ。」
足利は冷や汗をかいた、というのも超能力者というのは交戦的で暴力に身を委ねている人間が多く足利はそういう人間と何度も対峙して方がそれを踏まえても石裂が極めて不気味だったのだ。
石裂は超能力の恩恵からか常人よりはるかに身体が頑丈になっているがそれはあくまでおそらく超能力を発動するための副効果的なもののようでありそれなりに負傷はする模様のようだが、顔を下に向け足元もおぼつかない状態でも腕はずっとボクサースタイルに構えたままだったのだ。
どんなに激痛の中でも、意識が絶たれようとこの石裂という男は戦いをやめない、足利はそう悟ったのだ。
足利は向こうの出方を見る事に作戦を切り替え構えを警察護身術に変える。
「楽しいねぇ…面白いなぁ、不死身の能力ってやつは。死なないだけじゃなくて怪我が一瞬で治るんだ。」
石裂の言葉を聞き足利は思った、やはりこの男も池上透の刺客かと。
池上透、石裂威吹は共に裏社会に精通があるが足利はあくまで探偵業と警察では対処しきれない超能力者の取締をしているのみで裏社会で有名なわけではない、それに加え池上にとって足利は都合の悪い存在であり裏社会で活動する上で因縁を知られるのは信用に関わるため足利の名が広まる事があれば真っ先に止めにかかるのは池上の方だろう。
すなわち足利流星という名前と不死身の力の両方を知っているとなると池上に雇われた刺客の可能性が限りなく高いということになる。
「オラオラオラオラァ!!!」
「ッッ…!!!」
石裂の激しいラッシュを足利は無駄のない最短の動きで防ぎ続ける。
「やっぱこの程度なら防げるか、そろそろ"力の片鱗"を浴びせてやるぜ!!」
「なっ…!!!」
石裂の放つ拳のスピードが段々と上がり、やがてはさっきの音速右ストレートと同じスピードと破壊力のパンチが槍の雨の如く足利に降りかかり始めた。
「くっ!!!!」
足利は一方的に後方へ押されるもなんとかこれまでの戦いで培ってきた技術でガードを続ける、ガードした腕の骨に幾度となく亀裂が走るがその問題も足利の超回復能力で補う。しかし痛みまでもを無効化する事は不可能なため技術面でも精神面でも同じ力を持っただけの常人になせる技ではないだろう。
いくら音速で飛んでくる拳といえど、それが人間の拳である以上は軌道の幅に限界がある、足利はその軌道を瞬時に的確に予測し腕を動かす。
そして足利は反撃をする。
「ばぐファッッ!!!」
石裂のパンチのリズムがほんの一瞬、コンマ数秒のズレを足利は感知し体を前方へ踏み込むと同時に肘を石裂の鼻元に突き出したのだ。
常人より頑丈とされる体を持つ石裂といえども音速の勢いに乗せられ急所を突かれるとただでは済まなかった。
鼻血が石裂の顔面を滴り落ちる。
「くぃーひっひっひっひっ、その体勢からエルボーとはな!やっぱり面白いよあんた!!」
石裂は焦点が定まってないにも関わらず笑い続ける、心の底から暴力を楽しんでいるようだ。
一見は足利が押しているようにも思える状態だが足利は防御体勢を決して解かなかった。
というのも、さきほどからずっと足利の中で"妙な違和感"がついて離れなかったのだ。
石裂が超能力を使っている事は誰の目にも明らかである、しかし石裂の"能力"は"超能力の特性"が見られないのだ。
超能力は基本的に発動条件やデメリットが必ずある、そしてそれが強力なら強力であるほど比重は大きくなる事を足利は痛いほど知っている。
それはまさに"柿原おせち"のことだ。
彼女の持つ超能力は"自身の周りに超高エネルギーで構成されたバリアを張る"事ができる、このバリアはどんな衝撃にも耐えるほか物にめり込ませるようにバリアを張れば"コンクリートすら砕く"事ができるというこれまで確認された超能力の中でもかなり強力である。
だが強力な分、超能力を持っている事によるデメリットもまた大きい。彼女の抱えているデメリット、それは自身の個人情報についての記憶が全て欠落しているのだ。
