ストーリーテラー4
「えっと、ここには、現在”ストーリーテラー”に所属している作家10人、10タイトルが載っています。」
冊子の中に言葉が書かれているのだろう、それをたどたどしく三鷹 聡子は読み上げていく。
「この中から私が1番好きな作品と、苦手な作品を選びます」
三鷹 聡子は読みあげた後、戸惑うように佐藤 梅子を見た。カメラを構えている佐藤 梅子は頷くと先を読むようにと、三鷹 聡子の手にしている冊子を指差した。
20分ほどの時間、客間には三鷹 聡子が朗読する声だけが響いた。
子供が読み上げるようなその朗読は決して聞き取りやすいものではなかった。だけれど、俺はその朗読に頭を殴られるような衝撃を受け続けた。とても自分では思いつかない言い回し、比喩、文章のテンポ……そしてなにより、物語の芯には「ハッキリとした主張」がある。自分の作品がとても浅いものに感じられ、体がカッと熱くなった。もし周囲に人がいなければ大きな声を出して朗読するその声を掻き消したかもしれない。
「やっぱりね。選ばれると思ったのよ。私の作品」
詩島 透子の言葉で俺は現実に引き戻された。
「NGの子、これで3回目ね。ちょっと電話してきます」
スッと佐藤 梅子は立ち上がり廊下に出て行った。
俺は三鷹 聡子にどんな作品を選んだのかと問い掛けた。
「あの、これ見せても良いでしょうか?」
三鷹 聡子は詩島 透子に冊子の開いたページを見せて言った。
「あぁ、お好きにどうぞ。三鷹さんが選んだ時点でそれをどうするのも自由だからね」
詩島 透子はぐるりと首を回し天井を仰ぎ見ながら答えた。
「……では、どうぞ」
俺は三鷹 聡子から冊子を受け取り読む。「あなたの心を見せてほしい」からはじまるその物語は主人公がありのままで周囲から愛される話が描かれていた。こういう話が読みたかったのなら、変化を促すだけの俺の話では足りなかっただろう。自分の思い上がりに気づき悔しさと申し訳なさが込み上げて来る。
「手紙をくださったのは……」
鼻の奥がつんと痛み、声が震えるのがわかった。俺の書いたものがダメだったからですか……と言いかけた言葉を大きく息を吸って仕切り直した。今、三鷹 聡子は自信を持って発言する練習中なのだ。ここで責められたと感じるようなことを言っては本末転倒だろう。
「手紙のおかげでこういった世界を知ることができました」
ニッと笑って見せる。ぐっと細めた目からはギリギリ涙が零れないでいた。
「……そう言っていただけてホッとしてます」
三鷹 聡子は俺が冊子を差し出したのを受け取り言葉を続けた。
「同業者をご紹介したのは、その、田中さんを否定したい気持ちもありましたから」そういって目をそらす三鷹 聡子。
「いえ、こちらこそ、至らず申し訳ございません」三鷹 聡子の様子にチクリと胸が痛んだ。人を傷つけたくないといっていた人にこんな行動を起こさせた自分が情けなかった。
その時バシャンと何か大きなものが水に落ちる音がした。音のする方へと視線を移した俺は隣に居たはずの田中 栄太が居なくなっていることに気付く。
「えー、何事?もうせっかく気分よかったのに」
それまで俺と三鷹 聡子の様子を見ているだけだった詩島 透子が立ち上がり、若草色のワンピースの裾を揺らしながら襖を開いた。




