第27話 真相
品野は中学校の屋上の柵を越え、飛び降りようとしていた。
「もうだめ、辛い、限界。」
その時、品野の意識の中に別の意識が飛び込んでくる。
「お前…自我を無くしかけてるな…ちょうどいい、乗っ取りやすそうだ…」
「なに…いきなり…何この感覚…体が動かない…やめてよ…もう死なせてよ…」
「そんなに死にたいか」
「うん。」
「お前をそこまで追い詰めた人間達に復讐したいとは思わないか?」
「そりゃ思うよ、全員ズタズタにしてやりたいよ、でももうめんどくさい。」
「俺の力があればそれを可能にできるぞ?」
「・・・・」
「どうだ、俺は知的生命体が死亡した時に放つエネルギーを定期的に摂取しないと気持ちが悪い、お前も人間を混乱に貶めたい。ちょうどいいじゃないか。」
「そんなの勝手にすればいいじゃん。」
「だめなんだよ、俺には実体がない。そんなわけで体ちょっと貸してくれよ、意識を共有するだけで俺の力をお前と共有できるんだぞ?」
「じゃあ、全員殺せる?」
「もちろんだとも!殺すだけじゃない、いくらでも苦しめる事ができるぞ!」
「…それってさ、面白い?」
「面白いさ!少なくともお前にとっては面白いはずだぜ。」
「ふふふふ、そう…楽しそう…。」
「品野さん!!!」
屋上へ駆けつけた伊藤がそばに駆け寄る。
「飛び降りちゃダメだ!!!」
「ふふふふ、伊藤くんどうしたの?」
「え?」
「景色眺めてただけだよ?」
「そ、そうか?」
「教室戻ろっか。」
「お、おう…」
「よかった、僕がアイドルになるためにしばらく学校来にくくなるのが耐えられないのかと思ってつい…」
「私は大丈夫だよ、夢追いかけなよ。」
「そっか…ありがとう。」
池上茂夫を呼び出した足利竜巻は彼の目の前に現れ、着火したライターを右腕で大きく振った、すると周囲に火事が発生し周りにいた一般人は2人を置いて逃げ出した。
「…何のつもりだ、俺を呼び出したのはお前か。」
「いかにも。お前に自首してほしくてな。」
「はぁ?」
竜巻は周囲を気遣った上で火の力を強めた。
「まさかおっさん、あんたも超能力を持ってるのか?」
「自首しないのならばお前を倒す。」
「なんだと?」
「これ以上お前の悪行は見過ごせない!!例え私が罪を負う事になろうとも!お前を殺す覚悟はできている。」
「そうかよ。」
茂夫は竜巻に手を伸ばす。
「…ふーん、俺の能力の欠陥に気づいてたのか。」
「どうやら私の推測は合っていたようだ…後でみんなに知らせないと。確信を持てるまでは下手に広めたくなかったからな…。」
「くそ…めんどくせーなこいつ。」
竜巻は手に炎を纏い茂夫に殴りかかろうとする。
すると物陰から品野が出てきて茂夫の体を後ろへ退けた。
「ここは私に任せろ。」
品野は手を大きく空に上げ、竜巻の体から稲妻が噴き出した。
「うっ・・・!!!」
「あんたの能力便利そうだしずっと欲しかったんだ、能力得てもくだらない事にしかみんな使わない中、あんたは面白かったよ。」
「き・・み・・は・・あ・の・時・・の・・・」
「あ、覚えてたー?能力を与えるには近づかないと無理だったんだよね、あんたの能力があればそれも終わる。」
「た、助かったぜ扇…」
「うるさい、あんたも用がなくなったらいつでも殺せるんだから。能力を与えた時にした約束覚えてる?ちゃんと私を楽しませてよ。最近マンネリ気味だしつまんなくなったら殺すよ。あんたのクソザコ能力なんかいらないから優先順位は低いけど。私がいなければあんた確実に死んでたよ、こんな体たらくならそろそろ誰かにやられちゃうんじゃなーい?」
「てめえ…」
「あ、誰か来た、私はいくからテキトーにやり過ごしといてよ。」
「くっ…!!!」
「あーあ、わざと犯罪しそうな奴にばっかり能力を与えてたけど、そんな気が全くない奴に与えたらどうなるのかな?」
