失礼な店員
田中 栄太にジッと見つめられた俺は蛇に睨まれた蛙のように動けない。
先手必勝、怒られる前に主導権を握ってやろう。
「田中さんはなんで今日このカフェに居たんですか?」
「あぁ、ここのコーヒーが気に入ってね。毎週飲みに来ることにしたんだよ」
含みのある言い方で田中 栄太が返事を続けた。
「鳴海君が私に隠れて依頼人に会う可能性など考えてもいなかったから安心したまえ」
言葉と裏腹に責めるような目をしている田中 栄太。
「小説の引き渡しだけでしたし、事務所を借りるような話にもならなかったので」
俺なりの理由を伝えてみたがそれで田中 栄太が引き下がらないであろうことは予想が付いていた。
「それで?私がいなかったら、鳴海君、どうするつもりだったんだね?」
ため息を一つ吐いて、田中 栄太が静かに聞いた。
「彼女がその答にたどり着くまで言葉を工夫するつもりでした」
俺は素直な気持ちを答えた。
「鳴海君、君のその優しさは、いつか必ず君の首を絞めるぞ」
田中 栄太があきれたような声を出す。俺がその言葉の意味を聞こうと言葉を探していると、店員が近付いて来るのが見えた。
「お客様、なにか……押し売りや詐欺といった取引にこの店を使ってませんか?」
俺はその余りに不躾な言葉に驚き、店員の顔をまじまじと見る。品良く切り整えられた短髪の男の子。歳は高校生ぐらいに見えた。俺の腰かける席のすぐ脇に立ち、物おじすることなく見つめ返して来る。アルバイトだろうか?
「そんなことはしていませんよ」
俺はスマホに表示させたホームページと名刺を店員に差し出す。そうしながら、封筒と金銭のやり取りは確かに疑われても仕方ないか……とも思い至り、少年の言葉に対しての怒りを鎮めた。
「失礼しました。詐欺等にしては金額が低いなとは思っていたのですが……」
店員はスマホと俺の名刺まで一緒に返しながらそれだけ言った。金額が低いという言葉にカチンときた。確かに大人がやり取りする金額としては小さいかもしれないが、これはそれだけの価値ではないと言ってやりたくなる。
「ちょっと、失礼ではないですか?」
俺は目の前の店員に人生の先輩として教えてやろうと言葉を探しながら続けた。
「注意するにしたって言い方と適材の立場ってものがあるでしょう?」
「この店の店長として、犯罪や違法な取引にこの場を使われるわけにはいかないんですよ」
にこやかに少年が答える。
「はっ?」
思わず間の抜けた声が出た。見た目年齢と肩書が見合ってない。だが、相手はこういった客の反応に慣れているのだろう。顔色ひとつ変えずに名刺を差し出してきた。名刺には店長、大森 誠と印刷されていた。俺はその名刺を名刺ケースにしまう。
「さっきのように声を荒らげることが頻繁に起きるのならご利用を遠慮していただきたいのですが」
非難のこもった目を向けられて俺は思わず田中 栄太を振り返った。
「あぁ、心配いらない。次からは事務所で取引するからな」
席に深く腰掛けたままリラックスしきった態度で田中 栄太は言い、香りを楽しむようにしてコーヒーを飲む。事務所だと不都合な依頼が今後ないとも限らない。できれば穏便に済ませたかった俺は慌てて言葉を付け足した。
「他にもお客さんがいる中で、雰囲気を壊してしまい申し訳ありません」
大森 誠は品定めをするような目をして俺を見るが何も答えない。
「えぇっと、アイスティーのお代わりもらえますか?」
俺はテーブルに乗っているグラスを指差して注文する。喉がカラカラだったのもあるがこの居心地の悪い目線を早く退けたかった。
「少々お待ちください」
ぺこりと頭を下げて大森 誠が厨房へと歩を進めるのを見送った。




