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田中 栄太と息子2

 自宅のドアを開けるのに近い感覚でカフェ、ジョーカーのドアを開けた。大森 誠が前の客のテーブルを片付ける手を行ったん止めて「いらっしゃいませ」と、出迎えてくれた。

「こちらへどうぞ」ウェイトレスに案内されるままに俺と田中 栄太は向かい合った席に座る。


「いつもありがとうございます。」

 俺と田中 栄太に水を差し出しながらウェイトレスが頭を下げた。

「こちらこそ、おいしいご飯をありがとうございます」

 俺が頭を下げそう返すと、

「兄が、今日は創さん来るかな?って最近楽しみに待ってますよ」

 と返ってきた。驚いてまじまじとウェイトレスを見た。長い黒髪をスッキリと後ろで束ねシンプルなメイクをしている。その姿はとても大森 誠よりも年下には見えなかった。これは大森 誠が年齢よりも童顔なせいなのか、女性のメイクの力のせいなのか判断できない。

「妹さんだったんですね」

 俺の言葉に「大森 朱音(あかね)、高校1年生です」ニコニコと笑顔も一緒に返してきた。



「すっかり常連じゃないか」

 注文を受けた大森 朱音の背中を見送りながら、田中 栄太が言った。

「えぇ、集客できるような小説っていうのがなかなか書けなくて、通ってたらいつのまにか」

 俺は照れ臭さを飲み込むように水を飲んだ。

「全く。赤字なのにそこまでできるというのは、私にはわからないね」

 やれやれと首を振る田中 栄太。

「お金じゃないんですよ」

 大森 誠と似たようなことを言う田中 栄太がおかしくって俺は思わず笑った。

「鳴海君ならそう答えるだろう事はわかっていたが……だからこそ心配なんだ。物語を書くのは大変だろう?もし今後客の数が増えたら対応できなくなるんじゃないか?」

 俺とは対照的に深い愛情のこもったような目をして田中 栄太は続けた。

「鳴海君、君は人の懐に入り込むのがあまりに上手だ。それは同時に自分の感情と他者の感情の区別がつきくくなる危うさがある」

 他者との感情の区別ぐらいつく、そう反論しようとした俺の言葉は大森 誠の「ランチセットお待たせしました」の声に遮られる。料理が二つ、二人の間に置かれた。


「そうですよ、僕みたいに締め切りを無期限にしてくれるような人ばかりじゃないんですからね」

 大森 誠が続けた言葉にヒヤリとした。

「気をつけます」

 佐藤 梅子の話題に移行しないうちにと話を区切ったが無駄だった。

「梅子さんの所で雇ってもらったらどうですか?」

 俺の祈り虚しく大森 誠がその名前を口にする。

「梅子さん?」

 田中 栄太がその言葉を拾い上げる。

「ストーリーテラーってご存知ですか?」

 説明しようと大森 誠が続けた言葉が言い終わるかどうかのタイミングで田中 栄太が立ち上がった。テーブルに乗った料理の皿がガチャンと音を立てる。

「関わるな」

 短く言った田中 栄太は、何かを迷うように口元を震わせている。

 その様子に隠れて依頼を受けたことを謝る準備をしていた俺はただ驚き、言葉が出なかった。

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