第11話 窮地
大久保は2年2組の扉を開ける。
「うぃーっす。」
するとおせちと伊豆が会話していた、伊豆はおせちの話をメモに取っていた。
「それで?」
「そしたらね、モーターの真ん中の軸を何か硬い板とかで上から押さえつけながら下に押し込むと上手くギアがハマるんだって!」
「あーなるほど!早速帰ったら試してみるか…!」
「いや…何の話?」
「あ、大久保!おっす!」
「大久保くんおはよう!」
2人共眩しいくらいに明るい笑顔だった。
「お、おはよう。2人共そんな仲良かったっけ?」
「伊豆くんがね、足利さんに聞きたい事があるーって言ってたから代わりに聞いてきてあげたの。」
「大久保聞いてくれよ、足利さんすごいんだぜ、カードゲームだけじゃなくてバトルホビーとかそっち系も詳しいんだよ!」
バトルホビーとは対戦型玩具の事である。
「直接聞けばいいじゃん。」
「いやそれがこないだ探偵事務所に行ったらよ、足利さんに不用意に俺に近づくのは危険だってことを優しく諭されてそのまま追い返されちゃったんだよ。」
「そりゃ玩具の話で事務所に来られても困るだろ…」
「…、だから私が代わりに聞いてきてあげたの。」
「すげーよなー足利さん、昔流行ってたものは基本的には詳しいんだよ。」
「趣味の話とか全然してくれないから私は知らなかった…」
おせちは何か不満げだった。
「ふーん。」
大久保のスマホに通知が来た、大久保はスマホを開いてニヤついた。
「なんか嬉しそうだね。」
「どうせ彼女からだろ?」
「大久保くんの彼女ってどんな人なの?伊豆くんは会ったことある?」
「あるぜ、一回だけど。」
「へー!!かわいい??」
「まあかなり美人だよな、何よりかなりモデル体型っつーか…あっ大久保にはこの事言うなよ怒られる。」
「わかった!」
大久保はスマホに夢中で聞いていなかった。
大久保は既に自分が戦いに巻き込まれてしまっていた事を知る由もなかった。
「大久保英年、確かに確認、時間が来たら作戦を実行します。」
風音逮捕後、2年2組には新しい担任の先生が来た。担当クラスを持っていなかったが2年の授業を担当していた先生だった。担任の突然の逮捕に生徒達は各々思うところはあったがそれほど気に留めてる者はいなかった。大久保も初めは混乱していたが気持ちに整理はついていた。初めは足利を不審に思う気持ちもあったがそれも時が経つにつれ薄れていた。
「あのさ、勢いで聞いちゃうけど大久保くんの超能力が何なのか知ってる?」
「え、あいつ超能力なんか使えるの?」
昼休みになると大久保は他の友達とボール遊びに向かっていた、すると急に電話がかかってきた。
「えっと、はい?」
「黙って聞け、私は今お前の姿を監視している。」
「え?」
大久保は廊下の窓から見える立ち並ぶビルやマンションを見渡した。
「今私を探しただろう。」
「うっ!」
「お前は今、池上元首相に命を狙われている。」
大久保は冷や汗をかいた、普通の人間ならいたずらだと感じるだろうが足利の戦いを目にし、それ以外にもこれ以外の出来事を踏まえると信じるには十分だった。大久保は超能力を人一倍危険視しており従う事にした。
「いいか、これから私が指定する場所に来い。警察に電話しようとか考えるなよ。」
大久保は高校を抜け出し急いで指定の場所に来た。
そこは木々に囲まれた山の麓の畑のない場所だった。
後ろから急に大久保の後頭部に打撃が走った。
大久保は悶絶した。
脳裏に彼女の海辺あさぎの顔が浮かぶ。
「俺は…」
土についた手を握り締め、痛みを抑え刺客を殴りつけた。
超能力者への恐怖を原動力に切り替えたのだ。
刺客は間合いをとり、殴られた頬に手を当てる。
「まさか…感知していたとは。」
超能力者は鍛えると他の超能力者の存在を感知できる、大久保は板下に襲われた一件から感知能力を鍛えたのだ。しかし能力使用中の者を近距離でやっと完治が可能というレベルである、
刺客の男、新田は再び緑に光る弾を2発発射するが大久保はそれを避け新田を殴り飛ばした。
大久保は身長こそ小柄なものの運動神経はいいのだ。
「なかなかやるな、本当はもう仕留めてるつもりだったが…」
新田は手に持った四角のパズルの面を回転させる。