おせち、彼女は元首相の池上透が裏で進めていたなんらかの計画に関与していたのは確かである、その証拠に身元不明で警察署に保護された際に彼女の持っていた表社会には流通していない何かのIDカードに記載されていた柿原おせちという名前と貼り付けられていた彼女の写真から彼女がおそらく柿原おせちという名前の人物であろう事は推測できる。だがしかし柿原おせちという名前の人物が戸籍に登録されていないほか彼女の顔や指紋に一致するデータすらも警察内部からでも調べる事ができず彼女がどこで生まれ何をしてきたのか全くの不明なのだ。これは池上透が自らの悪行を特定されないために裏で根回ししているせいである。その上で彼女自身も記憶を失っているとなると彼女は"自分について何も知る事ができない迷宮"に閉じ込められているのである。それは個人を保つ為には大変なデメリットであり、彼女が握っていたであろう超能力者が次々と生まれる現状を打破する事ができるかもしれない、この街のどこかに隠された"姫の花"と呼ばれる何かを探す手がかりすら無くなってしまい周囲にも大変な損害が起きている。そう、強力な超能力を持ってしまうとそれに伴うデメリットが本人にのしかかってしまうのだ。
しかし石裂威吹はどうか、彼の能力は特定はできていないが彼の発言や行動を見るに"限りなく音速に近い速度で行動する事ができる能力"であろうことは確かだが"その発動に伴うデメリット"というものは確認できていない。彼の発言から記憶喪失のようなそぶりも見られない。それどころか石裂の体が足利のような超回復力はないものの音速に耐える為に常人より体が頑丈になっている。足利の急所をついた攻撃をくらってもなお笑っていられるのはそれが原因だろう。副作用として体が頑丈になる能力者も時々はいるのだがここまで強力な能力を持ちながらもデメリットが全くないかのように余裕を見せる者は見た事がなかった。
そして更なる違和感は石裂の余裕である。
戦いに狂っているのは確かだが追い詰められている事を楽しんでいるという余裕とは違うように足利は感じるのだ。
何か更なる隠し球を持っているかのような精神的余裕ではないかと足利は推測した。
「お前になら俺のもう一つの力を使ってもいいかもな!!ふふはははは!!!」
「なに!?」
足利は動揺した、もう一つの力など本来はあり得ないのだ。しかしこれまでの石裂の余裕さやこれまでに見たことない性質の能力などを鑑みると石裂の奇妙な余裕の源としては納得できる。それ故に恐ろしいと足利息を飲んだ。
「喰らえ!!」
「くっ…!!」
足利は身構える。
足利は石裂を凝視するが石裂は手をポケットに突っ込んでニヤニヤしたまま何かをする様子はない。
足利は足元の影がどんどん広がっている事に気がつき上を向く。
「これは…!!??」
そこにあったのは信じられない光景だった。
頭上には無数の車が足利を目掛けて落下してきていたのだ。
正確には6台の車が落下していたのだが足利にはまるで無限の数に見えた。
いくら超回復の力を持つ足利でも恐怖に一瞬震えた。
しかしそれの恐怖はこんな攻撃手段を持ち、それを他人に実行するろくでもない心を持つものがこの世に存在しておりそれが目の前にいるという事実に対する虚しさからくる恐怖、決して足利の心が屈したわけではない。
「ぐっっ!!!!!」
「あっひゃひゃひひゃひゃ」
6台の車が足利にのしかかるように地面に叩きつけられた、石裂はその絵面を楽しんでいる。
「ぬおおおおおおおおおお!!!」
しかし落下して10秒ほどで足利はのしかかる車から脱出した。
超回復の力を利用し腕で車を持ち上げるように押さえ続け体が押し潰されるのを防いだのだ。
腕が折れ筋肉が千切れても力を信用しのしかかる車を押し上げ続けたのだ。
足利は石裂に距離を詰めると殴りかかった。
しかし拳は当たらない。
石裂は拳が当たる瞬間音速で距離をとった。
そして再び見上げるだけじゃ正確な数を把握できないような複数の車が足利の頭上から落ちてくる。
「ぐはっ!!!」
「ひぃーーひゃっひゃひゃひゃひぃーー!ひぃー!」
しかし足利は今度は5秒もしないうちに車の山から脱出した。
車が地面に接触しない位置を瞬時に予測しその位置に移動する事で逃れたのだ。
