第29話 空を駆ける星と月
「なんか、今までずっとめっちゃ疲れる事をやってた気がする…それも何回も…やりたくもない事をずっと…。」
「まあ今日月曜日だからね。」
空は清々しいくらいに晴れていた、今までも晴れた日は何度もあったが足利にとってとても久々に綺麗で澄んだ青空を見た気がした。
「あーあ、もうこうして一緒にお弁当食べるのももう10回もないんだね。寂しいね。」
「え?あっそうか、俺達大学別々だもんな。」
「お互い受かってよかったよー。」
「本当に1人で大丈夫なの?」
「うん、私卒業したら一人暮らしするんだ。そして奨学金借りて通う。入学費とか初期費用諸々親に返したらもう縁切るから。心配しないで。」
「そ、そっかぁ!よかった!!」
「まあ大変だと思うけど、頑張るよ私。だから足利くんも頑張ってね!」
「うん!」
「残り短いけど、最後までよろしくね!」
「おう!卒業しても、たまには会おうぜ。」
「そうだね。」
足利がおかずを頬張っていると、宇月の頭の向こうに何か光の柱のようなものがあるのが見えた。
「なあ、あれなんだ?」
「え?」
宇月は振り向くが、彼女の目にはただ東京の景色が広がるのみだった。
「どれ?」
「え?絶対見えるでしょ!?あのでっかい光の柱みたいな。」
「んー?」
「も、もしかして見えてない…?」
「足利くん、勉強明けで疲れてるんじゃない?」
宇月は自分の弁当から唐揚げを摘んで足利の弁当箱に入れた。
「からあげあげる。これ食べて午後は大人しくしてな。帰ったらぐっすり寝てね。」
「え?いや…」
「足利くんすっごい頑張ってたもんね。疲れるのも無理ないよ。大学入ったら忙しくなるし今のうちにいっぱい休んでね?」
「そうか…俺、疲れてたんだ…。」
足利の目にはまだ光の柱が映っていたが、見えていない事にした。
「そっか…そうだな。しばらく休まないと…だよな?」
「そ、人間ね。働きすぎも頑張りすぎも良くない。きちんと休まないと。」
「そうだな、あと、唐揚げありがとう。」
「えへへ、どういたしまして。」
「ただいま〜、おかえりお兄ちゃん!!ご飯できてるよ!!」
「え?早いな。」
リビングの扉を開けると足利の家族が竜巻を含め皆揃っていた。
「あれ?みんないる。」
「流星の合格祝い、ちゃんとできてなかったから。」
「俺も今日は仕事早めで終わりにしたんだ。」
机には足利の好物ばかりが並んでいた。
「改めまして、合格おめでとう!お兄ちゃん!!」
「おわぁ…」
足利家で食卓を囲み家族団欒の時間を過ごした。
「なんか久しぶりだな、みんなでご飯食うの。」
「そうだな、俺は仕事で忙しかったしな。」
するとひのきが旅行雑誌を机に出した。
「流星の合格祝いに家族旅行に行こうって竜巻と話しててね。どこに行きたい?好きな場所選びな。」
「マジ?そういえば学校と予備校と家の往復ばかりで東京から出てなかったっけ…。」
足利は雑誌のページをめくる。
「すげー、どこも綺麗じゃん。迷うなー。」
次々とページを捲くっていくうちにある場所でページが止まった。
「ん?どうしたの?何か気になる場所でもあった?」
ひのきが雑誌を覗き見る。
「山梨県…姫花…?綺麗な場所ね!ここにする?」
「え…、いや別に?あれ、俺なんでこんなページ開いてんだろ。」
すると竜巻が話に割って入ってきた。
「まあまあ、後でゆっくり決めればいいじゃないか。それより流星、お前に好きなもの買ってやろう。」
「え?」
「お前アニメとか我慢して勉強してただろ?たまにはアニメグッズとか好きなもの買って気分転換しな。」
「アニメグッズ…。な、なんでもいいの?」
「あ、あまり高すぎなければ。」
「マジで!?じゃあーそうだなー…。」
「えーアニメの円盤買ってもらうの!?」
「そう、いやまあ中古でそんなに高くないDVDにしてもらうつもりだけど。」
「よかったね!いいなぁ、足利くんの家族は仲良さげで。」
「いや…あ…。」
足利はまた向こうに見える光の柱に意識がとられていた。
「あの方向って確か…。」
足利はスマホを起動し地図を開いて自分の向いた方向の先にあるものが何か確かめる。
「やっぱり…あの方角は山梨県、しかも姫花…?」
「どうしたの?」
「…なんだろう、何か忘れてる気がするんだ。違和感がある。」
「違和感?」
「全てがうまくいきすぎてる。」
「それって大学合格した事?」
「ああ、なんだか全て俺の望み通りになりすぎている。」
「それだけ努力したんだし、いいことじゃん。」
「宇月!顔見せてくれ!」
「え、えぇ!?」
足利を見上げる宇月の顔を凝視する、するとあの日、バイクに轢かれた瞬間が脳裏をよぎった。
「……………」
「どうしたの?急に目つきが変わったけど。」
「…ごめん。俺、絶対に忘れちゃいけない事を忘れてたみたい。」
「忘れちゃいけない事?」
「うん、絶対に、決して忘れちゃいけない事。ごめんな宇月、俺行かないと。」
「待ってよ、私も行く!」
「駄目だ!お前はここにいてくれ!!頼む…この後に及んで俺がこんな幻想を見ていていいはずがないんだ。お前を死に追いやったのは俺なんだから。」