そんな時に目に映ったのは周りにちちくられている大久保の姿だった。
「あいつくらい軟弱な奴に能力与えたらどうなるんだろ、凶暴になったりするのかな。弱い能力になりそうだけど試してみよっと。」
おせちが姫花で足利と再開するために山道を走っていると、目の前に品野が立ち塞がった。
「あ、あなたは・・・!今あの家に住んでる・・・!!」
そう、姫花役場の跡地にして柿原豪徹の実家に今誰が住んでいるのか、元家主の娘であるおせちは知っており、当然彼女の存在を知っていたのだ。
「初めまして、柿原おせちさん。」
「何してるの?こんなところで。」
「姫の花へは向かわせないよ。しかもよりによって足利を連れてこようななんて。ほんと厄介な子猫ちゃんだね。」
「え!?今、姫の花って言ったの?」
「あの家の地下にあるんでしょ?当然知ってるよ?」
「どうして!?どういう事!?」
「あんたが発現できる能力は…と、バリア、読心、機械の遠隔操作、なんだよ全部厄介じゃん。能力はある程度熟練してもらわないと奪えないんだよね。あ!バリアのデメリットは記憶喪失!きゃは!ちょうどいいね!!これは面白くなりそう!!」
「さっきから何言ってるの!?」
「これで終わっちゃ面白くないもん、もうちょっと楽しませてね。おせちちゃん。」
おせちの意識はだんだんと遠のいていく。
「何が…起きてる…の…」
教員室で職員会議が行われていた、編入してきたおせちをどのクラスに入れるべきかという話題だった。品野はそれを聴いていた。
「ふーん、あの子入学してくるんだー。へー。だったら私の近くにいてもらわないとねー。」
「な、なんだ、急に俺のクラスに入れるべきなような気がしてきた…」
「風音先生?どうかしたんですか?」
「ぜ、ぜひ僕のクラスに入れましょう!!僕が責任を持って面倒みます!!!」
「風音は周りからの評判気にしすぎだからねー、ちょっと思考をいじればすぐ色目使っちゃうんだから。」
脱獄した茂夫は品野に復讐しに走りに行っていた。
「そもそもあいつが俺にあんな能力を与えなければこんな事にならなかったんだ、あのヨーロッパ人の女は俺に柿原おせちを狙って恐怖を与えろと言ったが知った事かよ、品野扇、絶対に殺してやる!!」
品野は正面から歩いてきた、2年間の間に瞬間移動の能力を身に付けていたが茂夫を舐め切っておりわざと徒歩できた。歩いてくる間に周囲の防犯カメラを破壊する目的もあった。
「お前!!ついに会えたな!!ぶっ殺してやる!!」
「なんで?」
「お前が俺に能力を与えなきゃこんな事にならなかったんだ!!全てお前がめちゃくちゃにしたんだ!!」
「なんで?」
「俺が捕まったあとどんな目にあったか想像できるか?」
「なんで?」
「ふざけてんのかお前!!!」
「ん?」
品野の体は硬直した。
「俺の能力は心臓を止める、それを利用しお前の神経を麻痺させたんだ。能力を応用して恐怖を感じていなくても神経系に影響を与える事は可能に進化したんだよ。」
茂夫は殴りかかる。
しかし茂夫の拳は品野の体を通り抜けた。
何は繋がっても拳は品野の姿を通り抜けてしまう。
「なんだよこれ…!」
「面白い能力でしょ。」
品野は茂夫のいる場所に肩が重なる程度に瞬間移動をし、茂夫は重なった影響で吹き飛ばされ頭をコンクリートに打ち付けた。その影響で品野の硬直は解除される。
「あのね、あんたの能力を無力化する事も簡単にできるけど別に体が動けなくったってあんたを倒すのなんか簡単なんだよ。」
「この野郎おおお!!!」
「もう飽きた、全然強くなってないじゃん。私への恨みの積み重なりで多少は能力が覚醒するかと思ったけど、やっぱしょぼいね。あんたのメンタルじゃそれが限界みたい。」
茂夫の体から稲妻が噴き出す。
「うっ・・・!!!」
「まあでも、あんたの事は大事件として今でも社会に尾を引いている、あんたの働きで少しは面白くなったと思うよ。おつかれ〜。」
