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姫の花  作者: トムとゼリーwith五目御飯


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第17話 足利の成り立ち前編

挿絵(By みてみん)

その時、ある政治家の男と現総理大臣の息子、池上茂夫がいた。

「池上の息子か、僕に何のようだ。」

「迷惑なんだよ。」

「さて、なんのことかな。」

「俺の親父の事はどう言ったっていいけどさ、親父を批判するのに俺のプライベートまで晒すのやめろよ。」

この男は反池上派の人間の1人で、茂夫の素行の悪さを記者を利用し批判材料にしていたのだ。

「言っおくがこの家には無数の防犯カメラが仕掛けられている、そしてその映像は常にある場所へ中継されている。君が僕に何かすればたちまち君の今の生活は終わる。」

「だから奥さんと離れて1人でこの家に住んでたんだ、残念だったなぁ。そのせいで奥さんの最期を見逃したんだから。」

「なに?」

「あはは。ほら、これを見ろよ。」

茂夫が差し出した携帯に写し出されたのは男の妻の遺体だった。

「これは…!!なんだ!!」

「見ればわかるだろ?」

それまで強気だった男の表情は一気に悲哀に塗られていった。

「親父にてめえを始末しろって言われたんだ。奥さんのように殺してやる。それだけじゃない、お前を殺した後はお前の親戚全員殺しに行く。はったりじゃない。ちゃんと名前も知ってるぜ?」

茂夫は男の血縁者の名前を挙げ始めた。

「や、やめろ!!」

男は涙を浮かべる。

「残念だったなぁ、さようなら。」


時は2013年。涼しげな夏服の制服を着た足利と、ショートボブで髪留めをしている白髪の少女、神戸宇月が一緒に下校をしていた。

「ねえ、そろそろ大学決めた?」

宇月のその問いに足利は目を逸らして唸る。

「それがさ…まだ…。」

「もう!そろそろ決めないと本当にやばいよ!」

「わかってるって!絞りきれないんだよ!」

「どうしてそんなに悩むかなぁ。」

「そのうち勝手に決まるから。」

「ふーん?」

宇月はにやにやとしていた。

「なんだよ。」

「足利くん真面目だもんね、でも素直じゃない。」

「え?」

「あははは!!」

そう、他愛もない会話だ。足利は普通の高校生だった。まさに絵に描いたように普通。悩みもあるが特殊ではなく誰にでも想像がつくような些細なことばかり。喧嘩もしたことがない、戦いとは無縁の人間だった。


「ただいま。」

足利は葛飾区の自宅に帰宅した。日当たりの悪い住宅街にある2階建ての一軒家である。父の足利竜巻は探偵業、母のひのきはパートで不在。家にいたのは足利の高校よりいくつか偏差値の高い別の高校に通っている妹の足利荷水流だけだった。

「おかえり〜。ねえ、私ちょっと今から友達と遊び行ってくるね。」

「どこ行くんだ?」

「渋谷。」

「わかった、変な人いっぱいいるから気をつけろよ。」

「はーい。」

足利は部屋で荷物を片付けるとテレビをつけた。

そこには政治家が殺されてニュースがやっていたが、足利は気にも止めず録画一覧を開きアニメを見始めた。

「荷水流がいないからテレビ独り占めだぜ。」


翌朝、足利が教室に入ると雰囲気がいつもより冷たく。ざわついていた。席に座っていた宇月の姿を確認すると詰め寄った。

「なんか今日雰囲気変だけどなんかあったの?

「足利くんニュース見てないでしょ。」

「ニュース?」

「辻切(つじぎり)タカトさんが池上氏首相の息子さんに殺されたんだって、反池上派で有名なあの政治家だよ。」

「あー…なんか聞いたことあるかも。」

「しかもさ、その息子さんって倒負(とうふ)に通ってたんだって。」

倒負とは、足利の通う高校の隣の高校で私立学校だ。芸能人の子供や金持ちの子供が多い学校である。足利と宇月は高校の徒歩圏内に住んでおり、この辺りはセレブがいるのは珍しくない。隣といってもいくつか大通りを挟んだ先ではあるが自転車で行くのは容易い距離のため周りに他の高校がないのも相まってそこそこ身近である。

