第19話 足利の成り立ち 後編
足利は目を覚ました。
そこは病室で、足利はベッドで寝かされていた。
足が骨折、そして肩が外れておりギプスがはめられていてあまり大きく動かない状態であった。
「……俺は……生きているのか………?」
見渡すとカーテンで仕切られているが、窓際にスーツを着た1人の男が外を見て立っていた。
「ついに目を覚ましたか…足利流星くん。」
「ここは病院か…?」
「ああ、そうだよ。私は刑事の長島何時希だ、君が目を覚ますまで付き添う事になっていてね。」
足利は意識を無くす直前のことを思い出した、脳裏に焼き付いていたのだ。
「…宇月は!?宇月はどうなった!?」
「…君の目論み通り、池上茂夫は逮捕された。もちろん殺人罪ではなく道路交通法違反だけどね。君の作戦は完璧だった。ビデオは全て見させてもらったよ。君が意識を失っている間にUSBメモリも見させてもらった。驚いたよ、まさか中身が空っぽなんて。ハッタリであそこまで立ち向かえるのは想像できる事じゃない……そして、一部の政治家達が全国の探偵に向けて秘密裏に出した依頼書があっただろう。君はその依頼を完遂したという事で後日多額の懸賞金が送られる事になる。そしてもちろん君の事は報道されない、プライバシーは守られる。」
「そんな事どうでもいい!!宇月は?宇月はどうなったんだよ!!」
「……」
長島はずっと窓の外に体を向け、足利に振り向こうとしない。
「なんとか言ってくれ!!!」
「……残念だけど……神戸宇月さんは……」
「…おい、嘘だろ。」
「くっ……ううう……。」
長島は足利に顔を向けた、その顔は泣いていた。
「刑事さん…?」
「頭の打ちどころが悪かったんだ……」
「……!!!」
足利は限界まで首を起こし、自分の体を見る。
「だから俺は……。」
長島は膝を落とし足利のベッドに頭を伏せた。
足利よりも長島の方が泣いていたのだ。
「本当にすまない…!!我々警察が不甲斐ないばかりに……こんな……こんな…!!!僕は何もできなかった…!!!」
足利はショックのあまり涙すら出ていなかった。
「なんでだよ…。」
「え?」
「なんで俺じゃないんだよ!!死ぬのは俺でよかったんだ!!なんでこんな事になってんだよ!!まさか…あの時宇月は俺についてきていたのか…!?俺はそれに気が付かなかったのか…!!なんで俺なんか庇ったんだ!?俺でよかったんだよ…!!」
「きっと…あの子はそう思ってなかったんだよ。」
「くっ…!!!」
「……僕も、僕も守れなかった。」
「…。」
「僕には妻と娘がいたんだけど、2人とも池上茂夫に殺されたんだ。僕が池上透の不正を暴こうと独自で捜査していたばかりに、見せしめにされたんだ。」
「………」
「そこで僕は茂夫の逮捕を諦めてしまった、あの時僕が何が何でもあいつの身柄を拘束していればこんな事にはならなかった!!宇月さんだけじゃない、君のお父さんだって……全て僕の責任だ…!!!」
長島は顔を上げる。
「…悪いのは刑事さんじゃない、力を正しく使えない人間の方です。それと宇月に気づかなかった俺も。」
翌日も長島は意識を取り戻した足利の見舞いにやってきた。
ドアをノックすると、
「どうぞ。」
と声がかすかに聞こえたので開ける、足利はメディアや池上から守るため個室の病室にいたのだ。
中に入ると長島は驚いた。
足利の顔に複数のあざができていたのだ、事故直後から目覚めるまで足利の姿を見守っていた長島は事故の時にできた怪我ではない事にすぐに気がついた。
「ど、どうしたんだそのあざ!?」
「いいんです、当然の報いですよ。」
「よくないだろ怪我人にこんな…!誰にやられたんだ!?」
「…、宇月の両親です。」
長島は血相を変えて病室から出ようとした、事情聴取で先日宇月の両親とは会っており、宇月の両親がどんな人物か知っていたからだ。そして学校な関係者も宇月が家庭内での仕打ちを知っておりその話も聞いていたためなおさら腹が立ったのだ。
宇月に対し生前は酷い扱いをしていたにも関わらず、亡くなった途端に態度を変え。
「大切な娘を返せ。通報を受けて間に合わなかったお前が悪い。慰謝料を払え。」
などとあたかも宇月を愛していたかのような被害者的振る舞いを仕出したのだ。
「なんなんだあいつらは、人の親とは思えない!!暴行罪で逮捕してやる!!」
長島がドアノブに手をかけると。
「やめてください!!」
と足利は言った。
「だけど…!」
「いいんです。俺のことはいくら傷つけられても構いません。」
