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ストーリーテラー

「お待たせしていたみたいね」

 ドアをくぐってきた佐藤 梅子が、一気に注目を浴びたことに少し照れたように微笑んだ。


「店長さん、相談なのだけど、このカフェで撮影ってしても良いかしら?」

 佐藤 梅子が手の平サイズのカメラをバックから出して見せながら言う。

「撮影ですか?構いません。けど、何に使うんですか?」

 大森 誠が厨房からで出てきて佐藤 梅子に聞き返した。

「えぇ、インターネットに動画を上げてるの。宣伝を兼ねてね」

 佐藤 梅子は、ここに上げているのよとスマホを見せてくれた。そこには誰もが知っている大手動画投稿サイトが表示されている。


「鳴海さんの名前……ペンネームも一緒に載せて大丈夫かしら?」

 確認するように佐藤 梅子は俺を見た。

「大丈夫です。”丑弌 論咲”でよろしくお願いします」

 俺はメモ用紙に丑弌 論咲と書いて、佐藤 梅子に渡しながら答えた。メモ用紙を受けとった佐藤 梅子がいつものカウンター席に座るのを追うようにして俺も水を持って移動し、隣に座る。


「お連れの方は良いの?」

 佐藤 梅子が気遣うような視線を田中 栄太に送った。田中 栄田はその視線に気づいてないかのようにのんびりと水を飲んでいるだけで動こうともしない。

「構いません。用事があれば来るでしょうし」

 俺はそう答え、封筒を佐藤 梅子に差し出した。


 ハンディカメラを構えた佐藤 梅子がそれを受け取りたっぷり5分ほど中の文章をうつした。

「そういえば顔はどうしますか?インターネットに載せるときはモザイクにして欲しいという人も多いけれども……」

 カメラを向けられてそう問われた俺は「モザイクをお願いします」と頼んだ。あまり自分の顔が好きではないのだ。

「綺麗な顔をしているのにもったいない」佐藤 梅子はそうつぶやきながらもメモにモザイクありと書く。俺はその手の動きをただ見ていた。


「さてと」

 店内をぐるりと見渡すようにカメラを回した後、佐藤 梅子がカメラを机においた。代わりに、俺の渡した紙を両手でしっかりと持って佐藤 梅子は食い入るように読みはじめた。何となく落ち着かない気持ちで俺はその様子をただ見つめる。


「不倫をテーマに書いてもらうと背徳感のある恋愛模様か、強くその是非を問い掛けて来るような文章を書いて来る人が多いのだけど……」

 読み終わった佐藤 梅子が俺の目をまっすぐに見て言った。

「鳴海さんは恋愛模様に見せかけて、この主人公の結末は、読み手に判断を委ねるのね。結論を断定して書くのが怖いのかしら?」

「……人に宛てて書こうと思うとどうしてもそうなってしまいますね」

 俺が気になっていた部分を切り込まれて体がボッと熱くなった。断定できてない物語ではやっぱりダメなのだろうか?しかし、答えが描かれていないからこそ、自分で答えをつかみ取れるのじゃないかとも思う。佐藤 梅子は俺が怖がって書かないと言うけれど……そこまで考えて違うと否定できるほどの材料がないことに気づいた。知らず知らずのうちに息を止めていたことを息苦しくなって気づく。佐藤 梅子に気付かれないようにゆっくりと息をはいた。

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