第16話 真実の鍵 (この回から解答編です)
ここまでお読みいただきありがとうございます。
タイトルにある通り、今回からこれまでのストーリーの解答編となっております。ストーリー中に散りばめられてきた謎が一体どう繋がるのかぜひ考えてみていただけると嬉しいです。
姫花の街にまたもや池上からの刺客が送られていた。しかしその刺客は足利を見つける事ができずに困惑していた。
「おっかしーなー、情報だとこの辺よくうろちょろしてるって話なのにさっぱり見つからんぞ。」
辺りを見回していると夏にふさわしく涼しそうな純白のフリルのワンピースを着た人物がすれ違った。髪はボブで白いカチューシャをしていた。
「なんだあの女の人、なんか全体的にゴツいな。クッソー、もういいか。借金をチャラにできるかもと思ったが誰も勝てなかったとか聞くし、見つからないんじゃしょうがない。マックで休憩するか。」
ワンピースの人物は古い一軒家のインターホンを押した。
すると中から猫を抱えだおばあちゃんが出てきた。
「あら〜、待ってたわ足利さん。」
「不恰好ですみません。訳あって…。」
「いいから上がって上がって。」
「おじゃまします。」
ワンピースを着た足利は座布団に正座していた。
「お待たせしましたわ、足利さんにこれをお裾分けしたくて。」
おばあちゃんは白い包装紙に包まれたお菓子の箱を机に置いた。
「おはぎです。」
「え、いただけるのですか?」
「うちの猫ちゃんがあなたにお世話になりましたからね。」
このおばあちゃんの猫は足利が木から下ろした後も2度行方不明になっており2回とも足利が発見してきたのだ。
「ありがとうございます、お言葉に甘えていただきます。」
足利はこのおばあちゃんに呼び出されており、池上からの危害が加わらぬよう変装して訪れていたのだった。
刺客はちょうど注文したものを全て食べ終え、街を散策していた。
「どうしよう、見つからなかったら事務所の前に貼り付けって言われたけど暑いしそんな事したくないよな、もう帰っちゃおうかなー。でもすっぽかしたら消されちゃうかな。」
刺客は歩きスマホをしていた、足利の写真を凝視し人混みを見回す。
「うーん、もしかして見逃してたのかな。夏にこんな黒いコート着てりゃ目立ちそうな気もするんだけど…。」
すると前から歩いてきた人とぶつかってしまった。
「いって、悪ぃ悪ぃ。」
刺客はぶつかった方を見上げるとさっきの純白のワンピースが目に入った。
「うわっ、さっきのゴツい女じゃん」と内心思って顔を見る。すると真っ黒な瞳孔と長い鼻筋、しっかりとした輪郭が目に入る。刺客は男だとようやく気がついた。ワンピースの足利も口を開く。
「すみません、お怪我はないですか?」
「いや、大丈夫だけど…ん?」
刺客はスマホの画面を見て何かに気づき、足利の顔を見る。
「げっ…!!」
刺客は後退りをし、もう一度スマホの足利の写真と女装をした足利の顔を見比べた。
「化粧はしてるが全く同じ顔じゃねえか…。」
足利はきょとんとした顔をしていた。とぼけちゃって。
「やば、遭遇しちまったよ。こいつ思ってたよりやばい奴なんじゃ…」
「大丈夫でしたら、私はこれで。」
足利は刺客を避けて歩き去る。
「ちょっと待て!!」
足利は無表情で振り向いた、ビル群と人混みの間を抜けてきた太陽光に照らされたその振り向きは可憐だった。刺客はそれに少しだけときめいた。
「妙に似合ってんだよな…。」
足利は首をかしげる。それに伴い重力に従い垂れて揺れる毛先、そしてウィッグのこめかみが足利の唇を擦った。
「うっ…!!」
「どうかいたしましか?」
「お前足利だろ!!」
勢いに任せて言葉を放つ。
「やっぱり刺客だったか。」
足利の目つきが鋭くなる。
「わかってたのか!?」
「さっきスマホの画面と俺を見比べてただろ、俺は芸能人じゃねえのに俺の顔を見て写真と見比べて驚く奴なんざこの社会にごく限られると思うぜ。」
