2人目の少女が依頼に来た5
「なにか……っ……まち……」
俺の反応にすっかり萎縮した三鷹 聡子が俯く。さらに声が小さくなり、ほとんど聞き取れない。俺は自分で自分を殴りたくなった。俺の考えを押し付けてどうするんだ。
「こんにちは」
田中 栄太が俺たちの机の側に寄ってきて言葉を発した。
三鷹 聡子は顔をあげて田中 栄太を見た。
「こんにちは」
顔が上がったことで聞き取りやすくなった声で三鷹 聡子が挨拶を返す。
俺は、田中 栄太が何をしようとしているのかと、はらはらしていた。
「お隣良いですか?」
そうするのが当然と言った雰囲気で田中 栄太が三鷹 聡子に微笑む。
「……どうぞ」
そう答える三鷹 聡子。わずかに曇ったように見える表情から、その言葉が本心じゃないことがわかる。俺は、田中 栄太を自分の席に誘導しようと腰を浮かす。
「鳴海君はちょっと静かにしててね?」
俺の方を見ずに田中 栄太が言う。そのナイフのように鋭い言葉に俺は動けなくなった。
「君のその思わず守ってあげたくなるような振る舞いは実に見事だ」
三鷹 聡子を見据えたまま、低い声で続ける田中 栄太。三鷹 聡子は怯えたように身を固くした。
「あんまり、私の友人をいじめないでやってくれ」
声色は優しいがどこか責めるようなトーンで田中 栄太が言った。それでは三鷹 聡子が萎縮してしまう。止めるべきだと俺の心が言っているのに動けない。
「三鷹 聡子さん、君の本当の望みは自分をありのまま受け入れてもらうことじゃないか?……変化など、望んでいない」
「そんなことないです‼ 私は変わりたい」
感情をむき出しにして、三鷹 聡子が椅子から立ち上がった。
「なんなんですか、急に出てきて‼ 私の事なんにも知らないくせに‼」
「なら、言ってみろ」
挑発するように田中 栄太が言う。
「言いませんよ。言葉は刃物です‼ それによって傷つけたくないんです」
三鷹 聡子は首を振って、そう言い切り、はっとした様子で椅子に座り直した。
「なぁ、聡子さんあんたは名前の通り聡い。自分の2つの発言が矛盾していることにぐらい気づけているだろう」
三鷹 聡子の一連の動きにも動じることなく田中 栄太は言葉を紡ぐ。
「もう、いいです。料金をお支払して帰ります」
三鷹 聡子は不貞腐れたような顔で席を立った。
「ここで帰宅するなら、聡子さんは自分勝手な人間だったと評価するからな」
静かに田中 栄太が続けた言葉が効いたのか苦々しい顔のまま三鷹 聡子は席に座った。
「田中さん、依頼人を不機嫌にさせるのが俺の目的ではないです」
ようやく俺が口を挟めた。その言葉を聞いた田中 栄太は怒ったように俺を見て言った。
「鳴海君にも後で話がある」
思わぬ反論に俺は再び気圧されてしまった。
「さて、三鷹 聡子さん、小説からどんなメッセージを受け取ったのか喋ってもらおうか」
田中 栄太が話を戻した。
「でも、解釈が間違っていたら鳴海さんは傷つくでしょう」
三鷹 聡子はまだ迷っているようだ。
「いえ、解釈があってはじめて完成する物語ですので教えてください」
俺は、安心させるように三鷹 聡子に声をかけた。




