第20話 今に至るまで 前編
「なあ長島、聞いたかよ、足利流星の話。また能力者捕まえてきたんだって。もう今月で14件目だ。」
「……。」
「おい、なんとか言えよ。」
「くっ!!」
長島は駆け出した。
足利がとある警察署で取り調べを受けていると長島がやってきて、取り調べをしている警官に言った。
「警視庁の超能力捜査本部の長島だ、すまない、一旦席を外してくれないか。」
警官たちは部屋から出ていった。
体の各部が包帯でぐるぐる巻きの足利は長島を睨みつける。
「あなたですか、また説教しに来たんですか?」
「…今回も留置場行きは逃れたんだってな。」
「そりゃそうですよ、この短期間で何人捕まえてきたと思ってるんです?」
足利は腕を捲って大量のあざを見せつけた。
「データは見させてもらった、証拠の集め方が日に日に上手くなってるな。」
「うっせえ。」
長島は机に両拳を叩きつけた。
「どうして!!」
「!?」
「なぜそんなにも能力者に立ち向かえるんだ!!」
「え。」
「僕にもね、依頼が来るんだよ。とても処理しきれないから捜査本部で何人かに分けて1ずつ捜索しているんだ。僕は今ある凶悪犯を追っているんだけど一向に捕まえられる気がしない…!そう迷ってるうちに君は次々と…。」
長島は足利の手を握った。
「…頼む、よければ、君さえ良ければ協力してくれないか!!」
「つまりこないだの説教は俺への八つ当たりですか。」
「…!!!」
「仕方ありませんね、もちろん報酬はいただけますよね?」
「もちろんだ!」
足利は長島に連れられ今追っている犯罪者の調査資料を見せられた。その男の名は田口与作、茂夫による事件発生前からの指名手配犯である。
「こいつ1人にそんなに手こずってるんですか?」
「君は知らないんだ!奴の能力の恐ろしさを。」
「さっき念力って言ってましたよね?」
「そうだ。実は少し前にあいつの身柄を大勢で拘束する事になったんだ。情報によると奴は超能力を手に入れたと周りに言いふらしてるらしく、姿を現したのもそれによるものらしいんだ。我々は危険を感じ奴の自宅を武装して囲んだ。するといつのまにか拘束していた警官の1人と共に自宅から出てきたんだ。そしてこう言った。」
「大人しく帰らないとこいつを殺す。俺は念力を持っているんだ!!!」
「我々は仕方なく撤退する事にした、しかし撤退しようとした瞬間にその警官の体の各部が目の前で潰されたんだ。」
田口が手を触れずに警官の体が潰されていく様子が記録された映像と、その遺体を見せられた。
「それから奴の確保は保留となった、刺激を与えなければ周囲に危害を加えなかったからだ。なんとか奴の隙を僕が見つける役割になったんだけど…自宅から出た跡をつけると気が付けばまかれているし下手に近づくと念力で潰されてしまう、もうどうすればいいのか…。」
「・・・・・」
「これを見てどう思う?」
「まずですね、能力者本人の言っている事は信用しちゃダメです。自己顕示欲があって能力を自己申告する奴もいますがこういう後ろめたい事がある奴は基本嘘を言って刷り込みをしてくるんです。」
「え?」
「こいつの能力は念力なんかじゃありません。」
「君は現場にいなかったから…」
「状況証拠と話だけでわかります、断言します。念力でありません。逆に聞きましょう、どこを見て念力だと思ったんですか?」
「そりゃあ、手も触れずに体を…」
「ショッキングだからその場面が印象に残るのはわかります、ですがそこに至るまでに念力だと仮定すると一つおかしな事がある事に気が付きませんか?さっきあなた自身も言ってましたよ。」
「そこに至るまでの仮定…?」
「考えてください。」
「いつのまにか拘束されてた事…?」
「よしとしましょう、自宅を囲んだという事は自宅の周りで隙間をつくらず警官達が囲んでいたって事でしょう?念力で家の中に入れられたとして家の中に運ばれるまでに連れられた人は何かしらリアクションをするはずです。それに両隣の人が気づくでしょう。」
「でももしかしたら…」
「念力で口を塞がれたとか言わないでくださいよ。」
