第15話 戦いの裏で
人混みの中、足利は予備校の帰りにビルに設置された大型テレビを見ていた。制服姿でただ1人、周囲を通り過ぎていく大勢の人間、世界が彼だけを置いていくように。テレビにはニュースが流れていた。ニュース内で専門家達が言い争いをしている。
「たくさんの目撃情報や証言が出ているんです!一連の未解決殺人事件は全て池上首相の息子の仕業だ!」
「しかし証拠がない、証拠がなければやっていないのと同じだろう。」
「きっと彼は超能力だ!これまでの状況を見ればそうとしか考えられないだろう!」
「全くもって非論理的だ、話にならん。君達は何かと理由をつけて総理を批判したいだけだろう。」
そしてそこには池上透の顔写真が大きく表示されていた。
足利は池上の顔をただ見つめていた。
それはまるで足利と池上だけの時間が止まっているようだった。
「なるほど、それで奥さんの浮気を疑っているわけですか。」
「そうなんです…足利さん、あなたの評判は聞いています。お願いします!!」
「わかりました、ではそれにかかる時間の見積や費用になりますが……。」
足利は窓の外に目をやり、怪しい人間がいる事に気がつく。
「すみません、10分ほど待っていただいてもよろしいでしょうか。私が戻るまで好きにくつろいでいただいて構いませんので。」
「は、はぁ…。」
刺客は物陰から事務所の中を窺っていた。
「人1人殺すだけであの報酬、ここまで気前がいい案件は他にない…足利、絶対にぶっ殺してやる…!」
刺客は自らの能力で全身に生やしたトゲふるわせる。
「気づかれてないと思ったのか?」
「足利!馬鹿ないつの間に!事務所の出口は一つしかないはずだ!」
すると足利は心で思った。
「裏から飛び降りるとは考えないのか?トリックですらないぜ。」
「ぬおおおなんでもいい!!俺の能力でぶっ殺してやる!!」
全身のトゲから緑色のイナズマが走り、肉体から激しいオーラが出る。
対し足利は素手、もちろんオーラなどない。ただの人間。
「うおおおおおおお!!」
眩いオーラを放ち刺客は足利に飛びかかる。
「うおりゃあああああ!!!!」
足利はそのまま飛びかかる。
「お待たせ致しました。」
「い、いえ……」
足利は5分で帰ってきた。
「では話の続きを…」
玄関から客間兼リビングに続く廊下の間には足利の自室がある、そこには血だらけのトレーナーとコートが放り投げられていた。
「お願いしますよ長島さん、もう今週で3人目ですよ!?手に負えないです!!超能力者って手続の書類多すぎるんですよ!!」
「草木くん…本当にすまない…。」
僕も慣れない時はそうだったと心の中で共感した。
「いくら池上に日本を渡さないためと言ってもこんな仕事量じゃ死んじゃいますよ!!」
「長島様、苦労をなされておるのでしたらお電話おかわりいただけますか?」
「え?」
「…お電話変わりました、杉並区長の山吹郵子と申します。」
「え、あの反池上派の!?」
「いつもお勤めご苦労様です。私達の戦いに巻き込んでしまい本当に申し訳ございません。もしよろしければ今週以降の超能力犯罪者の手続書類を書いた枚数分私から報酬を出させていただけないでしょうか。書いたものをコピーしてデータを私に送ってくだされば確認した翌日に報酬を振り込みますわ。報酬は一枚につき…」
「長島さん!僕やりますよ!!どんどん頼ってください!」
「あ、ああ。本当に感謝する。」
長島は電話を切り山吹を向いた。
「すごいですね。」
「目的のためならばお金に糸目はつけません。お金で勝利は掴めませんが、勝利に繋げるきっかけにはなります。」
桜の木が多く植えられた通りを箱根は登校のため歩いていた。
鼻歌を歌いなが軽快に足を運んでいる、その鼻歌の音程を聴く限りおそらくロックマン4のダストマンステージのBGMだろう。
すると石の柵のゴミ置き場の中にファミコンが捨てられてるのを発見した。
「わぁ!!これファミコン!?すご!」
箱根は周りを見渡す。
「…しかも初期型じゃーん、勿体無いなぁ実機捨てちゃうなんて……私が持って帰ってしんぜよう。へへへ…あれ、入らないなぁ…。」
