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田中 栄太と息子4

 俺は田中 栄太が食事をする様子をぼーっと眺めながら考えていた。何かがひっかかる。……何か、喋ってないことがある。俺は出会ってから知り得たことを順番に頭で整理した。初めての注文は「孫のために物語が欲しい」だった。だが、未だに原稿用紙を見ると表情が変わるぐらい苦しむ息子を前に、無名の作家から買い取った物語を孫に贈るだろうか。今、息子が苦しんでいるその活動を生き生きと楽しんでいる者と友人になりたいと、そう思えるだろうか?何より、俺の勘違いで注文と違うものを納品されて全く焦らないものだろうか。


「田中 栄太さん、俺はこの依頼を断ったりしません」

 1つの可能性に思い至った俺は、まっすぐに田中 栄太を見据えて言葉を作っていく。

「……田中さん本当は、”ストーリーテラー”で何が起きているのかを知りたいんじゃないですか?」

 そう考えれば納得行くのだ。納品された作品に対してこだわりが見えなかったのも、友人になりたいのだと申し出てきたのも、俺との縁が切れないように多少強引な行動をしていたのも。俺を使ってストーリーテラーの内情が知りたかったのだとしたら?ーー俺が筆を折る様子を間近で見るためだとしたら。



「……鳴海君、どこまでお人よしなんだ」

 呆れたように田中 栄太は笑い、空の皿を脇に置いた。少し考えてから叱られるのを覚悟した子供のように目を伏せて言う。

「それとも、謝罪から逃がさないと責めているのかね?」

 上半身の体重を机に載せるようにして俺を見つめ返す田中 栄太。


「責める必要がありますか?」

 俺はそう答えた。どこを責めろというのだろう。


「うそだろ!?」

 それまで空気のようだった大森 誠が声を上げる。

「創さんのお人よし、ここまで来ると何か人間じゃないみたいな恐さを感じるよ。利用するために近付いたって言われて許すの?」

 大森 誠は目をこれでもかと見開いて驚いている。

「言えた義理ではないが、私も店長の言葉に同意するよ」田中 栄太は頷いた。



「でも、俺がストーリーテラーの内情を調べられたら田中さんは一歩進めるんでしょ?」

 2人の驚きがイマイチわからなくて俺は事実を確認するように聞いた。すっかり冷めてしまった食事を口に運ぶ。食べられないことは無いが出来立ての方がおいしいなと思いながら咀嚼する。


「怖くないのか?」

 田中 栄太が確認するように俺に聞いた。


「何がです?」

 俺は口に合ったライスを飲み込んでから答える。


「小説を書けなくなること」

 大森 誠が田中 栄太の代わりに答える。


「どうだろう……でも、書けなくなるのなら先に誠くんの注文分を完成させておいた方が良いかもな」

 どうにも重く受け取られすぎている気がして居心地が悪い。自分の行動で誰かが喜ぶならそれが最善じゃないか。

「んー……、梅子さんの次で良いよ。筆折るつもりは無いんでしょ?」

 しばらく考えた後、大森 誠はそう言い、テーブルにおいてある空いた皿を下げながら言葉を続けた。


「それに正直、僕には梅子さんがそんな極悪人には見えない。だから僕もこの件に関わらせてもらうよ」


 きっぱりと言い、食器を厨房へと運んでいく大森 誠の背中を見送った。

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