ストーリーテラー3
「透子さん、慌てないでくださいな」
佐藤 梅子はゆったりとした口調で女性を制する。不満げな表情で透子さんと呼ばれた女性がフンッと鼻を鳴らした。勝ち気な性格なのだろうか、俺の目の前に座り、睨みつけるような顔で腕組みをしている。
「人前で発言する練習にちょうど良いと思うの。聡子さん、二人を紹介してくれるかしら?」
佐藤 梅子が入口近くで固まっている三鷹 聡子に声をかけ、自分のとなりに座るように身振りで促した。おずおずと田中 栄太の前に座る三鷹 聡子。襖を背にして右手奥に俺、手前に田中 栄太、左手奥に透子と呼ばれた女性、佐藤 梅子、三鷹 聡子。机で男女がわかれている様子に合コンみたいだなと俺は思った。
「……えっと。こちらが”あなただけの物語屋”さんの鳴海 創さん。その隣にいらっしゃるのが田中さん。奥におられるのが詩島 透子さん、佐藤 梅子さんに、三鷹 聡子です」
手の平を上にむけて一人一人を指しながら名前を伝えた三鷹 聡子は自分の名前を言い終わるとそのまま俯く。俺は左側の視界に動くモノに視線をやる。イラついたような顔をした田中 栄太が、机の下で右手の人差し指でリズムを取っていた。今にも貧乏揺すりまで始めそうだ。
「えぇっと、今回私たちは何をお手伝いすれば良いのでしょう?」
田中 栄太が三鷹 聡子に喧嘩を売る前にと俺は慌てて言葉を紡いだ。
「”ストーリーテラー”さんにお願いしたのは人前で自信を持って話したいという、鳴海さんにお願いしたのと同じ内容です」
俺が気を悪くするのを恐れるように、三鷹 聡子の言葉は尻すぼみに小さくなっていく。
「えぇ。”あなただけの物語屋”さんでは随分と強引にお客様に物語を売り付けるようで」
口元を手で覆い、目を細めた佐藤 梅子が言った。
「強引だと!?」
今にも立ち上がりそうな勢いで田中 栄太が言う。俺は田中 栄太の服の裾を掴んでそれを止めた。
「いつからご存知だったんですか?」
俺は驚いて聞いた。
「初めて話し掛けられた日にすべてお話してもよかったのですけどね。鳴海さんのお話を読んだ感じ、強引なことをするとは思えなくて。聡子さんが怖かったと説明した男性の年齢とも違っていましたし。今回田中さんが来なければ、純粋に”ストーリーテラー”に引き抜くつもりでした。まさか、なじみのカフェに作家の卵がいるなんて思わないですもの」
佐藤 梅子は饒舌に語る。
「所属作家がコロコロと入れ代わる”ストーリーテラー”になんぞ、鳴海くんが入りたいと言うとは思えないがね」
怒りを隠さずに田中 栄太が切り込む。
「あら、よくお調べですね……しかし作家という者は書けないのに所属しているのは心苦しいと感じる人が多いものですよ」
余裕の笑みを崩さずに佐藤 梅子が言った。
「いけしゃぁしゃぁと……」
拳を固く握り今にも振り上げそうな田中 栄太の腕を俺は必死につかんだ。一触即発のその空気を変えたのは詩島 透子の一言だった。
「それで?私が書いた作品はもう用無しってわけ?」
佐藤 梅子がパッと詩島 透子に向き直る。
「それは、依頼主である三鷹 聡子さんが選択することですから。急いては事をし損じますよ」
柔らかな口調と鋭い視線を佐藤 梅子は詩島 透子に向けた。
「どうします?聡子さん?」
佐藤 梅子の優しい目が三鷹 聡子を見た。
「読みたいです」
三鷹 聡子の言葉を合図に小冊子が渡された。
「じゃぁ、手筈通りにね。大丈夫。聡子さんから画面の向こうにいる人は見えないんだから。……でもこれをやり遂げたら、聡子さんは何万人もの前で喋ったことになるのよ。何度でも取り直しが利くし、時間はたくさんあるからゆっくりね……それじゃ、カメラのスイッチ入れても良いかしら?」
佐藤 梅子の言葉を聞いた三鷹 聡子はうなずいた。ピッとカメラから撮影開始の電子音が小さく響いた。俺と田中 栄太はその成り行きをただ、見守るだけだった。