「よっ。」
箱根の肩を後ろから品野が叩いた。
「お、おはよう。」
「ん?なんでカバン下げてるのに教科書手に持ってんの?」
「え、いやぁ〜。これは〜、へへ。」
「ま、いいや。」
「品野こそ何聴いてんの?すごい爆音。」
箱根に話しかけるために外していたイヤホンから音が漏れていた。ただあまり激しい曲ではないようだ。
「切んの忘れてた。」
イヤホンについたボタンで再生を止めた。
品野が教室の扉を開け箱根と共に入った。
品野は席に座っていた大久保を見た。伊豆も横で喋っていた。
「おっ、大久保じゃーん、元気してた?」
「品野…それに箱根、久しぶり。」
「大久保くん学校来れるようになったんだ。」
「箱根お前…なんで教科書持ってんの?カバンあるじゃん。」
「これは…。」
教室の扉が勢いよくスライドする音が響いた、次に来たのはおせちだった。
「おっはよー!」
おせちも大久保の席に詰め寄った。
「大久保くん!!元気になったの!!?」
「ああ、まあ松葉杖なきゃキツイけどな。」
「よかったぁ…安心した!」
おせちは品野と箱根に気がつき、箱根が目に止まった。
「翔子ちゃん…どうして教材持ち歩いてるの?」
「もー!そんなに気になる!?教科書手に持ってるだけじゃん!!カバンに入れないで手に持ってるだけじゃん!!そんな気になる!?」
箱根は自分の机に教材を置いた。
「いいでしょう、とくとご覧に入れなされ。」
箱根はカバンのチャックを開け、拾ったファミコン初期型を見せた。
「なんとこれ、ファミコンを拾ったの。桜の木の通りで。しかも初期型なのだ。」
「ゴミじゃん。」
最初に飛んできたのは品野の毒舌だった。
「なんだと!?お前にはこの価値がわからないのか!?」
「どうせ壊れてんじゃないの?」
「ケーブル類は全部あるんだなーこれが。」
「壊れてない証拠にはならないだろ。」
「じゃあ試してみる?」
「カセットは?」
「ふっふっふっ。」
箱根はポケットに手を突っ込み、ロックマン2のカセットを取り出した。
「あるんだな〜これが、お気に入りの作品だから常に持ち歩いているのだ。」
「そこまで持ってて本体持ってなかったの?」
「3DSのバーチャルコンソールでやって感動して、カセットのみなら二・三百円で売ってるから買ったんだ。本体は高くて手が出なかったけど。」
「ふーん。」
箱根は教室の前にあるテレビを指差した。
「アレに繋げて確かめてみよう。」
「面白い、やってみろ。」
箱根がテレビに配線を繋げる様子を見て、大久保は伊豆に話しかけた。
「いやー、あそこまでやるかな。」
「あ、あー。」
伊豆はじっと箱根を眺めていた。
大久保の口元は笑った。
「まあいいか。」
箱根は配線を終え、ファミコン本体にカセットを挿す。
「後はこのスイッチをオンにするだけ。行くぜ、ワンツー…ファイア!!」
スイッチを入れた、しかし電源は入らなかった。
「やっぱダメか。」
「そ、そんなぁ〜。」
箱根は肩を落としその場に座り込んだ。
「運命の出会いだと思ったのにぃ〜…。」
すると箱根はおせちが顔を近づけていることに気が付き驚いた。
「わっ、顔近っ。」
おせちは膝に手をつきかがんでファミコンをジーっと見ていた。
おせちは何も言わない。
「柿原ちゃん、ど、どしたん?」
「…まだ直るよ、これ。」
「え?」
「ん?」
「な、直るんだ。」
「うん、私が直そっか?」
「え?」
すると教室のドアが勢いよく開けられ、担任が入って来た。
「何やってんだお前!!」
「没収されちゃった…」
箱根はぐったりしていた。
「ご、ごめんな、言い過ぎたよ。」
「品野が気にする事じゃないよ、あんた毒舌だけが取り柄だし。」
「ぐっ…。」
大久保は2人を見て苦笑いをしていた、すると後ろから肩を掴まれる。振り向くと伊豆が立っていた。
「どうやら俺の出番のようだ。」
伊豆の目は決意に満ち溢れていた。
昼休みになり大久保と伊豆は校舎裏に2人でいた。
「実は俺は箱根が好きだ!」
「あー…今までのそういう事だったのか。」
「これはチャンスだ!ここに来て俺がファミコンを取り返してくればあいつは俺に振り向いてくれる!!」