「なんなんだよこいつ…!!」
「ここは人が多い、やるなら場所を移そうぜ。」
「…そうだな。」
2人は広い林道へ来た。
「ここなら心おぎなくやれるぜ。」
足利は構えた、スピードで蹴りをつけるボクサースタイルである。普段女装をしない足利が女装をしてそれをするとなんともシュールだった。
「クッソォ!!こんな仕事受けなきゃよかった!!どうせ逃げても消されるだろうし、やってやる!!」
刺客は左腕を横に広げた。
「名乗らせてもらう、赤羽サイガだ!!冥土の土産に持ってきな!!」
赤羽は能力で折った木の枝を何本も足利に飛ばした。足利はそれを避けるがどこまで逃げても木の枝は弾道を変え追ってくる。
「遠隔操作の能力か…!!」
「そうだ、だけど一味違うぜ。」
「追ってくる木の枝がだんだんと増えているがこれは一体…。」
「そろそろだ。」
赤羽が飛ばした木の枝は段々と一つの塊になり、一辺2mくらいの鶏小屋になり足利に体当たりをした。そのスピードはとてつもなく速く足利は1mmの差で避けた。足利は崖に追突した鶏小屋の方を振り向いた。
「これは鶏小屋か…?」
「お見事、俺をここへ連れてきたのは間違いだったな。俺の能力は周りの木から鶏小屋を生成する能力。本当にそれだけだったが鍛えていくうちにこんな遠隔操作までできるようになった。面白いだろ超能力って、その人の思考によって多種多様なんだからな。」
「人殺しに使うんなら他と何も変わらねえぜ!!」
赤羽は再び枝を足利に飛ばす、足利はその枝に向かって助走をつけて飛び乗った。そのまま木と木の間を縫うように上へ上へと段階的に飛び移り赤羽のそばまで来たところで木を思い切り蹴り付けて赤羽めがけて急降下した。
「お前の枝の操作はスピードが速すぎる分小回りが効かないようだな!」
「しまった…!こいつ次の木に飛び移る時も俺の方と飛ばした枝を交互に見ていて木の位置を確認せずに飛び移っていた…こいつはこの場所を熟知し木の位置を全て把握しているんだ…!ここはこいつのフィールドだったんだ…!!」
「おやすみ!!」
足利は弧を描く回転回し蹴りで赤羽の側頭葉を打ち抜き気絶させた。足利はこの短期間で多くの刺客と戦いさらに精度が上がり相手の急所をより鋭く貫けるようになっていた。
「池上様ぁ、足利に刺客を無闇に送りすぎるのやめた方がよろしいかと。情報を見るに雑魚相手に実験的な戦闘を続ける事で余計に強くなってます。」
「…そうだな、足利への攻撃は一旦やめて私を特定しようとしている山吹達に集中するか…。」
池上はパソコンのモニターで山吹達が池上のサーバーに侵入している様子を見ていた。
「このセキュリティは絶対に破れないはずだが、少々奴らを甘く見過ぎていたようだ。想像よりも進行が早い。この場所も時期にバレてしまうだろう。やはりこの場所へ誘い込み最終手段として私の能力で奴らを全滅させるか…!!」
「2年間も暗躍してきたのにもう直接対決しちゃうんですか?」
「結局私のやってる事はただの隠蔽だ、掘り返されてしまえばいつかはバレてしまう。刺客ビジネスは成功した、掘り返している奴らさえ倒せば私は再び日本の支配に戻れる。ここが正念場だ。」
「….そうね、そろそろ決着を着けたほうがいいのかもしれないですね。」
長島は再び足利に電話をしていた。
「流星くん!流星くん!やったよ!これまで池上がいたというビルは全て針葉ダムと同じで誰が所有してるかをあやふやにして誤魔化してたんだ!池上はそういう土地をいくつも持っていてそこを転々としてる事がわかった!!今その場所を徹底的に調べている、奴の潜伏場所も近いうちにわかるかもしれない!!流星くんが倒してくれた池上の手先達がたくさんいたから情報の照合が上手くやれたんだ!流星くんのおかげだよ!!」