「マジか、それでこんなざわついてんのか。」

「怖いね…。」

「まあでも逮捕されたんだろ。」

「それはそうだけどさ、元々あの高校あんまりいい噂聞かないし。」

「まあなー。」


それから昼休みになり、足利と宇月は屋上で弁当を食べていた。2人はいつも昼休みは屋上にいる。

足利は黙々と食べいたが、宇月が会話を切り出した。

「ねえ足利くん、迷ってるんでしょ?」

足利は箸を止めずに口に物を含みながら返事をする。

「何が?」

「私が心配?」

足利は手を止めた。一瞬だけ宇月の髪を見た。一見は綺麗なブロンドのような白髪だが、家庭環境があまりよくなく本来なら黒髪のはずがストレスで色素が残っていないのだ。

「足利くん前は行きたいところがあるって言ってたからさ…ごめん、自意識過剰すぎたかな?」

足利は弁当を一度閉じて宇月と目を合わせた。

「…そうだよ。お前が心配だよ!」

「父さんと母さんのことでしょ?」

足利は宇月の両親をよく思っていなかった。宇月には柴百合(さゆり)という4つ上の姉がいるが、両親からの仕打ちに耐えられず宇月を置いて1人でアメリカへ自費で留学したほどである。

「大丈夫、大学生になれば私も一人暮らしする予定だから。」

「本当は俺もついていってやりたいけどさぁ、俺の学力じゃお前のとこ無理だし、他に勉強したい事あるし…。」

「無理しないでいいんだよ。足利くんは足利くんの道を行けば。」

「でもほっとけねえよ。」

「別に学校が変わったからと言って会えないわけじゃないじゃん。」

「それはそうだけど…うーんやっぱり心配だ。」

「私の事は気にしないでいいのに、まあでも私の事想ってくれてるのは嬉しいよ。答えが出るまで悩め?」


授業が終わり、また2人は一緒に通学路を歩く。

「ねえ、足利くん。」

「ん?」

「こうして一緒に帰るの、今年で最後なんだね。早いね、時間の流れって。」

「うん、まあそうかも。」

「あ、あのさ。もし進路が決まって、別々の道に行っても、私の事を覚えていてくれる?」

「…………」

足利は急に立ち止まり、宇月も数は歩いてそれに気がつき立ち止まり足利の方を振り返った。

「足利くん?」

「当たり前だろ!!忘れねえよ!!」

宇月は口を結んだ。

「じゃなきゃ…こんなに悩まねえよ!!」

宇月はただじっと足利を見つめていた。

「確かにお前が心配だ、だけどきっと心配じゃなくても悩んでたと思う。」

「えへへ、ありがとう。これからも卒業までよろしくね。」

「おう!!」

しかし足利は思った。

「"卒業まで"か…。」


足利は担任との進路の面談をしていた。

この面談は授業時間を使って行われ、出席番号順に1人ずつ別教室へ呼ばれていた。

「まだどこにするか決まってないのか!?」

「いや、ある程度は決まってるし対策もしてますが…。」

「まあお前は一般だし、足利の学力ならその辺りは十分狙えるだろう。夏の間には結論出しとけよ。」

「はい。」

足利が教室に戻ると、また教室は騒がしかった。担任がいないのでみんなスマホを見てざわついていた。

「今度はなんだよ?」

宇月に問いかけた。

「例の首相の息子さんが不起訴で帰ってきたらしいよ。」

「不起訴って方は冤罪だったのか?」

宇月は首を横に振った。

「んーん、それが息子さんは自分がやったって全部自白したんだって。しかも最近政治家や記者さんが不可解な死を遂げてる事件が多かったけど、それも自分だって。」

「そんな事言って不起訴なのか?」

「証拠が何もなかったみたい。首相の圧力で誤魔化してるんじゃないかって言われてる。」

「帰ってきたって事は、倒負にまた通ってるって事か?」

「うん。」

情勢に疎い足利も流石に表情を曇らせた。

「自白がもしも本当だったら気色悪い事この上ないな。」

足利の目つきが鋭くなった。

宇月は足利のその顔をじっと見ていた。

「ん?どうした?」

「…いや、なんでもないよ。」

しばらくすると足利の男友達の立花が話しかけてきた。