「あれルービックキューブじゃん、さっきもあれから弾を発射してた…あれが能力なのか?」
新田は手を止めると手に持ったキューブを大久保に振り下ろした。
それを避けるも大久保の脇腹には大きな切り傷ができた。
「痛てええ!?なんじゃこりゃあ!?」
「これが私の能力だ、このキューブの面の色の配置を入れ替える事で様々な能力を発動できる、その代わり一つ一つの能力の持続時間は短いがな。」
新田の能力の制限は他にも、能力を2つ以上同時に発動ができず、また2回連続で同じ能力を使う事ができないのだ。能力が切れると他の能力に一度切り替え使い切らなければならない。先程の飛ぶエネルギー弾は遠距離攻撃ができるが3発撃つと能力者が終了、現在発動中の能力はキューブを短剣のように使い斬撃で攻撃できるが持続時間が20秒で終了、そして能力発動中は面の入れ替えができない、多様な能力を使える代わり制限が厳しいのだ。
「能力を喋るなんて、完全に俺のこと舐めてくれちゃって!俺はお前に殺されるわけには行かないんだよ!!」
大久保は新田に殴りかかるも左腕を切られ返り討ちに遭う。
「うわあああああ!!!!」
新田はキューブを構え直し大久保にトドメを刺しに来た。
「まずいな…このままじゃ殺される…仕方ない、俺の能力も見せてやる!!うおおおおおおお!!!」
新田がキューブを振りかざすと大久保の体から放たれる大量のエネルギーに弾かれ、能力の持続時間が切れた。新田は再び面の色の配置の切り替え始める。色がバラバラの状態で該当する模様を作らなければならないため切り替えには時間がかかるのだ。
「すさまじいエネルギー…なんだこいつの能力は!!」
「うおおおおおお!!!」
大久保は運が良かったと内心思った、なぜならこのエネルギーの放出は大久保の能力の弱点の一つでしかないのだ。
大久保の体はさらに強く光り出す。
その様子を見た新田は構成が完成する一歩手前で手を止めた、無闇に襲い掛かると危険と感じたからだ。
「おおおおおおおおおお!!!」
「チャージ時間が長い…!!こんな能力聞いたことないぞ…何が起きるんだ…?」
「おおおおおおおおおりゃあああああ!!!」
「もう30秒は経ってる、明らかにやばい…こんなにエネルギーを溜める必要性があるのか…?まさか、大量に溜めたエネルギーを一度に一点に放出する能力…!?これはやばいかもしれない!!」
新田はキューブから一定時間盾状のエネルギーシールドが出る防御特化能力に切り替え身を守る、そしてちょうど大久保の能力はついに発動され周囲にさらに強い光量のフラッシュが発生した。
「はああああああああああ!!!!」
「うぐっ!!」
やがてその光が収まったことに気づき新田は顔を上げ恐る恐る大久保を覗く、すると大久保は手を膝につけ呼吸を整えていた。
「はぁ…はぁ…」
「…?」
新田には何が起きたのかわからなかった、しかしそれもそのはず、実際周囲には何も起きていないのだから。
両者とも動けない時間が続いたが、ようやく大久保が顔を上げた。
「ふぅー…よっしゃ、かかってこい!!」
大久保は力強く構えるが新田には状況がまるで理解できない。
しばらく大久保を観察し、ようやく気がつく。
「まさか…それが能力なのか…?」
「ああ…そうだよ…親切に教えてくれたんだから俺も教えてやるさ、これが俺の能力だよ…俺の能力は!身長が本来の165cmから190cmに伸びる能力だ!!」
そう、身長が伸びるだけ、これが大久保の能力なのだ。
身長を伸ばす際に生じるエネルギーの放出は、能力発動のエネルギー変換の効率が悪く循環しきれなかったエネルギーがただ周囲に勢いよく漏れてるだけであり、
なおかつ発動までに数十秒かかるが肝心の能力も身長が25cm程度伸びるのみ。
エネルギー放出で相手を威圧できるものの隙が多く極めて割に合わない能力である。
つまり史上最弱の能力と言っても過言ではないだろう。
大久保が突進した。
新田はキューブを短剣代わりにする能力に切り替えキューブを振り下ろした。
しかし振り下ろすより先に大久保の拳がが新田の顔面に命中した。
身長が伸びるともちろんそれに比例して腕も長くなる、それによりリーチが伸びたのだ。大久保は近接格闘の訓練を独学で行っておりそれも相まって近接戦では大久保に部があった。