「物で釣るのかよ。」
「なんだと!?」
「普通に告白しちゃえばいいじゃん。」
「はぁ!?」
伊豆の顔が赤くなった。
「お前には彼女がいるからってそうやって簡単に言いやがって!!」
大久保は唖然とした。
「俺には何もないからよ…告白する勇気が無いんだよ…。」
大久保の表情が柔らかくなり、青空を見上げた。
「懐かしいなぁ。」
「はぁ???」
「俺、最初あさぎに振られたんだぜ。」
「え。」
「中2の時、勇気を振り絞って告白した。もうどれだけ葛藤したことか。でも何もしてなければ埒が開かないと思って勢いをつけて告白したんだ。そしたらなんで言われたと思う?」
「あはは、ごめん無理。」
「ごめん無理、それだけ言ってそっぽ向かれた。もう世界が終わった気がしたよ。辺りの景色が黒ずんで見えた。青空が毒々しく見えた。でも俺は諦められなかった。もう気が狂ったように何回も告白した。その度に笑顔で、ごめん無理って。」
「怖…。よくそこから交際までこぎつけられたな。」
「実は最初に告白するまで一言たりとも直接会話した事がなかったんだ。告白していくうちになんか俺に興味持っていってくれてんだと思う。だんだん軽い会話くらいはしてくれるようになってきたんだ。そしたら仲良くなっていってさ…。」
「結局ノロケですかい。」
「いや、俺が言いたいのは告白の結果が終わりじゃないって事。人にもよると思うけど結局付き合えたって上手くいかずに別れるパターンもあるし、俺みたいに運良く振り向いてくれることだってある。まあ嫌われてたらどうしようもないからそれは諦めるべきだけど、告白はゴールじゃない。俺はそう思う。」
「……いいこと言うなお前。」
大久保は笑顔になる。
「ちなみに昨日もあさぎと喧嘩しちゃった。まあそんなに頻繁に喧嘩しないけど。」
「え?お前らラブラブじゃん!?なんで喧嘩したの?」
「秘密。」
「くぅぅぅぅぅぅ!!!」
伊豆両拳を強く握り表情が高ぶった。
「いい話をありがとよ大久保、お前のおかげで勇気が出たぜ。」
「ならよかった。」
「でもな、ファミコンは取り返すぜ。お前は物で釣ると言ったがそれは違う、俺が今あの子のためにやれる事をしたいだけだ。」
「…頑張れよ。」
授業が終わり、箱根は夕焼けに照らされながら反省文ん書いていた。
「も〜これ以上書けないよ〜。私が何したっていうんだ〜。人殺したわけじゃないのに〜。」
伊豆は職員室の前の廊下の曲がり角の壁で職員室の様子を伺っている。
「俺は知っている、この学校では没収されたものは全て回収ボックスなるものに一つにされまとめて捨てられる。だから取り返したところで気づかれない。回収ボックスは教員室の奥の部屋にある、教員室のドアは二つあり北側のドアから入ればすぐ横に例の部屋がある。そう長い距離じゃない。さて、どう入るか。」
教師が教員室を出入りする際にドアの中を見た。
「見えた、先生の席は決まっている、今いる先生といない先生を把握してドアのふもとが見える席の先生がいない時にだけ入ればいい。もちろん室内をウロチョロしてるだろうからそこは賭けだな…。」
伊豆はタイミングを見計らって進入、奥の部屋になんとか入り込むことができた。そして回収ボックスの中を見た。しかしファミコンはなかった。
「え!?なんでえ!!」
するとドアが開く音がした。
「おい!何してんだ!」
「え!?先生!?」
ドアを開けたのは担任だった。
「こっちこい!!」
担任につまみ出された。
「さあ何をしてたのか聞かせてもらおうか。」
「箱根のファミコンを取り返そうとしてました。」
「どうしてお前が?」
「は、箱根のために…」
「……お前箱根が好きなのか?もうしょうがない奴だなお前らは。」
「え?」
「いやー、さっき教室を覗いたら箱根が泣きじゃくっててさ。確かにテレビを勝手にいじったのは良くないことだがゲーム機持ってくるのは他の生徒もやってるし校則違反でもない、反省文書けたら返そうと思ったんだよ。」
「人の心が…あるんですね……教師なのに…!!」
「お前は教師を何だと思ってんだ。はい。」