「とんでもないです。」
「ただしかし問題はまだある、池上もきっと僕らが突入した時に備えた武装をしているだろうし、突入には多くの人数が必要だけど今池上を追いかけているメンバーだけじゃ足りない。突入できるように上と交渉する必要があるけど兵器開発都市計画の資料だけじゃまだ証拠不足なんだ。何か…何か後一つ決定的な何かが判明すればいいんだけど、例えば池上が隠蔽してきたものの一つとか。それが分かれば一気に全てが暴けそうなんだ。」
「そうですね…俺からも何か探ってみます。」
「…ありがとう。」
足利は通話を切った。
「ただいまー!!」
ちょうどそこへおせちが高校から帰ってきた。
「あ、足利さん…。」
おせちは青ざめた顔で後退りした。
「ああこの格好?女装をすれば刺客に追われないかと思ったけどあんまり意味なかったよ。」
足利はカチューシャを外して机に置いた。
「あ、そうだ、それ。」
足利は机に置かれたお菓子の箱を指差した。
「猫が好きなあのおばあちゃんからおはぎのお土産もらったんだ、食べていいぞ。」
「わぁい!お土産!?嬉しい!」
おせちは目を輝かせながら包装紙を破いて箱を開けた。
「わ!なにこれ!?おだんごみたい!!」
「ん?あぁ、おはぎだよそれ。」
「おはぎ!?へーこれおはぎって言うんだ!美味しそう!!」
「…?」
足利は何かが引っかかった。
「おはぎ知らないのか。まあ人そんなの人によるしな。」
おせちはおはぎを手で掴むと、手のひらに大量のあんこがくっついた。
「あぁ、ごめんなさい。」
「いや、大丈夫、その端っこに楊枝があるだろ?それ使って食べるといい。」
足利はお手拭きをあげた。
「あ、これ楊枝なんだ!ありがとう!」
「…?やっぱり変だ。」
おせちはおはぎを口にした。
「おいしーい!!」
「確かにおはぎを知らないとしても変ではない、比較的少数だとは思うが。ただこれまで料理の名前とかポテトチップスなどのメーカー品のお菓子については記憶が消えていなかったのに…単純に以前からおはぎを知らなかったって事だよな。いやでもおだんごって言ってたよな?機械いじりができて授業の復習をしているとはいえテストも毎回満点のおせちがおはぎを知らないなんて事はあるのか?」
足利は小動物のようにおはぎを美味しそうに頬張るおせちを見つめながら思考を巡らせた。
「いや、確かに世の中色んな人がいる、どんなに頭良くてもおはぎを知らない人がいたっておかしくはない。しかし…何だこの強烈な違和感。」
おせちは足利に視線を移し、顔を赤らめた。
「あ、足利さん…?は、恥ずかしいよ…。」
「え?あ、いや…ごめん。」
おせちは照れ臭そうに下を向いていた。
「おせち?」
「ん…?」
「あのさ…よ、羊羹って知ってるか?」
おせちの顔はまだ赤い。急に何を聞くのか疑問に思った。
「し、知ってるよ…そのくらい。四角いやつでしょ?」
「そ、そうだ。」
足利はおせちから視線を外し考え込むと、また問いかけた。
「じゃあ八つ橋って知ってる?」
「京都とかで売ってる三角のもちもちしたやつでしょ?」
足利は右手で顔を覆った。
「羊羹と八つ橋を知ってておはぎが知らないなんて事あるのか…!?」
足利は目を瞑り深呼吸をした。
「俺は人の変わった名前を掘り返す事は良くない事だと思っている、だけど、許してくれおせち…。」
足利は意を決した。
「じゃあ、おせちは食べた事あるか?」
「ん?八つ橋を?」
「おせちを。」
「え?」
「ほら、お正月に食べるお弁当だよ。御節。」
「ん?どういう事?」
足利の中で衝撃が走った。
「やはり…そういう事なのか…!!」
足利はガッツリおせちと目を合わせる。
「つまり、御節という料理の事は…"覚えてない"んだな…!?」
「おせちって私の名前でしょ?料理の名前なの?」