キューブで斬りつけられるより先に殴り続ける事で新田の反撃を抑え込んだ。
次の能力に切り替えるため新田がキューブを回転させ始める。
大久保はキューブを殴った、すると拳に激痛が走る。
「うわああ!!」
「馬鹿め、このキューブは鉄製だ。」
新田はグローブをはめておりその中にはネオジム磁石が仕込まれている、キューブが直接攻撃される可能性を懸念しての工夫である。
大久保は新田の顔目掛けて回し蹴りをすると強い握力で足先を掴まれた。新田は筋力増強増強の能力を発動したのだ。身長は伸びないが20秒間体の筋力が飛躍的に強くなる。
殴り合いの末、大久保が押されてしまい木のそばに追い詰められた。
ちょうどそこで筋力増強能力の持続時間が切れ、新田の筋力は目でわかるくらい大幅に落ちた。
「今だ!!」
大久保はその隙をつき新田に背負い投げをお見舞いした。
新田の身長は170cmで体重も64kg、筋力増強時は筋力は体重が重くなっていたが能力の効果が切れた事により身長が伸びた大久保の体重の方が重い状態となり、投げるのに有利となったのだ。
大久保はジャンプし落下の力で倒れた新田の胸部に肘を突き刺す。
大久保は元から筋力はそれなりにあり現在の体重は87kg、痩せ型の新田には大ダメージだった。
新田は激痛の中次の構成を完成させ瞬間移動を発動しその場を逃れる。
新田の姿は見えなくなった。
すると大久保のすぐ目の前に瞬間移動してきた。
「うわっ!」
大久保は驚いた隙に顔面を殴られ、また姿を消された。
瞬間移動の制限は3回まで、しかし大久保はそれを知る由もなく鼻血を抑えていた。
「いってえな畜生!」
新田は上から大久保目掛けて落下してきた。
最後の1回は木のてっぺんだったのだ。
20mの針葉樹のてっぺんから落下されては大久保の肉体はただじゃすまず、すぐに立ち上がれなかった。
新田はエネルギー弾を3発当て、斬撃に切り替え大久保の体を何度も斬りつけた。
大久保は打撲に加え全身が斬りつけられもうボロボロになっていた。能力があるとはいえほとんど普通の高校生と変わりない彼の肉体は限界に近づいていた。
「はぁ…はぁ…」
「私の勝ちだ、大久保少年!!」
「俺は…またやられちまうのか…」
大久保には強くなりたいという気持ちがあった。それは彼が高校入学直前の頃、道端で超能力者の二十歳くらいの男にいじめられている小学生の少年を発見したのだ。道ゆく人はそれを見て見ぬ振りをしていた。大久保はその男に立ち向かい少年を逃し助けるも徹底的な返り討ちに遭ってしまったのだ。それ以来、彼はそれがトラウマになり、超能力者を危険視し、かつ強くなりたいと願うようになったのだ。
「このままやられたら…あの時と同じじゃないか…超能力者に勝てず、あさぎにも相応しくない、情けない男のままになっちまう…」
この窮地で大久保の頭に強く浮かんだのは、足利だった。
「はは…あの人はこんな奴らと2年も戦ってるのか……」
すると大久保は何かを閃いた。
そして新田の振り下ろしたキューブを力を振り絞り間一髪で避けた。
そして両足で新田を奥へ押し退け距離を取る。
新田は急所を狙うため大久保の目を目掛けてキューブを差し込もうとした。
「能力解除!!」
「なに!?」
大久保の身長はすぐさま元に戻りそれを利用し攻撃を避けた。
ここで斬撃能力発動から20秒が経過。
「ぐわああああああ!!!」
切り刻まれた痛みに加え、全身が攣った感覚が大久保を襲った。
大久保が能力をほとんど使いたがらない理由はここにもあった、体の筋肉を無理やり変形させているため能力を解除すると全身を攣ってしまうのだ。
「うお…おおお!!」
大久保はその痛みに仁王立ちで耐え、再びエネルギーの放出を始めた。
そして新田のキューブを回転できないよう両手で抑えつけた。
新田は振り払おうとするが大久保は手を離さなかった。
大久保は精神力でなんとか能力発動を完了に持ち込んだ。
そして新田の股間を蹴り上げた。
新田が怯んだ隙に大久保は何度もパンチを浴びせた。
新田は疑問に思った、あそこまで追い詰めたのになぜまだここまでの体力が継続しているのか。
