佐藤 梅子
三鷹 聡子からの手紙にはこう書かれていた。
”先日はお世話になりました。実はもう1カ所似たような場所を利用していまして、この場所をお伝えする事が「あなただけの物語屋」様にとって有意義ではないかと思い筆を執っております。
「ストーリーテラー」という会社です。こちらは顔を合わせる必要もないので喧嘩になったりすることはありません。予約を入れると2週間ほど待ちますが欲しい物語をくれます。徹底した質問のテンプレートを用いて必要以上に客の感情を揺らすこともありません。”
手紙を覗き見した大森 誠がヒューっと口笛を吹いた。
「なかなかプライド高い人だね」
「まぁ、スマートなやり方ではないから、それを指摘してくれるのはありがたい話だよ」
俺は早速ストーリーテラーをスマホで検索しながら答えた。
「そんなふうに受けとるんだ?僕はてっきり”好意に包み隠したクレーム”が言いたいんだと思ったよ。もしくは自分の都合いいように人を動かしたいタイプか……あんなに満足げに帰ったのにこんな手紙を書く辺り一筋縄ではいかない人だと思うけどな」
口元に手を当て若干の嫌悪感を滲ませながら大森 誠が言った。俺はストーリーテラーのサイトをざっと確認しながら、話題を逸らす。人の行動を悪く捉らえるような話をするのは好きじゃない。
「10人程社員がいる。これだけの利益を安定して出せる会社に比べたら俺のところが物足りなく感じるのは当たり前だよ」
言いながら大森 誠に俺のスマホ画面が見えるように提示してやると、遠慮なくスマホ画面を操作して内容を読みだした。
「あぁ、書き手の得意なジャンルと参考作品が載ってる……おぉ一文字当たりの単価100倍だね。創さんの値段を見た後だと強気な値段設定だ。でも、創さんのやり方を見るとこれでも利益が取れるかどうかギリギリかもしれないね」
「すごそうな会社だろ?」その実力差に圧倒されながら俺は同意した。
「怨みとか怒りとかを解決するようなものは創さんの書く物語と相性悪そうだし、団体でやるってのは賢いと思う。創さん、そもそも負の感情自体を許してなさそうだし」
「俺の作品読んだのか?」
驚いて大森 誠を見た。
「丑弌 論咲で検索かけて読める範囲はね。小説読むよりもコーヒーを煎れる方が好きだから、昨日の来店が無かったら読む気もなかったけど」
事もなげに言って思い出したように「ご注文をどうぞ」と言葉を付け足した。その言葉に俺もまだ注文してなかったことを思い出す。昨日と同じものを頼んだ俺はスマホの中の「ストーリーテラー」の情報を読んだ。そのホームページに代表として載っている白髪の女性の写真で指が止まる。どこかで見たことがあるような……と首をひねっていると料理を運んできた大森 誠が覗き込み「梅子さんだ」と声を上げる。
「梅子さん?」振り返った俺に大森誠が答えた。
「昨日も来てた、ここの常連だよ、そろそろ来る頃かな」
大森 誠のその言葉が終わるかどうかのタイミングで来店を知らせるベルが鳴った。




