第12話 若者の街、姫花
足利はパソコンでこれで街で調べたデータを表示し、書類の資料を眺めていた。時間が過ぎるのは早いもので、足利達が姫花に来てから約2ヶ月、もう6月の上旬であった。足利の頭の中には様々な考えがありその考えのどれが正解であるかを判断するにはまだ材料が足りていなかった。
「これまで怪しいと思うものは全て調べてきた、特に気になるのは柿原豪徹なる人物。」
姫の花のデータ管理システムにこの名があったというデータは風音逮捕後に押収し実際に目を通したため風音の言っていた事は嘘ではなかった。
「そもそも姫の花というものはなんなのか、この街のどこかにあるという事はどこかの施設で管理されているのか、それとも誰かが手に持っていたりするのか。おせちが記憶を失う前に送ってきたビデオで姫の花の明確な場所を言わなかった事には理由があるのかもしれない。池上は姫の花の場所を知っているわけだから隠す必要性はほとんどないように思えるが。」
足利の脳裏にこれまで戦ってきた刺客達が浮かぶ。
「この2年間、組織を介しての動きはあったものの直接刺客を送り込むような動きを池上は見せなかった、これまでずっと自らの居場所が特定されぬよう身を潜めていたのに。それも威嚇ではなく俺を本気で殺すつもりで。となると姫の花はそうでもして食い止めなければ見つけられてしまう場所にあると考えるのが自然。だがおせちはその明確な場所は言わなかった、本来は俺とおせちが合流する予定だったからな。おせちなしで俺が1人でそれに干渉すればまずい事になるという事だろうか。自力で見つけられる場所にはあるが、単純にただ場所を知るだけでは解決にはならないのかもしれない。これまでの状況を踏まえると姫の花というものは簡単に移動させられない、または何らかの事情で移動ができないものと推測できるな。」
すると、一つ大きな疑問が浮かぶ。
「じゃあ姫の花はどうやって作った?」
国家直属研究機関の本部は東京周辺にあるため、山梨県の端っこにあるこの街からはそれなりに距離がある。本部が東京周辺であるという事は2月に汚職警官におせちの追跡命令が出た日付時間帯と足利とおせちが初めて出会った場所と時間帯から推測されている。
「おせちの発言からして姫の花開発チームは本部とは別の場所で作っていた、簡単に移動させる事ができないようなものだとして、姫花で直接開発したと仮定するならこの街に人を超能力者にさせてしまうような装置を作る事ができるほどの施設がある必要がある。だがこの街にそれらしい施設は見当たらない。別の場所で開発して運び込むとするなら、かなりの大きさだとしても分解して後から組み立てる事ができるならばトラックに入れて運び込む事も不可能ではない。だが国家機密をそう簡単に無防備に晒すような危険を池上が犯すとは思えない。現に池上の汚職が暴かれた今でも姫の花に関係するものだけはメディアには全く流されてないからな。それだけ厳重に隠されているという事だろう。ならばやはりこの街で直接した可能性が1番疑わしい。」
「となるとそもそもなぜこの街なんだ?東京だと目立ちすぎるからという理由ならばこの街もそれなりに発展しているからあまりふさわしくない。この街にちなんだ名前を装置につけた理由も気になる。やはり戦後直後に急発展した事に何か関係があるのか…そもそもなぜ当時の政府は戦時中に開発を進めたんだ?普通に考えればこの街の開発が戦争に有利になるきっかけになりうるからだろうが…ちくしょー何を考えても推察の域を出ない、もっと確実な証拠が欲しい。もう一度調査に出るとするか…」
おせちは学校が終わり道草を食っていた。
すると女性に道を聞かれた。
「あっこのリステンは、繁華街にありますよ!」
リステンとは有名なスイーツ屋である。