「おーーっす足利!!久々にボーリングどうよ?」

「いや、俺今日予備校あるし…。」

「神戸さんはどう?」

「わ、私は大丈夫。」

「そっかそっか、おけ!」

「お前こそ遊んでて平気なのか?」

「あ、俺進路決まってるから。」

「マジ?」

「おう、専門学校で料理の資格取るんだ!」

「それはおめでとう。資格取ったら俺にもなんか食わせろよ。」

「えー、足利にかよ〜、神戸さんはどう?」

「貰えるなら食べたいな。」

「おっけおっけ〜!」

立花は足利の鋭い視線に気がつく。

「うっ…!!わ、わかったよ!お前にも食わせてやる!」

「俺の事はなんでもいいが、宇月に毒でも食わしたらただじゃおかねえぞ。」

「失礼だな相変わらず。」

「お前が言うか。」

「へへっ、そんじゃあな。」

足利と宇月に笑いかけると立花は他の男グループの方へ合流していった。

「すごいね立花くん、やりたい事ちゃんと決まってて。」

「あいつが料理好きなんて知らなかったぜ。」

気がつくと不穏な空気で立ち込めていた教室は賑やかな雰囲気に変わっていた。

「みんなと話してると、みんなそれぞれ別の道を目指してるんだね。もう高校3年生なんだなって改めて実感するな。」

「そうだなぁ。」

足利は窓の外の街並みを見た。

「この学校からの景色が見られるのもあと少しか。」

「この校舎も、みんなも、私の見えないところにいてもそれぞれの人生がまだ続いていくんだね。」

「…俺は自信ないけど、まだ決めきれてないし。」

「私の事は気にしないでいいってば!足利くんも好きなとこ目指せばいいんだよ!」

「お前のとこも良さそうなのが余計に迷わせるんだよ。うーん悩むなぁ。」

「流石に本当に心配になってきた…。」


「いただきまっす。」

足利と荷水流は夕飯を食べ始めた、パートから帰ってきた母、ひのきの手料理である。

「ねえ、2人は大丈夫?特に流星、あんた池上の子供と学校近いでしょう。」

「近いったって何駅か先だし、そもそも倒負に総理の息子が通ってる事も初めて知ったよ。」

「でも気をつけてね。」

すると足利竜巻が帰ってきた。

「ただいま。」

3人は声を揃えておかえりと言った。

竜巻は基本的に夜には帰ってくる。依頼によっては帰ってこない事もあるが月に数回程度。

「ご飯温めますね。」

ひのきがキッチンへ向かう。

「ありがとう。」

竜巻は食器棚から自分の箸を取り出し、テーブルについた。


「茂夫、よくやってくれてるな。」

「いえいえ、お父さんのお仕事が手伝えて光栄です。」

「しかし…辻切の妻を殺したのはやりすぎだな…。わかってるか、あくまでこれは日本を守るためにやっているんだ。余計な犠牲は祓っちゃいけない。」

「うるさいですねえお父さん、だったら自分でやれよ。」

「…悪かった。」

「まあ報酬をくれればなんでもいいけど。人殺して金貰えるなんて最高!!」

「……そうか。」


それから茂夫の殺戮は続いていった。誰もが茂夫が殺人を行った事はわかっていたが殺人に対する物的証拠が一切出てこない事、そして池上透の圧力もあり罪に問う事ができなかった。

警視庁でも会議が行われ、皆が頭を抱えていた。

長島とその時の同僚の竹田と会議室を出たところだった。

「おい長島、どう思う、めちゃくちゃだよな。今後池上茂夫は逮捕しちゃいけないって。」

「あくまで軽犯罪の疑いで捕まえちゃいけないだけだ、それだけでも十分おかしいが証拠さえ掴めば問題ない。」

「でもその証拠が出てこないんじゃよ、どうしようもないぜ。」

「あいつを罪に問えないのは証拠が出ないのもあるが、池上の圧力ありきな部分も大きい。住居侵入など殺人以外もやっておきながら取り調べもなしに無罪放免だからな。つまりは透の方さえ叩けば茂夫も叩ける。池上透の不正調査は引き続き続けていく。それが今の僕にできる最大の努力だ。」

長島は茂夫による騒動が起きる以前から池上の不正を独自に追っていた。しかし今回茂夫により殺された人間達はみな反池上を主張しており池上にとって都合の悪い人物達だったのだ。