足利のパンチを石裂は再び避ける、そしてまた足利の頭上から40台の車を落下させた。
だが足利は再び5秒もしないうちに車の山から脱出し石裂の元に走り出す。
今回は足利は力押しで脱出した、足利は自分が朽ちない事をわかっている、いくら傷つこうが石裂を目掛けてただ走り続けたのだ。
「すごいなぁ、流石に不死身の能力を持っているのだからこの程度の攻撃は耐えてくれるだろうと思ってたけど予想以上に早く脱出してきたね。ならば次はこうだ!!」
石裂は足利を追いかけるように1台ずつ車を異空間から落とし始めた、足利はジグザグに走ってそれを逃れる。
石裂は時々3台落とすなどをして足利の逃げる様子を楽しんだ。
やがて最初に戦っていた場所から何m離れたのか、とにかく避ける事に専念していた足利にはわからなくなっていた。
「これでどうだ。」
石裂は今度は横向きに車を飛ばした、
その車の勢いに走っていた足利は押され10mあまり吹き飛ばされる。
流石の足利もその攻撃は対処できず車の山に埋まり身動きが取れなくなってしまった。
「くっ、やはりこんな飛ばし方も出来やがったのか。俺が逃げる様子を見て遊んでやがったってわけだ……」
足利の胸より下は完全に多数の車によって地面に押し付けられておりこれまでのように数秒での脱出は不可能な状況になっていた。
しばらくすると汽笛が聞こえてくる、
それに気づき頭だけ右を向くと電車が走ってきていた。
足利は地面に寝かされたような状態になっており首元は線路によってひんやりと冷たかった。
ここで足利は察した。
「しまった、あの車による攻撃の本当の目的は俺をここに追い込む事だったのか…!!!」
いつのまにか石裂が足利の枕元にしゃがんでいた。
「なあ足利、あんたが不死身というなら首を飛ばされた時にどうなるんだ??ぜひ見せてくれよ、ふひひひひひ」
「てめぇ…!!!」
石裂は爪先で足利の顔面を蹴り飛ばす。
「がはぁっ!!!!」
「さぁ…どうなるんだぁ???」
電車はもうすぐそこまで近づいていた。
しかし足利は身動きを取れない。
「う、うおおおおおおおおおおおお!!!」
足利を押さえつけていた複数の車が爆発し車体が四方八方へと吹き飛んだ。
足利はギリギリ動いた手でライターをポケットから取り出し車に火をつけていたのだ。
爆発の勢いにのり先頭車両の運転席へとガラスを割って飛び込み、すぐさま後続車両へと走る。
「あいつの能力は2つあるのか…?あの車は昼間に身元不明の人物の連続殺人と同時に行われていた盗難車か…音速で動く能力と好きなものをどこか、異空間と仮定しそこへ物を仕舞い込み好きなタイミングで好きな場所で出す事ができる…状況からはそうだとしか考えられない、だがしかしそんな能力を持つ人間などこれまで一度も………なっ!?」
足利が2両目の扉を開けるとそこには石裂が立っていた。
「これで逃れたつもりかよぉ!?」
「ぐはっ!!!!」
石裂のパンチで斜めに吹っ飛んだ足利はそのまま窓から電車の外へと放り出された。
足利は線路横に立っていたビルの外壁に激突した。
「ありえない…これまで戦ってきた超能力は目的がはっきりしたものが多かった…しかしなんだコイツは、複数の能力がある上に肝心の能力もわけがわからない。音速で動く能力と異空間から物を出す能力…なぜその2つなんだ。発動条件やデメリットが確認できないのも不可解すぎる。」
「足利ァァァァァ!!!!」
音速で距離を詰めてきた石裂の攻撃を足利は華麗に避ける。
「オラオラオラオラァ!!!!」
「こいつが能力を2つ持っている事は明らか、そこは認めて考えるべきだ。」
足利は音速で飛んでくる無数のパンチを的確な動きでいなし続け、思考する。
「だが能力がわかったところで俺はこいつを止める事ができるのか…?こいつは人を殺めるための能力で好き放題するだけでいいが、俺はこいつを殺さずに止めなければならない。骨が折れるぜ…」
石裂の攻撃は止まない、足利はそれを防ぐ事と石裂をなんとかして止める事を考えるのに必死だった。
「何か策はないのか?こいつは本当に弱点がないというのか?」
