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佐藤 梅子5

「創さんってウェブに載せてるのハッピーエンドばっかりじゃないですか?どんなに悪そうなキャラクターが出てきても謝れば許される世界というか」

 俺が食べ終わった食器を下げながら大森 誠が言った。

「言われてみればそうだな」

 俺は「サービスです」と目の前に差し出された紅茶を受けとる。

「あれ読んで僕、よっぽど苦労なしに育ったんだと思ってたんですよね」

 勘違いしてごめんなさいと大森 誠が言った。

「いいよ。……というか、苦労は実際してないからそれは正しい印象だと思うし」

 俺は紅茶を一口飲んで、祖父母が健在だったからねと答えた。

「誠くんは頑張ってるよね」

 思わず大森 誠の頭を撫でた。驚いたように目を見開くが俺の手を振り払うこともせずされるがままになっている。

「……いつか報われるといいな」

 尻拭いと言いながらも真剣にカフェを経営する様子に、きっと両親が帰ってくるのを待っているのだと感じた俺はそう願いを口にした。


「じゃあ、また明日」

 俺は友人と別れるような気持ちで支払いを済ませ、店を出てすぐ田中 栄太に電話する。

「鳴海君、どうした?新しい依頼がきたのかね?」

 電話に出た田中 栄太は挨拶もそこそこにそう尋ねてきた。その言葉に一瞬佐藤 梅子との約束が過ぎる。

「いや、今度の事務所掃除の話です」

 俺はそう答えた。……田中 栄太の保護者のような振る舞いはありがたいとは思う。が、同時に自分が半人前として扱われているような気分にもなるのだ。厳密には依頼じゃないとも言えるだろうし、話さなくてもいいかという気持ちが勝った。

「あぁ、今週末だったな」

 田中 栄太の返事を待って質問を重ねる。

「雑巾と箒を準備するぐらいで大丈夫ですか?」

「いや、必要ない。掃除道具はこちらが用意しておく。ところで、店長との約束とブッキングしてないか?」

「締め切りが伸びたんで大丈夫です」

「ほう、それはどうしてだね?」

 その言葉に一瞬言葉につまる。俺は佐藤 梅子の話を避けるようにして言葉を紡ぐ。

「インタビューのためにカフェに通ってるんですが、締め切りを伸ばしてくれるって提案があったんです」

 電話の向こうから田中 栄太の長いため息が聞こえた。

「鳴海くん、どこまでお人良しなんだ」

 田中 栄太も利益について考えているに違いなかった。カフェのカモにされているのだと言いたいのだろう。

「俺独り身ですし、誰かと食べる夕食は楽しいんですよ」

 そう答えてからしまったと思う。私も一緒に食べたいと言い出すのではないだろうか。

「そうか?楽しいならいいんだが……くれぐれも小説の引き渡しを私抜きでやらないでくれよ。心配だから」

 田中 栄太の言葉に肩透かしをくらったような気持ちになる。

「ご心配ありがとうございます」

 俺はその気持ちにお礼を言った。俺は父を知らないが、もしいたとしたら田中 栄太みたいな感じなのだろうか。


「掃除は10時でいいかね? 事務所の場所はメールする」

 田中 栄太がまとめた言葉に返事をする頃には自宅にたどり着いていた。体は疲れていたが妙に目がさえている。シャワーで汗を流し、明日の準備をしようと鞄を開けた。A4の茶封筒が目につき封を開けた。

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