「本当に大丈夫なのかよ、お前も標的にされちまうぞ。」

「被害に遭った人達は皆メディアでの露出が多かった、僕のような一警察官なんか池上は認知してないだろ。スパイでも送らん限り。」

「…まあそうだな。」

「茂夫がどうやって証拠を隠しているのかわからないがこんな事あってはならない。ただでさえ池上には不正疑惑が多いんだ。絶対に叩き潰す。」


「なあ、あいつまたやったって。」

「こっわ、なんでまだあいつ来てるの。」

「そもそもあいつは親父もろくでなしだ。」

「まえから嫌なやつだったよな。」

茂夫は高校で目立っていた。

そもそも未成年の茂夫が捕まっていた事が報道されているのは初めは名前が伏せられていてもマスコミにすぐバレた事、殺人をしたのに捕まらないという異常性から無名報道ではなく常に名指しにされていた。裏では彼の殺人の様子を記録した映像が出回っており、元々手のつけられない人間だった事もあり誰もが茂夫が犯人だと分かっていた。

しばらく席に座って黙っていた茂夫は立ち上がり、周囲の人間を見回す。そして茂夫を囲んでいるうちの1人に指を差した。

「お前で決まり。」

その少年は突然指されて驚く。

「お、俺?」

「さよなら。」

少年は突然目を見開き口を大きく開け心臓を手で押さえ、悶え始めた。呼吸ができなくなっていたのだ。それを見た1人の少女が叫び出した。

「うるさいぞ。」

茂夫はポケットに手を入れて少女の方を振り向くと、叫んだ少女もまた呼吸ができずに倒れる。

そしてその様子を見て1番動揺していたまた別の少年がいた。

茂夫はその少年の方に向き直り、歩み寄る。

「見せしめにお前もやっとくか。」

「ひええ!!やめ、やめろ!!!……ッッッッッ!!!」

まさに地獄絵図だった、3人もの生徒が一瞬にして殺されたのだから。

誰もが声を喉の奥で無理矢理押さえつけた。

するとそのクラスな担任が教室に飛び込んできた。

教室の様子を外から見ていた他の生徒が急遽呼んできたのだ。

しかしその教師は膝から崩れ落ちた。

「あぁ…やっぱりやりやがったか…。」

生徒がその側へ駆け寄る。

「先生…!なんとかしてください!!」

「救急車を呼んである…みんな…頼むから池上を刺激しないでくれ…。」

「先生!!しっかりしてくださいよ!!3人を助けないと!!」

「池上を連れてってくださいよ!!」

生徒の1人がポケットから携帯を取り出す。

「お、俺は警察を呼ぶぞ。」

すると教師は教室中の生徒に怒鳴りつけた。

「頼むから大人しくしてくれ!!とにかく池上を刺激するな!!殺されたくなければ!!」

騒ぎかけた生徒達が再び黙る。

「頼む…私も池上がやった事はわかっている…でも無理なんだ、学校にも総理に大金を積まれて証拠のない事は何も表沙汰にするなと。」

その教師は倒れた。

茂夫はその教師の背中に立ちクラス中に、廊下の外にも聞こえる大声で話し始めた。

「こいつが言った通りだ。もちろんこいつ含め4人とも俺が殺した、ここに来るまでにはもっと殺した。この俺がやった。だけど俺が殺した証拠は出ない。誰も俺を捕まえる事はできない。いいか、普通にしていればいいんだ。普通にしてれば俺は何もしない。」

そして茂夫は声高々に笑い出した。

「俺は超能力を手に入れたんだ!心臓を止める超能力だ!!誰も俺には逆らえない!!あはははははははは!!!」


「おいおい長島、まだ池上関連の事件を追ってるのかよ。いい加減やめておけって。」

長島は池上の不正を裏付ける証拠を集めた資料を卓上でまとめていた。

「悪いが僕は悪を取り締まる警察の人間なんだ。いくら首相が相手だろうといくら口止めされようと不正を見過ごすつもりはない。こうしてる間に今も被害者が出ているんだ。それにあのバカ息子が暴れる以前から職を失う人間が爆発的に増えたり自殺者も10倍に増加。未解決事件も池上が就任前から5倍になっている。なんとしてでも止めないと。」

長島はその場を立ち去り資料を鞄にしまうと警視庁を後にした。

エレベーターで9階へ登り、長島は自宅の扉を開く。

「ただいまぁ〜、お父さん遅くなってごめんなぁ。」

時間は午後8時、長島の妻と娘はいつもはリビングにいる時間帯なのにも関わらず部屋の電気は全て消えていた。

「お〜い?どうかしたのか?おかしいな、鍵は開いてたんだが。」

長島は違和感に気がつく。

「いや、普段は鍵を閉めるように2人に言ってある。なんで開いてるんだ!?」

心臓の鼓動がどんどん激しくなっていった。とても嫌な予感、体内のありとあらゆる内臓を全て鷲掴みにされたかのような不安感。長島はリビングに駆け込んだ。そこには、倒れた妻と娘の姿があった。長島は2人のそばに駆け寄り体をゆする。しかし長島は触れたその瞬間の冷たさでわかった。長島は遺体に遭遇した事が何度かある。触れただけで全てを察した、しかし。