「どういう事が教えていただけますか?石裂威吹はもうここに戻って来ないとはいったい。」
「あぁ…確かに彼の"能力"は最強だ。なんの負荷をかからずに音速で動ける力と異空間へ物を好きなだけ封じ込め好きな時に解放させる、超能力の中でも特に強力な物を2つも持ち合わせている。特に音速で行動するあの力は我々の持つ能力とは一味違う、とても恵まれた能力だ。」
足利は石裂のボクシング攻撃や時折挟んでくる車飛ばしを捌きつつも隙を見てカウンターを挟む、これを繰り返しながら思考を続けた。
「俺が考えた定義に矛盾はないか?本当にこいつの能力には"隙"がないのか?よく考えるんだ、こいつの力は確かに"異様"な雰囲気があるが俺の経験が、心がまだ諦めきってねぇ…何か引っかかるものがあるんだ…!!」
池上透は一つため息をした。
「残念だよ、暗殺には本当に向いている能力だというのに、私も失いたくない人材だった。」
足利は何かに気づく。
「異様…?」
池上透は話を続ける。
「あくまで能力は、な。石裂威吹、彼にはその最強の能力を受け止める器がないんだ。心が幼すぎる。足利流星、仮にも私の息子を出し抜いたあの男はあんな幼稚な人間の手に収まる男じゃない事を私は知っている。悔しくも敵ながらな。」
足利は閃いた。
「いや、違う!確かにこいつの音速の能力は異様だがもう"片方の能力"はそうじゃないのでは!?もしかしたら異空間から物を出し入れする能力には"発動条件"があるんじゃないか!?」
「ぶっ!!!」
足利は回し蹴りで石裂を吹っ飛ばす。
そこから足利は中国拳法、指を蛇のように尖らせ空気抵抗を減らしうでを回転させるようにラッシュする蛇手百裂拳で反撃の隙を埋める。
石裂は手が出せないのでたまらず車を発射する、しかし足利は避けてみせる。
「俺はこいつが車を"仕舞い込む所"を一度も見ていない、なぜわざわざこいつは俺を襲撃する前に車を能力で盗難する必要があったんだ?車なんてそこら中にある、ここから確認できるだけでも周囲に7台はある。しかしこいつは目もくれない。ただ出し惜しみながら苦し紛れに時折車を飛ばすだけ、俺を線路に追い詰める時はあれだけ乱れたように出してきたのに。残弾数を気にしているという事は何か補充できない理由があるんだ。そこに"隙"があるはずだ…!!」
「チッ、もうこの手を使うしかねえかなぁ!!!」
「ぼふっ!!!」
足利は音速のスピードで吹き飛ばされる。
それはパンチ力ではなく突風に吹き飛ばされるかのような感覚だった。
足利はほんの数秒だけ気を失い、目を覚ます。
そこには異様な光景があった。
周りの景色は白や灰色と似ているようで本当にただ何もないような、言葉としては表現できないような色に染まった景色。
目の前に石裂が浮かんでおり足利の周りを何台かの車が風に飛ばされているように周回している。
「体が…動かない!?」
「説明してやるよ、ここはソニック超空間だ。」
「そ、ソニック超空間…???」
そのあまりに痛いネーミングセンスに足利はちゃんと聞き取れた自信がなかった。
「そうだ。」
聞き間違いではなかった。
足利の頭に音速で飛び交う車がぶつけられる。
「ぐはっ…!!」
「正直このやり方は面白くないので避けたかったが、あんたが死ぬまでこのソニック超空間で俺は音速で車をぶつけさせてもらうぜ、何度でもな!!」
石裂は車を何度もぶつけ始めた。
「だっ…!!ぐっ…!!」
「こないだ板下と戦った際に脳が損傷してしばらく動かなかったって聞いたがよ、いくら不死身といえど痛みは感じてるんだな。」
「…」
「ほれ。」
「ばふぁ!!!!」
足利は考える。
「どうやら車の盗難はこのソニック超空間とか言ってやがる所に仕舞い込んでたようだな、そこに俺もぶち込まれたというわけか。だが俺の体を固定しこんな事ができるならなぜ最初からそうしなかったんだ…?俺に出会う前に車をストックしていた事と何か関係があるはずだ。」
足利は車をぶつけられ続けても思考をやめない。
「そもそも俺の体はなぜ固定されてるんだろうか…」
足利はその原理にすぐに気づいた。
