第23話 本当の目的
「初めまして、池上茂夫様。」
「誰だあんた。」
「私の名前はベガ。」
「あぁ、隠し信号で父さんから聞いた事あるな。どうしたんだよ。」
「お父様の事は聞いておられます?」
「もうどうだっていいけどな。」
「そんな事ないでしょ?」
「本当にどうだっていい。」
「じゃあこの刑務所から出ないでもいいって事?」
「なに?」
「もしもここから脱出できるとしたら、復讐したい相手がいるんじゃなくて?た・と・え・ば〜、足利流星とか?」
「…」
「どうしますぅ?」
「本当に出してくれるのか。」
「もちろんですよ。」
「どうすればいい?条件があるんだろ。」
「そうですね、私のいう相手を殺してくれると約束していただければ明日にでも。」
「知ってる通り俺の能力は臆病な相手にしか通じない、ましてや…」
「大丈夫ですよ、今のあの人ならすぐにビビりますから。」
「誰だ。」
「柿原おせち。」
「カキハラ…?どこかで聞いた名前だな。」
「姫の花を作った物理学者、柿原豪徹の娘です。」
「そいつを殺すのは構わないが、お前に何の得がある?」
「今、足利流星はその女の子と同居してるくらいすっごく仲が良いの、彼女を殺せばきっと足利流星は動揺する。そうすればその先に足利流星も殺せる、それであなたは復讐が果たせるでしょ?私はとっても足利流星は邪魔なの。」
「…」
「何か?」
「わかった、明日俺を出してくれるんだな。」
「もちろんです。」
茂夫はすぐにベガが脱出させてくれるという言葉を信じた、なぜなら彼女は厳重な警備をされているこの超能力者収容刑務所の独房に単独で乗り込んできたのだから。
「おせち、もうすぐあなたを迎えに行くわ。」
「足利さん、じゃあ私学校行ってくるね。」
「わかった、気をつけるんだぞ、池上を倒したとは言え超能力者はまだいるんだからな。」
「はいはい。」
池上との決戦後、池上の取り調べなどに様々な手続きや作業に時間がかかるため足利は戦いが終わり探偵業とバイト、そしておせちは平和な高校生活を送っていた。警察の保護されているおせちの母、柿原おはぎとの面会は諸々の手続きが済み安全が保障された頃になるという。それまで足利はおせちを預かっていた。
「あー、やっぱり1人にさせるべきじゃなかったかな…、いやでも俺も仕事あるし…ここに留めていてもこの場所を知られていちゃ終わりだしこれが1番だよな…。よし、俺も仕事に行かないと。」
「なに、池上茂夫の独房が爆破された!?」
「はい!!しかも外に向かって一直線に爆破されています!!」
「なんと大胆な。」
「昨日大量の意識不明者が出ましたよね?きっとその時に爆弾でも仕掛けられていたのかと。」
「まさかここに侵入されるなんて予想外だった。なんともこんな、池上茂夫はどうなってる?」
「刑務所内にはもういません、おそらくは…」
「至急全国の警察署に連絡するんだ!!絶対に捕まえろ!!」
「は!!!」
「足利くーん。」
「はい!店長!」
「君宛に電話が来てるよ。」
「え?私に?クレームですか?」
「いや、緊急連絡先の長島さん。」
「すぐ変わってください!!」
足利は携帯を受け取る。
「長島さん!?どうかしたんですか!?」
「率直に言う、池上茂夫が脱獄した。」
「なんですって!?」
「彼ら超弩級の超能力犯罪者を収容している東京都小西拘置所で爆破事件が起きてしまってね。」
「そんな…池上達の仕業ですか!?」
「それが今取り調べ中だが特に変わった様子も見せてないのが不気味で…」
「池上以外でそんな事して得する人間がいるんですかね?」
「わからないが…実は池上を捕まえてから奴に雇われた囚人達に取り調べをしたんだが、そのうちの何人かが池上には若い女の秘書がいたって証言してるんだ。日本語のとても上手いヨーロッパ人との事だ。」
「そんな人間、突入作戦の時に見ましたか?」
「あの後アジトを調べて分かったんだが秘密の脱出経路があったんだ。もしかしたらその秘書がそこから逃げた可能性が大きい。」
「だけど、これ以上一体何をしようって言うんですか!?透ならともかく茂夫なんて…」
「僕も不気味でしょうがないんだ。」
「…わかりました、おせちは俺が守ります!!」
「続報があったらまた連絡する。」