「おい!おい!!どうしたんだよ!?頼む!!目を開けろ!!」

「あははははははは!!」

妻と娘の先にある窓際に茂夫が立っていた。

「お前…お前がやったのか…?」

「ふふふ、ははは!!」

「池上透がお前を仕向けたのか?お、おかしいだろ。この2人は何もしてないんだぞ?なぜ俺を直接狙わない!?何がしたいんだお前達は!?」

茂夫は長島に池上が長島の探りが邪魔であった事、それに釘を刺しに来た事を伝えた。

「大事なものを奪われたくなければ、二度と親父に近づかないでね。」

茂夫は長島の肩を押し退けて部屋から出ていった。

「うわあああああああああああ!!!!ふざけんな!!!ちくしょおおおおおおおおおおおお!!!!ああああああああああああああ!!!!」


茂夫は昼休みにクラスメイトと談笑していた。

茂夫の目の前には2人の少年がいた。

「池上くん!!こないだこいつがさ、自転車で転けてさ!マジで爆笑ものだったんだよ!!」

すると転んだ方の少年は笑いながら言い返した。

「おいそんな話するなよー。」

すると自転車の話を切り出した少年は倒れた。

転んだ少年は談笑を続けた。

そしてそこに別の少女2人組がやってきた。

「ねえ池上、よかったら一緒に飯食べない?」

「いいよ。」

すると転んだ少年も床へ倒れた。

茂夫は今度は少女達と談笑を始めた。

2人の少年が死んだが周りの生徒達は何も気にせずに話している。気にしないように振る舞うしかないのだ。茂夫を恐れて学校を休んだ生徒達も皆殺された。今まで通りの学校生活を送らないと殺されてしまう。だからみな普通であるかのように振る舞っているのだ。


やがて、ニュースでは茂夫の事は取り上げられなくなり、全て未解決事件、変死として報道されるようになった。しかし中には池上を怪しむ報道を続ける局も存在した。だが共通認識として茂夫に近づいては行けない事は日に日に世間に知れ渡っていく。茂夫の悪行をわかっていながら。茂夫は殺人を様々なところで行ったために証拠映像がいくつもネットに上がられ、本人の発言もあり心臓を止める超能力という事も同時に広まっていった。超能力という証拠の残らない殺人と政府の圧力ゆえに司法ではどうにもできず、近づくだけで殺されるとなれば大半の人間はそれを止めようなどとは考えなかった。