担任は伊豆にファミコン一式を渡した。
「え?」
「もうあいつも十分反省しただろ。反省文はもういい、これはお前が返してやれ。俺から取り返した事にすればいい。」
「いいんですか?なんか都合良すぎない?」
「人間関係の管理も教師の仕事だ、俺ができるのはここまでだからあとはお前次第だ。」
「担任が急に変わって先生のことよく知らなかったけど普通にいい人ですね。」
「ちょっと俺も怒りすぎた。教師ってのはその時の気分で怒るから怒りすぎてしまうこともある。人間だからな。」
「ああああああわだぢのファミゴォォン…………」
「よう、箱根。」
「なんだよチビ。」
「先生がもう反省文はいいってよ。」
「は?」
「あとこれ。」
伊豆は箱根の上にファミコンを乗せた。
「先生が怒りすぎたから返すって。」
伊豆は正直に話した、嘘をつく必要性を感じなかったからだ。
「帰ろうぜ。」
伊豆と箱根は2人で通学路を歩く。
人気のない橋に来ると伊豆は前へ出た。
「あのさ、ちょっと時間くれる?」
「ん?」
伊豆は深呼吸した。
「す、好きです!!」
「ふあっ…。」
箱根は驚いた。
「ずっと好きでした!俺と付き合ってください!!」
「えっ…??」
箱根は手で口を隠し半目になって地面に視線を泳がせた。夕陽に照らされて一層美人に映った。
「箱根…。」
すると箱根の表情はいつも通りの顔になった。
「わかった〜!物で釣ろうとしたんだ〜!ファミコン取り返そうとして先生に見つかったんだ〜!変だと思った!」
「もっもので釣る?」
「え、だってそうでしょ?違うの?」
「そ、それは…」
「安心して、どっちにしろあんたと付き合う気ないから。」
「え。」
「だって3次元の男に興味ないんだもーん!!!」
「うわああああああああ!!!!」
伊豆はその場で膝を落とした。
「私よりいい子なんていっぱいいるしさ、気にすんなって。」
箱根はそのままおせちを探しに行った。
「ただいま〜。」
足利は事務所に帰ってきた。
おせちは机に置かれたファミコンを見つめていた。
「ファミコンじゃん、どうしたのそれ?」
「翔子ちゃんが拾った物なんだけど壊れちゃってて、私なら直せるかなーって思ったんだけど何だか怖くって。ねえ、私って機械工学の研究者だったんでしょ?記憶を失った今でも直せるのかな。」
「可能だと思う。」
「ほんと!?」
「ああ、お前は確かに記憶を失っているが成績の良さがそれを物語ってる。お前が失った記憶は柿原おせちという人間を知るための明確な個人情報であって言語などの知識は失われていない。おそらく歴代総理大臣を全て暗記していても池上を覚えていなかったあたり会ったことのある人間は知識ではなく知り合いにカウントされその記憶がなくなっている、俺とも面識があった事も俺を忘れた要因だろう。機械工学に関しては知識だからおそらく大丈夫だ。知識と言っても国家直属研究機関を覚えていなかったのはそこでの知り合いの記憶を全て忘れているからだと俺は考えている。」
「なるほど!足利さんの意見聞いて安心した!やってみる!!」
おせちはファミコンを持って部屋へ戻った。
それから足利は長島と池上の所在について電話していた。
「やはり物理的な特定は不可能だったよ、バラバラだった犯罪者達それぞれの証言を元に当たった場所には何もなかったし。だけど流星くんの言う通り風音からは有力な情報を得られた。風音が池上のサーバーをハッキングできたのは池上は防御力を強化するためにわざとハッキングを促しその際に侵入された穴を徐々に埋めていく事で完璧な防御を実現しようとしていたみたいなんだよね。」
「風音が池上のサーバーに入った時のログとかはないんでしょうか、警察の設備ならそのログを元にもっと詳しい情報を得られるかも。」
「なるほど、試してみよう。」
「どうかお気をつけて、どこまでが池上の罠かわかりませんから…。」
「大丈夫、流星くんこそ気をつけてね。」
足利は電話を切った。
「足利さーん!!」
おせちが降りてきた。
「見て見て!!」