品野は宣言通り姫の花が繋げた意思のある宇宙空間で待っていた。
「ついにあいつと戦うのか〜、あいつがここに来ちゃえば私がすぐ倒せちゃうけど。」
「散々邪魔されたしいいんじゃないか?」
「最初は邪魔だと思ったけど、能力者がどうやってあいつを苦しめるのかは見応えあったからね、上手くいきすぎも面白くないし。まあ潮時って感じかな。あいつがいたからこそあいつのいない世界の楽しみがより引き立つと思うよ。」
長島達は車で姫花役場へ向かっていた。
「まさか本当だったとは…」
「信じられないよ…扇ちゃんが私の事ずっと敵だと思ってたなんて。」
「俺の父さんも、いや全て…あいつの罠だったんだ…。」
そして元姫花役場にして柿原豪徹の実家へ到着した3人は庭の物置にやってきた。
「話だとここの溝にそのカードキーを通せば入り口が開くって話だよな。」
「ただのモールドに見えるけど…」
おせちがカードキーをスラッシュすると物置が横にスライドし、地下への階段が出てきた。
「ついに研究施設に入る時が来たか…。」
存在はわかっていたものの強引に入るとダムの水が地下研究施設に流れ込み全ての機械が使用不可能になってしまうため入る事ができなかったが、柿原のカードキーがある今それは簡単なのである。
中へ入ると金属やコンクリートで敷き詰められた廊下はとても無機質であった。
「やはりかなり広いな、こんな大規模な研究施設が街全体にあるなんて目にしても信じ難いぜ…。」
姫の花のコントロールルームまでは歩いて数分かかった。
コントロールパネルやサーバーが部屋の周りにたくさん設置されており、姫の花本体の周りにはガラス張りの壁がある。二重構造の部屋となっているのだ。
姫の花本体は写真の通り支柱の中に丸い次元の穴が発光していた。
3人はしばらく立ちすくんでいた。
ついに、姫の花に辿り着いたのだ。
最初に言葉を発したのは長島だった。
「これが…姫の花…!!超能力の原因か……。」
「これを…お父さんが…」
足利はガラス張りの壁のドアを開け、姫の花本体へ近づいた。
それに続くように長島とおせちも続いて入る。
「おせち…バリアは張れるか?」
おせちは手を伸ばす。
「ここに入ってきてから感じていたんだけど、姫の花に近づけば近づくほど超能力が弱まって使えなくなるみたい…」
「品野扇から意志を引き剥がさないとダメというのはどうやら本当らしいな…。」
「うん…扇ちゃんがこの向こうにいるのも感じる…。」
足利は拳を握りしめる。
「あいつを倒せば、全てが終わるんだな。」
「ダメだ!」
長島は足利の腕を握る。
「この向こうは宇宙空間なんだ、それに一度入ったら出られる保証はない。もしかしたら邪魔者である君をこの向こうへ閉じ込めるための罠かもしれない。事実確認はできたんだ。柿原さんともう一度相談して対策を練ってからまた来るべきだ。」
「ですが、今こうしている間にも超能力犯罪は全国で発生している、今苦しんでいる人がいるんです。一刻も早く終わらせないと。」
「しかし君がやられてしまっては…!!!」
「そうだよ足利さん、お父さんに聞けば何か…」
「確かに長島さんと言っている事も正しい、ですがはっきり言ってこの2年間何もしなかった柿原さんに今更相談したところで良い対策ができるとは到底思えません。あればあの人もとっくに言っているはずです。」
「で、では科捜研とか研究所の科学者達に要請して…」
「宇月がくれたこの力があれば姫の花の向こうでも戦えます。そんな気がするんです。」
「そんな気がするって…」
長島は手を離した。
「わかった…これまで僕は君の言葉を信じてきた。そのおかげでここまで来れた。このまま君を行かせるのは心配だけど、今回も君を信じるよ。」
するとおせちが怒鳴った。
「長島さん!?何言ってんの!?戻ってこれる保証がないんだよ!?」
