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失礼な店員6

 久々に定時退社できた俺は直接カフェ、「ジョーカー」に寄った。昨日よりも早い時間で、もしかしたら開いてないかもと不安になったが小さなステンドグラスの扉は抵抗無くすんなりと開いた。店の中はガラガラで昨日と同じ席に座ろうかと足を踏み出しかけて止まる。その席には「予約」の札が置かれていたから。

 どうしたものかと迷っていると大森 誠が来てその席へと案内された。

「予約席だったんだろう?」

 いいのか?と俺が聞くと、

「昨日、来るって言ってたでしょう?」

 大森 誠は俺のために札を置いてたのだと答えた。時間も告げずにリップサービスとも取れる俺の言葉で律儀に席を準備しておくとはこの男、案外情に厚いのかも知れない。……ただ昨日よりも早く来店したのにすでに札が置かれているのは妙だ。もしかして。

「流行ってないのか?」

「……余計なお世話です」

 大森 誠の返事を聞いて思考が声に出ていたことを知った。気まずい沈黙を残して大森 誠は厨房に消えた。まずいことを口走ってしまった。しかし、よく考えれば出会い頭に失礼なことを言ってきたのはあちらも同じだから、ここは痛み分けになるのではないだろうか。


「ところで、創さん、ここで食べた料金とかは経費で落ちるんですか?」

 水をお盆に乗せた大森 誠が帰ってきて、俺の目の前のテーブルに置きながら聞いてきた。

「いや?経費とかは考えてない」

 質問の意図がわからないまま正直に答える。

「はっ?それって赤字ってこと?なんでそんなことするの?」

 信じられないものを見たという顔で大森 誠が言う。よほど驚いたのだろう、客に対する言葉としてはアウトの言葉遣いだ。先に言葉遣いを崩したのは俺だからそれを特に責める気はないが。

「どのみち夕飯は食べないといけないから。これが出費だとは思わなかったな」

 大森 誠の驚きように居心地の悪さを感じながら答える。

「……僕はそれで儲かるけど……自炊の方が安上がりですし、まして注意した店員がいる店に再度来るのは嫌でしょう?小説なんて適当にでっちあげたら済むんじゃないですか?」

 お盆を胸の前で抱え首を傾げる様はどう見たって高校生ぐらいにしか見えない。そのあまりに素朴な姿に親しみを感じた。

「自炊は面倒だし、適当に書いたものが読みたいか?」

 俺は、相手に伝わるように返事をする。

「いやいや、それじゃボランティアじゃないですか。創さんにどんなメリットがあると言うんですか」

 首を振り薄く笑いながら大森 誠が言う。

「俺の書いたものを読んだ人の笑顔が見れること」

 迷いなく答える俺に大森 誠は言葉を探すように頭を掻いた。

「……僕には理解できません」

 大森 誠は自分の中から言葉を拾い上げるようにゆっくりと続けた。

「創さん、僕がこのカフェの売上のために小説を依頼した可能性とか考えないの?かなり天然というかお人良しというか……成人でここまで平和ボケしてる人初めて見たというか……」

 呆気に取られたような顔からやがて含み笑いの顔へと変化しながら紡がれたその言葉に、名刺を突き返されたのを思い出す。大森 誠が常識人だと考え直した数秒前の自分を取り消したい。俺がカフェの客だということをすっかり忘れているようだった。

「……そんなにかおかしなことを言ったか?」

 思わず口に出してしまった。

「……これは失礼。少なくとも僕とは真逆の考えで興味深いです」

 そう言った大森 誠の顔は笑顔のままで言葉だけで謝罪した述べたとわかる。俺がどう返したものかと考えていると大森 誠が思い出したように握りこぶしを反対の手の平でポンと打った。

「あぁ、そういえば、この間の女性から手紙を預かってたんでした」

 真っ白い封筒に赤い蝋で封がしてあるその手紙を棚から取り出して俺に手渡す。

「お礼かな?律儀なもんだ」

 言いながら手紙を受けとった俺は、その内容がどんなものか不安と期待の混じった思いで封を切った。

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