しかし、それに立ち向かおうとする人間はわずかながらいた。


「なあ宇月?」

「ん?」

「なんか最近みんな池上総理の息子に対して何も言わなくなったな。」

「足利くん!!」

宇月はぎょっとして周りを見渡した。

屋上にいたため幸い誰もおらず話を聞かれていなかった。

「はぁ…よかった…。あのね、誰も話さないようにしてるの、その事。」

「わかってるよ。」

「え?」

「みんなおかしいと思ってないのかなって。だって殺人を全国民が黙認してるんだぜ?異常だろ。」

「異常だけど…どうにもできないし…。私達はただあいつに出会わないように祈るしか…。」

「まあかく言う俺も何もできてないけど、なんだか世界が良くない方向に動き始めてる気がする。」

「…異常なのは本当に私もそう思う。」

「超能力が相手だろうと、法律でどうにかならんのかね。」

「…やめよ?こんな話。」


夜、足利とひのきと荷水流の3人でリビングでテレビを見ていると、竜巻が帰ってきた。

荷水流が竜巻に駆け寄る。

「お父さんおかえり!!2週間ぶりくらい?」

ひのきも喜び、キッチンへ向かう。

「あなたの分も作ってあるから温めますね。」

ひのきが鍋に入ったシチューを温まるためにコンロのガスをつけようとすると、竜巻は飛び出した。

「待て!!!」

「え?」

「あっ、いや…。」

すぐそばにいた荷水流は竜巻の首筋を見て驚いた。

「え!?」

そして竜巻の正面に周り顔を見る。

「すごい汗じゃん!!どうかしたの!?」

竜巻のワイシャツもびっしょりだった。

「いやぁ仕事でちょっと体力を使ってしまってね。大丈夫、落ち着いたら後で自分で用意するからご飯は冷蔵庫に入れて置いてくれないか。俺はちょっと部屋で休むよ。」

荷水流は心配した。

「シャワー浴びなよ!!」

足利は荷水流に話しかける。

「父さん疲れてんだよ。そっとしておいてあげよう。」

「でもー、風邪引いちゃうよ。」

「ははは、汗は拭いとくよ。」

「ならシャワー浴びればいいのに。」

「まあまあ、色々あるんだよきっと。」

竜巻がリビングを出ると、ニュース速報の字幕がテレビに流れた。そこには変死死体の発見情報と被害者の一覧が出ていた。言わずもがな茂夫に殺された者達である。殺されたのは老若男女様々だった。

荷水流は怯えて言った。

「酷い…ちっちゃい子まで巻き込まれてるよ…。」

足利は歯を食いしばった。

「クッソ、いつまでこんな報道見なくちゃいけないんだ。」

「もう危ないから報道をやめればいいのに。」

「だからニュースは嫌いなんだ、知ったって何もできない…。」

「ほんとほんと。」

リビングのドアが開き、竜巻が入ってきた。

足利が先に声をかけた。

「父さん!?大丈夫なの!?」

竜巻は足利ではなくテレビを見ながら言った。

「確かに世の中には危険な事がたくさんある。そしてそれには飛び込んではいけないものもある。何もできない時がある。だけど、せめて目だけは背けないでほしい。何もできなくても、事実を知っているだけで人の行動は変わるものだ。」

「父さん…。」

「ごめんな、ただこれだけは伝えたくて。」

ひのきは竜巻に駆け寄り肩を抑えた。

「お父さんはお休みになさって。」

「あ、あぁ…。」

竜巻はひのきに2人の部屋へ連れて行かれた。

「お兄ちゃん?」

荷水流は不安げな視線を足利に送る。

「大丈夫だよ。父さんは悲しい現実から逃げちゃダメだって言いたかっただけだよ。」

「でも怖いよ…。」

足利は何も言わなかった。


ある日曜日、足利宅には足利とひのきがいた。竜巻は何かの探偵業でまたしばらく帰ってきておらず、荷水流は部活だった。

2階の自室で勉強している足利に向けて、1階のリビングからひのきが大声を出した。

「流せーい!!あんたこのあと暇ー!?」

足利は大声で返事する。

「出かける予定はないけど!!!」

「よかったらお父さんにこれくれないーー!?」

足利は1階に降りて、風呂敷に包まれた弁当箱を受け取った。

「弁当?」

「ほら、お父さん料理できないから、たまにはちゃんとしたもの食べてもらわないと。」

「あー事務所に持ってけって事ね。」

「ごめんね母さんこれから買い物行かないとだし。」

この時の竜巻の運営する足利探偵事務所は葛飾区内にあったが、自宅からは距離があり買い物ついでに行くには面倒な場所にあるのだ。

「わかった。じゃあ行ってくる。」

「あっ!!傘持ってきな!!」

「え?」

「夕立ち降るって!!」

「わかった、じゃあ着替えて行ってくる。」

足利は折り畳み傘と探偵事務所のスペアキーを持って出かけて行った。


「父さーん!いるー?」

事務所の中の電気はついていなかった。

「留守かー、じゃあこれ冷蔵庫にいれておこっと。」

足利は弁当を冷蔵庫に入れ、それを知らせるために書き置きを残す事にした。客間の裏にある事務室に入ると、そこはとても散らばっていた。元々資料ばかりでまとまりがないがそれでも普段は足の踏み場がある。しかしこの時色々な紙が散らばっていた。

「うわー、紙とペンあるかなぁ。」

足利は大量の本棚の中にたった一つ佇むデスクに近づいた。

デスクの上にはつけっぱなしのパソコンとカレンダー、そして家族4人の集合写真が立ててあるだけだった。するとデスク下の引き出しに目をつけ、上から順番に覗いていった。すると1番下の3段目の引き出しにダイヤルのロックがかかっていた。

