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失礼な店員3

 自宅に帰り着いた俺はA3の用紙を広げた。雰囲気、メニュー、シュチェーション……カフェをテーマに書くとして必要そうな要素を書き込んでいく。しかし、頭が回らない。あくびが出、重力に逆らう力が自分に残されていないことを悟る。ベッドに向かうのも面倒で、俺はそのまま意識を手放した。


「お久しぶりです、論咲」

 黒のタートルネックに灰色の目、ヒメが俺の顔を覗き込むようにして言った。

 相変わらず辺りは真っ白な空間で俺はこれが自分の風景描写の力量の無さから来るのではないかと自己分析してみる。

「あぁ、また会うとは思わなかったよ」

 俺はヒメにそう返した。夢だとわかって見る夢を明晰夢というんだったか……。初めて見る明晰夢に心が躍る。

「……論咲、面白そうなことを始めたんですね」

 ヒメは唇をつんと尖らせて言った。

「すごくやり甲斐があるよ。まだたったの2件だけれどね」

「私のことを忘れたのかと思いました」

 ヒメは怒ったような顔で俺の襟首を掴むと、グイッと俺に顔を近づけて続けた。

「神様のお手伝いすると言ったの忘れてませんよね?? 未完を完結に向かわせると約束した論咲がまさか、約束を中途半端に投げ出したりしませんよね?」

 胸が俺の体にふんわりと当たっているはずなのだが、感触がわからないのは経験がないからか。非常に残念だが、まぁ胸の感触の初体験が夢の中だというのも、よく考えたら悲しいのでこれで良いのかもしれない。しかし、ぽってりとした小振りな唇と胸のアングルにはグッと来るものがある。


「ちゃんと聞いてますか??」


 ヒメの言葉に我に返った。

「あぁ、面白そうだしな」

 たかだが夢での約束事だと軽く考えて答えた。どの道約束を果たすことはできないだろうと確信していた。ただ、これが夢に過ぎないのだと正直に言うのははばかられて口から出任せを言った。俺の言葉にヒメはただ寂しそうな顔をしただけ。俺の考えが伝わっている気がして居心地が悪い。ヒメの寂しげな瞳から逃げるように言葉を続けた。


「ところでヒメちゃん、何か用があるんじゃなかったのか?」

 その言葉にぴくりと眉毛をあげたヒメは真面目な顔になって言った。

「論咲、貴方が小説を書く理由、それを忘れないでください」

 潤んだような灰色の目がジッと見つめる。そのあまりに必死な様子に俺は返事ができない。


 目を開くと、いつもの執筆セットが目に入った。腕枕にしていた左肘がジンジンと痺れ、痛い。体を起こすと体のあちこちから悲鳴が上がった。この歳で机に突っ伏して寝るのはやはり無謀だったようだ。

 ただの夢なのにヒメの言葉が妙に引っ掛かる。「あなたのための物語屋」を始めたのは「依頼人の読みたい話を作る」ことが目的だ。依頼人は二人とも満足して帰っている。ヒメがなにをそんなに心配しているのかわからなかった。

「まぁ、たかだか夢の話だ」

 これ以上考えると書けなくなりそうだと思った俺は、そう声にだして無理矢理に思考を中断した。首を振って再び湧きだしそうな疑問を強引に頭の外に追いやる。お茶を一杯飲んで長く息を吐いた。依頼された小説を書きはじめるために丑弌 論咲を呼び出してタイピングが始まるのに任せる。

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