そして新田は気がついた。
大久保の全身の傷が塞がれているのだ。
身長が伸びるという事はつまり肉体の質量が増えるという事、これを足利の力を参考に咄嗟に思いつき、その質量が増える力を身長ではなく傷を塞ぐ力に無理矢理変換したのだ。
ひあし大久保は能力を解除すると攣ってしまうが、長時間継続しすぎても攣ってしまう。
つまりこの状態は長くは持たない、希望に賭けた最後の足掻きだった。
新田は大久保の背後に回り込み、自らにかかる重力を軽くする能力を発動し自転に置いていかれる勢いで大久保の肉体を木に叩きつけた。失敗すると体が吹き飛んでしまう危険な能力だが大久保を徹底的に追い詰める気でいたのだ。この能力の継続時間は5秒程度。
大久保は密着した新田の胸を思いっきり噛みつき新田を振り放し、体当たりをして再びキューブを押さえつける。
しかし力は新田の方が残っているためすぐさま振り払われてしまう。
新田は再び身体強化を発動し大久保の首を掴み持ち上げ、顔を何度も殴った。大久保のしつこい反撃に新田は怒りで冷静さを失っていたのだ。持続時間が終わると大久保の体を投げ捨てた。
新田もダメージは受けているため体の痛みが強くなりすぐに次の能力への切り替えに少し時間がかかっていた。
そして新田が次に選んだのは盾の能力だった。
本来ならこの盾はしゃがんだ体を覆うくらいの面積のため攻撃には使いにくいが、倒れ込んだ大久保の首を切断するにはむしろ効率がいいのだ。はっきり言ってこの上なく残虐である。
大久保の視界は霞んでいたが、新田の足元の向こうの景色に何かを見つけ微笑んだ。
「勝った…!」
新田は盾を思いきり振り上げる。
「死ね…!!」
すると新田の顔面に拳がめり込み、新田の肉体は殴り飛ばされた。
「ぐぼぁ!!!」
そして綺麗に畳んだエプロンを枕代わりに大久保の体は優しく寝かされた。
「大久保くん…本当に申し訳ない…救急車は既に呼んであるからもう少しだけ耐えてくれ…!!」
飛ばされた新田が体を起こすと、目の前には喫茶店の制服を着た足利の姿があった。
「足利!?そんな、馬鹿な!」
「大久保くん、よく頑張ってくれた…後は俺に任せてくれ!!」
「うわっ!?」
足利が間合いを詰めるスピードは大久保とは段違いに速く、新田は圧倒される。
そして足利は思い切りルービックキューブを爪先で蹴り上げた。
足利の靴の爪先には鉄の塊が仕込まれているため鉄のキューブ蹴っても痛くないのだ。
「どうだ、これでもうお前は能力を使えないんじゃないか?」
「ひっ!!」
「どうやらもうお前をこれ以上痛めつける必要はなさそうだな。」
足利は超能力者用スタンガンを新田に浴びせ、気絶した所で手錠をかけた。
するとちょうど地盤に呼んだ救急車とパトカーが到着した。
「俺の役目はここまでだ。」
新田がなぜわざわざ大久保を脅し昼休みに抜け出させたのか、それは足利のバイトのシフト中に大久保を狙う事で助けに来させない事が目的だったのだ。そして次に大久保は指定の場所に来るまで誰にも電話しないよう脅迫されていた、新田は誰にも電話をしていない様子をずっと監視していた。しかしなぜ足利に連絡が取れたのか。それは足利と大久保が初めて出会った時に渡された名刺に載っていた足利探偵事務所の公式サイトである。このサイトには足利に何らかの理由電話ができなかったり、足利が電話に出なかった際に緊急連絡を送るためのフォームが用意されておりそのフォームから足利に助けを求めたのだ。このフォームから来た連絡は足利が電話に出れないバイト中などに常に身につけている通信機に直接連絡が入り警報が鳴るためいかなる時でも足利が助けに向かえるようになっている。大久保が以前にに足利のサイトを確認し、こういった用意がされている事を知っていた事が功を成したのだった。
それから翌日、足利は入院した大久保にお見舞いに来た。
大久保の部屋の前には長島の手配により警察官が2人常にいる状態で護衛されている。
大久保は能力を無理に使った反動もあり全身が包帯やギプスでぐるぐる巻きになっていた。
「足利さん、ありがとうございました。」
「…いや、原因は俺の方にある、俺がこの街に来たばかりに君を巻き込んでしまった。」