「でもその傷は君のためでも宇月さんのためのものでもない!あいつらの自己満足だ!」
「刑事さんにまであんな人間と縁を作って欲しくない!」
「…、君がそういうなら。」
長島は椅子に座った。
「宇月さんが家庭で受けていた扱いは知っている…。」
「俺も何度か止めに行きました、俺の両親や学校の先生達が止めに行っても、児童相談所や警察にも連絡したけどどうにもならなかったんです。悔しいですが俺もあの両親にはあまり近づきたくないのが本音です。」
「もう君たちにはどう声をかければいいのか…。」
「世の中には誰にも助けられない人がたくさんいます、傷つけられている事を知られもしない人、知られていても法律上の問題でどうにもできない人、池上茂夫の被害者もそうです。俺は池上茂夫を倒す事でさらに悲しむ人を1人でも減らしたかった。」
「…僕も同じ気持ちだった。だけど君と違って僕は誰も救えなかった…。」
「…………。」
足利や長島は悲しみを抱えながらもこれで全てが終わると思っていた。しかし、現実はそう甘くなかった。これを皮切りに超能力による犯罪がどんどん増えていったのである。
「やあ、来たよ。」
そこにはテレビを凝視する足利の姿があった。
テレビの画面を覗き込むと近日メディアで持ちきりの超能力犯罪の特集をやっていた。超能力者の発生は後を立たず確認された中でも247人にまで上っていた。全て犯罪者だ。
「増えてますね、超能力者。」
長島は机に見舞いのフルーツを置いて椅子に座り、テレビを観る。
「…そうだね。」
「今日でついに47都道府県全てに超能力者が確認…まるで測ったようなタイミングですね。」
「最初に能力者と判明したのが茂夫だっただけで、もしかしたら元からもっといたのかもしれない。流石に政府も緊急で法改正をしてギリギリ能力者を逮捕しやすくなったけど法律だけではカバーできない、厳しいものがあるよ。」
超能力による犯罪は軽犯罪もあれば、殺人や強姦や虐待などの凶悪犯罪に利用するものも多かった。
「なんで超能力はこういうことばかりするんでしょう。」
「こういう奴らだから超能力を持ったのかも、普通に生きていればそんなもの必要ないからね。」
「池上の一見でみんな受け入れていますが、超能力って一体なんなんでしょうね。」
「そんなものこの世にないって思っていたのに、いざ現実となると意外にも受け入れられるものなんだね。」
すると長島の携帯に着信が入った。
「なに!?超能力者!?わかったすぐ行く!」
長島は電話を切った。
「ごめんね、行かないと。」
足利は長島の背中を黙って見ていた。
足利はリハビリセンターでトレーニングをしていた。
手すりを使いながらを必死に歩く姿を長島は眺めた。
「すごく頑張ってるじゃないか。」
「はい。俺、探偵になるんで。」
「…?」
足利は手すりを使って歩き始める。
それに追いつくように長島は駆け寄った。
「今なんて?」
「探偵になって超能力と戦います。せっかく助かったんだ、この命有効活用しないと。」
「そんな、危険すぎる!ニュースを見てたんだろう?我々警察の装備でも手に負えないような奴らがうじゃうじゃいるんだ!!」
「報道されてるのは立件できたごく一部でしょう?これからも超能力者が増え続けるとしたらもっと大変な事になる。法を掻い潜った奴に困らされてる人だって出てくるだろうし、既にいるかもしれない。そんな人達を助けたいんです。」
「我々では限界があるのは事実だ、だがそれは君が無茶をする理由にはならない!いいや無謀だ!本当に…」
「だけど、この事に目をつぶって生きていくなんて無理です。俺は戦います。」
それから足利はリハビリに励んだ、高校には事情を説明し入院しながらも課題を送るという形でなんとか授業に追いつき、1月に退院し無事卒業を迎えた。そして足利はついに足利探偵事務所を引き継ぎ探偵となった。事情を知った上で足利が進学をしない事を反対する者はいなかった。「超能力犯罪、全て受け付けます。」というキャッチコピーの張り紙を事務所近辺に貼り、インターネットでも小規模ながら宣伝をした。すると早速、最初の依頼人が事務所へやってきた。依頼人は20代後半の女性、左腕が骨折しギブスをしておりひどくやつれた様子だった。
「電話でも話させていただいたんですけど、この腕、彼氏にやられたんです。」
「同棲を辞めたいが能力で脅されているから困っているというお話でしたね。」