「やっぱり…そういう事か…!!!おせちは御節を覚えていないんだ!!人の名前をいじるの良くないからこれまで一度も聞いた事なかったが…それに正月まで遠いし御節という単語を記憶を失ってから聞いてなくても不自然じゃない…!おせちという名前なのにおせちを知らないと考えるのは難しい、覚えていないんだ!!となると必然的に…!!」
足利は急いで長島に電話した。
「長島さん!!」
「ど、どうしたんだい?大声出して。」
「先程おっしゃっていましたよね!?隠蔽に関する決定的な何かが欲しいって、何を隠蔽したのか明確な情報がわかればどうにかなるんじゃないですか!?」
「…何言ってんの?」
「具体的に話すと、おせちのお母さんの名前がわかったらそれを調べて隠蔽していた事実が出てきたら上への交渉材料になりませんかって。」
「確かに、もしもおせちちゃんのお母さんが国家直属研究機関に入っていなくて機関ではなく池上個人による隠蔽がされていたなら調べられると思うけど。国家直属研究機関に保護されてるものは国の裏の裏のさらに裏の組織が絡んでいるようだから僕達警察じゃ流石にどうにもできないけど、機関の家族など関係者は普通に社会で過ごしてるだろうからね。」
「ならよかった!!わかったんですよ!!おせちのお母さんの名前が!!」
「ええ!?!?」
長島は驚いた、それをそばで聞いていたおせちも飛び上がった。
「足利さん!?それどういう事!?」
「流星くん!?」
足利は長島との電話をスピーカーに切り替え、おせちにも聞こえるようにした。
「おせち、覚悟はいいか?」
おせちは息を飲んで返事をする。
「うん。」
「長島さんは?」
「い、いつでも大丈夫だよ。」
「それじゃあ言います、俺の推理の結果、ズバリ、おせちのお母さんの名前は、"柿原おはぎ"だ!!!」
「そうなの!?」
おせちは目を輝かせて喜んだが、長島は拍子抜けた顔をした。
「え。」
「…まあもしかしたらお姉さんか妹さんとかかもしれませんが。9割型お母さんの方の名前かと。」
「えっと、本気なんだよね…?」
「はい!」
「即答か…。つまり確信があるんだね。」
「じゃあ話します、その結論に辿り着いた理由を。」
足利は思考を整理した。
「まずはおせちの記憶喪失が一体どういったものなのかを今一度振り返りましょう。おせちの記憶喪失は通常の記憶喪失とは少し毛色が違います。自分がどこの誰かという個人情報は覚えていませんが数学の公式や歴史の出来事、機械の修理など知識的な事は忘れていません。学校に通っていた事実だけをぼんやりと覚えていたりなど微妙なラインのものはありますが基本的にはこんな感じです。なのでおせちは編入試験で満点を取ったり歴代総理大臣を順番通り言えたり壊れたゲームソフトを短時間で直すなんて事はお茶の子さいさい。そんなおせちでもお正月の御節やお菓子のおはぎを覚えていなかったんです。」
長島は疑りの声色で問いかけた。
「おせちちゃん…本当なの…?」
「は、はい…ついさっき。」
「おせちはお団子と羊羹と八つ橋は鮮明に覚えているんですよ、それなのに御節とおはぎは記憶になかったそれはつまり。御節とおはぎが個人情報に直接関係するものだったからなんです。用はおせちは自分とお母さんの名前を料理の名前と結びつけて記憶していた、だから自身とお母さんに関する記憶が消えた際に同時に料理の記憶も忘れたんですよ。そうは考えられないでしょうか。学校に通っていた事実や機械修理の知識なんかも間接的にはおせちという人物の情報に繋がりはしますが、自分とお母さんの名前はそんななのよりももっと重要ですし重要な記憶が優先的に消えていると仮定すれば説明はつきます。自分の名前を名乗るたびに料理の方が頭をよぎっていたりもしていたかもしれませんしね。」
「足利さんすごい!!」