おせちはファミコンの配線をテレビに接続し、カセットを刺して電源を入れた。するとロックマン2のストーリーのあらすじがテレビの画面に流れた。つまりこれはタイトル画面の前のOPであり電源を入れた際の正常な動作だった。
「直せたのか!?」
「うん!と言ってもファミコン本体の中身は汚れが酷いだけで目立った破損はなかったから綺麗に掃除して軽いメンテで済んだよ。動かなかったのはカセットの方が壊れてたのが原因だと思う、直しちゃったからこれも問題ないけど。」
なんと破損したゲームソフトを家にある物で2時間たらずで直してしまったようだ。
「すごい…!!やっぱりゴミ捨て場の材料でレーダーを作るだけはあるな…」
「えへへ。」
「もしかしたら…!!あっ、いや。」
「ん?もしかしたらどうかしたの?」
「………。」
「隠さないで教えてよー。」
「もしかしたらお前が覚えていない事が逆に事件の真相に繋がるんじゃないかと思ったんだ、お前は大事な記憶だけを綺麗に失っている、つまりその情報がお前が覚えているかいないかが真相に繋がるものかどうかの判断材料になりうるかも、と思ったんだ。」
「確かに!!」
「でもお前の記憶喪失を利用するのは気が引ける。」
「私だって真相知りたいもん、協力させて!」
翌朝、校舎裏にて伊豆は事の顛末を大久保に話した。
「もう気まずくてどうすればいいのかわからない…。」
伊豆は体育座りで顔を埋めている、低く弱々しい声色から完全に落ち込んでいる様子が窺える。
大久保は自分の事を振り返った。
「あーあ、今日もダメだったかぁ…」
大久保が中2の頃、3年前に遡る。大久保はまたも告白して失敗し落ち込みながら下校をしていた。
すると周りの人達がこぞってざわめいているのに気がついた。周りが見ている方に視線をやるとそこには高校生の不良3人組が小学生の男の子1人に暴行をしていた。不良は3人とも体格がとてもよく筋肉質で普通の人間が反撃すれば力負けする事は誰の目にも明らかであった、なにより助けない理由にはトラブルに巻き込まれたくないという気持ちが強かった。
「俺達にぶつかったお前が悪いんだぞクソガキ!!」
不良は再び男の子を殴る。男の子はもう限界を迎えており声すら上げられないほどになっていた。しかし周りは見るだけで誰も助けようとはしない、そこに大久保は近づきリーダー格と思わしき不良の肩に手を乗せた。
「おい、やめろチンカス野郎。」
周囲は声を上げて驚いた。
「なんだお前。」
その不良は全力で大久保の鳩尾を殴った。
呼吸ができず大久保は声すら上げられなかった。しかし涙を堪え全力で笑顔を作り不良の目を見つめ、眉毛を上下した。そして両手で中指を立て、不良の袖に唾を吐いた。
「なんだぁこいつ!!気持ちわり!!」
大久保は3人にボコボコにされた。
数分経つと不良達は飽きてどこかへ消えた。
しばらく硬いコンクリートの上で仰向けに寝てると呼吸が整ってきた。そしてつぶやいた。
「みっともね。」
大久保は涙が止まらなかった。すると海辺が大久保の顔を覗き込んだ。大久保は涙を止めようとしたが止められなかった。
のちに話を聞くと大久保がボコされている優しい人が通りかかり男の子を病院へ連れて行ってくれたという。
海辺は周りの雰囲気や自分の身を顧みずに立ち向かった大久保の姿を見て大久保に興味を抱き始めたきっかけとなかったが、大久保は手も足も出ずボコボコにされた姿と涙を流した顔を見られた事が何よりも恥ずかしく今でも根に持っていた。かっこ悪い姿を見せたくない、強くなりたいと大久保はその時から思うようになったのだった。
大久保は伊豆の背中をさすった。
伊豆は唇を噛み締めた。
「やべ、泣きそう。」
伊豆は顔を伏せたまま号泣した。
大久保は何も言わなかった。
それから帰り道での出来事である。
「おい、伊豆〜。」
箱根が背後からやってきた。
「う、は、箱根…。」
「はいこれ。」
「え?」
「私の手作り千手観音ストラップ、ブルーカラー。」
「これがどうかしたの?」
「あげる。」
「え、マジで!?」
「うん、私にも情はあるから。」
「うわ、ありがとう!一生大切にする!!家宝にする!!末代まで大事する!!!」
「重っ…」




