第24話 再会
「うう、やっぱり緊張する…結局お母さんもお父さんの事も思い出せなかったし…」
おせちと足利は長島の車で石川県にあるおせちの母、おはぎの自宅へやってきた。長島は駐車場で待つといい足利が家の前まで送りに来ていた。
「大丈夫、話だといい人みたいだし。」
おせちはインターホンを鳴らした。
「はーい。」
ドアを開けたのはおせちが髪を伸ばしてそのまま大人になったような容姿をしたおはぎが出てきた。足利の顔を見るから笑顔だったが、顔を見下ろしおせちの顔を見ると表情が変わった。
「おせち…」
おせちも驚く。
「お母さん…?」
おはぎは涙目でおせちに抱きついた。
「ぐにゃ」
「よかった…!!本当に生きてたのね…!!!」
「え?」
「あの事件があってからずっと会えてなかったから…!」
おせちは顔を赤くした、恥ずかしいような照れくさいような感じがしたからだ。
足利は後ろで微笑み、親子の時間を邪魔できまいとその場を去ろうと考えた。
「じゃあ私はこれで…」
「あなた、足利さんでしょ?」
おはぎは足利の腕を引っ張り手を握りしめた、足利は驚いた顔をしている。
「お話は聞いてます、おせちの事ずっと守ってくれてたんでしょ!?」
おはぎはおせちに顔を向ける。
「ね!?」
おせちはにこやかな顔で3回頷いた。
「あっ…いや俺は…」
足利は下を向いた。
「よかったらあなたも上がって行って!」
3人は縁側に座って話をした。
おはぎはとても嬉しそうでずっと笑顔だった。
おせちの記憶喪失の事も当然知っていたがだからといって特に動揺もしていなかった。そして記憶を失ったおせちと何も知らない足利のためなのか昔話をしてくれていた。
「もー本当に大きくなっちゃってびっくりしちゃった、2年も会ってなかったし留学から卒業して機関にいる間も年に一回とかしか会ってなかったもん。」
「ねえ足利さん、ベガって人が言ってた話って本当だったんだね。ほんとに私の友達だったんだ…。」
「マジで13歳でアメリカの大学卒業してたのか….そりゃ日本の高校の勉強なんて楽勝なわけだ。」
「でも…大変だったよね、ごめんね。豪徹がどうしても言って聞かなくて。」
足利とおせちはその名前に動揺した。
足利の目つきは鋭くなりおせちは怯えた顔をした。
「そ、そんなに気張らないでいいから。」
2人は同時に体の力を抜いた。
「仲良いのね。」
おせちは顔を赤らめた。
「え、いやそんな!そんな事ないって!!」
おはぎはそれを聞いた足利の顔を確認すると、苦笑いした。
「…あはは、あのね、おせちは元々頭がとても良かったの。豪徹はおせちは自分より頭が良いってすごく期待しちゃって。もちろんおせち自身も学習意欲は高くていい経験になったと思うけど、その分プレッシャーもすごかったんじゃないかなって。なんせ国家機密組織だったわけだし。」
「お、おか、おかかおかお母さん…?そっその国家直属研究機関ってどんな組織だったの?」
「んー、私は研究員じゃなかったから細かい事はよく知らないんだけど、まあ大抵は都市伝説で言われてるようなものだったんじゃないかな。とにかくお堅いイメージは強いかなぁ。」
「へぇ〜、じゃあおとっお父さんってどんな人だったの?」
「うーん、すごい研究熱心な人で、常に科学をどうやって人のために役立てるか考えてた。そんな優しくて一途な所が私は好きになったんだ。」
足利は少し驚いた、おはぎはそれに気がついた。
「うん、確かに超能力が発生したのは豪徹の発明のせい…はっきり言ってもう取り返しはつかないと思う。もうあの人は許されない。足利さんも許すつもりはないでしょ。」
「・・・・」
「こんな事言うのもおこがましいと思うし、聞き流してもらって構わないけどこれだけは伝えたかった。豪徹は決して人を傷つけたくて姫の花を作ったわけじゃない。」