「それにもう一つ根拠はある、それはお母さんの名前であるという事についてです。幸いおせちのお父さんの名前は判明しています、柿原豪徹です。お子様に自分の名前と共通点のある名前をつけられる親御さんは多いです、私の父もそうですし。しかし豪徹という名前とおせちという名前には共通点が何もない。もしも共通点を付けたとしたなら必然的にそれはお母さんの名前とになるんですよ。男の子が生まれたら父親と、女の子が生まれたらお母さんと共通点のある名前をつけるケースも多いですし。それにおせちという個性的な名前をつけるのにはそれなりに強い動機が必要だと思いますしね。お母さんの名前と共通点のある名前にしたかったとすれば納得できます。」
「足利さんはすごい!!」
しかし長島はまだ唸っていた。それもそうである、辻褄は合うが短略的な感じも否めない。
「確かに筋は通っているけど…そこまで自信を持てるのはどうして?」
「……これで合ってる気がするからってのじゃ…やっぱ説得力に欠けますよね…。」
「…わかった、そこまで言うなら他にあてもないしその線で一回調べてみるよ…。君には何度も助けられてきたし信じてみるよ。」
「よっしゃあ!!ありがとうございます!!」
そうして電話を終えた。
「流星くん珍しくテンション高いね…、おせちちゃんに繋がる事実がわかって嬉しいのかな…?」
足利はガッツポーズでおせちを向いた。
「やったなおせち!!」
「うん!!でも、長島さんが言った通り少し短略的かな…?」
「大丈夫、推理なんてこんなもんで案外当たってたりするんだよ。」
そして長島率いる捜査チームは警視庁のデータサーバーを使っておはぎと言う名の人物を検索にかけた。
「見つかりました、おはぎという名前を持つ人は全国に4人います。」
長島は部下のパソコンのモニター画面を覗き込んだ。
「どれどれ…。孫王波技、福井おはぎ、空条御萩、八神織葉木、なるほど。」
「1人1人調べますか?」
長島は少し考えてから言った。
「その中で結婚をして苗字を変えた人を割り出してくれ。」
「この中でそれに該当するのは空条御萩と八神織葉木です。」
「離婚歴は?」
「空条御萩が離婚から再婚をしていますが苗字を戻さずそのまま2人目の夫の性に変えています、旧姓は両方とも柿原ではありません。八神織葉木は現在も関係が続いているみたいです。こちらも旧姓は田中で柿原じゃありません。」
「データ隠蔽の痕跡は?」
「見当たりません。」
「じゃあ一旦、孫王波技と福井おはぎに絞ろう。」
「あっ…!!」
「どうかしたのか?」
「申し訳ありません、孫王波技は男性でした。」
「福井の方は?」
「女性です、年齢は40歳。離婚歴、結婚歴共にありません。」
「流星くんの推理が正しいとすればおせちちゃんのお母さんは籍を入れずにおせちちゃんを産んだとは考えられない、柿原豪徹と結婚した経歴が改竄されたと仮定すればこの4人で条件に当てはまるのはこの福井おはぎだ…しかもおせちちゃんと同じで名前が全て平仮名……。おせちちゃんは16歳だから年齢的な矛盾もない。よし、福井おはぎに対象を絞り経歴に改竄の痕跡がないか調べてみてくれ。」
「了解です!」
「長島さん!!ありました!!福井おはぎの経歴に改竄の痕跡!!」
「マジで!?」
「はい!過去18年間経歴が一切空白になってます…!!」
「結婚して2年でおせちちゃんを産んだとすれば辻褄が合う…!!嘘だろ…!!」
「これってもしかしたらもしかするかも…!!」
「住所は!住所はわかるか!!」
「は、はい…石川県に在住のようです。現在はスーパーに勤務してるそうですよ。」
「よし…!よし…!!そうだ顔!顔はわかるか…!!」
「登録されていないのでちょっと時間かかるかもしれないですが、試してみます…!!」
「うーん、流石に顔写真は出てきませんね…学歴もわからない…あっそうだ、25年前辺りの中学校の部活の全国大会の記録を見てみましょう。」
「そ、それでわかるものなのか?」
