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カフェ、ジョーカー

「この店を潰す気だって?」

 大森 朱音が目を見開いて俺を見つめるのが見えた。

「……創さんいつから聞いてたんですか?」

 大森 誠は首を振りながら言った。

「聞いていたというか……」

 まさか夢の中で二人の会話を見たと説明する訳にもいかず、イマイチ歯切れの悪い言葉になる。

「潰す必要があるのか?」

 俺が続けた言葉に大袈裟なため息をついた大森 誠がかわす。

「体調はいかがですか?まぁ、タヌキ寝入りできる程度だってことはわかりましたけど」


 ここで折れるわけにはいかない。俺は声のトーンを下げてすごんだ。

「母さんに復讐するなんて止めろ」

「……早速アニキ気取りですか?ヘドがでる。一緒に住んだこともないくせに、偉そうに吠えないでください」

 大森 誠は俺から目を逸らさずに移動し、俺と対面する椅子にどかりと座った。後を着いてきた大森 朱音がその隣に腰掛ける。


「……鳴海さんはどう思いますか?」

 大森 朱音が上目遣いに何かを期待するような視線を向けてきた。

「復讐はなにも生まない。そもそも、母さんには何の権利もないんじゃなかったか?」

 俺は、散々使い古された正論をかざした。大森 誠が鼻で笑う。

「で?この店の権利や義務がどうなっているのか知りたいんですか?」

 大森 朱音が窘めるように大森 誠の腕を引いた。構わずに言葉を続ける大森 誠。

「産まなければなんて言われて、まだ寿司に誘うなんてお花畑も、ここまで来れば立派ですよね」

 大森 朱音の俺を映す瞳に驚きと悲しみの色が浮かぶのが見えた。


「母さんは弱い人なんだ」

 祖父母から聞かされつづけた言葉が耳鳴りのように頭の中でこだまする。


「弱ければ、なんだっていうんです?」

 挑むように、睨みつけてくる大森 誠。


「許してやってね」

 まるで祖父母が俺の口を乗っ取ったかのようにその言葉がでた。


 急に変わった口調に怯んだのか、大森 誠は居心地悪そうに身をよじった。しばらく誰も口を開かなかった。

 俺も、自分の手元に視線を落とす。そわそわと手を動かして自分の気持ちを落ち着かせるのに努めた。


「なんでそうなるんです。どうして怒らないんですか」

 やがて、涙声が聞こえてきて俺は顔を上げた。

「あの人がやってることはどう考えたって自分勝手だ。僕たちのことなんて少しも考えてない……僕は間違ってない」

 顔を真っ赤にして涙をこぼしながら大森 誠が言った。大森 朱音がたちあがり、おしぼりを人数分持ってきた。

 俺はそれを受け取り、顔を拭いた。ほのかに付けられた柑橘の香りに少し気分がほっとする。


「自分の心が痛むからと言って人にその痛みを押し付けるべきじゃない」

 俺は、声が喉に突っ掛かるような感覚に自分が泣きそうになっているのを自覚する。

「そんな、模範的ないい子ちゃんの理屈なんて必要ないんです」

 大森 誠は大声を張り上げた。


「コーヒーを入れるのが好きだって言ってたじゃないか」

 俺は自分と大森 誠を落ち着かせようと言葉を変える。

「別に、コーヒーを振る舞うぐらいなら友人を自宅に招けばいいんです。あの人に僕の気持ちをわからせないと気が済まない。借金が怖いみたいですから。これが1番あの人にとって嫌でしょう」

 目をそらして拗ねたように大森 誠が言った。

「なんで、人を傷付けたいなんて思うんだ?」

 俺の疑問を投げかける。

「なんで、創さんはそんな風に考えられるんですか?」

 帰ってきた疑問に答えられなくて再び静寂がその場を支配した。


「あっ、ねぇ!感情を入れ替えて考えてみたら?」

 パンと手を鳴らし、いやに明るい声で大森 朱音が提案してきた。

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