「繁華街ってどのあたり?どうしても見つけられなくて。」
「んーここから歩いて15分くらいのところだから、口で説明するの難しいなぁ…よかったら案内しますよ!」
「え、いいの!?わぁ助かる!!」
おせちと大久保のクラスメイト、富良野は繁華街の花壇の柵に座って黄昏ていた。
「いやーここはオシャレな女の子がいっぱい通るから目の保養になりますねぇ。言うなれば昨今のストレス社会という名の砂漠に小さく佇むオアシス!」
おせちと大学生くらいの女性が2人並んで歩いているのに目をつけた。
「美女二人組発見!ん?よく見たら片方は柿原ちゃんじゃないか!!」
富良野は忌々しくも後をつけた。
2人はリステン着いた。
「わー!ありがとう!!えっと、お名前は?」
「柿原です、柿原おせち。」
「おせちちゃん!ありがとう!!」
「じゃ私はこれで…」
「あのよかったら!一緒にどう?お礼に好きなの頼んでいいから!」
「ええ、そんな悪いですよ。」
「いいのいいの時間取らせちゃったのは私の方だし、それともこの後予定ある?」
「ないです。」
「じゃあ決まり!」
「うわ、リステンに入っちまいました、聖域じゃないか。ああいうとこに入るのは女性ばかり、流石の僕も1人であそこに入る勇気なんて…」
周りを見渡すと伊豆がいた、この繁華街は姫花高校の生徒も御用達のようだ。
「おーい伊豆くん!!」
「富良野か、よっ。」
「実はさ…」
事情を説明した。
「はぁ?やだよ、そもそも見てくれこの荷物、新作のプラモ!もう金ないぜ。」
「いてくれるだけでいいんだよ!」
「それもなぁ。」
「いいじゃないか、君は柿原ちゃんが好きなんだろう!?」
「え?」
「だっていつも柿原ちゃん達3人組が喋ってるのずっとチラチラ見てただろ!?そうだろ?」
「別に見てねーよ、それに俺が好きなのは柿原じゃねえ。」
「え?」
「帰る!」
「あぁ…」
富良野は膝をついた。
「僕は…なんて無力なんだぁぁぁぁぁ!!!」
おせちと女性はスイーツを食べながら話していた。
「この人よく見るとオシャレだし綺麗…」
女性は髪はピンクに染めたウルフカット、服装も大学生らしい感じが出ていた。
「そいえば、お姉さんのお名前は?」
「あ、ごめんね、先に名乗ればよかった。私はかみな。足利荷水流です、よろしくねっ!」
「帰ったらどれから組み立てよっかなー。あ、そいえばこないだ買ったやつがまだ積んでたっけ…」
「えへー限定グッズ買えちゃったみょ。」
「う!!!」
伊豆は立ち止まった、目の前に箱根がいたのだ。
「あ、伊豆じゃん、ちわーっす。」
「え!?」
箱根は首を傾げた。
「どうした?」
「わーー!!!箱根が俺を見てる!!!俺に話しかけてる!!!」
「…へ?」
箱根の顔が青ざめる。
「伊豆くん、怖い。」
箱根は伊豆を避けて立ち去っていった。
「ぐはぁぁぁぁ!!!!」
伊豆はその場で倒れた。
手と膝を地につけ絶望する富良野と片想いの相手と上手く話せず撃沈した伊豆の2人が通路の一部を塞ぐ様子はなんとも悲壮感が溢れていた。
「ええ!?お兄ちゃんのお友達なの!?」
「妹さんがいるって話は聞いてたんですけど、顔は知らなかったのでびっくりしました、とてもお綺麗…」
「そんな!照れちゃう!それにお兄ちゃんの方こそまさかこんなかわいいお友達ができてたなんてびっくり!」
話によると足利の妹、荷水流は足利の一つ下で現在は大学1年生、新生活に疲れ若者の街としても注目されている姫花に気分転換としてはるばる来たという。兄に会うつもりはなくただ遊びにきただけのようだった。それからおせちは荷水流に自分と足利の関係を話した。どうやら足利は母である足利ひのきや荷水流には積極的に自分の事を話す事はなくおせちの事も知らされてなかった。
