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カフェジョーカー2

「立場を入れ替える?」

 妙案を思いついたと誇らしげな顔をしている大森 朱音に聞いた。

「そう!鳴海さんは許したい。兄ちゃんは許せない。その結論を押し付けあうんじゃなくて、その結論に向かって理屈を組み立ててみるの。お互いのゴールを入れ替えて。子供のころよく先生とかに言われなかった?相手の立場になって考えましょうって」

 大森 朱音の説明を聞きながら俺は、物語を書くような感覚かと考えた。


「創さんが言っている理屈は綺麗だと思うけど、心は全く理解できない」

 大森 誠は立ち上がると人数分の水を入れて戻ってきた。

「弱いから許せって何ですか?」

 俺と大森 朱音の前に水を差し出しながら大森 誠が言い、俺はそれに対する返事を考えながら水を口に含む。


「育ててくれた祖父母がそう、言ったんだ」

 自分でも答えになっていないと分かっていた。だけれど、その言葉しか浮かばなかった俺は素直にそう告げる。

「はぁ?創さん何歳ですか?人に言われたから、ハイハイって聞いて。俺があの人を恨めって言いながら育てたら恨むの?そこに自分の意志は少しもないの?」

 小馬鹿にしたように大森 誠は言い、水をぐいっと飲み干した。俺が返答に困っていると大森 朱音が助け舟を出すように口を開く。

「鳴海さんの書くお話を読んでて感じたんだけど、自分の感情で動く登場人物がすごく少ないの。多分、感情で動くの苦手だよね?」

 俺の心を見透かしたようなその物言いにカッと体が熱くなった。

「感情のままに動いて事態が好転することなんてないからな」

 俺は、目の前にいる大森 朱音がまだ高校生なのも忘れて、鼻で笑うように嫌味な返し方をしてしまった。大森 誠が口を開く。

「でも、その結果、あの人は創さんのこと少しでも考えてくれた?」

「黙れ!母さんにとって価値ある人間になれば考えてくれるんだ。俺がダメだから、選ばれないだけだ!母さんを悪く言うな」

 ぽたりと雫が机の上に落ちて俺は自分が泣いていることに気づいた。「許してやってね」と諭す祖父母の期待に応えたかった。「相手の立場を尊重する」事は自分の感情よりも優先するべきだと結論づけていた。会社で評価を得るために相手の価値観に合わせるのが当たり前になっていた。自分を取り巻いてきたすべての環境が俺の「感情や主観」になど価値はないと、人の役に立つ行動を取れない俺など必要がないと、そう、自分を縛る内容ばかりを受け入れ、大事に育ててきた。

 だから、母親の関心が手に入ってない事実を指摘した大森 誠の言葉は自分の努力不足を指摘されるようで痛かった。


「あんなに優しい話を書く鳴海さんがダメなはず、ない」

 大森 朱音が俺を慰めるように言葉を紡いだのを聞いた瞬間、理性で押し止めていた何かが口から溢れ出すのを感じた。

「じゃあ、なんで俺は母さんと暮らせなかった?俺と朱音ちゃんはなにが違ったんだよ。どう生きればよかったんだ」

 バンバンと机を叩き涙ながらに怒鳴る俺を大森 朱音が悲しそうに見ている。

「そんな、何の役にも立たない気休めの言葉で俺を分かったように言うな」

 頭が酸欠でクラクラした。悲しいのか腹が立つのかわからなかった。自分より一回り以上年下に八つ当たりをしたのだと気づいたのは、カフェのベルが来客を告げたからだった。俺は慌てておしぼりを顔に押し当て、涙でひどい有様になっているであろう自分の顔を覆った。


「田中さん……」大森 誠の驚いたような声がする。そのおかげで今来た客が田中 栄太だとわかった。俺は顔に押し当てているおしぼりをすこしだけずらしてドアを見た。


「まだ気分が悪いのか?」

 おしぼりを顔に当てている俺を見て田中 栄太が心配しているような声を出した。

「いえ、大丈夫です」

 おしぼりを脇に置いて俺は答えた。両目がまだ熱を持っていて腫れてないだろうかと心配したが、田中 栄太が俺の目元について何か言うことはなかった。かわりに、「なにやら空気が重たいな」と呟いた。

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