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佐藤 梅子2

「いらっしゃいませ」

 きっちりと白髪を結った着物の女性は自然な動作で迷い無く席に座り、メニューを見ずにウェイトレスに注文した。なるほど大森 誠の言う通り着物の模様に見覚えがあった。昨日の時点でそれと知らずに会っていたとは縁があるのだろう。俺は手元にあるスマホの写真と見比べた。写真の方が若々しく見えるが同一人物だと確信する。

「……なにか?」

 長時間見つめ過ぎたせいだろう。女性がこちらを見て怪訝な顔をして問い掛けてきた。

「いえ、その」どう答えたものか……しどろもどろになっている俺に大森 誠が助け舟を出してくれた。

「創さん、作家なんですよ。その話をしてたら梅子さんの会社を見つけまして。ここの常連だと話をしてたところなんです」

「あら、そんな有名じゃないのによくたどり着いたわねぇ。初めまして佐藤 梅子と申します」

 言葉とともに頭を下げたときに髪に差したかんざしの玉がキラリと光った。大きめのビー玉のような玉の中で咲く梅の花に思わず見とれ、ハッとして挨拶を返した。

「鳴海 創と申します」名刺を差し出したのを佐藤 梅子は受け取り見ながら言った。

「あらまぁ……すごいところにお勤めなのねぇ」

 佐藤 梅子が名刺を見ておっとりと言った。すごいところに勤めている?なんで俺の会社がわかるんだ?疑問に思って佐藤 梅子の手元を見ると作家用の名刺じゃなく仕事用の名刺を手にしていた。

「あっと、すみません……作家の方の名刺を切らしてまして。個人に宛てた物語をほそぼそと書いております」

 言いながら名刺を差し替えた方がいいかとポケットを探した。すぐに作家としての名刺は自宅に置いたままなのを思いだしそう言ってごまかす。

「いいえ、いいのよ。私の方こそ、名刺を持ってきてないの。ごめんなさいね。……料理冷めるわよ?」

 佐藤 梅子の言葉に慌てて俺は食事を始めた。


「ところで、どんな話を書かれるの?」

 俺が食べ終わるのを待ち構えていたように佐藤 梅子が聞いてきた。

「いくつかありますが……」俺は5,000文字程度の短編をスマホに表示させて言った。

「……あら、随分と大事に育てられたような文章をお書きになるのね」

 いくつかの作品を読み終わった佐藤 梅子はそういうと懐から懐紙と筆ペンを出して何かを書き付けた。

「あなたならこういった依頼にどんな物語をつけて来るのか知りたいのだけど書いてみない?」

 言葉とともに差し出されたそれには「不倫している40歳女性」と書かれていた。

「情報はこれだけですか?」

 懐紙から顔を上げた俺は、佐藤 梅子を見た。

「えぇ、無理かしら?」

 佐藤 梅子が首を傾げて俺を見つめかえす。

「いえ、おそらく書けるとは思います」

 不倫していることを明らかにして物語を書いて欲しいということは、それをやめる背中を押してほしいのに違いない……と俺は考えながら言った。ただ今は、まだ大森 誠の依頼分を書けていない。

「申し訳ないんですが……」断ろうと口を開いたのを遮るように大森 誠が言った。

「僕の依頼は後回しにしてもいいよ。というか後回しにしてもらえる方が売上が伸びそうだし、締め切りとか気にしなくていいよ」アニメなら目を円マークにしているだろう様子で大森 誠は言った。右手の人差し指と親指で円を作り銭マークまで作っている。一気に素を出し過ぎじゃないかと俺は苦笑した。

「あら、それは順番飛ばしたみたいで申し訳ないわ」

佐藤 梅子が振り返り大森 誠に言う。

「梅子さんにはいつも贔屓にしてもらってますから」

柔らかく笑って返す大森 誠。

「じゃあ、お言葉に甘えようかしら? ありがとうね」

 佐藤 梅子が頭を下げる。


 俺は2人の談笑を聞きながらプロットを組んでいく。

「……ということで書けてなくてもいいから2週間後にここでどうかしら?」

佐藤 梅子の言葉で我に返った。

「文字数はどうしましょうか?」

「400文字以下で、お礼はそうね……書いた後3時間ほど手伝って欲しいことがあるの。それ込みで1万円でいいかしら?」

 破格の提案に俺は椅子から落ちそうになった。

「俺の提供している価格からするとそれは高過ぎます」素直にそう答える。時給制のバイトとして考えても高すぎた。

「期待しておりますね」俺の言葉を黙殺した佐藤 梅子はお礼の金額を下げることなく言い、店を出て行った。

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