「名前がわかってれば楽勝ですよ、大会のデータって主催してる組織が管理していて政府の関与がありませんしデータもみ消すの結構めんどくさいんです。団体が潰れてたらどこにデータが保管されてるのかもわかりませんし。それに中学校は大半の人はなんらかの部活に入ってる可能性が高いので高校のを探すより楽です。ただ部活に入っていなかったり入っていてもいい成績を残していなければ難しいですけどね、つまり物は試しです。」
「そ、そうか…!」
しばらくデータの割り出しを待っていると、ある一つの情報が出てきた。
「長島さん!ありましたよ!一般のインターネットの書き込み情報です。1990年に神奈川県の横浜市立縦町中学校のバレー部が地区大会で優勝、全国大会では7位になっていてそのチームの中に福井おはぎという名前があります。」
「インターネットにはそんなデータまで上げられているのか、プライバシーのかけらもないな。」
インターネットには奥深くに埋もれているだけで様々な個人情報が載っている場合がある。
「地区大会に優勝した時の縦長中バレー部の集合写真がこれみたいです。」
長島は画面を凝視した。しかしその画像は写真をさらにカメラで直撮りしたもののため大変画質が悪く、みんな顔が地蔵にしか見えなかった。
「うーーん…流石にこれじゃ何もわからないな…。」
「じゃあ試合中に撮られた写真がいくつかあったので順番に見せていきます。キャプテンではなかったみたいなので写ってるかわかりませんが。」
部下は写真を順番に流していった。画質は相変わらず悪いものの集合写真よりははるかに顔が確認しやすかった。いくつか見たところで長島の表情は曇っていく。
「うーん、やっぱりお父さん似の可能性もあるから本人がいたとしてもわからないかもしれないな…。」
「そうですね、次で最後です。」
最後の写真を切り替えた。すると長島は体をのけぞって大声を出した。
「うわぁぁ!?」
「ど、どうしたんですか急に。」
「いた!!いたよ!!」
長島は画面に指をつきつける。
「絶対この人だ!!」
「ほ、ほんとですか?」
長島はおせちの写真をポケットから取り出した。おせちが記憶を失った際に持っていたおせちが持っていたIDカードのコピーを見せる。そこにはおせちの顔写真もついているのだ。
「見てよ!この人!」
画面に指をぐりぐりとつきつける。
「指どかしてください、ちょうど見えないです。」
「ごめん。そしてこっちがおせちちゃん。」
部下は長島が指した人物の顔を凝視し、おせちの写真に目を写す。
「…そっくりだ。」
「だろ!?」
他にもその場で池上の足取りを追っていた捜査員たちも気になってその場に寄ってきた。
「うわー、ほとんど顔一緒じゃないですか。」
「2人共美人さんでそっくりね。」
長島は集合写真を表示させた。
「わかりにくかったけど、今ではわかる。きっとここの人がおはぎさんだ。よし、福井おはぎさんがおせちちゃんのお母さんという体で捜査を進めていこう。おはぎさんにも直接会いにいく。しかし池上にこのことが悟られると危険だからくれぐれも慎重に!!」
長島は拳を握りしめた。
「池上はもう目前だ、俺の家族だけじゃない。数えきれないほどの人間があの男のせいで命を落とした。今でも苦しんでいる人もいる。絶対に決着をつけてやる。」
池上とベガはアジトにて長島達の突入に備えた作業をしていた。
「なあ、ベガ。」
「はーい?」
「以前聞いた時にははぐらかされたが、もしよければ今度こそ教えてほしい。足利の力の正体を、超能力を司るギルリア教団の教皇であった君ならばある程度の検討はついてるのでは?」
ベガも作業の手を止め少し悩んだ、池上が作業の手を再開し始めるとベガはついに口を開いた。
「…地球意志かしら、あくまで推測ございますが。」
「地球意志?ガイア理論のようなものか?」