「姫の花がなんなのか、ご存知なのですか?」
「…正確な理論や仕組みとかは何もわからないけど、中学生の頃からずっとそんな名前の装置を作るのが夢だとは言ってた。それからはほとんど話題にはしてなかったんだけど国家直属研究機関への採用が決まって改めてそれを作ろうとしている事と、それがどういったものなのかを聞いたの。でもおせちは何も聞かされてなかったはず。自分の考える究極の理論を教える事でおせちの発想もそれに引っ張られて才能の芽を潰したくなかったとかなんとか。だから機関でも基本別行動だったみたい。」
足利は心の中で思った。
「とてつもなく面倒くさい思考の持ち主だと言う事だけはわかったぜ…。」
おはぎは再び口を開く。
「姫の花っていうのは…」
「待って!!!」
おせちは静止した。
「そ、それは後でお父さんから直接聴きたい…かな。」
「そうね、豪徹もそれを望んでると思う。」
「…おかえり、どうだった?」
「うん!すっごいお母さんって感じの人だったよ!」
「そうかそうか…、じゃ、今度はついにお父さんのところに行くよ。」
石川県から埼玉県へ、追い求めていた姫の花を作り出した柿原豪徹と会うという事もありその道のりはとても長く感じた。当然話も続かない。そんな最中でおせちは言った。
「あの…足利さんと長島さんは、お父さんが悪いと思う?」
「あはは、急にどうしたの?」
「だって、姫の花はお父さんが作りたくて作ったものみたいだから。足利さんも長島さんも姫の花のせいで大切な人を…」
「うーん、一概には言えないかな。」
「え?」
「はっきり言うとおせちちゃんのお父さんに責任は間違いなくある。だけど君のお父さんが全て悪いかと言われればそうではないと思うんだ。そうだろう?だって超能力を手に入れてそれを悪用したのはそいつら自身の問題だから。僕は1番悪いのは人を傷つけるためには手段を選ばない人間の心だと思うよ。流星くんもそう思ってるんじゃないかな。」
「あ、あぁ。俺もそう思います。」
足利の目は泳いでいた。何かを恐れているような顔をしていた。
「流星くん?」
「足利さん大丈夫?緊張してる?」
「も、問題ないよ。
「足利さん昨日の夜からこんな感じで…」
「大丈夫…大丈夫…もうすぐ全てわかる…そうだ…」
足利は小声でつぶやいた。
「流星くんもずっと頑張ってきたからね、色々と思うところはあるよね。」
「ここだよ。」
その病院はとても質素で古い施設だった。
「国家最重要人物がこんなところにいるなんて、誰にもわからないぜこりゃ…」
「流星くん、おせちちゃん、準備はいい?」
2人は頷いた。
そうして3人はついに精神病院の中へ入る。
「おまたせしました、こちらの部屋になります。豪徹さーん!お客様ですよー。」
個室の部屋を開けると車椅子に座った男が窓を向いて佇んでいた。
最初に震える足取りで部屋に足を踏み入れたのはおせちだった。
「お父…さん?お父さんなの?」
彼は窓の外をずっと見つめていた。
おせちはそれに駆け寄り肩をゆする。
「お父さん!?お父さん!?」
おせちは強く肩を譲ったが反応がない。
足利も続いて駆け寄ろうとするが長島が肩を掴んで止める。
「…実は豪徹さんはここずっとまともにコミュニケーションが取れないみたいなんだ。おせちちゃんの顔を見ればもしかしたらと思ったんだけど…。」
おせちが顔を覗き込むと、抜け殻のようで生気のない顔をしていた、ただ呼吸をしているだけだった。
「…そんな…。お父さん…。」
「池上の証言によると君のお父さんは自分の装置のせいで被害者が次々と出ていた事にずっと責任を感じていたようだ。今ではとうとうその罪悪感に耐えられず現在はこうしていると。彼自身にも装置を止める事はできなかったがいつか彼が装置を制御する気力が復活するかもしれないと思いこうして療養させていたらしい。もっとも、池上はそれができたとしても装置を止めるつもりはなかったみたいだけどね。」