「へぇーそうなんだ、安心した、お兄ちゃんが独りじゃなくて。お兄ちゃんと仲良くしてくれてありがとね。」
「いやぁそんな仲良くなんて。」
おせちは下を向いて照れた。
「あのね、だってお兄ちゃん、2年前にある人に事故があってからは人との交流を避けるようになって口数も減っちゃって、まあアニメの話とかになれば多少は口が滑るかもだけど。目だって死んだ魚みたいだけど昔はああじゃなかったんだよ。多分、宇月さんの事で心の余裕がなくなっちゃったんじゃないかな。」
「神戸宇月さんですよね?足利さんから少し聞いた事があるけど、仲が良かったんですか?」
「親友だったと思うよ。それに事故のすぐ前にお父さんの事もあったし、受験の大事な時期だったのに色々な事が立て続けで起きちゃったから…」
「確かに、足利さんってどこか抱え込んでるように見える事があります。私はその時期に何があったのかわからないからどうすればいいのか…」
「そのままでいいと思うよ、大丈夫。お兄ちゃんはきっとおせちちゃんがそばにいてくれて嬉しいんじゃないかな。表には出さないかもしれないけど。」
「そうなのかな…」
「…お兄ちゃんがどんなアニメ好きか聞きたい?」
「え。」
それから食事を終えた2人は店を出た。
「はー!おいしかったー!」
「ごちそうさまでした、ありがとうございます。」
「じゃあ私はそろそろ帰ろっかな。」
「一人で帰れるんですか?」
「さっきは降りる駅間違えただけだから。」
「ちょっと心配です。」
「あっ、LINE交換しない?」
「えっ!?」
「迷ったら連絡するから教えて!」
2人はLINEを交換した。
「じゃあまたね!おせちちゃん!!お兄ちゃんによろしく!!あ、でも私が来た事は言わないでね!心配しちゃうから!!」
「さよならー!」
おせちは悶絶する富良野と倒れた伊豆に気がつく。
「何してるの?」
大久保は帰国後さっそくお見舞いに来てくれた海辺に渡された資料を病院の人気のないところで読んだ。
「マジかよこれ、国家機密じゃんか…」
「本当にごめんね!なんとか交渉して譲って貰いたくて時間かかっちゃった!!」
「お前、多分戦争を一つ防いだぞ…」
「えへへ。」
海辺はピースした。
「…なあ。」
「ん?」
「もしも、何か探したいものがあってこの街に調査をしに引っ越して来た人がいたとすれば、その人の目的はこれだと思う?」
「確実にそうじゃない?」
大久保はしばらく考えた。
「あのさ!」
「いいよ。」
「え?」
「その人にこの資料見せたいんでしょ?いいよ。英年が信用する人なら私も信じられるから。」
「マジで!?」
それからリステンの帰りにおせちは調査に出てた足利と合流したのであった。アニメの話をおせちがふっていた。
「え、おせち、それ隠れた名作じゃん、よく知ってるな。」
「気になっててさ、見てみようかなーって思って。」
「見て損はないと思う。」
「足利さんがそういうなら見ようかなー、それとさ…」
他のアニメの話題を話した。
「おせちって案外詳しいんだな、あんまりアニメに興味ないのかと思ってた。」
「いやー、周りに見てる人多いし?」
するとおせちに着信が来た。
「あ、ごめんちょっと。ええ!?また迷った?えっと今どこですか?あーそこからならえーっと、一旦戻ってもらってそれから…」
おせちは手取り足取り帰り道を説明した。
「また何かあったら電話くださいね!?何かあってからじゃ遅いですよ!!それでは失礼します!」
おせちは電話を切り、足利の方へ振り向く。そして足利が口を開く。
「荷水流だろ。」
「え?」
「今の電話、荷水流じゃないか?」
「え、えっと…」
おせちは足利が怒るかと思ったが、足利が頭を抱えた事に驚いた。そして足利は弱々しい声で問う。
「も…もしかして…荷水流がこの街に来たのか…?」