足利は電話を切った、店長が不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「どうかしたの?すごく深刻そうだったけど。」
「ほんとすみません、俺ちょっと行かないといけなくなりました。」
「まあそんな雰囲気だったしね、人数足りないけど止めても行くんでしょ?」
「いいですか、池上茂夫がもしここに来ても絶対に恐怖を抱いてはいけません、あいつはただのクソガキです。」
「わ、わかった。」
「それでは、ほんとすみません!!」
茂夫はベガが事前に用意してくれていたバイクで姫花に向かう。
「あいつは俺が絶対に殺す、あいつだけは…!!!」
足利は出勤は自転車のため自転車でおせちの高校へ急いだ。
その時、激しい夕立が姫花にやってきていた。
「また夕立かよ、イヤな予感がする…!!!」
「絶対に殺してやる!!」
あたりに大きな落雷のような音が鳴り響いた。
足利が空を見上げると姫花高校に近い方向に稲妻が空へ立ち昇っていくのが見えた。足利はあの日を思い出す。
「あの野郎おおおおおおお!!!」
足利は叫びながらその方向へ向かった。
その場所に着くと、あたりには大雨により人は誰もいなかった。姫花高校の近くの住宅街の道路だった。
足利は倒れている人影を見つける。
自転車をその場に捨て人影に駆け寄った。
するとそこには。
「…池上…茂夫?」
足利は倒れている茂夫を抱きかかえ頭を抑える。
「間違いない、池上茂夫だ…。」
足利は呼びかける。
「おい!!大丈夫か!?どうかしたのか!?何があった!?」
「…」
「おい!!」
茂夫は最後の力で目を開き、足利を見る。
「…あいつだけは…こ…ろ…」
茂夫は目を閉じた。
流石の足利も驚愕した。
「一体…誰にやられたんだ…??何が起きてる…??」
夕立は止み、おせちは1人で下校していた。茂夫の脱獄は市民の混乱を避けるため警察内にしか公表されておらず、おせちは脱獄事件について知らずに帰っていたのだ。通学路を歩いていると目の前に長い黒髪で色白で妖美なベガが立っていた。
「久しぶり、おせち。」
「え?」
「って言っても、覚えてないんだよね。」
「ん?」
おせちは首をかしげる。
「えっと…どなた様?」
「私はベガ。記憶を失う前のあなたと友達だったの。」
「え!?」
「ふふふ、驚いた?」
「すっごい!記憶を失う前の知り合いって足利さん以外に会った事なかったから!」
「そう…足利…」
「ん?」
「私、あなたが記憶を失う前の事、色々知ってるよ。」
「そうなの?」
「言ったでしょ、友達だったって。足利よりもあなたの事知ってるの。」
「そ、そっか。」
困惑するおせちとは裏腹に、ベガはニコニコしている。
「その…じゃあー、記憶を失う前の私ってどんな人だったの?」
「んーそうね。」
ベガはおせちと距離を詰め観察する。
「すごく優しい人だった。」
「どんなこと話したの?」
ベガは頬に片手を当てた。
「私の事を見て何か思うところはない?」
「え?うーん、すごく綺麗!」
ベガは顔を赤くして俯いた。
「そ、そうじゃなくて…もっとこうあるでしょ…。もっと率直に…。最初何か違和感を感じなかった?」
「え…。えっと…え?」
「正直に言っていいよ。」
「が、外国人さんみたいだなぁって。」
「正解。私が日本語を喋ってびっくりしたでしょ。しかも結構上手じゃない?」
「う、うん!確かにびっくりした!!」
「実はあなたに日本語を教えてもらって喋れるようになったの。」
「えぇー!?本当にぃ!?信じらんない!!」
「アメリカの大学を13歳で卒業してついでに博士号まで取ったあなたなら不思議じゃない事なんだけどね。」
「え!?そうなの!?」
ベガは急に寂しげな顔になった。
「やっぱり…全然覚えてないのね…。」
「ごめんね…。あの…もしよかったらお話もっと聞かせてよ。」
「本当に信じてくれるの?私があなたの友達だったって。」
「うん。だって嘘ついてるように見えないもん。」
ベガは感動して涙を浮かべていた。
「やっぱりあなた…おせちなのね…。記憶を失っても、優しさはそのまま…」
「えへへ、なんか照れちゃう。」
「実はね、私あなたのお父さんとも会ったことがあるの。」
「え!?お父さんのことまで知ってるの!?」
「元々あなたのお父さんが研究にあなたがついてきて私と会うことになったんだから。」
「研究?そういえば私達ってどこで会ったの?」