「それだけじゃないんです!道端で見かけた人も少し気に入らないってだけで、目についただけで何人も殺してるんです!」
「能力はシンプルな怪力、足も強化されるから足がとても速いせいで防犯カメラの描画では証拠として扱ってくれなかった…」
「もう私は彼が恐ろしくてしょうがないんです!だけど警察も他の探偵事務所も、知人も誰も取り合ってくれませんでした!!お願いします…!!彼は今は仕事中で私も仕事に行ってると嘘をついてここに来ています。万が一気づかれたらと思うと…。」
「もちろん解決はさせます、しかし一つだけ約束してほしい事があります。」
「はい。」
「彼の命を絶つようなことはしませんが、それなりにボコボコにするつもりです。私も命懸けですし話を聞く限りちょっとやそっと静止は効きそうにありません、必要以上に怪我を負わせるかもしれません。それでも構いませんか。」
女性は涙を流した。
「なんでもいいから!とにかくあいつを止めて!!」
「わかりました、報酬は成功したら請求書をお送りいたしますので期限までに振り込みをお願いいたします。」
「はい。」
「それと彼と戦う作戦なんですが、あなたの仕事帰りに私があなたの跡をつけてストーカーだと思い込ませ私を襲わせようと思うのですが、それでよろしいですか?」
「…はい、お願いします。」
「それでは決行は明日になります、よろしくお願いします。」
そして翌日。今回のターゲットである男、砂川は依頼主の女性の帰り道をつけており、女性の跡を付ける足利に気がつく。計画通りに事は運んだ。
「おい。」
砂川は足利の方に手を置く。
足利が振り向くとそこには細身で身長の低い男がいた、顔は確認していたが聞いていたイメージよりかなり気弱そうな顔だった。
「なんだよ。」
「お前さっきから清美の跡付けてるけどなんなんだよ。」
「え、キヨミ…?」
「とぼけんなぁ!!」
足利は顔を殴られた、しかし足利は当時からそれなりにガタイが良かったので大したダメージにはならなかった。
すると砂川の体は緑色に発光し1秒もしないうちにムキムキになり、身長も足利と同程度になった。
「なっ!!」
足利は茂夫以外の超能力者と対峙するのは初めてだったので動揺してしまった。
足利はもう一度顔を殴られ片方の頬骨が砕ける。
「うわああああああ!!!」
依頼主の女性は砂川が来たことに気づき振り向く。
「足利さん!!大丈夫!!?」
「俺は超能力者なんだ…清美に近づくやつは全員殺す!!俺を不快にさせる奴は死ね!!」
砂川は歩いて近づいてくる。
「くそ!めちゃくちゃ痛え!!でもこういう時ほど冷静にならないと!!ここまでは作戦通りなんだ!!」
足利は後方の交差点に転がり込んだ。
すると砂川は急に逆方向に走り出し助走をつけた。
「聞いた通りだ。」
足利は手前な住宅に仕掛けられた防犯カメラを見る。
「防犯カメラに映るところではあいつは映るのを恐れてスピードに乗せてやってくると。」
砂川は増強した筋力による走力で全力で走ってきた。
「問題はここからだ、1発ずつしか殴って来ないようだがそのスピードで殴られて俺はどれくらい耐えられる?」
足利は立ち上がりメリケンサックを手にはめボクサースタイルに構える。
「こっちに来たタイミングでカウンターをぶちかます、あいつを倒すのはあいつ自身の生み出すスピード自身だ!!」
全速力で走ってきた砂川は足利に拳を振りかぶる、足利はそれに合わせてパンチを繰り出した。
すると思わぬ反撃に砂川の狙いは外れたが足利の肩の骨にヒビが入った。
「ぎゃああああああ!!!」
足利の狙いとタイミングは完璧だった、しかし超能力によって皮膚が硬化された砂川の体にはダメージが通らなかったのだ。
「足利さんもう逃げて!!」
砂川はそのまままっすぐ走り抜け、視界から消えた。
足利が立っているのは交差点のど真ん中、夜で視界が悪くどの方向から砂川が走ってくるのかわからない、予想しなければならないのだ。
足利は黙ってただ立っていた。
「お願い逃げて!あいつに殺される!!」
すると先程とは別の方向から砂川は走ってきて足利にパンチをしてまた通り過ぎていった。先ほど折られた頬骨を再び殴られたのだ。
「ンンンンンンンンン!!!」
「足利さん!?なんで何もしないの!?」
足利はスマホをポケットから取り出し、タイマーを止めた。そして瞬時にGPSのマップアプリを開いた。
砂川の走った距離と足利の元に来た秒数から砂川の速度を瞬時に計算した。そして地図を凝視する。砂川の速度と周囲の道の形から砂川の来る方向を時間的に予測するという作戦だ。