「…あれ?ここいつも空いてんのに。」

さりげない事だが、足利は妙に気になった。

「そういえば変だ、父さんは捜査がダメにならないように資料は絶対キッチリまとめてる。依頼主に迷惑がかけられないし。だけどこの散らばりよう…。」

足利は床に散らばった紙をもう一度よく見てみる。すると靴で踏んだ後があった。

そしてパソコンを見てみると、時計の画面が大きく表示されているだけだった。足利は天井近くの壁にかけてある時計を見る。

「やっぱり何か急いでたんだ、パソコンの方が正確な時刻が表示されるし。何か遅れちゃいけない予定があったのかな?」

足利はもう一度デスクの引き出しを見た。

ダイヤルを覗き込むと、9196と番号がなっていた。

足利はダイヤルを4つ同時に上へ回した。

「やっぱり、0207、これ母さんの誕生日じゃないか。指で下に下ろしてすぐ出ていったな。」

引き出しはそのまま開くと、奥の方に手紙の封筒が入っていた。それを取り出し封筒の中身を見てみる。

その手紙には要約するとこのような事が書かれていた。


現在、池上茂夫が大量殺戮を犯しているが現首相の圧力もあり警察は信用できない。そのため野党の一部の人間で集まり念入りに調べ信頼できる優秀な探偵にこの依頼書を送っている。足利竜巻様、貴方にどうにかして池上茂夫を捕まえるように手配していただきたい。もちろん危険が伴うので依頼を拒否する場合はその場で破棄する事、そしてこの手紙の事は忘れる事。こちらへの連絡は一切必要としない。依頼を受ける場合も同様、こちらへの連絡はいらない。池上茂夫を逮捕へ導けた場合こちら側から情報をキャッチし、衣類を送った人間だと確認できた場合に報酬を出す。その金額は…。


足利は驚愕した。

「この手紙、マジかよ!?確かにこの間父さんが汗だくで帰ってきた時は様子がおかしかったけど。」

足利は散らかった部屋を見渡す。

「クッソ、父さんは今どこにいるんだ!?いくら父さんでも危険すぎるぜ!!」

足利はパソコンに気がつく。

「そういやこれロック外したままつけっぱだ!!そしてこのパソコンは30分経てば自動で消える設定!!俺は父さんと入れ違いになってたのか!!」

足利はパソコンのキーボードに手を伸ばす。

「いや、まだ近くかもしれねえ!!父さんは仕事で自転車を使わない、最寄駅までは走っても15分はかかる!!電車を待つのを考慮すればこの街から出るのに最低でも20分以上!!パソコンの中に何かヒントがあるかも知れねえけど、考えてる暇はない!!駅まで走ろう!!足は俺の方が速い!!」

足利は事務所を飛び出した、するとちょうど夕立ちが降り始める。

「視界が悪りぃ!!」

足利は傘をささなかった、傘を持ちながらでは走りづらく、折り畳み傘も布製のため視界の確保が余計に困難になる。

しばらく走ると空に違和感を覚える。

聞き耳を立てると叫び声がした。

足利が振り向くと、大粒の雨の隙間から黒い煙が上がっているのが見えた。

「あそこか!?」

足利は方向を変えて走り出した、それは倒負高校の方角だった。

しばらく走ると目的地点までまだ距離があるのに足利の反対方向に逃げていく人々が大勢いた。その騒ぎの中で池上という声がうっすらと聞こえた。

「間違いない父さんがあそこにいる…!!」

確信を持った瞬間、その目的地点から大きな稲妻が空へ立ち昇っていくのが見えた。それは木の枝の成長を早送りにしたような奇妙な線を描いていた。ほんの数秒で爆発音のような音が足利の鼓膜に入る。足利は涙を流し叫んだ。

「父さぁぁぁぁぁぁん!!!!!」


それから竜巻の元へ辿り着くまでは無我夢中だった。

ついにその場所へ辿り着くと、火災報知器が鳴り響き炎が燃え盛る中コートを着た竜巻が膝を崩して倒れ込む様子が見えた。

足利駆け寄って男を抱きかかえる。

「父さん!!おい!!しっかりしてくれよ!!」

しかし声は届かなかった、激しい雨音は少年の泣き叫ぶ声を無慈悲に塞ぐ。

「父さん!父さん!!!」

足利は激しく揺する、しかし竜巻は目を覚さない。


雨の勢いが弱まり視界が遥かに良くなる。

すると目の前に茂夫が立っていた。

足利にはそれがとにかく憎たらしく見えて仕方がなかった。


しかし足利はこの瞬間の記憶だけはショックのあまりほとんど覚えていない。しかし、この瞬間。足利の中で何かが変わった。

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