「なあおせち、俺が品野と意志を倒して超能力が使えるようになったら即刻姫の花を閉じるんだ。俺の帰還は待たないでいい。」
おせちは涙目で長島の顔を睨む。
「おせちちゃん…」
「いいの!?足利さんがもしかしたら死んじゃうかもしれないんだよ!?」
「うっ…」
長島の顔色も悪くなる。
「俺の事はいいんです。」
「よくないよ!!だって私…足利さんに死んで欲しくないもん…」
長島は顔を上げずに足利の方を向く。
「き、君は…本当にそれでいいの?」
「はい。」
「初めて会った時もそうだったね、これまでもそうだった。君はまるで周りのためなら自分がどうなってもいいって思ってるよね。」
「そうですね。」
「君の気持ちはわかるんだ、それが君の優しさなのは十分理解している。それでも僕達は君にこれ以上死んで欲しくない。それはわかってくれてるよね?」
「もちろんです。」
「覚悟はできてるんだね…。」
長島は後ろへ下がり、足利と目を合わせた。
「流星くん、僕は君が勝つと信じてる。今まで本当にお世話になった、感謝してもしきれない、君には頭が上がらない。本当に、本当に…ありがとう。」
おせちは困惑していた。
「なんで…?どうして止めないの…?」
「これでいいんだよ、僕が行ったたところで彼女には勝てない、おせちちゃんはこっちに残って姫の花を止めなければならない。こうするしかないんだ。」
「私の手で足利さんが帰ってこれないようにしないといけないんでしょ!?そんなの嫌だよ!!」
「大丈夫、俺はお前を恨んだり憎んだりしない。」
「私が嫌なの!!」
「…」
足利は膝立ちでしゃがみ込み、おせちの目をじっと見つめた。
「この先の人生、俺はお前に笑って暮らしていってほしいんだ。そのためなら俺はどんな目にあっても構わない。そのためなら俺はなんだってする。例え宇宙の先に閉じ込められようと気持ちは変わらない。」
おせちの目から涙が次々とこぼれ落ちる。
「でも…行って欲しくないよ…」
おせちは足利にしがみつく。
「行かないで!!!」
「おせちちゃん…」
長島はおせちに手を伸ばす、足利は腕を伸ばしそれを静止した。
長島は足利の気持ちを察し再び後ろへ下がった。
「…わかった、仕方ない、そこまで言うなら一つだけ策がある。ずっと考えていたが成功率がすっごい低いから黙ってたんだが、どうやらそっちにするしかないみたいだな。」
「ほんとっ!?」
おせちは手を離し、足利の顔を涙を流しながら笑って見つめた。
「ああ、この方法なら誰も中に入らずに済む。」
「流石足利さん!!どうするの!?」
足利は壁を指差した。
「あそこにあるあれを見ろ、あれを使うんだ。」
おせちはその方向へ顔を向ける。
しばらく見つめるがおせちの目には特に気になるものは見当たらない。
「…どれ?どこ?ねえ足利さん?」
おせちが顔を向き直すと、そこには足利の姿はなかった。
「え?」
周辺を見回しても足利の姿はどこにもなかった。
「え…え?」
長島は優しく両手でそっとおせちの肩を抑えた。
「嘘でしょ…?もしかして…」
「僕達はここで流星くんの勝利を祈ろう…。」
おせちはあまりのショックにしばらく言葉に詰まり、呼吸を整えてから口を開く。
「私まだ好きって…まだ言えてないのに…」
長島はいたたまれなかったが必死に歯を食いしばり抑え込んだ。
「やっと来たね。足利流星。」
その空間には太陽も星もないが、品野の姿ははっきりと見え、景色も桃色や黄色や白、時には紫といった色の触れないモヤが立ち込めていた。足元に地面はないがしっかりと立てている。そして酸素はないが足利な苦しくなかった。この意志のある宇宙空間は特殊な空間であり、生命維持に必要なものは自我と意識のみなのだ。
「今俺の目の前にいるお前が品野扇なのか意志のある宇宙とやらなのか、両方なのか知らないが。」
足利は腕を大きく伸ばし指を指す。
「お前をぶっ倒す!!」