「どういう事?さっきから…」
「くっ…!!!」
足利は目を瞑り走り出した、決して振り向かず、宇月が絶対に追いつけないようにと全力で走った。光の柱のある方角へ、ただがむしゃらに走った。
「だんだん思い出してきた、俺は受験なんかしなかった、できなかった。そんな場合じゃなかった、そんな状況じゃなかった、俺は戦わなくちゃいけなかったんだ、理不尽な存在と!!!」
足利は去っていく景色に目をやる。
「やっぱり…見覚えのある景色しか映らねえや、そういう事かよ。自我を破壊されかけた俺は不安定な空間で死の直前、最後の夢を見せられてたってわけか。」
足利は光の柱の麓にたどり着いた。
「俺は、目覚めないと。」
「足利くん?」
声が聞こえた方を振り向くと、そこには宇月が立っていた。
「宇月!?なんでここにいるんだ!?どうやって…。」
宇月は純真な顔でただ黙って足利を見つめていた。
「そうか…そうだよな。あれじゃ納得できないよな、お前も。」
「…」
「お前が俺の生み出した幻影なのか夢の世界の住人なのかよくわからないけど、せっかく再会できたんだ。ちゃんと謝らないと。」
「…足利くん、ありがとう。大変だったよね。」
「え?今なんて言った?」
「ずっと…私のために戦ってくれてたんだよね。」
「どういう事だ、おかしい。これは俺の理想じゃない、俺はお前に許されようとなんて思ってない…許されていいわけがない…!!」
「私のために全てを投げ出す覚悟で戦ってくれてたんでしょ、ずっと見てたよ。だから、ありがとう。」
「俺の理想とは違う…まさか…お前は…!?」
宇月は足利の手を握った。
「ずっと辛かったよね、私知ってるよ、足利くんが喧嘩嫌いな事。」
「へ…?」
「だって私が家族に暴力を振るわれてる時、何度も助けに来てくれたじゃん。その時足利くんも暴力を振るわれたのに、一度だって抵抗しなかった。必死に説得しようとしてた。ううん、超能力者と戦うようになってからもそう、感情を押し殺して戦ってた、でも戦いが終わるといつもすごい悲しそうな顔してたよね。話が通じればどれほどいいか、暴力に頼らずに済めばどれほど幸せか、ずっと考えてたんだよね。」
「う…」
足利は下を向き、膝から崩れ落ちた。
「やめてくれ…俺はお前の未来を台無しにしたんだ、許してくれていいはずがないんだよ…。」
「…確かに私はあれから何度も自分の人生を呪ったよ、何も叶えずに終わっちゃったんだって。本当なら大学に行って大人になって…すごい悲しかったし悔しかった。」
「…」
「…だけどね、足利くんの事を恨んだ事は一瞬たりともないよ。」
「…え?」
「むしろ、嬉しかった。私が死んでも私の事忘れないで、私のために戦ってくれるなんて思わなくて。」
「だけどそれはお前がくれた力があったから。」
「力を得る前から戦ってくれてたじゃん。」
「それは確かにそうだけど…。」
「でもね、その特攻ぐせは良くないよ。他人のために体張れるのは君のいいところだけど、おせちちゃんにはもっと気を使った事言えなかったの?」
「いっぱいいっぱいだったんだよ…。」
「そうか…そうだね。」
「…本当に全部見てたんだな。」
「ごめんね、私が力を譲渡したせいで苦しい思いいっぱいしたよね。」
「いや、お前がくれたこの力がなければここまで辿り着けなかったよ。今こうして生きていられるのも全部お前のおかげだ…。」
「でも痛かったでしょ?本当にごめん。」
足利は泣き出した。
「なんで…お前の方が謝ってんだよ…!!!」
「ご、ごめん。」
「だ、だからさぁ…。」
「ふふふ。」
「一つ聞いていいかな?結局俺のこの力って一体なんなの?」
「地球意志による許諾を得た者にのみ使える、全地球生命に備えられた地球が外敵に脅かされた時にそれに対抗するための力だよ。」
「やっぱり超能力とは別の力なのか?」
「そうだね、自己拡張機能って言った方がいいのかな。地球生命には全てこの力を発動できるスイッチのようなものがあって、そのスイッチは地球意志にしか押せないの。それで君は押されたって感じ。」
「お前じゃなかったのか?」
「私と地球意志の世界で会った時の事言ってるのかな?まあそうだね、私元々特異体質だったみたいなんだけど超能力欲しいなんて思った事なかったから体質型の超能力が発現しなかったの。そのメンタルを地球意志さんが認めてくれて、死んだ時に私の意識に接続して私にその力をくれる予定だったんだけど、私が死んでも戦ってくれてる足利くんの姿を見て権利を君に譲渡したんだ。場合にもよるみたいなんだけど今回力を許諾できるのは1人しかいなかったんだって。」
「ふっ…じゃあやっぱりこの力はお前がくれたもので間違いなかったんだな…。」
「うん!」
「…ありがとう。」
「どういたしまして。」
「…じゃあ、行こうか。」
「そうだね。」
「…やっぱり慣れたとはいえ、痛い思いするの嫌だなぁ…。」
「大丈夫、私も一緒に受け止めるから。」
「そうだな。」
2人は理想の世界を捨て、光の柱の中へ入っていった。