「さっきは東から来た、そのまま往復して来るとして西から走ってくるならあと…3…2…1…」
しかし砂川は来ていなかった。
「また0.5秒経過、これで北から来る可能性も無くなった、だとすると残されているのは南!!」
足利はスマホをしまい西を向いた。
「南から来るなら残り…2…1…」
足利は右手に持ったライターを左脇の下に持ってくる。
「来なかった…!!やはりそうか!!」
そして砂川走ってきた。
「あいつは俺が違う方向からくると思い込むと考えてぐるっと一周して再び東からやってくるつもりだったんだ!!ああいう卑屈でずるい人間ならそう考えると思ったぜ!!だから俺は敢えて気づかないふりをして逆方向を向いた!!奴が俺の元に到達するまであと0.3秒…!!」
すると辺りに悲鳴が響いた、しかし今回のは足利のではなく砂川のである。
砂川が到達してきた直後に足利はライターに火をつけ砂川を燃やしたのだ。火だるまになった砂川はそのまま地面に転がり悶絶した。
「ああああああああああ!!!」
依頼主の女性はその光景を見て後退りをした。
「嘘…でしょ…?もう…無理…」
しばらくすると火は消え、砂川は足利に向き直った。
「う…あ…な、何しやがるてめえ!!」
足利は右拳で砂川の顔を打ち下ろした。
「ぐへえ!!」
「いくら体が強化されていても全身を火傷させちまえば多少はダメージが通るよな!!」
足利は追い討ちでアッパーをかました。
「いたい!!いたい!!いたい!!」
「お前に殺された人達に比べればこんなもの!!」
足利はメリケンサックの金属部を砂川の鼻に叩きつけた。
「ぎいやああああああああああ!!!」
砂川は痛みのあまりついに意識を失った。
足利はアダルトサイトで買った手錠を砂川にくくりつけ、依頼主のいた方向を向いた。
「鈴木さん!やりましたよ…、あれ。」
依頼主の女性はすでにその場にはいなかった。
後から調べると彼女が足利に伝えていた名前も身分も住所も全て嘘だった、最初に連絡を取った電話番号に関しては番号が変えられ、結局彼女の行方はわからずじまいで報酬金を受け取る事もできなかった。
これが足利の最初の依頼である。
その後足利は砂川を警察に突き出した、砂川は逮捕されたがそれと同時に足利も暴行罪で留置場に1週間送られる事になってしまった。当然である、法的に見れば一般人が一般人をボコボコにしただけなのだ。警察により拘束された砂川がのちに全て素直に話した事や防犯カメラでは砂川から襲い掛かっている様子が窺えたためなんとか足利の主張も聞き入れてもらえたが、それでも足利も犯罪者として扱いを受けた。
この話を聞きつけた長島は足利の牢へ足を運んできた。
「…久しぶりだね。」
「ご無沙汰してます。」
「…君がしたかった事って、こんな事なの?」
「何がですか?」
「これじゃただの犯罪者だよ、探偵ごっこはもうやめな。」
足利は長島との距離を詰め鉄格子に手を叩きつけるように掴みかかった。
「なんだと!?あんたら警察があいつを捕まえなかったのが原因だろうが!!」
「それでもだ!みんな逮捕したいのは山々だが我々警察も法の元で順序立てて対応するしかないんだ!!」
「通行人にはくっだんねえ点数稼ぎの職質をして足止めする割には違法駐車のように超能力者はほったらかしかよ!!これが日本の警察か!!」
「口に気をつけろ!!」
「黙れ!!いいですか、俺はあんたらが野放しにしてる超能力者をこれからも捕まえ続ける、あんたらの体制が整うまで俺は戦い続けるからな!!」
「…それから俺は超能力者を捕まえ続けた、訴えられそうになった事もあったけどまあなんとか切り抜けて今に至る。」
足利は全てを話し切ったような顔で大久保の顔を見た。
「…え?それで終わりですか?」
「ああ。」
「ちょっと待ってくださいよ!!それじゃあ長島さんでしたっけ?今は協力者って言ってましたよね!?最悪な雰囲気じゃないですか!?しかも話聞いてるとその時点じゃ不死身の力はなかったんでしょ!?いつ手に入れたわですか!!」
「まあなんやかんやあったんだよ。」
「そのなんやかんやが1番聞きたいんだよ!!」
「でもそれも話すともうちょっと話長くなっちゃうんだよね、ここまででも結構長かったし。聞きたいならもちろん話すけど。」
「…じゃあ一旦トイレ行ってくるんで、帰ってきたら続きをお願いします。」
「わかった。」