「うっ。」
「大勢が家の方に向いているのに家の中に連れられる姿が確認できない時点でおかしい。絶対に念力じゃありません。」
この警官は家の正面で待機していた長島とは真反対にいたため長島自身状況を客観的に把握できていなかったのだ。
「あともう一つ言うと、俺自身このあいだ念力を持つ能力者と出会いました。ただそいつの場合自分の力以上のものは持ち上げられないし距離が遠ければ遠いほど持ち上げるのに負荷がかかるというものだった。超能力者ってのは強力であればあるほど何かしら制限のようなものがあるみたいなんです。そしてその人間の欲望を満たせるような能力が発現する事が大半、指名手配犯であるこいつの欲望、そしてこの時の状況は念力とは噛み合ってないような気がするんです。」
「いやあ、でも念力に憧れていたのかも。」
「その可能性も捨てきれませんが埒が開かないなら一旦念力から離れるべきです。念力を前提として事態が進展しなかったのはあなた自身がよくわかってるはずです。」
「じゃあ奴の能力は一体なんだと思うんだ?」
「指名手配自体は数年前からされていたのにここ最近になって唐突に表に出てきた。あなたが尾行してもすぐにまかれる。指名手配でこれまで逃げていたと言う事なら隠密行動に長けているが出てきたと言うならできる限り堂々と生活がしたい。つまり堂々と生活できるが何かをしてもバレにくいような能力でしょうね。」
「うんまあそれはわかったんだけど…」
「そして次にこれです。」
足利は遺体の写真を手に取った。
「この潰され方がどうしても気になるんです。」
遺体の体の節々には丸い跡がついており、すべて同じ方向から潰されていた。
「念力で潰したと言うより、仰向けの体の各所を道具で潰したように見えませんか?」
「言われてみると確かに…。」
「奴が今の家に越してきたのはいつですか、そして荷物はあったんですか?」
「越してきたのは3ヶ月前、荷物はなかったな。」
「じゃあ引っ越してからの奴のインターネットの履歴をデータ検索してみてください、通販に絞って。」
「わ、わかった。」
調べるとほとんどが日用品、あとはゲーム機だった。
長島が画面をスクロールしてると足利が指を刺した。
「止めて!これです!!」
足利が指を刺した先にはプレス機の購入履歴があった。
「まさか、潰すのに使った道具ってこれか!?」
「その商品の詳細を見せてください。」
「はい。」
「…ビンゴ。これで確定しました、念力ではなくプレス機を使ったんです。」
「なぜわかる!?」
「遺体の記録を見て引っかかったのは体の潰された部分にある服に残った丸い痕、これが直径20cmぴったりだった事。超能力にしては機械的すぎると思ったんです。そしてこれ。」
足利が指を刺した先には、プレス機のプレス部分の直径が20cmと記載されていた。
「こ、これは…!」
「そろそろ俺の話を信じる気になってきました?」
「あ、あぁ…。わかった。」
「ふん。」
「すまなかった、君がどれだけ本気で超能力に立ち向かっているのかわかったし、君は僕がどれだけ未熟かわかったはずだ…お互いにわかったと言う事でもうギスギスするのはやめよう…。」
「そうですね、本当の敵は超能力者ですし。」
「ああ、だから君の事を認めた上で聞くんだが、プレス機で潰したという事はわかったが僕の眼の前で潰されたあれは一体どういう事なんだい?」
「それも彼が奴の自宅の中にいつの間にか引き込まれていたのと同じ、既に彼の体は潰されていたんですよ。彼はあの時点で既に亡くなっていた、生きて返す事ができないから警官達が撤退しそうになって急いで遺体を潰す様子を見せたんじゃないですか。」
「じゃあ彼を潰して見せたんじゃなくて、彼が潰れていないように見せていたって事だね。」
「そう、これでそろそろ見えてきたんじゃないですか、奴の能力。」
「幻覚を見せる事…?」
「幻覚とは少し違いますがおそらくそれに近いようなものでしょう。ここまでわかれば十分です。」
足利は立ち上がり部屋からそそくさと出ようとした。