「ヨーロッパにあるギルリア教団っていう小規模な宗教の聖地だよ。あなたのお父さんは超能力について研究するために超能力を司るギルリア教団に訪れたんだ。」
「超能力の…研究…?」
「表向きにはそう言っていたけど姫の花を作るための研究に来たのでしょうね。」
「姫の花のことまで知ってるの…?」
「そんな事はどうだっていいの。」
おせちは少しだけ顔を曇らせた。超能力、姫の花、この二つの単語を知っている事を不穏に感じたのだ。
「私、苦しかった。」
「え?」
「おせち、私が今こうして日本にいられるのもあなたのおかげなの。あなたが私を解放してくれたの。」
「解…放…?」
「ギルリア教団はね、紀元前に立ち上げられたの。超能力を管理し地球のバランスを保つために、だけど徐々に腐敗していった。私は生まれた瞬間から特異体質だったの。教団には特殊な技術があってそれで特異体質であるかどうか確かめることができた。私は特異体質のせいで生まれた時から教団の新教祖として祀られた。だけどやらされた事は他の宗教団体の接待、宗教としての地位を守るために教団の幹部の老人達に無理やり体を売らされたの。どれだけ辛かったか、教団内では幹部の老人と馬鹿な信者の大人達しかいなくて、老人は私を道具としてしか見てないし信者達は私を神の使いとして崇めるばかり、もううんざりだった。そんな時、あなたが現れた。」
おせちは息を飲んだ。
「おせち…ずっとあなたに会いたかった…。だってあなたは私の初恋の相手だもの!!」
「!?」
「私はあなたがきて初めて同年代の女の子を見た!教団内には老人ばかりだったし信者は人間社会で挫折した大人しかいなかったから!あなたみたいにお肌が綺麗で健康的な肉付きをした女の子を見たのは初めてで感動した!その若さと美しさに!そしてあなたは友達として私に寄り添ってくれた!利用するのでも心酔の対象にするでもなく、1人の人間としてあなたは扱ってくれた!頭の悪い信者達とは違い知的で、かわいくて、やさしくて!!だから私はあなたを独り占めしたい!!」
ベガはおせちを全力で殴ると、おせちのバリアが自動で発動しおせちを守った。ベガの手からは赤い稲妻が拳から腕にかけて走っていた。
「な、何急に…?」
おせちの顔が青ざめる。
「ふふふふふふふ、あははははははは!!!」
ベガは何度もバリアにパンチを繰り返す。
「なんなのこれ…?やっぱりあなたも超能力者なの…?」
「言ったでしょ、私は特異体質なの!」
ベガは稲妻の走る人差し指を口に運んだ。
「私の能力はね、神を殺す力なの。宗教にすがる醜い人間の心を憎んだ私に宿った力…。ゴッドキラー!!!」
「ゴッド…キラー…?」
ベガはたまたま通りかかった1人の人間を殴りつける、するとその人間は涙を流し地面に転がりもがき始め叫びながら苦しんだ。
「なに…これ…」
「神を殺したの。」
「え…?え…?」
「ちょっとドラマチックな言い方しすぎたかしら?神というのは人間の生み出した偶像、実際には存在し得ない。ならなぜそんなものを人間は考えるようになったのか、この過酷な世界で不完全ながら知能を持ってしまった人間が自我を保つには思考の中で何かにすがるしかなかったの、それは今もそう、信者であれ無宗教であれ、それが神であれ人であれ人間は全員何かを信じて生きている、何かを強く信じていないと生きていられないの。そしてその人の1番信じる何か、その人にとっての神を信じられなくするのが私の能力。自分が今まで1番信じていたものが信じられなくなったらどうなると思う?こうして苦しみ始めるの、当たり前よね。自我を保てなくなるもの。」
おせちは後退りをする。
「そ、そんな…」
「おせち、私はこれまで池上透があなたと足利流星に刺客を送る手伝いをしていたの。」
「え…?」
「日本に来て、あなたの話を聞いた時はチャンスだと思った。記憶を失って1人の男に肩入れしてるって。私の能力をあなたが浴びたらあなたが信じられなくなるものってなんだと思う?」
「やめて、やめて!」
「そう、あなたが恋している足利流星。あなたは刺客を送られ足利流星に守られたり、足利が敵を倒す姿を間近で感じてきた。足利に甘い言葉をかけられた事もあったんでしょう?その体験を繰り返していくうちにあなたは足利を頼るようになって信頼度が高まっていった。足利の負傷した姿なんかも見て母性も湧いたりしたんじゃない?これは全部私の計画なの。足利が敵を倒すたびにあなたは足利をさらに好きになっていく、そうするために私は池上を手伝っていたの!!!」
