失礼な店員2
「勘弁してください。田中さん」
俺は大森 誠が厨房に入って行くのを見届けてから田中 栄太に向き直った。
「どうしたね?」
さっぱり意味がわからないといった様子でコーヒーを飲み眉毛を片方ヒョイと上げて答が返ってきた。
「三鷹さんにしても、さっきの話にしてもわざわざ場を乱すことないでしょう」
「場を乱すことになるのかね?私は自分の意見を口にしただけだが」
「相手の受け取り方を考えたらあんな発言にはならないはずです」
自分より遥かに人生経験があるんならそのぐらい分かっているでしょうとの思いも言葉に乗せる。
「鳴海君、相手の受け取り方なんてどんなに長く付き合ったって分からんよ」
目を細め眩しいものでも見るような表情で田中 栄太は言い、こう続けた。
「次からは事務所を使うように。君のスタイルは不安定でハラハラする」
心配なんだよと口の中で言うのが聞こえた俺は申し訳なくなる。
「……わかりました」
そこまで大事にしてもらっているのを無下にするのは嫌だった。どの道このカフェは使えなくなるだろう。事務所で不都合がある場合にはまた考えればいい。
「お待たせしました。アイスティーです」
大森 誠が運んできたそれを一気に飲み干す。冷えたそれが胃に落ちていくごとに気持ちが落ち着いた。
「事務所がどこにあるのかわかりませんので、ここの方が有り難いのですが」
グラスを置いても尚、立ち去らなかった大森 誠が言い、俺は驚いてその顔を見た。
「このカフェの物語を作ってください。集客につながるような。文字数はそうですね……1,000文字以内でお願いします」
予想だにしていなかった提案に俺は頷いてから、了承した自分に驚いた。それは大森 誠も同じだったのだろう、次の言葉を話すのに間があったから。
「そんな軽く引き受けられるものですか?」
拍子抜けしたような表情で大森 誠が聞く。
「まぁ、予約もありませんから」
俺がそう答えると
「人気ないんですね」
なるほど納得したと言いたげな表情で大森 誠が頷いた。その言葉にやっぱり書くのやめたといってやりたくなるが、完璧な小説を渡してぎゃふんと言わせる方が楽しそうだ。
「とりあえず原案を1週間後に持ってきます」
失礼な言葉は心のメモに書き付けることにした。俺は軽くカフェのなりたちを聞いてから料金を支払いに動く。今回も田中 栄太が奢ろうとするのをおしとどめた。
「では、一週間後に」
田中 栄太は店を出た扉の前で当たり前のようにそう俺へ告げるとさっさと歩き去って行った。
まぁ、今回に関しては問題がないだろう。俺はドッと来た脱力感に負けないうちに自宅へと急いだ。