「待て!どこに行くんだ!!」
「決まってるでしょう、田口と直接戦うんです。少なくとも奴の能力単体では人を殺す力がない事はわかった、戦えば勝てます。」
「…わ、わかった。僕も行くよ。」
田口の自宅周辺を探していると、奴の姿を2人は発見した。
「あれが田口ですね?」
「そうだ。」
「後は俺1人で十分です。」
「え?」
「あいつの能力は複数人相手だとすごい惑わしてくるような能力だと思うんです、少なくとも2人で一緒にいるのはお互いに危険です。一旦離れていてください。最低3キロは。」
「わ、わかった、き、気をつけるんだよ!」
足利は周囲に人がいない事を確認すると田口の元に走った。
先手必勝で後ろから飛び蹴りをすると振り向く事なく田口はそれを避けた。
足利は怯まず連続でパンチをする、しかし全て綺麗に避けられてしまった。そして田口は振り向いた。
「なんだお前?あの刑事の仲間か?」
そして足利を強い力で3発殴った。
「あああああああ!!!」
足利はここ数日の能力者との戦闘で負傷していた事、そしてこの頃は今ほど筋肉もついておらず耐久力が低く大ダメージを負ってしまった。
「いいか、二度と俺に近づくなよクソガキ。」
すると次の瞬間人がいなかったはずの周囲が大量の通行人であふれていた。
しかし足利は驚かず冷静に辺りを見回した。
そしてある一般人に目をつけた、メリケンサックを手にはめると一般人を殴り飛ばした。
倒れ込んだ一般人の姿は田口の姿へと変わった。
「くそっ…なぜわかった?」
足利は通行人が過ぎ去っていく地面を指差す。
「お前だけ影がなかったからだ。」
「そうか。」
すると何もないところから足利は殴られた。
何もないはずのところから次から次へとパンチが飛んでくる。
足利はパンチの飛んでくるリズムを読み透明な何かを掴んだ。
「うっ!」
足利はスマホのライトを最大に設定して掴んだものを照らした。すると腕の形が浮かび上がった。
「やっぱりそうか…!」
「くそ!!」
腕を振り解かれる、足利はライトを照らしながら周囲を見渡した。
「ぐはっ!!!」
再び見えない腕に殴られてしまう、足利はライトを不規則なリズムでつけたり消したりして辺りを見渡す、すると一瞬人の形が浮かび上がりスマホを手放しその方向を全力で殴りかかった。すると感触があった。
「ぐわあああああああ!!!」
地面を転がる田口の姿が現れた。
「痛いんだよ!!武器使うとか犯罪だろうが!!」
足利は田口の喉仏を踵で踏み抜く。
「っ!!!」
「わかったぞ、お前の能力。お前は周囲の光を操る事ができる、そして人の目に間違った情報を見せる事ができる、光を捻じ曲げて自分を見えないようしたりすることもできる。幻覚を見せるより応用が効いて厄介な力だな。」
踵をさらに強く踏みつける。
「俺の不意打ちを読んでいたり、長島さんの存在にも気づいていたことから光を操って死角の景色を自分に見せる事もできる、そうだな?」
田口は必死に目で抵抗した。
そして足利の周囲の景色が少しずつ白に染まってゆく、
足利は踵を離し爪先で田口の顎を蹴り飛ばす。
田口の意識が一瞬遠のき能力が解除され景色が元に戻る。
そして田口には大ダメージだ。
足利はダメ押しに田口の鳩尾を踏み抜こうとするが足が田口の体を通り抜け地面に到達した。
「この田口の体は光の操作による錯覚、この一瞬でもう逃れやがったか!!」
足利は目を瞑り耳に全意識を集中させた、音で田口の攻撃を察知しようと考えたのである。
しかし足利には田口の出す音はおろか周囲の雑音すら聞こえなかった。何も聞こえない事に気づいた時にはもう遅くパンチの連打が足利を襲った。足利が目を開けると砂嵐のような竜巻のような景色の回転が目に映り、やはり音が何も聞こえなかった。そして何度もパンチをもらう。しばらくすると田口が姿を現した。
「どうだ驚いたかよ、どんな気分だ?お前の周囲だけを大量の光が超光速で回転しているんだ、光は音よりも速い、光の高速移動が周囲の音を打ち消す、お前から視力も聴力も奪う。孤独な空間でお前は死を迎える事になる。」