「…わかったぞ、そういう事か。タネがわかれば大した事のない能力じゃねえか、いや、せめて持ち主がもっと使い方が上手ければよかったと言ったところかな。」
足利の体がその場で高速で回転を始めた。
「なっ、しまった…!!」
「発動条件のない音速の能力、もう一つの能力、俺に車を空間へ送り込むところを見せなかった理由、この空間で音速で飛び交う車と固定された俺の体、全ては繋がった…!!」
足利は空間の中心から外れると軌道に乗り音速のスピードで石裂をぶん殴る。
「ばぎゃぶは!!!」
「この空間はいわば竜巻のようなもの、俺の体が動かなかったのは竜巻のような空間の中心に置かれていたからだ。」
足利はラッシュを続ける。
「ばばばぎゃばばば」
「中心には全方向からエネルギーが集中するから俺の体は動かなかった、しかし俺自身が回転し空間の回転軌道に乗る事でこの空間を漂ってる車と同様、音速のスピードで移動ができる…!!」
石裂は大ダメージを受け声すら出なかった、しかし足利はラッシュをやめない、この男の体は生身でも音速に耐えるほど常人より硬いのでやりすぎくらいがちょうどいいのだ。
「状況から推測するに物体を吹き飛ばし音速に到達した瞬間にこの空間に送り込む、それがお前の第二の能力。しかし音速に到達しソニック超空間に送り込まれた物体は異空間にとどめておける代わりに空間内を音速の速度を保ったまま周回を続ける、それがお第二の能力のデメリットなんだな。なんせお前のアイデンティティとしている音速がこの空間に送られた途端どんな物体もその速度へ到達してしまうというのはプライドに関わるんだろう、意思を持たない物体ならまだしも俺のような他人に音速を利用されたくなかった、だから俺の目の前でそのデメリットを見せるような活動は避けたかったって事みたいだな。だがお前は俺を甘く見過ぎだ、この空間に俺を連れてきたのが最大のミスだ。猿でも気づくぜ。」
石裂が凶器に車を選んだのは車輪がついてる事で音速への到達が楽である事とその質量は石裂の理想とするものに近かったからである。
石裂は白目を向いてのびている、足利はまだ殴り続ける。
「相手が俺だったからよかったものの警察に引き渡すにはお前の力はあまりに危険すぎる。超能力者用スタンガンはさっきの爆発で壊れちまったししばらくは俺の拳で眠っていてもらおう。」
足利は石裂を蹴り飛ばしソニック超空間の外へ強制的に追い出す、石裂の力が弱まり自然と足利もソニック超空間から脱出できた。
空間にストックされてた車も解放され夜の住宅街に無造作に散らばる。
「あ、し…か、が」
石裂はよろよろと立ち上がり足利を睨み続ける。
「なんだ、まだ意識があったのか。」
足利は全力を込めたボクシングの右ストレートで石裂の顔面を砕いた。
「ふ、ひ…ひ…、やる…じゃねぇ…か……はは…」
石裂は悔しさと嬉しさが混じったような不気味な笑みを浮かべ倒れた。
「悪いな、普段はここまではしないんだが。」
足利は炎上する姫花都心部に目をやる。
「もしもし、草木さん。犯人を捕まえました。しばらくは動かないと思えませんが…」
足利は草木に超能力の詳細と対処法を丁寧に伝えた。
「ありがとうございます、足利さん。今すぐ向かいます…!!」
「なんとか倒せたが、能力が二つある理由や音速で動く事ができる力がなんなのかは結局はよくわからなかったな、まさか俺のこの力と同じ…とは思いたくないな。なぜなら…」
足利は炎上する都心部から少し上、火事で赤色に染まった空と黒い夜空が混じった光景を眺めた。
「なあ宇月、お前が俺に与えてくれたこの力はこんな虚しい事にしか使えないのかな…」
「な…なんなんだ…!?」
大久保は倒れ込んだ。
「足利…さんって、超能力がないんじゃなかったのかよ…??」
大久保はこの戦いによる騒音に起こされ家を飛び出し、足利と石裂の戦いを目で追える範囲内で見ていたのだ。
「相手の能力、相当強かったはずだ。素人の俺でもわかる。いくら不死身の力を持っていたとしても、なんで肉弾戦で倒せるんだよ…!!??」
足利のコートが夜風でなびいていた。
「足利流星さん…あなたは一体、何者なんだ。」