「えっと…はい…」
「あああぁぁあぁぁぁぁ…」
「!?」
おせちは驚いた、足利が今にも生き絶えそうな声で地面に崩れ落ちたのだ。
「ま、巻き込まれるかもしれないから…街には来るなって言ったのに……」
「足利さん?」
「この街にだけは危険が及ぶから絶対来るなって言ったんだ!!それなのに…あぁぁ…」
「その、身元は割れてるし荷水流さんはどうせ私を狙うならとっくに狙ってるだろうって言ってました。」
「だからってこの街に来るのは危険すぎる!!ぁぁ…今ので荷水流にまで目をつけられてたら俺は……」
おせちは泣き崩れる足利をしばらくは心配したが、やがて顔を引き締めた。
「足利さん!!」
足利が顔を上げる。
「大丈夫!!」
「え?」
「みんな強いから!私はなんとか生きてるし、大久保くんも生きてる、超能力のない長島さんや荷水流さんも、足利さんが戦ってる間もちゃんと生きてた!」
「だが俺は、周りを巻き込んでばかりだ。」
足利は復興中のビル群に顔を向ける。
「あれをやったのは石裂!!大久保くんを傷つけたのも他のヤツ!!足利さんじゃないの!!大久保くんもきっとそれをわかってるから許してくれたんだよ。」
「しかし宇月も、おせち、お前だって、俺がもっとしっかりしてれば宇月は今も生きてて、お前も記憶を失わずに済んだ。」
「あの事故は池上透のせいだし、私の記憶だって事故か何かで足利さんの責任じゃない!私は宇月さんがどんな人だったのかわからないけど、命をかけてまで足利さんを助けてくれたんだよ!?誰にでも出来る事じゃないよ、宇月さんだってとっても強い。きっと足利さんがこれまで戦ってきたどの超能力者よりも強い人だよ!!」
足利の目の色が変わった。
「この世界に誰も巻き込まないで生きてる人なんて1人もいないから、みんなを頼ってくれていいんだよ。1人で背負わなくていい。それに足利さんが超能力者を倒してきたおかげで救われた人だってたくさんいるはず、宇月さんに救われた命で足利さんは多くの人を救ってる、宇月さんも足利さんを誇ってくれてると思うよ。」
足利は立ち上がり、目を瞑って黙り込んだ、何かをこらえるような顔だった。
「みんながいるから自分があるという事をちゃんとわかってれば大丈夫だよ。確かに超能力が現れてからは失われてきたものの方が多いと思う。でもだからこそ足利さんは超能力を止めるためにこの街に来たんでしょ、事件を解決しちゃおうよ。足利さんならきっとできる。みんな強いし、足利さんはそれよりももっと強いから、だから大丈夫。」
「おせち…」
足利の表情が元に戻った。
「ありがとう。」
「独りよがりはよくないよ。」
「ああ、きっと宇月もそう考えてると思う。」
おせちの目には足利の目に一瞬だけ光が戻ったように映った。
「よーし、頑張るか。怪しいと思う場所はあるんだ、きっと証拠を集めればきっと真実に辿り着ける。」
「うん!」
すると足利に電話の着信が入った。
「大久保くん!!どうしたんだ!?え、なんだって!?本当にいいの!?わかったすぐ向かう!!」
「どうしたの?」
「おせち、行こう!!」
「きゃっ!?」
足利はおせちの手を握って走り出した。
おせちの顔が熱くなった。
「大久保くんがこの街の正体を教えてくれるみたいだ!!」
「え!?正体!?そんな大事な話に私が立ち会っていいの!?」
「そもそもこの街に来るきっかけをくれたのはお前だ、俺の事だって助けてくれたし、出会ってから俺はいつもお前に助けられてるよ。」
「んん??」
「情けないよな、慰めてもらうなんて、でもありがとう。お前のおかげで元気が出たよ。本当にありがとう。」
「そんなに言われると照れちゃう。」
2人は夕日の優しい光に照らされながら走っていく、この日の姫花の天気は1日中快晴であった。