それを言うと再び田口の姿は消えパンチの嵐がやってくる。
足利は再びスマホのライトをかざすが光の回転に持っていかれ効果をもたない、足利の負傷は凄まじいものになっておりパンチのタイミングを読む力も、読んだとして反撃する力ももう残っていなかった。足利は既に大量の負傷を抱えていた上パンチの嵐で痛みはぶり返してしまっていたのだ。足利は最初から体調が万全ではなかったため田口に通ったダメージも足利に比べれば遥かに軽い、この差が足利を追い詰めた。
「畜生!!能力がわかったっていうのに…!もう反撃する力も残ってねえ…こんな終わり方…ありかよ…!!クソオオオオオオオオオ!!!!」
足利は勘でパンチを振り抜いた。すると手応えはなかったものの景色が元に戻った。
「あれ?」
首を横に向けると長島が警棒で田口を叩きのめしている姿があった。
「長島さん!?なんで!?」
「君のズボンのポケットに小型の盗聴器を仕掛けておいたんだ、通信が途切れたからピンチなんじゃないかと思ったんだよ。」
足利はポケットから盗聴器を取り出した。
「いつのまに…!!」
「能力の正体は聞かせてもらったよ、光を操る能力とはね…。」
「ええ、そして能力の使い方を見るにこいつの能力には制限がない、それが弱点なんです。全て自分で作業をするから意識や思考の範囲外の事はできない。」
「なるほどね…。」
すると長島が頭から吹き飛んだ。見えない田口に殴り飛ばされたのだ。
「ぐはぁ!!」
足利はパンチの振り抜き具合を殴られた長島の姿から逆算して特定し田口の鼻を目がけてパンチし、見事に命中させた。田口は姿を現し鼻血が止まらない様子だった。
「うあ…ああ…この野郎ォォ!!!」
田口は大きく腕を振り抜き周囲を真っ白にした。
「もうめんどくせえ小細工はなしだ!!」
長島が殴られた際に落とした警棒を拾い上げ足利に振りかぶる。
「これでリーチは俺の方が長え!!このままぶっ殺してやる!!クソガキ!!」
このままでは足利がパンチを繰り出しても間に合わない距離感になっていた。しかし足利はまだ冷静だった。片方のメリケンサックを素早く外し軽い力で田口の手を目掛けて投げたのだ。サックの角が田口の手に直撃する。
「おわああああああ!!!」
たまらず警棒を手放し悶絶した。
足利は距離を詰め指の骨を鳴らした。
「散々手こずらせてくれたなおっさん!!!」
足利は残っていたサックを左手から右手に付け替え、田口の顎をアッパーで貫いた。
「ぐぎゃあ!!」
長島に警棒で殴られたのもあり田口のダメージは足利以上になっていた。形成逆転である。
「このまま意識を断たせてもらうぜ!!うおおおおおおおおおおお!!!!」
足利は残った力を最大にしてパンチの連打をする、パンチをすればするほど光によって捻じ曲げられた景色がだんだんと薄れていく。足利はパンチの手を止めない。
「おおおおおおおおおりゃあああああああああああ!!!!」
足利は田口の意識を完全に断ち切るために大きく反動をつけて右フックと左フックを交互にぶちかます。田口の頭は左右に交互に持っていかれる。田口の意識はまだ途切れない、足利は今度は肋骨に向かって左右の連打をぶちかます。そして右の脛を蹴り飛ばし鳩尾を15発殴ったのち顔面左右フックを再開、そして最後に右手に最後の力を込めアッパーで田口を吹き飛ばす。
田口の体は宙に浮きガードレールに頭を打ちつけ、ついに意識を失くした。
足利は負傷もありかなり疲労していた。
「はぁ…はぁ…」
立ち上がった長島は田口の手足を手錠で拘束すると、足利に肩を貸した。
「大丈夫かい?」
「……ありがとうございます。」
「え?」
「長島さんが来てくれなきゃ、俺死んでました。」
「いや、感謝しなきゃいけないのは僕の方だ、ありがとう。」
足利は思い切り長島にもたれかかった。
「ねえ、流星…くん。」
「はい。」
「もしよかったら、怪我が回復したらまた手伝ってくれるかな?」
「…超能力事件は全て受け付けております、それが俺の足利探偵事務所です。」