「そ、そして…私が足利さんを好きになりきったところで足利を信じられなくするのが…あなたの…目的…?」
「そう!!!そしてあなたは私に依存するしかなくなるの!!!」
ベガは距離を詰めてくる。
「大丈夫、安心して、最初は苦しいかもしれないけど、あなたがどんなに醜い姿になっても私はあなたの事をずっと愛してるから、あなたも私だけを愛せばいいの。2人だけで幸せになりましょう?あなたが私のものになればあとはどうだっていい…。」
ベガ再びパンチを繰り返す。
「きゃあああああ!!!」
おせちはバリアの中で叫び出す。
「言っておくけど足利がやってるように弱点を探して止めようとしても無駄よ?私はあなた達のように姫の花による作用で能力体質になったわけじゃない、特異体質によって能力を生み出したから弱点はないの!!!腕を切ったって肩が当たれば能力は発動できる!!!私を止めるにはあなたは私を殺すしかないわ!!!」
「!?」
「さあどうする!?運命を受け入れて私と共に余生を過ごす?それとも私を殺して幸せを掴む?私はどっちでもいいよ、だってどっちも幸せだから!!!」
「私に殺されるのが幸せなの…?」
「うん!!!」
「………………私はあなたの事を思い出せない、それに足利さんを好きな気持ちが深まったのはあなたの仕組んだ事なのかもしれない、でもこの気持ち忘れたくない。」
おせちはバリアを解除した。
「やった!!私のものになって!!!おせち!!!」
ベガの拳がおせち目掛けて飛んでくる、もう腕を伸ばし切ればおせちに当たる距離だ。
「本当にごめんね…」
おせちは右手のみに手を綺麗に覆うような形のバリアを発生させ、ベガの手を払い除けた。
「え?」
そして払われたその手はベガ自身の顔に激突した。
ベガの体は硬直し、数秒経過すると体が倒れ苦しみ始めた。
「ぎゃああああああああああああ!!!!」
陸に打ち上げられた魚のようにベガは悶える。
「本当に…ごめんね…」
おせちは膝から崩れ落ち、涙を流す。
「ああああああああああああああ!!!!」
だがベガの叫び声は止まない。
ベガのゴッドキラーは通常なら弱点は無くベガ自身には作用しないがバリアによるカウンター効果でこうなったのだ。
しかし仕方がなかった、こうするしかなかったのだ。
おせちは苦しみ続けるベガの顔を見ては、顔を手で覆い尽くした。
「うう…超能力って人を苦しめる事しかできないのかなぁ…」
その後、池上茂夫は死亡が確認され、ベガは殺人容疑などで国際指名手配をされており医療刑務所へ連れて行かれた。
足利とおせちはその夜とても暗い雰囲気で夕食を取っていた。茂夫の死とおせちからベガとの話を聞きかける言葉がなかった。
すると長島から電話がかかってきた。
「もしもし、流星くん?」
「はい、もしもし。」
「こんな時になんだけど、柿原おはぎさんとの面会が決まったよ。明後日だ。そして…」
しばらく話すと、足利は電話を切った。
「なあおせち、確かに今日は悲しい事が多かったし、素直に喜べる雰囲気じゃないかもしれないけど、一応朗報だ。」
「どうしたの?」
「まず一つ、明後日お前のお母さんと会えるって。諸々の手続きが済んだみたいだ。」
「お、お母さんに!?わぁ…」
「それもう一つ、お前のお父さんなんだが…」
「…」
「無事だったそうだ、お母さんに会った後に会いに行くって。」
「ほんと!?」
「ただお母さんは元気みたいなんだがお父さんは埼玉の川越にある精神病棟にいるらしいんだ、ずっと素性を隠して池上が入れていたらしい。」
「精神病棟…そ、そんな…」
「容態はあんまり良くないらしいが…」
「うん、でも生きてるみたいならよかった。」
「姫の花の詳細については池上はどうしても口を割らなかったらしいけど、お父さんに教えて貰えばいい。作った本人に聞くのが1番早いし。姫の花さえどうにかすればもう超能力で苦しむ人はいなくなる。きっと上手くいくはずだよ。」
「そうだね…。」
「それと俺は明日はちょっと用があって出かけるけど、お前が帰るまでには帰ってくるからな。」
「はーい。」
「ついに、姫の花がなんなのか知る事ができる…。」




