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価値3

 家に帰り着いた俺は早速、大森 誠の依頼を書きはじめた。

 書けないと苦しんだ日々が嘘のように文章が指先から出てくる。


 時計の音も入力待ちの記号が点滅を続けるのも気にならなかった。

「よし!」

 俺が書き上がった物を封筒に詰めているとメールの着信音が鳴る。田中 栄太からだった。


「元気しているかね?」

 短いその文章に俺は「おかげさまで、元気です」と返事を打ち込む。しばらく迷って、「お孫さんは、元気ですか?」と付け足した。

 メールの送信画面が終わるか終わらないかのうちに着信画面に切り替わった。俺は笑いながら通話ボタンを押した。


「田中さん、ずっとスマホにぎりしめてるんですか?」

 俺は、開口一番そう言った。メールを返信すると反射のようにかかって来る電話が可笑しかった。

「あぁ、元気そうだな。よかった」

 田中 栄太の気遣うような口調から、心配していたのがわかる。

「ご心配をおかけしました。お孫さんの話ですか?」

 田中 栄太が電話をかけてきた理由に見当を付けて俺が先に質問した。

「鳴海くん、君はもっと自分のことを話してもいいんだよ」

 電話の向こうで小さくため息をつく音が聞こえた。咳ばらい一つした後、田中 栄太は言った。

「会ってやってくれるか?」


「でも、小説を書けなくなった息子さんにとって、アマチュアとは言え小説を書いている俺は見たくないんじゃないですか?」

 俺は心配になって問いかけた。

「……。鳴海くん、またお得意の推理ごっこかね?私の息子をどんな人物だと想像しているか分からないが。丑弌 論咲の”あなただけの物語屋”を私に教えてきたのは、他でもない、私の息子だよ」

 田中 栄太の言葉に俺は息をのんだ。

「ファンだそうだ。誰も見ていないのに、書きつづける姿勢に元気をもらったと言っていたよ。私は鳴海くんの小説を読んでこのお人良しなら意のままに操れると踏んだんだが」

 田中 栄太はあっさりと腹黒い胸のうちを話すとため息を吐くようにして続けた。

「まさか、私の方が心を砕くハメになるなんて思ってもみなかった……」

 田中 栄太は言葉を切った。俺が何か言うのを待っているような空気が流れた。

「……じゃぁ、明日伺います」

 俺は素っ気なく答えた。ネットの向こうの人間に俺の言葉が届いていた喜びで胸がいっぱいになった。しかし、それを田中 栄太に気取られるのは何となく恥ずかしかった。


 電話を切った俺は、自分のネタ帳をパラパラとめくり田中 栄太の孫へどんな話を聞かせるかの構想を練りながらいつのまにか寝てしまった。

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