「確証はないのですけれど足利の力が池上様達の持つ超能力、そして私や石裂の持つ特異体質のどちらとも該当しないのであれば消去法で地球意志しかないのではないかと。」
「まさか…、とても信じ難いな。」
「そもそもギルリア教団というのは地球意志の解明がきっかけで生まれたの。かつて紀元前に流星の戦士と呼ばれる1人の人間とそれに従えた動物達が地球を外敵から救ったという言い伝えがあって、その存在の記録時期は一部の地域ではなくヨーロッパとアフリカ大陸各地で全てほぼ同時期だったことから地球上のどこからでも見える星に例えて流星の戦士と名付けられた、その流星の戦士の存在を追って崇め奉るために1人の男が設立したのがギルリア教団ってわけです。古代の教団信者達は流星の戦士が地球意志と呼ばれる力で戦っていた事と、それとは別に超能力がこの世に存在することを突き止めた。それから何人もの信者達が地球意志への到達を試みましたが結局、私の代まで誰1人として到達するものはいなかった。その結果目的を見失った教団幹部は堕落しあの有様でございます。超能力の秘密を守るという使命は続けておりましたが結局は一部の人間にバレてしまっていましたし、実に愚かといいますか。」
「この地球に意志が存在し、その意志が足利に力を与えたという事か?」
「私のような特異体質がいる事から地球意志の存在はほぼ確実。ただその意志が本当に足利に力を与えたのか、与えたとしてそれは何故なのかまでわかりません。」
「わかった、答えてくれてありがとう。最後にもう一つ聞かせてほしい、私と足利が相対した時、私に勝ち目はあると思うか?」
「…無理でしょうね。」
「そうか…。」
それから数日間、長島ら捜査一派は福井おはぎに秘密裏に接触しおせちの母親である事を確認した。特に警戒されている長島自らが動くと池上に悟られる危険性が高まるため長島は直接は会っていない。厳重な警戒態勢の元でおはぎは現在保護されている。池上のアジトも特定され、警視庁の上の人間もアジトへの突入を許諾し日にちも決まった。ついに足利と長島が池上との決着をつける時が来たのである。そしてその突入の前日になった。
大久保は土手の草むらに座り込んで山を眺めていた。
そしてそこへ足利が来た。
「ごめん、待たせたかな。」
「早めに来てただけなので大丈夫です。」
大久保は足利に呼び出されてこの場所に来たのだ。
「怪我の調子は?」
「へへ、順調に回復の兆候に向かってます。」
「ならよかった…。」
足利は大久保の視線の前に行き、大久保の顔を見つめた。
「実は、明日ついに池上透が潜伏しているアジトに突入する事になった。俺も警察と一緒にその突入作戦に参加する。」
大久保はどう反応していいかわからず唖然とした顔をしていた。
「大久保くん、君には以前俺と池上の関係について少し話したよな。そして俺のこの力についても。」
「ええ。」
「君にはこれまで何かとお世話になった、そして迷惑をかけた、危険な目にも遭わせてしまった、だからせめてこうなってしまった理由をちゃんと伝えたい。もしよければなぜ俺が池上と戦う事になったのかちゃんと聞いてもらいたいんだ。」
大久保の目が輝きだす。
「つまり…足利さんの強さの秘密ってわけですか!!」
「ま、まあそんなところかな。明日は俺の身に何が起きるかわからない、だから今のうちに君には事の経緯を話すべきだと思ったんだ。」
「ぜひ…!!ぜひ聞きたいです…!!!」
「…ありがとう。少し長くなるかもしれないけど、よろしく。もちろんこの話には君も知ってる池上事件の真相も関わっている。」
大久保は息を呑んだ。池上事件は社会に衝撃を与えた悲惨な事件だったからだ。世間的には詳しく知られていない部分も大きいため特に緊張が走った。
「それじゃあ話そうか…全ての始まりは約2年前。当時俺が高校3年生の時……」