「ま、待ってください、襲ってきたのはあの新田とかいう殺し屋です、足利さんに責任はないですよ。」
「いやしかし…」
「いいんですって、現に俺はこうして生きてるし、助けられたのは俺の方ですよ。」
「だが本当に狙われた事は君の両親に内緒でいいのか?」
「元総理大臣に雇われた殺し屋に殺されかけたなんて言ったらうちの両親泡吹いて倒れます。」
「だが真実を伝える責任が。」
「でも足利さんには他に使命があるんですよね?今はそれに集中してほしいんです。来るべき時が来たら俺から話します。」
「…」
「ど、どうしたんですか。」
「君は、強いんだな。」
「え?」
足利はどこか安心した表情だった。
大久保は照れた。
「ま、まさか足利さんにそんな事言われますとは…」
「…」
「…実は最近、足利さんってどんな人なんだろうってずっと疑問に思ってたんです、なんというか、ミステリアスというか…普通に接してると優しい感じですけど戦いになると圧がすごいし。本当は怪しい人だったりするんじゃないかって思ってたんです。だけど連絡を送ったらまっすぐ来てくれたし、俺を助けてくれた、信頼できる人だなって今は思います。」
「それは嬉しいけど、そもそも先に助けてくれたのは君の方が先じゃないか、それも2度も。」
「え?」
「初めて出会った時に俺が倒れただろ、その時に俺の代わりに君は立ち向かおうとしてくれたし、おせちが殺されかけた時だって君が即座に通報してくれたからおせちは保護された。ヤジウマを跳ね除けてまで来てくれたんだってな。人のために立ち向かえるってなかなかできる事じゃない。」
「ほ、褒めすぎですよ。」
「実を言うと、君が池上に雇われたスパイなんじゃないかと疑った事があって…」
「ええ!?」
「本当にすまなかった!!」
「それはないでしょ!?俺がスパイだなんて有り得ない!!」
大久保は風音を思い出す。
「風音先生も、本性を隠すような人間であるなんて有り得ないと思ってたな…」
「でも、こんな世界だからこそ人を信じる気持ちは大切にして欲しい。」
「足利さん…」
それからしばらくは他愛もない話で少し盛り上がった、足利と大久保の距離が少し縮まったようだった。
そして足利が帰ると、大久保の元に電話がかかってきた、大久保は全身を動かせないためナースさんが大久保の耳にスマホを当てていた。
「もしもし、あさぎ?」
「あ、英年!ごめんね、こないだは帰れなくて。」
「俺は大丈夫、まあちょっと凹んだけど。」
「実はイタリアの闇オークションですごいやべえもんが出品されてて、他国に渡ったらかなりまずそうだったから交渉に時間が掛かっちゃって。家のお金で落札するわけにもいかないし。」
「え?どういう事?」
「私、今から飛行機乗ってそっち帰るから、よろしく、多分英年も驚くしろもんだと思うよ!さて、それはなんでしょうか?」
「いきなり言われてもわかんないよ。」
「ふふ、そうだよね。じゃあ言っちゃう、戦前に作られた姫花の街の正体にまつわる重要資料を手に入れちゃった!!!」
「姫花って、ただの住宅街だろこんな街。」
「そう思うでしょ、何人ものお偉いさん達の手によって印象創作されてきたからね。だけど私には真実がお見通し!姫花に隠された謎が今!!この手に!!これから飛行機に乗って帰るから、多分明後日には会えると思う。おまたせしましたー。それじゃあね。」
海辺からの電話が切れた。
「この街の真実…?あはは、なんだよ急に、こんな街にそんな大それた秘密なんてあるわけ…いや、そういえば柿原って3月に突然引っ越してきたって前聞いたぞ。それに確か足利探偵事務所のサイトを見た時は3月に東京から事務所を移転したって書いてあった。柿原と足利さんは一緒に暮らしてるみたいだからつまり3月に2人で引っ越したと見てもいいだろうな。それに2人は元首相に命を狙われていて、現に俺も…」
大久保はギプスや包帯でぐるぐる巻きの自分の体を見下ろし、窓から見える以前石裂に破壊されたビル群を眺めた。そして風音が本当は裏で池上に監視役として配置されていた事実を含め、大久保は足利に出会ってからのこれまでの出来事を思い返し、血相を変えた。
「隠された真実だって…?この街に一体何があるって言うんだよ…!?」




