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失礼な店員5

 仕事を終え、小説にあったのと同じステンドグラスの扉を開ける。控えめに鳴る来店のベルに応えて出てきたのは店長、大森 誠だった。

「これは、作家先生、お一人ですか?それとも、もう仕上がったんですか?」

 作家先生と軽んじるような調子で呼びかけられ、心がザワついた。

「……まだ書けそうにない」

 案内されたカウンター席に腰掛けながら思わず乱暴に答えた。丁寧な口調で答えると大森 誠に負ける気がした。

「……へぇ?」

 大森 誠は目を細めるように俺を見て、俺にぎりぎり届くほどの声で小さい男だと呟いた。安直に言動で優位に立とうとした姿勢を指して言ったのであろう事は想像ついた。だが、今さら丁寧な口調に戻すことはさらに自分を小さく見せる気がしてできない。大森 誠の品定めをするような視線を遮るようにして俺はメニューを見る。

「本日のおすすめディナーで」

 俺はメニューから顔を上げずに注文した。ふと、1番高いステーキセットを頼んで上客を気取ろうかとも思ったが、どのくらい通うことになるか分からないのでおとなしく財布に優しい選択をした。



「おすすめディナーをひとつですね。かしこまりました」

 大森 誠が立ち去るのを横目で確認してから顔を上げた。席を一つ開けて女性が座っているのが目に付いた。白髪をきっちりと首元で結い、着物を着ている。こちらの視線に気づいたのか目が合ったので会釈すると、その女性はふんわりと笑って食事に戻る。俺はそのまま体ごと振り向いて店内を見渡す。カップルらしい客が2組ボックス席に座っているのが見えた。ここを利用するのは女性の方が多いのだろうか?メモを取り出して書き付ける。

「お待たせしました」

 大森 誠が聞き慣れた口上と共に目の前に料理を並べていく。綺麗に盛りつけられたパスタとサラダ角切り野菜のたっぷり入ったスープ。なるほど、女性の好きそうなオシャレで体に良さそうなメニューだ。行儀が悪いと言われそうだったが、俺はメモを出しっぱなしにして食事の間も気になったことをメモしていく。料理がすべて空になる頃には客は俺だけになっていた。

「ごちそうさま」呟いて会計に立った俺に大森 誠が言う。

「書けそうですか?」挑むような、心配しているような表情でレジを打ちながら放たれた言葉にどう答えようか迷う。

「1,200円です」大森 誠は俺の返事など最初から期待していなかったかのように料金を告げた。

「来る度に発見があるんだな」

 俺が財布から1500円を出しながら答えると、

「5回目のご来店ありがとうございました」

 お金をレジに入金しながら大森 誠は頭を下げた。

「客の来店回数覚えてんのか?」

 俺が驚き、メモに書き付けながら聞き返す。

「えぇ。お客様の過ごし方もカフェの空気作りに欠かせない大事な要因ですから」

 お釣りの300円を差し出して大森 誠が微笑んだ。


「……明日も来るから」

 俺はそう言って軽く手を振った。

「おまちしております」

 大森 誠が頭を下げたのを悪くない気分で背中で受け止めた。

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