おせちは父の手を握りしめる。
「うぅ…そんな…やっと会えたと思ったのに…」
おせちには記憶がなかったが、彼が父親である事、ずっと会いたかった事だけは彼を見た瞬間に悟ったようだった。
おせちは色々試すが彼は全く反応を示さなかった。
しばらくしたところで長島が話を切り出した。
「大丈夫、姫の花の場所だけは聞いてある。あとは僕達でどうにかしよう。」
足利にそう語りかけたが、足利もずっと彼の方を見ていた。
「…くっ!!」
足利は痺れを切らしたように近寄る。
「流星くん!?」
「足利さん!?」
「……あなたが何も話してくれないのなら、俺から話させていただきます。」
そう言い放って深く息を吸った。
そして溜め込んだもの全てを吐き出すように言い放つ。
「超能力は、この世界に最初から存在するものだったんですよね?」
柿原の体は僅かに揺れた。
「お父さん!?」
「ベガとか言う人間の特異体質に関する話を聞いて俺の考えは確信に変わりました。超能力を使う力の根源のようなものは誰にでもある、超能力者と非能力者の違いはそれを制御できるだけの理性があるかどうか。たったそれだけなんでしょう。」
「流星くん?そんな事考えてたの!?」
「簡単な話ですよ。超能力にはなぜ弱点が存在するのか。それは大抵の人間には少なからず理性が存在する、その理性が力を抑えてるからなんですよ。考えてみてください、池上茂夫と板下の能力を。彼らは人を殺すことに一切の躊躇もなかった、そして能力の弱点は共に他者の存在に依存する。」
「う、うん、相手が恐怖を感じていなければ心臓を止める事ができないのと、水を操れるけど人間の体内の水分は操れない…だったね。」
「あの2人に自分を抑える理性はない、だからあいつらの能力は自分自身では制御できるものじゃなかった。だが俺達には理性がある、その理性があいつらの能力を微弱ながらも無効化していたんです。そして彼らと対照的なのは大久保くん、彼の能力の脅威性の低さと弱点の多さは彼の心が力を利用する悪意より理性の方が勝っていたからなんです。」
「確かに前にも流星くんは超能力の弱点は能力者自身の心の弱さに起因すると言っていたね。」
「自分の心の弱さを自覚するのもまた理性です。殺人犯でも自身に弱点を課すような能力だった者達は心のどこかで躊躇いがあったんでしょう。」
「な、なるほど…。」
「話を戻しましょう、柿原豪徹さん。俺がこの事に確信を得たのはもう一つあるんです。あなたの妻である柿原おはぎさんの証言、姫の花は決して誰かを傷つけるために作ったものではなかったと。姫の花とは超能力を発現させるための装置じゃなかった、しかし姫の花にはこの世界に存在する超能力を表に引き出す作用があった。それにより超能力者が大量発生してしまう形になった…という事ですよね?でなければそこまで思い詰めないでしょう。」
柿原は返事をしなかった。
「俺の言ってる事は間違ってないはずです。なぜなら俺はこの2年間ずっと数え切れないほど超能力者と戦ってきた。俺が間近で見てきた超能力者達、そして世界に対して感じていた疑問や違和感を踏まえて導き出した答えです。」
「………そう…だ…。」
柿原は震える声で返事をした。
「喋っ…た…?」
柿原はおせちの手を強く握り返した。
「わっ…」
「超能力とは…元来、この地球上全ての生命体に宿っているものだ…。」
柿原はついに窓から顔を離し足利に目を向ける、2人は強く見つめ合う。
「ウイルスが他の生命を蝕むのも、サソリが毒を持つのも、キリンの首が長いのも、植物が光合成をするのも、そして人間が文明を築く知能を得たのも全て、超能力の一環である。」




